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15.
「さて、決まったとなれば行動は早い方が良い。明日にでもギルドのある王都に立ちましょう」
楽しそうに中々に鬼畜な予定を決めるイルハルト。
私には一応、お世話になった人への挨拶やら、ここ数カ月で溜まった私物をまとめる時間などなどあるというのに流石に明日はないだろう。
しかし突っかかるのも面倒なので黙っておいた。もし明日中に挨拶が終わらなければ、イルハルトの予定を強制的にずらせばいいのだ。
「ああ、やることがいっぱいだ。ギルドに到着したら、歓迎会でも開きましょうかね。まあ、僕しかいないんですが。君は好きな食べ物はありますか?」
「歓迎会は結構です」
「そんなことおっしゃらず。経費で落とせますから。それと君が加入してくれれば依頼ももっと取ってこれますし、今まで受注できなかったタイプの依頼や新たなアイテムの流通経路も確保しなければ!あとは――ギルドの加入書類……そういえば僕、君の名前を知りませんね」
名前。それに対してピクリと反応してしまう。
元々街でも一度も名前を明かさなかった。『名前』というものは重要だ。私は確実に過去の時代に戻っているのだから、少しでも『痕跡』を残したくなかった。名前というのはその中でも大きな痕跡になってしまう。
しかしギルドに所属するとなると、名前や戸籍といったものは必須だ。本当の名前を使うかなどと考えたのは一瞬だった。あり得ない。
同時代の自分はきっと今別の場所――あの忌々しい家に囚われている段階だろう。
だから元々するつもりはなかったが、当然のことながらソレを使う事など出来はしない。しかし使える名前、そして戸籍など今の自分にはない。どうするか頭を悩ませていると、イルハルトが口を開いた。
「……もしかして、本当の名前を言えない事情でもあるのですか?」
鋭い。
どう誤魔化すべきかと少し言い淀んだだけなのに、ピタリと言い当ててくる。否、彼は出会った時からずっとそう考えていたのかもしれない。
「ギルドには所属できないかもしれません」
元々所属する気のなかったものだ。すぐに掌返しをして、ギルドに所属しない方向で話を進めようとする私に待ったをかけたのはイルハルトだった。
「いや!それはないです。戸籍や個人情報の偽造くらいなら簡単ですから」
「うっわ、犯罪」
「でも、名前はどうしましょう。本来の名前が使えないのであれば、新たな名前が必要でしょう?なんなら僕が付けますか?うん。いいですね、そうしましょう」
「決定事項になっちゃってるじゃないですか」
「ふむ……そうですね。実は君とずっと一緒に過ごしていて思ったのですが、君は実家で飼っていた犬になんだか似ているんですよね。初対面の時の僕に対するツンとした態度や、僕がどんな態度で接しようがに全く尻尾を振ろうとしないところ」
「……貴方に飼われていた犬も可哀想と思いましたが、そもそもその態度、貴方ガッツリ嫌われていますよ」
なんだ犬と似ているって……。
その言葉に途轍もなく嫌な予感がしたが、興味を持ったら終わりだと感じ、その部分については敢えて無視を貫いた。さらに面倒な絡みに発展することが簡単に予測できたからだ。だからとりあえず、犬の方の気持ちを代弁しておく。きっと彼(彼女?)もこいつに付き纏われて、迷惑だろうという同情もあった。
しかしそんな同情なんていう甘い感情を持っていた所為だろうか、イルハルトは結局一人で完結していた。
「じゃあ改めてよろしくお願いしますね、ミートちゃん2世」
「…………は??」
「ふふ、良い名前でしょう!?中々の自信作なんです。これはミートちゃんの進化系なんですよ。でもミートちゃんちょっと照れ屋さんだったので、呼んでも中々返事をしてくれない時もあって――」
「名前のセンスわっる!!もはや生命への冒涜ですよ。何でもいいって言ってもほどがあると思うのですが?っていうか2世ってなんなんですか!!?」
「何世とかついていると、歴史がありそうで、なんか格好いいでしょう?王族みたいです」
あまりにも最悪なネーミングセンスとそれを人間への名称として、本人曰く改善して流用しようとしているという事実に思わず頭を抱えてしまった。
前々から酷い人間だとは思っていたが、ここまでだとは思わなかった。犬に『肉』という意味の名称を付けるのは流石にまずすぎるだろう。明らかに食用として見てるだろう。
「とにかく却下です。何でも良いと言った私にも非がありますが、それ以外でお願いします」
「そんな、シンプルでいて、可愛い可愛いミートちゃん2世以上にいい名前なんてこの世にあるんですか!?」
「なんですかその、驚愕に満ちた表情は。あるでしょう、普通に」
普通に即却下をしたのだが、イルハルトは驚愕とでも言ったような表情で私を見つめる。何故私がドン引きされているのだろうか。
『自分で私に名前を付けるなどと決めておいて、そんな最低な名前はあり得ないだろう』と頭を叩きたい気分だったが、そんなことをしても懲りないなどということは分かっているので、ポツリと『ギルド入るのやっぱりやめようかな……』などと呟いた。彼にとってこれが一番効果があるということは分かりきっている。
「……1週間時間をください」
「1週間!?」
「ミートちゃん2世以上の名前をつけるんです。それくらいの時間は必要でしょう!!それに君は将来、僕をいっぱいサポートしてくれる有能なサブマスターですから」
「……もう、勝手にしてください」
1週間必要という言葉には驚いたが、真面目に考えてくれることは少しだけ嬉しかった。
竜の血が降り注いだせいでくっついてくる地面と格闘しながらも、次の名前も酷かったらギルドに入るのは保留にしようと心に決めたのだった――。
楽しそうに中々に鬼畜な予定を決めるイルハルト。
私には一応、お世話になった人への挨拶やら、ここ数カ月で溜まった私物をまとめる時間などなどあるというのに流石に明日はないだろう。
しかし突っかかるのも面倒なので黙っておいた。もし明日中に挨拶が終わらなければ、イルハルトの予定を強制的にずらせばいいのだ。
「ああ、やることがいっぱいだ。ギルドに到着したら、歓迎会でも開きましょうかね。まあ、僕しかいないんですが。君は好きな食べ物はありますか?」
「歓迎会は結構です」
「そんなことおっしゃらず。経費で落とせますから。それと君が加入してくれれば依頼ももっと取ってこれますし、今まで受注できなかったタイプの依頼や新たなアイテムの流通経路も確保しなければ!あとは――ギルドの加入書類……そういえば僕、君の名前を知りませんね」
名前。それに対してピクリと反応してしまう。
元々街でも一度も名前を明かさなかった。『名前』というものは重要だ。私は確実に過去の時代に戻っているのだから、少しでも『痕跡』を残したくなかった。名前というのはその中でも大きな痕跡になってしまう。
しかしギルドに所属するとなると、名前や戸籍といったものは必須だ。本当の名前を使うかなどと考えたのは一瞬だった。あり得ない。
同時代の自分はきっと今別の場所――あの忌々しい家に囚われている段階だろう。
だから元々するつもりはなかったが、当然のことながらソレを使う事など出来はしない。しかし使える名前、そして戸籍など今の自分にはない。どうするか頭を悩ませていると、イルハルトが口を開いた。
「……もしかして、本当の名前を言えない事情でもあるのですか?」
鋭い。
どう誤魔化すべきかと少し言い淀んだだけなのに、ピタリと言い当ててくる。否、彼は出会った時からずっとそう考えていたのかもしれない。
「ギルドには所属できないかもしれません」
元々所属する気のなかったものだ。すぐに掌返しをして、ギルドに所属しない方向で話を進めようとする私に待ったをかけたのはイルハルトだった。
「いや!それはないです。戸籍や個人情報の偽造くらいなら簡単ですから」
「うっわ、犯罪」
「でも、名前はどうしましょう。本来の名前が使えないのであれば、新たな名前が必要でしょう?なんなら僕が付けますか?うん。いいですね、そうしましょう」
「決定事項になっちゃってるじゃないですか」
「ふむ……そうですね。実は君とずっと一緒に過ごしていて思ったのですが、君は実家で飼っていた犬になんだか似ているんですよね。初対面の時の僕に対するツンとした態度や、僕がどんな態度で接しようがに全く尻尾を振ろうとしないところ」
「……貴方に飼われていた犬も可哀想と思いましたが、そもそもその態度、貴方ガッツリ嫌われていますよ」
なんだ犬と似ているって……。
その言葉に途轍もなく嫌な予感がしたが、興味を持ったら終わりだと感じ、その部分については敢えて無視を貫いた。さらに面倒な絡みに発展することが簡単に予測できたからだ。だからとりあえず、犬の方の気持ちを代弁しておく。きっと彼(彼女?)もこいつに付き纏われて、迷惑だろうという同情もあった。
しかしそんな同情なんていう甘い感情を持っていた所為だろうか、イルハルトは結局一人で完結していた。
「じゃあ改めてよろしくお願いしますね、ミートちゃん2世」
「…………は??」
「ふふ、良い名前でしょう!?中々の自信作なんです。これはミートちゃんの進化系なんですよ。でもミートちゃんちょっと照れ屋さんだったので、呼んでも中々返事をしてくれない時もあって――」
「名前のセンスわっる!!もはや生命への冒涜ですよ。何でもいいって言ってもほどがあると思うのですが?っていうか2世ってなんなんですか!!?」
「何世とかついていると、歴史がありそうで、なんか格好いいでしょう?王族みたいです」
あまりにも最悪なネーミングセンスとそれを人間への名称として、本人曰く改善して流用しようとしているという事実に思わず頭を抱えてしまった。
前々から酷い人間だとは思っていたが、ここまでだとは思わなかった。犬に『肉』という意味の名称を付けるのは流石にまずすぎるだろう。明らかに食用として見てるだろう。
「とにかく却下です。何でも良いと言った私にも非がありますが、それ以外でお願いします」
「そんな、シンプルでいて、可愛い可愛いミートちゃん2世以上にいい名前なんてこの世にあるんですか!?」
「なんですかその、驚愕に満ちた表情は。あるでしょう、普通に」
普通に即却下をしたのだが、イルハルトは驚愕とでも言ったような表情で私を見つめる。何故私がドン引きされているのだろうか。
『自分で私に名前を付けるなどと決めておいて、そんな最低な名前はあり得ないだろう』と頭を叩きたい気分だったが、そんなことをしても懲りないなどということは分かっているので、ポツリと『ギルド入るのやっぱりやめようかな……』などと呟いた。彼にとってこれが一番効果があるということは分かりきっている。
「……1週間時間をください」
「1週間!?」
「ミートちゃん2世以上の名前をつけるんです。それくらいの時間は必要でしょう!!それに君は将来、僕をいっぱいサポートしてくれる有能なサブマスターですから」
「……もう、勝手にしてください」
1週間必要という言葉には驚いたが、真面目に考えてくれることは少しだけ嬉しかった。
竜の血が降り注いだせいでくっついてくる地面と格闘しながらも、次の名前も酷かったらギルドに入るのは保留にしようと心に決めたのだった――。
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