31 / 31
30.
「悪いな、ここは獣人用の宿なんだ。ヒューマンの方が泊まるような場所じゃねえんだ」
「はあああぁ!?ふざけんなよ、ここで何軒目だと思ってんだよ。なんで獣人ふぜ――」
「おっと!黙っててくださいね。そうですか、お邪魔しました。他を探します」
2日かかってたどり着いたクロフィリエ。
アレンの妨害によって無駄に時間がかかったが、やっとのことでたどり着いた私に待っていたのは、宿のたらい回しという最悪の状況だった。既に疲労困憊の状態で探す暫く泊まるための宿。疲れているという状況なのも余計アレンの感情に火に油を注いでいるのだろう。私達を嘲笑う獣人の喧嘩を買って、魔法を発動してまで怒りをぶつけようとしていた。その気配を察知して私は彼を止めたのだった。
獣人族は私達ヒューマンと呼ばれる種族から差別を受けている。耳や角、尻尾といったものが生えていて体格が大きいだけで私達ヒューマンとそんなに姿形は変わらないにも関わらず、だ。
『始祖』と呼ばれている獣人は狼などの獣を少しヒューマン族の体格に合わせて2足歩行させたようなものだと歴史書でも残っているが、他の種族とある程度交わった近年は耳や尻尾、体格やパワー、魔力値などで区別しているといっても過言ではない。
私も昔、歴史を知るまでは可愛い耳がついている人がいるくらいにしか認識していなかった。
差別というのは、見下す心や、恐怖心、怒りといった感情から生まれる。そんな接し方ばかりするヒューマンを差別を受けている側の獣人が歓待するなんてことはあり得ないだろう。やられたことをやり返すことでしか心の安定を保てない。それは獣人も同じなのだろう。
そしてここは獣人の数が9割以上を占める街。そんな場所であれば、私達の方の立場が弱くなるのは当然と言えた。
まだ獣人たちに対して睨みをきかせるアレンを引きづって宿屋を出る。
他の宿を探すとは言ったが――。
「暫くは野宿、かな」
「マージで獣人族、ありえねえ。だから嫌いなんだよ」
「ここまで禍根が根深くなっているのは、私達ヒューマンにも原因はあると思いますよ」
勝手についてきておいて野宿に対して文句を言いながら獣人族に悪態を吐くアレンに反論する。街から少し離れた森を目指しながらも、私達の間に流れる空気はピリついていた。
私は正直この『過去』に来てから驚いた。私がいた時代には有り得ないようなレベルの獣人差別が街の様々な場所で散見されたからだ。
食料や日用品が通常価格で買えないのは当然、カフェに入ろうとした子供連れの小綺麗な格好をした獣人ですらも『汚らしい』という言葉をヒューマンから吐き捨てられて入店すら許されない。職を探そうとすれば、『無能を雇うような余裕はない』と中身を見てすらもらえない。
外に出れば、暴言を吐いて石を投げたりするような人間すらもいた。
しかもそれを止めるようなヒューマンはほぼほぼいない。私と一緒に歩いていたイルハルトは怪我をした獣人を手当する私とは別に顔を歪めながら石を投げた人間の方に文句を言いにいっていたが、イルハルト以外にそういうことをしている人を見たことがないので、この時代ではイルハルトや私のほうが異端なのだろう。
確かにかつては獣人族とヒューマンは争っていた時代もあった。その大きな戦争で魔法を発展させたヒューマンは勝利し、フィジカルが強くあまり魔法が得意ではない獣人族は敗れたのだ。
そうして獣人はこのような立場ーー端の方にクロフィリエという小さな街を与えられるだけの立場に追い込まれた。元々の争いの火種はヒューマン族が領土を広げようと獣人の住む領地を襲ったことだったというのに。
勝てば官軍負ければ賊軍なんて言われるが、私は過去に来てみて正直ヒューマン側が悪だと思ってしまっていた。だからこそアレンに少しイラッと来てしまっていたのかもしれない。態度が冷たくなってしまった自覚はあった。別にこの過去の世界に於いてはアレンの思考は正常だし、なによりも彼は一応は私を心配してついてきてくれたらしいというのに。
でも、どうしても未来の彼と比べてしまって、嫌なことを言ってしまう。だって未来のアレンは、獣人に対してこんな態度を取ったことは一度もなかった。他人に対して激高したり、酷いことを言われたからといって傷付けようとなんてするような人ではなかったのだ。
勝手な失望から、彼の意見に冷たく反論する私は最低な人間だと分かってはいながらも、止められなかった。
「こんな差別を受けておいて、お前よくそんなことが言えるな」
「私達が今日受けた態度は王都やヒューマンがたくさん住む街では、獣人族にとっての日常ですよ。知らないのですか?」
「それはーー」
「それとも当たり前の光景過ぎて視界にすら入っていなかったとか?」
「………………」
アレンは不機嫌そうな顔で口を結んで黙ってしまった。
何か思い当たることがあったのだろう。大人しく後ろをついてくるだけ。静かになっただけマシだと考え、そのまま森の奥の方に進んだ。
「はあああぁ!?ふざけんなよ、ここで何軒目だと思ってんだよ。なんで獣人ふぜ――」
「おっと!黙っててくださいね。そうですか、お邪魔しました。他を探します」
2日かかってたどり着いたクロフィリエ。
アレンの妨害によって無駄に時間がかかったが、やっとのことでたどり着いた私に待っていたのは、宿のたらい回しという最悪の状況だった。既に疲労困憊の状態で探す暫く泊まるための宿。疲れているという状況なのも余計アレンの感情に火に油を注いでいるのだろう。私達を嘲笑う獣人の喧嘩を買って、魔法を発動してまで怒りをぶつけようとしていた。その気配を察知して私は彼を止めたのだった。
獣人族は私達ヒューマンと呼ばれる種族から差別を受けている。耳や角、尻尾といったものが生えていて体格が大きいだけで私達ヒューマンとそんなに姿形は変わらないにも関わらず、だ。
『始祖』と呼ばれている獣人は狼などの獣を少しヒューマン族の体格に合わせて2足歩行させたようなものだと歴史書でも残っているが、他の種族とある程度交わった近年は耳や尻尾、体格やパワー、魔力値などで区別しているといっても過言ではない。
私も昔、歴史を知るまでは可愛い耳がついている人がいるくらいにしか認識していなかった。
差別というのは、見下す心や、恐怖心、怒りといった感情から生まれる。そんな接し方ばかりするヒューマンを差別を受けている側の獣人が歓待するなんてことはあり得ないだろう。やられたことをやり返すことでしか心の安定を保てない。それは獣人も同じなのだろう。
そしてここは獣人の数が9割以上を占める街。そんな場所であれば、私達の方の立場が弱くなるのは当然と言えた。
まだ獣人たちに対して睨みをきかせるアレンを引きづって宿屋を出る。
他の宿を探すとは言ったが――。
「暫くは野宿、かな」
「マージで獣人族、ありえねえ。だから嫌いなんだよ」
「ここまで禍根が根深くなっているのは、私達ヒューマンにも原因はあると思いますよ」
勝手についてきておいて野宿に対して文句を言いながら獣人族に悪態を吐くアレンに反論する。街から少し離れた森を目指しながらも、私達の間に流れる空気はピリついていた。
私は正直この『過去』に来てから驚いた。私がいた時代には有り得ないようなレベルの獣人差別が街の様々な場所で散見されたからだ。
食料や日用品が通常価格で買えないのは当然、カフェに入ろうとした子供連れの小綺麗な格好をした獣人ですらも『汚らしい』という言葉をヒューマンから吐き捨てられて入店すら許されない。職を探そうとすれば、『無能を雇うような余裕はない』と中身を見てすらもらえない。
外に出れば、暴言を吐いて石を投げたりするような人間すらもいた。
しかもそれを止めるようなヒューマンはほぼほぼいない。私と一緒に歩いていたイルハルトは怪我をした獣人を手当する私とは別に顔を歪めながら石を投げた人間の方に文句を言いにいっていたが、イルハルト以外にそういうことをしている人を見たことがないので、この時代ではイルハルトや私のほうが異端なのだろう。
確かにかつては獣人族とヒューマンは争っていた時代もあった。その大きな戦争で魔法を発展させたヒューマンは勝利し、フィジカルが強くあまり魔法が得意ではない獣人族は敗れたのだ。
そうして獣人はこのような立場ーー端の方にクロフィリエという小さな街を与えられるだけの立場に追い込まれた。元々の争いの火種はヒューマン族が領土を広げようと獣人の住む領地を襲ったことだったというのに。
勝てば官軍負ければ賊軍なんて言われるが、私は過去に来てみて正直ヒューマン側が悪だと思ってしまっていた。だからこそアレンに少しイラッと来てしまっていたのかもしれない。態度が冷たくなってしまった自覚はあった。別にこの過去の世界に於いてはアレンの思考は正常だし、なによりも彼は一応は私を心配してついてきてくれたらしいというのに。
でも、どうしても未来の彼と比べてしまって、嫌なことを言ってしまう。だって未来のアレンは、獣人に対してこんな態度を取ったことは一度もなかった。他人に対して激高したり、酷いことを言われたからといって傷付けようとなんてするような人ではなかったのだ。
勝手な失望から、彼の意見に冷たく反論する私は最低な人間だと分かってはいながらも、止められなかった。
「こんな差別を受けておいて、お前よくそんなことが言えるな」
「私達が今日受けた態度は王都やヒューマンがたくさん住む街では、獣人族にとっての日常ですよ。知らないのですか?」
「それはーー」
「それとも当たり前の光景過ぎて視界にすら入っていなかったとか?」
「………………」
アレンは不機嫌そうな顔で口を結んで黙ってしまった。
何か思い当たることがあったのだろう。大人しく後ろをついてくるだけ。静かになっただけマシだと考え、そのまま森の奥の方に進んだ。
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
真実の愛の裏側
藍田ひびき
恋愛
アレックス・ロートン侯爵令息の第一夫人シェリルが療養のため領地へ居を移した。それは療養とは名ばかりの放逐。
男爵家出身でありながら侯爵令息に見初められ、「真実の愛」と持て囃された彼女の身に何があったのか。その裏に隠された事情とは――?
※ 他サイトにも投稿しています。
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで
狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。
一度目は信じた。
二度目は耐えた。
三度目は――すべてを失った。
そして私は、屋上から身を投げた。
……はずだった。
目を覚ますと、そこは過去。
すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。
――四度目の人生。
これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、
同じように裏切られ、すべてを失ってきた。
だから今度は、もう決めている。
「もう、陸翔はいらない」
愛していた。
けれど、もう疲れた。
今度こそ――
自分を守るために、家族を守るために、
私は、自分から手を放す。
これは、三度裏切られた女が、
四度目の人生で「選び直す」物語。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
戦場から帰らぬ夫は、隣国の姫君に恋文を送っていました
Mag_Mel
恋愛
しばらく床に臥せていたエルマが久方ぶりに参加した祝宴で、隣国の姫君ルーシアは戦地にいるはずの夫ジェイミーの名を口にした。
「彼から恋文をもらっていますの」。
二年もの間、自分には便りひとつ届かなかったのに?
真実を確かめるため、エルマは姫君の茶会へと足を運ぶ。
そこで待っていたのは「身を引いて欲しい」と別れを迫る、ルーシアの取り巻きたちだった。
※小説家になろう様にも投稿しています
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。