貴方の『好きな人』の代わりをするのはもうやめます!

皇 翼

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30.

「悪いな、ここは獣人用の宿なんだ。ヒューマンの方が泊まるような場所じゃねえんだ」
「はあああぁ!?ふざけんなよ、ここで何軒目だと思ってんだよ。なんで獣人ふぜ――」
「おっと!黙っててくださいね。そうですか、お邪魔しました。他を探します」

2日かかってたどり着いたクロフィリエ。
アレンの妨害によって無駄に時間がかかったが、やっとのことでたどり着いた私に待っていたのは、宿のたらい回しという最悪の状況だった。既に疲労困憊の状態で探す暫く泊まるための宿。疲れているという状況なのも余計アレンの感情に火に油を注いでいるのだろう。私達を嘲笑う獣人の喧嘩を買って、魔法を発動してまで怒りをぶつけようとしていた。その気配を察知して私は彼を止めたのだった。

獣人族は私達ヒューマンと呼ばれる種族から差別を受けている。耳や角、尻尾といったものが生えていて体格が大きいだけで私達ヒューマンとそんなに姿形は変わらないにも関わらず、だ。
『始祖』と呼ばれている獣人は狼などの獣を少しヒューマン族の体格に合わせて2足歩行させたようなものだと歴史書でも残っているが、他の種族とある程度交わった近年は耳や尻尾、体格やパワー、魔力値などで区別しているといっても過言ではない。
私も昔、歴史を知るまでは可愛い耳がついている人がいるくらいにしか認識していなかった。

差別というのは、見下す心や、恐怖心、怒りといった感情から生まれる。そんな接し方ばかりするヒューマンを差別を受けている側の獣人が歓待するなんてことはあり得ないだろう。やられたことをやり返すことでしか心の安定を保てない。それは獣人も同じなのだろう。
そしてここは獣人の数が9割以上を占める街。そんな場所であれば、私達の方の立場が弱くなるのは当然と言えた。

まだ獣人たちに対して睨みをきかせるアレンを引きづって宿屋を出る。
他の宿を探すとは言ったが――。

「暫くは野宿、かな」
「マージで獣人族、ありえねえ。だから嫌いなんだよ」
「ここまで禍根が根深くなっているのは、私達ヒューマンにも原因はあると思いますよ」

勝手についてきておいて野宿に対して文句を言いながら獣人族に悪態を吐くアレンに反論する。街から少し離れた森を目指しながらも、私達の間に流れる空気はピリついていた。

私は正直この『過去』に来てから驚いた。私がいた時代には有り得ないようなレベルの獣人差別が街の様々な場所で散見されたからだ。
食料や日用品が通常価格で買えないのは当然、カフェに入ろうとした子供連れの小綺麗な格好をした獣人ですらも『汚らしい』という言葉をヒューマンから吐き捨てられて入店すら許されない。職を探そうとすれば、『無能を雇うような余裕はない』と中身を見てすらもらえない。
外に出れば、暴言を吐いて石を投げたりするような人間すらもいた。
しかもそれを止めるようなヒューマンはほぼほぼいない。私と一緒に歩いていたイルハルトは怪我をした獣人を手当する私とは別に顔を歪めながら石を投げた人間の方に文句を言いにいっていたが、イルハルト以外にそういうことをしている人を見たことがないので、この時代ではイルハルトや私のほうが異端なのだろう。

確かにかつては獣人族とヒューマンは争っていた時代もあった。その大きな戦争で魔法を発展させたヒューマンは勝利し、フィジカルが強くあまり魔法が得意ではない獣人族は敗れたのだ。
そうして獣人はこのような立場ーー端の方にクロフィリエという小さな街を与えられるだけの立場に追い込まれた。元々の争いの火種はヒューマン族が領土を広げようと獣人の住む領地を襲ったことだったというのに。

勝てば官軍負ければ賊軍なんて言われるが、私は過去ここに来てみて正直ヒューマン側が悪だと思ってしまっていた。だからこそアレンに少しイラッと来てしまっていたのかもしれない。態度が冷たくなってしまった自覚はあった。別にこの過去の世界に於いてはアレンの思考は正常だし、なによりも彼は一応は私を心配してついてきてくれたらしいというのに。
でも、どうしても未来の彼と比べてしまって、嫌なことを言ってしまう。だって未来のアレンは、獣人に対してこんな態度を取ったことは一度もなかった。他人に対して激高したり、酷いことを言われたからといって傷付けようとなんてするような人ではなかったのだ。
勝手な失望から、彼の意見に冷たく反論する私は最低な人間だと分かってはいながらも、止められなかった。

「こんな差別を受けておいて、お前よくそんなことが言えるな」
「私達が今日受けた態度は王都やヒューマンがたくさん住む街では、獣人族にとっての日常ですよ。知らないのですか?」
「それはーー」
「それとも当たり前の光景過ぎて視界にすら入っていなかったとか?」
「………………」

アレンは不機嫌そうな顔で口を結んで黙ってしまった。
何か思い当たることがあったのだろう。大人しく後ろをついてくるだけ。静かになっただけマシだと考え、そのまま森の奥の方に進んだ。

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