『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました

皇 翼

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学院の創立当初からあるらしい伝統行事、魔導祭。
それは学院生全員が5つの組に振り分けられ、魔法の強さ、美しさ、技巧の高さなど様々なジャンルで争い合うというものだ。

蒼氷アズール紅炎カーマイン黄雷ギルデッド白凛ノーブル黒狼クリンゲ

それぞれこの学院出身の著名人を元にしてつけた名称らしいが、興味がないので逸話までは知らない。名前や通り名の一部を取ったとか聞いたような気がする。

一年に一度のこの祭典。
勝ったチームの生徒には、輪廻の砂時計と呼ばれる持っているだけで自身の魔力を強化してくれるアクセサリーが支給される。ちなみにこれ、売ると豪邸一つ建つらしい。それくらいの価値がある。
私は、まだ第一学年であるということもあり、そもそも何をするのかすら良く分かっていないが、貰えるのであれば貰いたいというレベルだ。複合魔法には興味があるが、魔道具にはそこまで深い興味はない。

そういうモチベーションの低さもあり、(強制)参加はさせられるが、目立たないようにこそっと無難な応援をして終わろうと思っていた。思っていた……のだが。

時間は遡り、オーランドと対立した次の日。
私は割り振られた蒼氷の組の集会に参加していた。

「リーシャ=スプライント。お前はデュエルとスタチュエットの代表として出場しろ。先輩命令だ。できれば他の競技も出したいところだが……一年だしな。容赦してやろう」

モヒート=ウーヴという蒼氷を取り仕切っているらしい男に命令されてしまい、私の目立たない作戦は最初から大ゴケしてしまったのだった。
抵抗することも出来たが、魔法などの成績のランキングやスコアは全て共有されてしまっているらしく、周囲の目も相まって逃げる方が面倒な目に遭ってしまいそうだったということもあり、早々に諦めて受け入れた。

******

「お前は魔法の『美しさ』というものを全く分かっていない!!魔法というのはな、繊細だが大胆、そして自由で、なんでも表現できる最高の学問なのだよ。だが、お前のそれはなんだ!!強いだけで、全く美しくな~~~~い!!!」

学院の修練場にて。私は今、モヒート……先輩から熱い指導という名の一方的なシバキを受けていた。
まず、デュエル――1対1の決闘については、そのまま出場しても実力的に問題ないどころか上位学年の生徒にも勝てるだろうと先輩方から謎のお墨付きをもらっていた。
なんだかんだ私の授業中に魔物を消し炭にしてしまった件は、同学年からは異常なまでに恐れられ、上位学年からは興味の対象になってしまっていたらしい。マーカスと学院の敷地を使えない状態にしてしまった件についてもその興味の対象だったようだが。

何故そのまま出場しても問題ないとお墨付きをもらったのに、指導を受けているのか。それは――

「なんだ!スプライント、お前のその炎魔法は!!どの魔法も、規模が全く同じ――全て焼き尽くしているではないか!!こっの!!馬鹿炎が!!!こんな雑な魔法では、美しさで戦うスタチュエットで勝つことなど出来ん!!!!!」

そう。魔法の美しさを競うスタチュエットの代表の一人として選ばれてしまった私は、先輩からの熱い指導を受けさせられていた。

そもそも。この魔導祭は5つの競技で構成されている。

一番の花形であるデュエル。
これで求められるのは、シンプルな強さだ。
学院が誇る最も伝統的かつ人気の競技であり、最も危険な競技だ。結界内で行われる一騎打ちの魔法戦で、勝敗は戦闘不能・降参・場外のいずれかで決まる。ちなみに、プライドが高すぎる人が多いせいか、大体の場合が大けがを負っての戦闘不能で負けが決まるらしい。
こんな危険なものに出場させられるのかと、説明を聞いた時は頭痛がした。

魔法技巧を競うカンタータ。
求められるのは魔法の技巧。
魔法の精密操作・持続制御・魔力効率を競う技術系競技だ。指定された魔法課題を、いかに正確かつ無駄なく成立させられるか、持続できるかなどが評価される。

魔法知識や解析のグリモワール。
求められるは変態的なまでの魔法の知識。
実技ではなく、知識と理論を競う競技である。魔法陣の解析、古代魔法の理論問題、即興での術式解析などが出題される。

魔導士としての協調性が求められるレギオン。
チーム単位で行う集団魔法戦術競技。
指揮官役・前衛・後衛など役割分担が求められ、連携と戦術眼が勝敗を分ける。高度な戦略が課題といったところだろうか。

そして最後。私が現在進行形で苦しめられているスタチュエット。魔法美術競技とも呼ばれているらしい。
この競技の代表の内の一人であるモヒート先輩曰く、王侯貴族間での出し物や、サーカスと言ったものでも人気かつ伝統も長い競技らしい。
魔法の美しさ・芸術性・表現力を競う競技で、制限時間内に魔法で造形・演出を行い、その完成度を審査される。
……だそうだ。全てモヒート先輩が楽しそうに早口で語っていた。

正直、代表者は私以外にも4人もいるし、控えの選手も決まっているらしいのでテキトーに――

「おい!貴様!!今、別の生徒に勝たせて、自分はテキトーに済ませようとか思ったな!!!」
「……そんなことは思っていませんよ。それと、モヒート先輩、私はリーシャです。リーシャ=スプライント。貴様じゃありません。非常に不愉快なので、次に貴様と呼んで来たら競技をボイコットします」

考えが読まれた気まずさとあまりの大声でのうるささから、ついつい厭味たっらしい口をきいてしまう。
また怒りに任せて叫び、指導をしだすかと思ったが、それを言った後のモヒート先輩の反応は全く違うものだった。

「…………それはすまなかった。謝罪する。スプライント、俺は君の魔法を改めて直接見て、才能を感じたんだ。熱が入りすぎてしまっていた。言われてからハッとしたよ。今後は気を付ける……だから、――俺と一緒に頑張ってはくれないだろうか」

なるほど、そうか。この人はただただスタチュエットという競技、そして魔法が好きなだけなんだ。それが伝わるような真っすぐな瞳を向けられてしまった。実際、私も呼び出された上に怒られてばかりで、魔法をテキトーに出したり、雑な対応をしたりなどなど嫌な態度を取ってしまっている自覚はあった。

「え、っと、その、私も良く分からないまま選ばれて、不貞腐れて嫌な態度を取ってしまいました。そこは申し訳ありませんでした。モヒート先輩の熱意は伝わったので、出来るだけ頑張ってみます」
「っ!!ありがとう……!スプライント」

モヒート先輩は本当にうれしそうに笑った。
感情を隠せない、不器用で純粋な人なのだろう。
そして私に向ける期待も心の底からのものだ。それは十二分に感じた。だからこそ、少しその期待に応えてみたいと私は思った――。
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