『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました

皇 翼

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34.

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息を呑む暇もないくらいに様々な演者がスタチュエットを披露する。
魔法なのに。ただの造形なのに。
そこに明確な『意思』そして『感情』があるように見えた。
幕が降りる。しばらく、誰も拍手できなかった。恍惚感に身体が動かないのだろう。私も同じだった。

そして体の硬直が解けたのだろう。次に、割れるような拍手が起きた。私も手が痛くなるくらいの拍手を送っていた。
今までこの魅力を知らなかったことを悔やむほどに綺麗だった。

「――ずっと観ていたかった。そんな時間だったわね」

隣に座っていたセレナ先輩がぽつりと呟く。私も同じ気持ちだった。
まるで美しい夢の中にいるようなそんな時間だった。醒めたくない夢。
しかし醒めて、現実を見てみると――。

「……私の魔法は、こんなに綺麗じゃない」

悔しいが、あんなにも憤っていたはずのモヒート先輩からの言葉の意味が分かった気がした。私の魔法はどの魔法も超火力になって強さが同じような感じになってしまう。戦闘に特化している者だから。物凄く意識を集中させて威力を抑えても、かなりの火力が出てしまう。そんなものを繊細な形に押しとどめたり、それを複数個出したりするのは、正直難しいと思った。

「俺はスプライントの魔法、嫌いじゃないぞ。その力強さには、強い意志を感じる。魔法に意思がきちんと籠っている人間は学院でも少ないんだ。一種の才能だな」

モヒート先輩の蒼穹のような瞳に貫かれる。
この人は本当にこのスタチュエットという競技が好きなのだなと、改めて思った。

「モヒートの言う通り。そもそも魔法の出力制御っていうのは極めようと思うと難しい範囲ですから。ゆっくりやっていきましょう」
「そうだな、まだ1週間ある。俺たちが全力で支えるから、安心しろ。やる気があればなんでもできるさ」
「私も昔はそこが苦手だったから、教えられることはあると思いますよ。モヒートにいじめられそうになったら頼ってくださいね」
「私も!同じ一年同士支え合お~う」
「良い瞳になったな。俺も支えてやろう」

セレナ先輩、ミレイア、ガイゼル先輩も私を勇気づけるように言葉をかけてくれる。こうしてたくさんの人から支えてもらえると思うと、なんだかできるような気がしてくるから不思議だった。

***

「あ!!ちょっと漏れそうだから行ってくる」
「ミレイア!!下品な言葉を使うんじゃない!!!」
「私も行ってきますね」
「……俺も」

ホールから出た後。
ミレイア、セレナ先輩、ガイゼル先輩がそれぞれお手洗いに行くために別行動をとる。どうせ同じ場所に戻るのだからとモヒート先輩と待っていることにした。

「それで、魔力出力というのは最大値が決まっていて、その最大値が大きければ大きいほどに威力が高いものを使用できるのだが、スプライントの場合は最大値が大きすぎて、最小値を出しているつもりでも他の人間の最小にはなっていないんだろうな」
「モヒート先輩はどうやって制御してるんですか?貴方もかなり元の魔力出力が高いようですが」
「あー、俺は……ちょっと特殊な道具を使ったんだ」

なんだかあまり公に言えないような道具のようで、先輩が顔を近付けて来たその瞬間。

「何をしている!?」

オーランドがモヒート先輩の肩を掴んで、後ろに放り投げていた。壁に強めに身体を打ち付ける先輩にすぐに駆け寄る。

「先輩!お怪我はありませんか!?」
「ああ。これくらいでは怪我なんてしない。それよりも、急に何をするんだ、オーランド=レッドグルール」
「それはこちらのセリフだ。リーシャ、君は尻軽でもあるんだな。マーカス=ヴェルナーだけでなく、モヒート=ウーヴまで誑かしているとは」

オーランドはまたしても勘違いしているようだ。
前回の言い争いの時から何も変わっていない。彼はきっと自分のことしか見えていない人間なのだなと呆れてしまう。私の交友関係を理解しようともしないどころか、ほぼ解消予定の婚約を持ち出して縛り付けてくる。

「尻軽?誑かす??スプライント、この男は何を言っているんだ?頭がおかしいのか?」
「何を言っている?頭がおかしい?俺の婚約者と二人きりで白昼堂々と浮気しているあなたの方が――」
「おまた~って、なんかあったの?」

オーランドとモヒート先輩の勘違いと状況が分かっていない同士の言い争いが始まろうとするのをぶち壊したのは、ミレイアだった――。
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