18 / 50
第2章〜冒険者編〜
第17話。ゴブリンキング
しおりを挟む俺達を睨みつけていたゴブリンキングが、ゆらりと揺れ、次の瞬間には俺の眼前に迫っていた。速すぎる。咄嗟に、抜き身で持っていた剣を、胸に構えてキングの拳を防御したが、身体強化ブーストが間に合わず、踏ん張りきれなくて数m飛ばされた。
止まってすぐに横飛びをした直後、俺がぶつかって少しへこんでいた木がキングの手によって爆散した。
その後すぐに、微弱に掛けていた身体強化を制限無しで最大強化した。こんな命がかかった状況で、周囲への被害が~~なんて言ってられない。死ぬ。
どんな状況にもスムーズに対応できる、正眼の構えを取ったとき、剣に罅が入っているのに気づいた。
さっき、咄嗟に構えて攻撃を受けたせいで、剣への衝撃を上手く逃がすことが出来なかった。その負担に耐えられなかったのであろう。
これでは、もってあと2度。だが、持たないかもしれない1度に期待はできない。実質、あと一撃で仕留めなければ。全く、なんてハードモードだ。
ヒビの入った剣が耐えられるギリギリの魔力で、最大の威力を発揮できる魔法を考える。
ゴブリンキングの表皮は、鉱物より硬いと聞いたことがある。それなら、腐特性を持つ闇×闇×闇で皮膚を溶かす。刃が通るようになった瞬間、水×風の複合属性、雷でトドメ。これならいけるだろう。
数秒の思考を終え、音を置き去りにしながら、キングに飛びかかる。恐らく、地面も酷く抉れているだろう。
キングの2m程前まで助走し、そこからキングの胸に向かって飛び上がる。狙うは心臓への突きだ。順調に皮膚が腐り、数cm剣先が埋まるのを柄を通して感じた俺は、即座に雷属性の魔法に切り替えた。これで終わりだと思った瞬間、剣が砕ける音が、甲高く響いた。
「なっ……」
一撃持たなかった……? 3属性複合、2属性複合大威力を連続して使用したせいか。
これは想定していなかった。予測出来なかったのだ。今まで稽古で剣を振るっては来たが、命のかかった実戦をした事など無いに等しい。それに加えて、ヒビの入った剣を使ったこともなければ、3属性と2属性を連続使用して戦った事も無い。
ただ、使用すればどの程度の威力が出るのか知っていただけだ。経験不足、いや、俺の怠慢がこの状況を呼んだ。
超速度から急停止による、身体の空中停滞も剣が刺さらなかった為無くなり、地面に着地した。
だが、高さ約3mからの着地。当然軽く屈伸して衝撃を逃がす必要がある。その0.2秒程度の、僅かな硬直を見逃してくれるキングではない。
それを予測していた俺は、着地前に左腿に装着している解体ナイフを抜き、魔力を流して強化していた。その強化していたナイフでキングの拳を受けて、またもや吹っ飛ばされたのだが。
「ひぃ!?……ぐはっ」
飛んでいった先に、キングの殺気で震えているデーミンがいて、悲鳴を上げた彼を巻き込んで木に激突した。直後、キングも地面を砕き、猛スピードで飛んでくる。避ける事は可能だが、俺と木に挟まった衝撃で、デーミンが気絶していた。
俺が避ければ、デーミンに当たる。意識を失った状態でキングの攻撃を受ければ、下手したら……いや、確実に死ぬだろう。避けずに受け止める覚悟を決め、ナイフを構えたとき、突如左から伸びた硬糸が、キングの腕を絡め取って動きを止めた。
硬糸の先を見ると、傷だらけで満身創痍のルークが立っており、必死な形相でキングの腕を留めていた。
「ルークさん!?」
「はや……く……トドメ……」
「っはい! はぁぁーー! くらえ!」
腐って内部が露出した胸に、抗斬属性耐性付きの解体ナイフを突き立て、高威力調整した雷魔法を流す。
キングがビクンッと痙攣して仰け反り、背中から地面に倒れ込んだ。近寄って確認すると、完全に気絶していた。まだ息があるようなので、首を切るために頭の方へ移動する。
立ち止まって剣を振るおうとした瞬間、突然キングが意識を取り戻し、天に届けと言わんばかりの大声で、絶叫を上げた。
「ぎいあぁぁああおぉぉぉ!!!」
「っ!? 耳が……」
当然、至近距離にいた俺は耳にダメージを受け、地面に膝をついてしまう。
右耳がジンジンしており、左耳に至っては激しい痛みを感じる。鼓膜が破れたかもしれない。内耳……耳の一番奥の機関がおかしくなったのか、酷く視界が回って気持ちが悪く、耳鳴りも酷い。
こんな状態で戦闘は難しい。目覚めたキングに攻撃されたら……と、キングに目を向けたのだが、事切れていた。絶叫は断末魔のようなものだったのだろうか。
取り敢えず、ピンチになることは避けられたようで安心し、周囲を確認する。
かなりの激戦だったようで、所々に陥没した地面と、なぎ倒された木々が散見される。そして、傷だらけで動かない冒険者達。ウォーレンもまだ、最初に飛ばされたときの衝撃で気絶しているようだ。ルークさんは、気絶はしていないけれど、座り込んでしまっている。
俺とデーミンが乱入した時は、そんな余裕がなくて気づかなかったが、今思い返すと、あの時既に立っていたのはウォーレンだけ。俺達に気を取られたせいでウォーレンは気絶したのだが、俺達……いや、俺が戦闘に介入しなければ、どうなっていたことか。
あの時不自然にボスへ近寄る気配を追いかけて、本当に良かったと心底思った。
さて、森全体、森の外はどうなっているのだろうか? キングと戦闘中は、一瞬の隙が死に繋がる激戦だった。だから、デーミンを発見した時から状況を1度も確認していない。
「気配察知15km……ん? なんだ、どうなってる?」
10kmでは森の外まで確認できないので、15kmで気配察知を発動させたのだが、大量に反応があったのだ。もう生き残っているゴブリンは殆ど居ないはずだし、冒険者の数も到底この反応数には及ばない。しかもその反応、カインの方向に向かっているのである。
「なぜ、こんな数がカインに……あっ!」
一つだけ、突然発生した、この大量の反応を説明できるものがある。
それは、そう。ゴブリンの死体である。上位個体は何をするかわからない。その脅威を、今初めて実感した。
38
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?
Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。
貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。
貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。
ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。
「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」
基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。
さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・
タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる