25 / 50
第2章〜冒険者編〜
第24話。膝枕とお姫様抱っこ
しおりを挟む300体ものゾンビソルジャー。完全に囲まれたこの状態は、少々面倒だ。
ルーシィと背中を合わせ、互いに死角を守り合いながら、敵を倒していく。俺は水×水で、氷属性となった纏刃。ルーシィは、当然のように拳と足で。
離れているなら風×水の飛斬でもいいのだが、至近距離で使うと、腐汁の混ざった水飛沫が大量に飛んでくるのだ。2人でちまちまと倒しているのだが、一向に数が減らない。作戦変更するか。
「ルーシィ! 一気にやるから俺の後ろにいて! 絶対に前に出てこないでね!」
「わかったわ!」
「氷結刃―飛斬―!」
水×水×水で、氷属性の威力が更に上がった刃から放たれた冷気が、5、6体程のゾンビソルジャーをまとめて氷像にし、きっかり一秒後に砕けた。
俺の魔力100%と、魔剣クラスの剣なら一撃でこの部屋全部凍りつかせられそうだが、ないものねだりをしても仕方がない。
「よし! このまま氷結刃を連発する! 俺の背中を任せてもいい!?」
「言われずとも守ってあげるわ!」
力強い返事を聞き、前方のみに集中して切りまくる。
一体何度剣を振るったのかわからなくなってきた頃、漸く最後の数体を凍りつかせることができた。
「やっと終わった……」
「さすがに疲れたわね」
今すぐにでも座り込みたい程に、2人とも疲労していた。俺は魔力枯渇気味だし、ルーシィも俺の背中を完全に任せた分、疲労が濃いように思える。
ゾンビが埋まっていた土に座るなんて物凄く嫌だが、我慢して座ろうとした時、軽く床が揺れる。
「なんだ? 地震?」
すると、周囲に驚くべき変化が訪れる。地面の土が光の粒子となって虚空へ消え、凍りついて砕けたゾンビソルジャー達が部屋の中央に集まっていく。
「まさか……復活しないよね、これ」
「ちょ、ちょっと不吉なこと言わないでよ!」
突然の変化に身構えたのだが、それは杞憂だった。土に隠れていた剣の形の溝に、ゾンビ粒子が集まって、剣を形作っていく。
多分これも、十層の時と同じく次層への扉だろう。剣が完成したとき、部屋の中央の床が円形に消滅した。
「良かった……これで第2ラウンドとかだったら、相当キツかったよ!」
「ホントよね。少し休みましょ」
そうして、やっと座ることができた俺達なのだが、自分達の体から腐臭がしており、それに耐えられなくなってきた。一人だったら我慢できたのだろうが、お互いに子供とはいえ男女。さすがに羞恥心がある。
「臭いわね」
「臭いね。はぁ、仕方ない……ウォッシャー」
「ありがとう、エミル。……エミル? 大丈夫?」
身綺麗になり、臭いが消えたのはいいのだが……。魔力枯渇気味の状態で3属性魔法のウォッシャーを使ったことにより、完全に魔力枯渇状態になってしまった。
眩暈と虚脱感が襲ってきて、顔を顰めてしまう。それを見たルーシィに心配をかけてしまったようだ。
「ん、だい、じょぶ……」
「そんな青い顔して何言ってるの! 魔力枯渇のくせになんで魔法なんて使うのよ! エミルが辛くなるなら、あたしは臭いくらい我慢するわ!」
「ごめ――――」
「許さない! 特別に膝を貸してあげるわ! さっさと寝て回復しなさい!」
「……え? っえぇ!?」
ひざまくら? 膝枕!? それってあの、あのアレ??? ぇえええ!?
あまりの衝撃に、目の前で手が振られるまで、たっぷり10秒程固まってしまう。
「エミル? そこで固まられると、流石のあたしも恥ずかしいんだけど?」
その言葉通り、ルーシィの顔はリンゴより赤くなっている。それを見た俺も、自分で分かるくらい真っ赤になってしまう。恥ずかしい。
「はっ! ごめん、一瞬トリップしてた。じゃあお言葉に甘えようかな~~なんて」
「遠慮なんてしなくていいのよ?」
「しつれいします……」
差し出されたルーシィの太腿に、そっと頭を乗せる。ルーシィの太腿は、子供らしく筋肉と脂肪が適度に付いていて、非常に寝心地がいい。
だが、その寝心地の良さが、更に俺の羞恥心を掻き立てる。きっと俺の顔はもう、茹でダコ状態だろう。
俺が一人身もだえていると、頭に手が。その手が、ゆっくりと俺の頭を撫で、眠気を誘う。
「おやすみ、エミル」
その呟きを微かに残った意識で聞きながら、俺は気持ちの良い微睡みに落ちていった。
「ん……」
「あ、起きた?」
「っ!?」
目が覚めてすぐ視界に飛び込んできた、ドアップのルーシィ。びっくりして、転がって逃げてしまった。
「そこまで逃げなくてもいいじゃない!」
「反省してます……」
「まぁいいわ。魔力はどう?」
自分の内側を探り、魔力の回復具合を調べる。すると、ルミナスを受け入れた翌日に確認した時は、感じることができなかった、ルミナスの魔力を僅かに感じた。彼女も順調に回復しているようだ。
自分の魔力もしっかりと50%まで回復しており、体調も万全である。
「大丈夫みたいだ。膝、ありがとうルーシィ。助かったよ。ルーシィも寝る?」
「あたしもさっき寝てたから、別に平気よ!」
「そっか、良かった。それじゃ、行こう」
2人共立ち上がり、部屋中央に空いた下層へ続く穴に近寄る。
「ね、ねぇ。エミル」
「ん? どうかした?」
「て、手を繋がないかしら!? あなた、この穴飛び降りるの怖いでしょ!?」
そう言われて覗き見た穴は、相当深いのか先が見えない。たしかに怖いが、そこは半分魔族の俺。多少崖から飛び降りたところで、足が痺れる程度だろう。
だが、獣人の……しかも、子供で女の子のルーシィはどうだろうか? 氣で強化しても、骨折くらいはしてしまうかもしれない。
少し考えた俺は、ある行動に出る。
「エミル!? 下ろして!」
「こっちの方が安全だよ。獣人の君じゃ、骨折くらいしてしまうかもしれない」
「それを言うなら、ハーフエルフのエミルの方がよっぽど怪我しそうだわ! そ、それより、これ……おひめさまだっこ、は……」
そうだった。
俺の容姿は金に黒メッシュが入った髪。緑に青銀が混ざった瞳。人間とエルフのハーフにしか見えない。実際は魔族であるヴァンパイアと、エルフのハーフなのだが、ヴァンパイアとしては未覚醒状態であり、気づかないだろう。
普通のハーフエルフは体がもろい。いくら身体強化をかけても、その身体強化倍率は元々の基礎能力に依存する。この高さから落ちたらルーシィより大ダメージを受けるだろう。それを心配されているのだ。
平然を装っているけど、内心俺はドキドキである。
あれ、王子だからお姫様抱っこくらいしたことあるだろ、って? ないんだなぁ……それが。
誕生式のパーティには出席したけど、社交界デビューは大人になってからなので、あれ以降パーティに出たことは無い。つまり、令嬢や他国の姫君と顔を合わせるのなんて、城の廊下ですれ違うときくらいなのである。
そういえば、誕生式で会ったサラシャ嬢は元気かなぁ。今頃は、神魔国の学校に居るんだろうか?
それより、なんとかしてルーシィを誤魔化さないと。今はまだ、普通の友達でいたい。ここでヴァンパイアとエルフのハーフだとか、王子だとかバレたくない。
「身体強化フルブーストするから大丈夫だよ。それに俺、ほら、魔力すごく沢山あるから」
「でも――――」
「しっかりつかまって! 行くよ!」
「ま、まっ、心のじゅん……きゃぁぁぁあああ!」
――――スタッ――
2、30m程落下して地面が見えてきたので、膝を曲げて衝撃をやわらげ、着地する。直ぐにルーシィを離して、隣に立たせた。
二人分の体重の負荷がかかったせいか、予想していたより足がビリビリしているが、時期に治まるだろう。
「ちょっとエミル! 心の準備くらいさせてよ!」
「ごめんごめん。でも、こっちの方がちょっと楽しかったでしょ? 命綱なしのバンジージャンプみたいで」
「バンジー? なによ、それ」
しまった。こっちにはバンジージャンプ無いのか。そういえば、聞いたことがなかった気がする。
「あー、やっぱりなんでもないや」
「もう!」
「それより、この階層の魔物はなんだろうね!」
「ねぇ、エミル。話逸らそうとしてない?」
「そんなことないよ!」
じー、と疑わしげな目をルーシィが向けてくるので、同じくこちらも、じー、と見つめ返す。
すると、なんだか面白くなってきて仕舞いには、にらめっこが始まった。
「ふん! これ、で、どうだ!」
「く、んむむ!……ぷっ」
「俺の勝ちだ!」
「くぅ、悔しい! もう一回よ!」
合計3回戦程行った結果、勝者は俺だった。
「エミル! なにか不正してるんじゃないの!? 強すぎるわよ!」
「してないしてない!」
ポーカーフェイスは王子の十八番である。というか、表情くらい自由に操れないと、王族なんてやってられない。つまり、にらめっこに負けるはずがない。俺が強くて当然なのだ。けど、恥ずかしくなった時に顔が赤くなるのは許して欲しい。……だって、女の子の免疫ないんだもん。
ルーシィがすごく悔しそうな顔をしてるから、ちょっと可哀想に思えてきた。もし次やることがあったら、負けてあげよう。
そういえば、何故にらめっこに、少しとはいえ夢中になっていたんだろう。体は子供でも、中身は合計22歳。いい大人である。もしかしたら、精神が肉体年齢に引き摺られているのかもしれない。
そんなことを考えていると、ルーシィがなにか聞き取ったのか、視線を通路の先に送る。
俺も気配察知範囲を広げ、その正体を捉えた。
「牛、かな? あ! もしかして!」
「エミル!? 待ちなさいよ!」
その正体が、もし、俺の想像通りなら……!
心が逸り、思わず駆け出してしまった。数十m進んだ先に、奴らは居た。
「ブモォォォ、モォォォーー」
やはり、想像通り。そこに居たのは、ミノタウロス。ミノタウロスと言えば、斧とか装備していそうだが、ここはヒシュリムのダンジョン。装備しているのは、剣である。
実は、ダンジョンに行くことが決まってから、コイツを密かに求めていた俺。星の海亭のビーフシチューの食材となる魔物。
なるべく傷を付けないように肉を確保する方法を、俺の頭が高速回転をしながら探し始めた。
26
あなたにおすすめの小説
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる