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第3章〜カイン学園編〜
第32話。検証
しおりを挟む依頼ボードの前に立って丁度良さそうな依頼を探していると、後ろから子供の声で話しかけられた。
「ねぇ君、試験中に怪我した子だよね?」
「……アマゾネス、かな?」
焦げ茶の髪と瞳、褐色の肌。子供らしく丸っこい顔立ち。身長は俺と同じくらいの女の子で、ポニーテールを三つ編みにしている。
アマゾネスはヒシュリムに住む少数部族のひとつで、女性しか生まれない。けれど集落には男性もいる。アマゾネスの女性が外で結婚して連れ帰ってきたりするからだ。
「そうだよ。僕はアリス・リー。君たちは?」
僕っ子なんて初めて見た。本当に居るんだな。想像していたよりなかなか可愛い。
「俺はエミル。よろしく」
「ルーシィよ。言っとくけど、エミルは渡さないわ」
「なんのこと?」
「っちょ、ルーシィ!? ごめんアリス、なんでもないんだ。アリスでいいよね?」
「おーけー! 僕もエミルとルーシィって呼ぶよ」
呼称の了解を貰ったので、取り敢えずルーシィの腕を掴んで後ろを向き、コソコソ話をする。
「ちょっとルーシィ、いきなりどうしたの」
「どうしたもなにも、ライバルが現れたら宣戦布告するのは当然でしょ?」
「ライバルって……明らかにそういう雰囲気の子じゃないよね」
「そうかしら? わからないわよ。免疫無しのエミルのことだから、一緒に過ごしてるだけで好きになっちゃうかもしれないわ。あたしだって負けていられないもの」
「そんなこと……」
ないとは言えない。現にルーシィのことが好きじゃない子から、結構好きな子になっている。
「ほらね?」
「うっ……」
「ねぇ~、どうしたの?」
しまった。アリスのことを忘れていた。2人で慌てて振り返る。
「そうね、ちょっと2人の今後について話し合ってたのよ」
「依頼選びのこと? ごめんよ、邪魔しちゃって。見かけた顔だったからつい声掛けちゃったんだ」
ルーシィの微妙に含みのある言い方は、どうやらアリスには通用しなかったらしい。地味に話の内容が噛み合っていなかった。
「大丈夫だよ。お互いに受かってるといいね」
「そうだね。じゃあまた明日!」
アリスは冒険者登録に来ていたのだろうか。それかもう済んでいて、今から簡単な依頼をしに行くのか。気にならないわけではないけど、明日聞けばわかる事だ。
「あ、エミル! こんなのいいんじゃない?」
「Bランク魔獣ジャンボスピードラビット10体討伐。うん、報酬もそこそこだしいいと思う。それにしようか」
今日はエイミーが見当たらなかったので、あのキツいメガネ美人アリーゼに受理してもらった。出現場所を聞いておくことも忘れない。そしたら、すごく美味しいこともついてに教えてくれた。
首都カインの西。アルベールの森とは正反対に位置する広大な草原。そこに俺達は来ていた。
「ルーシィ、見つけた。あっち」
魔力消費が減った気配察知で、100m程先のジャンボスピードラビットを捉えた。群れているのかと思いきや、1体だけだ。
「あれね。どうする?」
「うーん、……せっかく魔弓士の職業を獲得したんだし、やってみようかな」
片膝立ちして体勢を安定させる。後ろ腰に手を回し、スナップボタンを外して弓を取り、矢をつがえて構える。とそこで、動きが止まってしまった。
技名、どうしようかな。魔弓士自体が魔法剣士の弓バージョンみたいなものだし、技名も刃を弓に変えるだけでいいか。
「雷弓……―霹靂―」
そう小さく呟き、目を狙って放つ。風きり音を立てて真っ直ぐ飛んでいった矢は、寸分違わず狙った場所に当たり、巨大兎を仕留めた。
「やったわね!」
「だね! あの肉美味しいらしいし、早く凍らせて回収しちゃおうか」
使い回しの為、矢を引き抜いてから凍らせた。何度もやると鏃がすりへってきて使えなくなってしまうが、毎回きちんと洗って手入れをすれば結構長く使える。
気配察知範囲を広げ、次を見つけて移動した。
今度は強制誘導を試してみようか。まだEだから大した補正力はないだろうが、効果を知っておく必要がある。
前回の狙いは目だったが、今回はその狙いを30cm横にずらす。だが、当てようと思っているのは同じ目だ。
「光弓―瞬閃―!」
光の速度で飛んだ矢は目の10cm横に刺さり、鼻先を矢柄……鏃を除いた矢全体の木の部分……の半ばまで貫いて止まる。激怒した巨大兎がこっちに向かってきたので剣を抜き、身体強化をせずに待ち構える。距離5mまで近づいてきたところで助走0の状態で眉間めがけて飛び込み、突きを放った。
「うっそぉ…………」
かなりの硬さを誇るはずであるBランク魔獣の毛皮を易々と引き裂いた剣は、柄まで刺さっていた。砕けないように魔力で覆ってはいたが、属性纏刃ではなかったのに、である。剣技SSは相当なものらしい。
「まぁ、これくらいはやると思ってたわよ……。でもいざ現実になるとクラクラしてきちゃったわ」
「次は戦闘感と体術スキルを試したいんだけど……手を出すと色々中から出てきそうだし、突進してきたところをいなすくらいにしておこうかな」
「是非そうして。切実にお願いするわ!」
巨大兎を探して、次のポイントに移動した。
強制誘導スキルの補正はDランクの現段階で20cmと先程判明したので、今度は普通に耳を狙う。
「水弓―刹渦!」
水刃状態では切断力に優れていた水属性。水弓になるとどうなるのか、答えはすぐに出た。
なんと、今までは刺さるだけだった矢が完全に貫通したのだ。耳を狙っておいて良かった。胴体とかをやってしまっていたら、体術スキルを試す前に終わっていた。
怒り狂った巨大兎が突進してきたのを、ギリギリで左に飛んで避け、左前脚を掴んで投げた。突進の威力を利用した感じなので、俺は殆ど力を込めていない。
数十m飛んでいった巨大兎は、頭が潰れでもしたのかそのまま動かなくなった。
「大したものね。幸運は試しようがないし、検証はもういいんじゃないかしら?」
「十分だね。それにしても、幸運ってなんだろう」
「さぁ? 道に落ちてるお金拾えるとかじゃない?」
「えぇっ? でもそれ警備隊に届けないとだよ」
「あ、そっか」
その後は1番効率が良さそうな雷弓でスイスイ狩っていき、依頼を終わらせて宿屋に戻った。
明日の試験結果発表にドキドキしながら眠りについた俺は、アドルに呼ばれることなく、約10日ぶりにぐっすり眠ったのだった。
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