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第78話 因縁の激突
しおりを挟むユナイトアーク内部。
リサ、エレナ、しずく、カレンの4人は、
沈黙の回廊を抜け、破壊された大扉の前へとたどり着いた。
「……静かすぎるわ」
エレナが走りながら、不安げに呟く。
障壁の外部や上層からは、
爆発音やマガツの咆哮といった戦場の音が微かに響いてくる。
だが、この「生命の間」に近づくにつれ、それらの音は遠ざかり、
代わりに重く湿った空気が肌にまとわりついてくるようだった。
しずくは足を速めた。
「急ぎましょう! ガレスさんが心配です!」
生命の間の門番を任されているのは、ナンバーズNo.9、ガレス・アイアンハート。
かつて伝説の№1・瑠璃の部下でもあった彼女は、
そう簡単に敵を通すはずがない。 そう信じていた。
角を曲がる。 その先にある、巨大なゲート。
「……ッ!?」
4人の足が、凍りついたように止まった。
ゲートは、破壊されていた。 爆破されたのではない。
何か鋭利な刃物で、分厚い合金の扉ごと「空間」を抉り取られたかのように、
無惨な穴が開いている。
「……ガレス、さん……?」
しずくの声が震える。 返事はない。 そこには、凄惨な現実だけがあった。
壁にもたれるようにして転がる、身の丈を超える巨大な戦斧は、
柄から無惨にへし折られ、刃こぼれして床に転がっている。
そして、その強靭な肉体は、無数の斬撃によって切り刻まれ、
周囲はどす黒い血の海と化していた。
「嘘……だろ……」
リサが駆け寄る。 足元の血溜まりを踏む音が、チャプ、と不快に響いた。
「おい、ガレス! 寝てんじゃねぇよ! 起きろ!」
リサがその肩を掴み、揺する。 だが、ガレスの体は冷たく、硬直していた。
首筋にある、深い斬撃痕。生きていないことは誰の目にも明らかだった。
その時、リサは気づいた。 ガレスの顔に、一筋の光るものが伝っていることに。
「泣いて……いたの?」
エレナが息を呑む。 あの無骨なガレスが、死の間際に涙を流していた。
痛みではない。恐怖でもない。
守りたかったものを守れなかった、無念と絶望の涙。
リサの手が震える。 悲しみではない。煮えたぎるような怒りが、全身を駆け巡る。
リサは怒りのままに、目の前の大扉を蹴破った。
「セラフィナァァァァァッ!!!!」
ドォォォォン!!
扉が開き、4人は生命の間へと雪崩れ込んだ。
そこは、青白い光に満ちた広大な空間だった。
中央には、要塞の動力源である巨大な結晶体。
そして、その光を全身に浴びて浮かぶ、神々しいまでの姿があった。
「――あら、リサ。みなさんもいらしたのね」
セラフィナだ。 彼女は4人を見下ろし、
まるで茶会に遅れてきた客を迎えるように微笑んだ。
その傍らには、涼しい顔をしたエリスが控えている。
だが、4人の視線はセラフィナよりも、その背後にあるものに釘付けになった。
部屋の中央にあるはずの、青白く輝く巨大な結晶体、ユナイトアークの核。
それが、ドス黒く濁り、ヒビ割れ、完全に光を失っていたのだ。
まるで、中身をストローで一滴残らず吸い尽くされた抜け殻のように。
「遅かったわね」
宙に浮くセラフィナが、愕然とする4人を見下ろして微笑んだ。
彼女の身体は内側から眩い光を放ち、背後には神々しい光輪が浮かんでいる。
「見ての通りよ。この核エネルギーは、全て私が頂いたわ」
セラフィナが枯れ果てた核を、ゴミを見るような目で指差す。
「もう、そこにあるのはただの入れ物よ。
……今の私が、この世界の新たな心臓なのだから」
「そん、な……」
エレナが崩れ落ちそうになる膝を支える。
核は空っぽで、エネルギーは全て敵の中にある。
これでは、手の出しようがない。
リサが大剣の柄を握りしめ、ギリリと歯ぎしりをした。
ガレスを殺し、核を奪い、勝ち誇る元凶。
怒りが沸点を超え、殺意となって噴き出す。
「……ふざけるなッ!!」
リサが吠える。 だが、セラフィナはまるで羽虫の羽音でも聞くように、
興味なさげに視線を逸らした。
「もう、あなたたちにも興味はないわ」
セラフィナはふわりと宙に浮き上がる。
「私はこの上に行く。 神の力を世界中に届けるには、一番高い場所でなくてはね」
「昔使われていた玉座の間だったかしら、私にちょうど良いわ。」
「行かせるかぁぁぁッ!!」
リサが床を蹴り、跳躍する。
渾身の大剣が、セラフィナの無防備な背中へと振り下ろされる、寸前。
ガキンッ!!
見えない壁に阻まれたように、大剣が虚空で止まった。
「――行かせないわよ」
リサの前に、冷徹な表情のエリスが立ち塞がっていた。
「あらあら……」
セラフィナが足を止め、くすりと笑う。
「どうしたの、エリス? あなたがそんなに剥きになるなんて珍しい」
「……コイツは、私の獲物です」
エリスの瞳を隠す布がはためいた。
「よろしい。では、相手をしてあげなさい」
セラフィナは興味を失ったようにエリスから視線を外し、
最後にしずくの方を見た。
「私はこっち」
「ッ……!」
しずくが身構える。 だが、セラフィナは攻撃してこなかった。
ただ、酷く楽しそうに、妖艶な笑みを浮かべただけだった。
「真壁しずく。私は上で待っているわ」
セラフィナがしずくを指差す。
「もし私のところまで来れたら……ご褒美に、見せたいものがあるの。
楽しみにしていてちょうだい」
「見せたいもの……?」
「ええ。きっと感動するはずよ。」
セラフィナがパチンと指を鳴らすと、黒いワープホールが出現した。
「待ちなさい!」
エレナが瞬時に弓を引き絞り、風の魔力を纏った矢を放つ。
ヒュンッ!! 矢は正確にセラフィナの眉間を捉えていた。
だが。
パシュッ。
エリスが指先を振るうだけで、矢は空間ごと弾かれ、壁に突き刺さった。
「ごきげんよう」
セラフィナはふざけたように投げキッスを残し、
ワープホールの中へと消えていった。
圧倒的な余裕。 神の気まぐれ。
残されたのは、怒りに震えるリサたちと、立ち塞がるエリスのみ。
「どけ、エリスッ!!」
リサが大剣を構え直す。
「行かせないと言ったでしょう? ……特に、あなたはね。リサ」
エリスの周りの空間が歪み、無数の刃が形成される。
その殺気は、明らかにリサ一人に向けられていた。
「チッ……上等だ!」
リサは瞬時に状況を判断し、叫んだ。
「エレナ!しずくとカレンを連れて先に行け! ここはアタシが食い止める!」
「いいえ! 私も残るわ!」
エレナが即答し、リサの横に並ぶ。
「はぁ!? 何言ってんだ!」
「エリスから……何か感じるの。
何か異質なものを取り込んでいるわ。リサ一人じゃ危険すぎる!」
エレナの勘は鋭い。 彼女は弓を構えたまま、背後の二人に指示を飛ばした。
「しずくちゃん、カレン! あなたたちは先に行って! セラフィナを止めて!」
「でも……!」
「迷っている時間はないわ! 急いで!」
エレナの必死な声に、カレンがしずくの腕を引いた。
「行こう、しずく! お二人が作ってくれた好機、無駄にしてはいけない!」
「……ッ、分かりました!」
しずくはリサとエレナを振り返り、強く頷いた。
「お二人とも……絶対に、生きてくださいね!」
「ああ、任せとけ!」
しずくとカレンは、エリスの脇をすり抜け、最上階へと続く通路へと走り出した。
「逃がすわけ――」
エリスが追撃しようとするが、リサの大剣がその進路を遮断する。
「よそ見してんじゃねぇよ、エリス! テメェの相手は、アタシだろッ!!」
「……フン。いいわ」
エリスは走り去る二人への興味を失い、冷酷な目でリサを見据えた。
「まずはあなたから、処理してあげる」
ユナイトアークの闇の中で、因縁の激突が始まろうとしていた。
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