"自称"異能力者は迷宮でも超余裕です!!

オオミズチ亜種

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4.自称異能力者はOVER KILLをきめる(ver.2)

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​カマキリ(の霧)が晴れた通路の先で、佐古が前に出た。
現れたのは『アーマービートル』。
軽自動車ほどの大きさがある巨大な甲虫だ。その名の通り、鋼鉄のような硬い甲殻に覆われており、生半可な剣では刃が立たない。

「ええか、よう見とけ。魔石を残す『プロの仕事』っちゅうもんをな」
  
​「ブモオオオッ!!」

ビートルが猛スピードで突進してくる。戦車のような迫力だ。
​だが、佐古は一歩も引かない。
愛用のメイスをだらりと下げたまま、まるで散歩でもするかのように自然体で待ち構える。
 
​「硬い敵にはな、こうすんねん」
 
​敵が目前に迫った瞬間、佐古が踏み込んだ。
床のコンクリートがバキッと音を立てて陥没する。
 
​「ふんッ!!」
 
​下から上へ。
ゴルフのスイングのような軌道で、メイスが振り上げられた。
狙うは甲殻の継ぎ目、顎の下の一点。
 
​ドゴォォォォン!!
 
​重低音が響き渡る。
数トンの巨体が、ボールのように宙へ浮いた。
そして、そのまま天井に叩きつけられ――ポリゴン状の光となって霧散した。
床に落ちたのは、傷ひとつない綺麗な紫色の魔石。
 
​「……な? 急所を正確に叩けば、余計な力はいらんし石も残る」
 
佐古はメイスを肩に担ぎ、涼しい顔で振り返った。
 
「す、素晴らしい……!」
 
​彩は目を輝かせた。
 
​「魔法(物理)か! 我が剛力も制御すればその領域に至れると!?」
 
「お前の触手は制御不能やから今は忘れろ。……次は木守、お前の番や」
 
​佐古の指名を受け、木守がダルそうに前に出た。
パーカーのポケットからスマホを取り出す。
 
​「……了解。対象、フライング・ワスプ3体」
 
​上空から、巨大な蜂の群れが襲いかかってきていた。
高速で飛び回るため、佐古のような近接タイプには相性が悪い相手だ。
​木守は蜂を見ようともせず、スマホの画面を親指で高速フリックした。
 
​「起動。術式コード『アイス・ジャベリン』……展開」
 
​彼女が画面をタップした瞬間。
スマホのレンズから、幾何学模様の魔法陣が空中に投影された。
現代の魔術師は、呪文を詠唱しない。
あらかじめスマホにインストールされた『EMS』を使用し、魔力を消費して術式を起動するのだ。
 
​ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!
 
​魔法陣から、鋭利な氷の槍が三本、射出された。
それらはまるで誘導ミサイルのように空中で軌道を変え、蜂たちの急所を正確に貫いた。
 
​パリン、パリン、パリン。
 
氷が砕ける音と共に蜂たちは消滅し、三つの魔石がコロンと落ちる。
 
​「……終了。ドロップ回収、完了」
 
木守はスクショでも撮るような手軽さで戦闘を終え、再びスマホに視線を落とした。
 
​「おおおおおっ!!」
 
​彩が食いついた。
緑ジャージを翻し、木守に詰め寄る。
 
​「今のはなんだ!? 『無詠唱魔術』か!? それとも古代のアーティファクト(スマホ)による強制発動か!?」
 
「…………」
 
「その幾何学模様……まさか貴様、王立魔術アカデミーの特待生か!? 我にもその術を教えよ! 我が右目の封印を解く鍵になるかもしれん!」
 
​彩は興奮のあまり、木守の顔を覗き込んだ。
だが。
 
​「……近寄んないで」
 
​木守の声は、氷の槍よりも冷たかった。
彼女は露骨に顔をしかめ、汚いものを見るような目で彩を睨みつけた。
 
​「アンタみたいな『バケモノ』と馴れ合うつもりないから。……生理的に無理」
​「えっ」
 
​木守は彩を押しのけ、スタスタと佐古の方へ歩いていってしまった。
残された彩は、ショックで石のように固まっている。
​数秒の静寂の後。
 
​「さ、佐古ぉぉぉぉ~~~!!」
 
​彩が涙目で佐古に抱きついた。
 
​「ワ、我……何か嫌われることしたかな!? 昨日の今日で!? 仲間だと思っていたのに!!」
「うおっ、鼻水つけんな!」
 
​佐古はまとわりつく彩を引き剥がそうとするが、ジャージを掴む力(ゴリラ並み)が強すぎて剥がれない。
 
​「あいつはなー、ちょっと人見知りなだけや! 多分!」
 
「目が! 目がマジだったぞ! 『ゴミを見る目』だったぞ! 深淵の住人である我ですら心が折れそうだ!!」
 
「お前が触手でグロい倒し方したから引いてるだけやろ!」
 
​ギャーギャーと騒ぐ彩と、それをあしらう佐古。
その背後で、木守は冷めた瞳でスマホの画面を見つめていた。
そこには、先ほど撮影した彩のデータが表示されている。
 
​『測定不能(エラー)』
​(……やっぱり。人間じゃない。関わったら、アタシまであっち側に引きずり込まれる)
 
​木守は恐怖と嫌悪感を押し殺し、フードを深く被り直した。
 
​「……早く終わらせて帰ろ。レベルが違いすぎる」
 
​西宮探索事務所のチームワーク構築には、まだまだ時間がかかりそうである。

​「……で? いつまで泣いとんねん」
「うぐっ……だって、目が……ゴミを見る目だった……」
 
​佐古の腰にへばりついていた彩を引き剥がし、一行は迷宮の奥へと進んでいた。
木守は相変わらず無言で最後尾を歩いているが、彩との距離をあからさまに(半径3メートル以上)取っている。
 
​「ほら、気を取り直せ。ここからが本番や」
 
佐古はメイスを担ぎ直した。
 
​「ここに来た本当の目的はな、最近増えとる『イレギュラー』の駆除や」
 
「イレギュラー?」
 
「本来その階層に出るはずのない、実力違いの魔物のことや。最近、この『虫籠』にデカいのが住み着いたらしい」
 
​佐古は前方の闇を睨んだ。
 
​「通称『大蜘蛛(ビッグ・スパイダー)』。耐久は並やが、パワーは馬鹿高い。吐く糸は鋼鉄並の硬度や。……国から結構な懸賞金が出とるからな、今日の晩飯代稼ぐで」
 
​「ふぅん……」
 
彩は鼻をすすりながら、ふと天井を見上げた。
暗闇の奥に、何か蠢く気配がある。
 
​「なあ佐古。今の話が本当なら……」
彩が指差す。
 
​「あの天井にいるデカい蜘蛛と、それに簀巻きにされてる人間たちは、アトラクションのエキストラじゃないんだな?」

「あ?」
 
「ん?」
 
佐古と木守が同時に上を向く。
そこには、巨大な蜘蛛の巣に絡め取られ、必死にもがく探索者たちの姿があった。
そして、その中心には、トラックほどもある巨大な蜘蛛が、捕らえた獲物を弄ぶように糸を吐きかけている。
 
​「――ッ! イレギュラーや! 木守、援護射撃!」
 
「了解! コード『フレイム・アロー』!」
 
​佐古の怒声と共に、戦闘が始まった。
木守のスマホから放たれた炎の矢が蜘蛛の糸を焼き切る。
拘束が緩んだ隙に、佐古が壁を蹴って跳躍した。
 
​「オラァッ!!」
 
​轟音と共に、メイスが大蜘蛛の頭部を粉砕する。
流石は「関西の聖女」、速攻かつ的確な一撃だ。
大蜘蛛は断末魔を上げる暇もなく霧散し、捕まっていた探索者たちがドサドサと落ちてくる。
 
​「大丈夫か自分ら!」
 
「た、助かった……! あんた、西宮さんとこの……!」
 
​救助された探索者たちは、青ざめた顔で佐古に縋り付いた。
だが、彼らの顔色はまだ優れない。
 
​「逃げろ……早く! あいつはただの『兵隊』だ!」
「兵隊?」
「奥にいるんだよ……もっとヤバい、『母蜘蛛(マザー・スパイダー)』が!!」
 
​その言葉を裏付けるように、迷宮の奥から地響きのような音が近づいてくる。
 
ズズズズズ……。
 
現れたのは、先ほどの大蜘蛛が可愛く見えるほどの、超巨大な蜘蛛の影だった。
通路の幅いっぱいに広がるその姿は、まさに絶望の具現化。
 
​「チッ……話が違うで! マザーなんか聞いてへんわ!」
 
​佐古は瞬時に判断した。
今の戦力、それに負傷した探索者たちを守りながらの戦闘はリスクが高すぎる。
 
​「撤退や! 全員、出口まで走れ! オレが殿(しんがり)務めたる!」
「りょ、了解!」
 
​探索者たちが走り出し、木守もスマホを構え直す。
だが――。
 
​「ふっ……逃げる必要などない」
 
​一人だけ、場違いな声を上げる少女がいた。
緑のジャージを風にはためかせ、彩が一歩前へ出る。
 
​「彩! アホなこと言うな! 下がれ!」
 
「ノンノン、佐古よ。貴様は言ったな? 『実力違いの魔物』だと」
 
​彩は眼帯に手をかけた。
その口元が、三日月のように歪む。
 
​「ならば教えてやろう。真の『イレギュラー』とはどういうものかを……!」
 
​「ちょ、待って! アンタまさか……!」
 
木守が何かに気づき、悲鳴のような声を上げたが、もう遅い。
 
​「唸れ、我が右目! 深淵の門よ、今こそ開け!!」
 
​彩が眼帯を外した瞬間。
 
そこにあったのは目玉ではなく――
 


底なしの『闇』だった。


  
​ドッバアアアアアアアアアン!!
 
​それは「召喚」などという生易しいものではなかった。
彩の右目から、黒い粘液のような『闇』が、決壊したダムのように奔流となって噴き出したのだ。
 
​「うわああああああ!?」
「なんじゃこりゃあああ!?」
 
​黒い津波は、迫りくるマザー・スパイダーだけでなく、逃げ遅れた探索者たち、そして佐古と木守までも一瞬で飲み込んだ。
 
​視界が黒一色に染まる。
だが不思議と息苦しさはなく、むしろ温かいゼリーに包まれているような感覚。
その中で、佐古たちは見た。
絶対的な捕食者であったはずのマザー・スパイダーが、黒い闇の中でなす術なく分解され、文字通り「消化」されていく様を。
 
​……数分後。
闇が引き潮のように彩の右目に戻っていくと、そこには何も残っていなかった。
魔物も、蜘蛛の巣も、迷宮の汚れすらも。
ただ、ツルツルに磨き上げられた床と、ヌルヌルになった探索者たちが転がっているだけ。
 
​「ふぅ……満腹だ」
 
​彩は眼帯を付け直し、ゲップを一回してから、自信満々のドヤ顔でピースサインを作った。
 
​「どうだ佐古! 全員無傷で救出したぞ! 感謝していいぞ!」
 
​シーン……と静まり返る現場。
探索者たちは腰を抜かして泡を吹いている。
木守は冷や汗で化粧が落ちた顔のまま、ガクガクと震えている。
 
​そして佐古は――。
 
​「……やりすぎや君ィィィィィィィッ!!!」
 
​パァァァン!!
 
​佐古の強烈なツッコミ(ハリセン)が、彩の頭に炸裂した。
 
​「いっったぁ!? なんで!? 完璧な勝利だっただろ!?」
 
「どこがじゃ! 探索者まで食うてどうすんねん! トラウマで廃業したらお前のせいやぞ!!」
 
「ちゃんと『吐き出した』だろ! 消化したのは蜘蛛だけだ!」
 
「そういう問題ちゃうわ!!」
 
​阿鼻叫喚の迷宮出口。
その騒ぎの報告を受けた迷宮管理庁の一室で、佐奈は静かに胃薬の封を切ったという。
 
​「……佐古。貴方の苦労、察するわ」
 
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