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前編
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その日、私は珍しく、母に起こされる前に目が覚めた。台所へ行くが、朝ご飯の用意はまだしていなかった。小腹が空いたので冷蔵庫の中を覗くと、プリンが入っていた。小さめのプリンが3個並んでいるやつだ。誰のものなのかは分からないが、3つもあるのなら1つくらい食べてもいいだろうと思い、食器棚からスプーンを取り出し、椅子に座って食べ始めた。
すると、そこへやって来た母が驚いたような表情でこう訊いた。
「あれ? ナナ、何でプリンを食べてるの?」
「え? 食べちゃ駄目だった?」
「そうじゃなくって、あんた、プリン食べたっけ?」
その言葉に、私の方が驚いてしまった。
「え? いや、普通に食べるけど」
「そうだったかしら。確か、ナナはプリン嫌いだと思ってたんだけど……」
「そんなに好きってわけじゃないけど、嫌いでもないよ。英人と間違えてるんじゃないの?」
「ああ……そうかもしれないわね」
腑に落ちないような表情で、母は首を傾げながら台所を出て行った。
そこへ、今度は弟の英人がやって来た。
「姉ちゃん、何でプリン食べてるの?」
純粋に不思議そうな表情で、英人はそう尋ねた。
「いや、何でって、冷蔵庫に入ってたから。あ、これ英人のプリンだったの?」
「ううん。お母さんに頼んで買ってきてもらった奴だから、別に姉ちゃんが食べてもいいけど……。姉ちゃん、いつからプリン食べられるようになったの?」
この辺りで、私はさすがに気持ち悪くなってきた。母も英人も、からかっている様子はないし、こんなつまらない冗談は言わないタイプである。
もしかして、平行世界の別人と入れ替わってしまったのではないか――などと、突拍子もないことすら考えてしまった。
急いで朝ご飯を食べ、学校へ行く準備をし、いつもの交差点で幼馴染の入江文彦が来るのを待った。文彦の方が先に私に気付き、声をかけてきた。
「おはよう。ナナの方が先に来てるなんて珍しいな」
文彦は私と同じ中学3年生だ。別に待ち合わせる理由などないのだが、小学校の集団登校のときの癖が抜けずに、何となく一緒に登校している。帰りは別々だが。
「ああ……ちょっと、今朝は妙なことがあったから。家にいると頭がおかしくなりそうだったから、早めに出てきたの」
歩き出しながら、私はそう言った。
「ふうん。英人と喧嘩でもしたのか?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど……。ねえ、変なこと聞くけど、私ってプリン嫌いだったっけ?」
「え? いや、別にナナの食べ物の好みなんて全く全然これっぽっちも1ミリも知らないけど?」
「いや、そこは把握しておいてよ! 幼馴染なんだから!」
「え? 俺とお前って幼馴染だったのか?」
真顔でそう訊かれた。
「幼馴染じゃん! 家も近所で、幼稚園から中学校までずっと同じクラスで、担任の先生に『はーい、2人組作ってー』とか言われたときは必ずペアになり、朝も待ち合わせをして一緒に学校に行くほど仲いいじゃん!」
「たったそれだけのことで幼馴染だと定義してもいいのだろうか?」
「定義しとけや! そんなところから疑問を持ってたら話が進まないじゃないの!」
「幼馴染っていうのはさ、もっとこう、何と言うか……なぜか毎朝勝手に部屋に入ってきて起こしに来てくれたり、夜中にベランダ越しに話をしたり、頼んでもいないのになぜかお弁当を作ってきてくれたりする感じじゃないのか?」
「それはギャルゲーとかハーレムアニメに登場する幼馴染だ! 現実の幼馴染と一緒にするな!」
何で私が文彦なんかにお弁当を作ってあげないといけないのか、理解に苦しむ。
「それにしても、前から思ってたんだけど、ああいう幼馴染キャラって美少女だから許せるけど、年とってもあんな性格のままだったらかなりキツいよな」
「え、何で?」
「だってあいつら、絶対に夫を尻に敷くタイプじゃないか」
「確かに、外堀を埋めて付き合っていることを既成事実化しようとしているのに、絶対に自分からは告白しないことで優位に立とうとする誘い受けタイプだからね……って、そんなことはどうでもいいの! 話を逸らさないでよ!」
「はい、ノリツッコミいただきました」
文彦は嬉しそうに言った。
「いい加減にしないと、殴るよ?」
「前から思ってたんだけど、男が女を殴るのは許されないのに、女が男を殴るのは勇気ある行為だと見なされるのっておかしいよな」
「まあね。殴る相手や殴られる相手の性別に関係なく、暴力振るっちゃ駄目だよね。って、そんなこともどうでもいいから! 話を元に戻そうよ!」
「えーと、何の話してたんだっけ?」
「忘れんなや! プリンの話よ、プリンの話」
「そのことなんだけどさ、本当に憶えてないのか? 冗談じゃなくて」
文彦は急に真剣な表情になってそう尋ねた。
「え? 何を」
「ナナは、昔からプリン嫌いだったじゃないか」
さっきは私の食べ物の好みなんて全く全然これっぽっちも1ミリも知らないと言ったくせに、文彦は断定的な口調でそう言った。
「……文彦までそんなこと言うんだ」
私はどう反応していいのか分からなくなり、そう呟いた。何だか裏切られたような気分だった。
「どうやら、俺をからかってるわけじゃなさそうだな」
「私が文彦をからかってる? 文彦が私をからかってるんじゃなくて?」
「ああ。昨日のことも忘れちゃったのか?」
「昨日――」
何だろう。頭の奥がむず痒いような感覚がある。私は何かを忘れている。だが、その忘れている内容を思い出すことができなかった。
(後編へ続く)
すると、そこへやって来た母が驚いたような表情でこう訊いた。
「あれ? ナナ、何でプリンを食べてるの?」
「え? 食べちゃ駄目だった?」
「そうじゃなくって、あんた、プリン食べたっけ?」
その言葉に、私の方が驚いてしまった。
「え? いや、普通に食べるけど」
「そうだったかしら。確か、ナナはプリン嫌いだと思ってたんだけど……」
「そんなに好きってわけじゃないけど、嫌いでもないよ。英人と間違えてるんじゃないの?」
「ああ……そうかもしれないわね」
腑に落ちないような表情で、母は首を傾げながら台所を出て行った。
そこへ、今度は弟の英人がやって来た。
「姉ちゃん、何でプリン食べてるの?」
純粋に不思議そうな表情で、英人はそう尋ねた。
「いや、何でって、冷蔵庫に入ってたから。あ、これ英人のプリンだったの?」
「ううん。お母さんに頼んで買ってきてもらった奴だから、別に姉ちゃんが食べてもいいけど……。姉ちゃん、いつからプリン食べられるようになったの?」
この辺りで、私はさすがに気持ち悪くなってきた。母も英人も、からかっている様子はないし、こんなつまらない冗談は言わないタイプである。
もしかして、平行世界の別人と入れ替わってしまったのではないか――などと、突拍子もないことすら考えてしまった。
急いで朝ご飯を食べ、学校へ行く準備をし、いつもの交差点で幼馴染の入江文彦が来るのを待った。文彦の方が先に私に気付き、声をかけてきた。
「おはよう。ナナの方が先に来てるなんて珍しいな」
文彦は私と同じ中学3年生だ。別に待ち合わせる理由などないのだが、小学校の集団登校のときの癖が抜けずに、何となく一緒に登校している。帰りは別々だが。
「ああ……ちょっと、今朝は妙なことがあったから。家にいると頭がおかしくなりそうだったから、早めに出てきたの」
歩き出しながら、私はそう言った。
「ふうん。英人と喧嘩でもしたのか?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど……。ねえ、変なこと聞くけど、私ってプリン嫌いだったっけ?」
「え? いや、別にナナの食べ物の好みなんて全く全然これっぽっちも1ミリも知らないけど?」
「いや、そこは把握しておいてよ! 幼馴染なんだから!」
「え? 俺とお前って幼馴染だったのか?」
真顔でそう訊かれた。
「幼馴染じゃん! 家も近所で、幼稚園から中学校までずっと同じクラスで、担任の先生に『はーい、2人組作ってー』とか言われたときは必ずペアになり、朝も待ち合わせをして一緒に学校に行くほど仲いいじゃん!」
「たったそれだけのことで幼馴染だと定義してもいいのだろうか?」
「定義しとけや! そんなところから疑問を持ってたら話が進まないじゃないの!」
「幼馴染っていうのはさ、もっとこう、何と言うか……なぜか毎朝勝手に部屋に入ってきて起こしに来てくれたり、夜中にベランダ越しに話をしたり、頼んでもいないのになぜかお弁当を作ってきてくれたりする感じじゃないのか?」
「それはギャルゲーとかハーレムアニメに登場する幼馴染だ! 現実の幼馴染と一緒にするな!」
何で私が文彦なんかにお弁当を作ってあげないといけないのか、理解に苦しむ。
「それにしても、前から思ってたんだけど、ああいう幼馴染キャラって美少女だから許せるけど、年とってもあんな性格のままだったらかなりキツいよな」
「え、何で?」
「だってあいつら、絶対に夫を尻に敷くタイプじゃないか」
「確かに、外堀を埋めて付き合っていることを既成事実化しようとしているのに、絶対に自分からは告白しないことで優位に立とうとする誘い受けタイプだからね……って、そんなことはどうでもいいの! 話を逸らさないでよ!」
「はい、ノリツッコミいただきました」
文彦は嬉しそうに言った。
「いい加減にしないと、殴るよ?」
「前から思ってたんだけど、男が女を殴るのは許されないのに、女が男を殴るのは勇気ある行為だと見なされるのっておかしいよな」
「まあね。殴る相手や殴られる相手の性別に関係なく、暴力振るっちゃ駄目だよね。って、そんなこともどうでもいいから! 話を元に戻そうよ!」
「えーと、何の話してたんだっけ?」
「忘れんなや! プリンの話よ、プリンの話」
「そのことなんだけどさ、本当に憶えてないのか? 冗談じゃなくて」
文彦は急に真剣な表情になってそう尋ねた。
「え? 何を」
「ナナは、昔からプリン嫌いだったじゃないか」
さっきは私の食べ物の好みなんて全く全然これっぽっちも1ミリも知らないと言ったくせに、文彦は断定的な口調でそう言った。
「……文彦までそんなこと言うんだ」
私はどう反応していいのか分からなくなり、そう呟いた。何だか裏切られたような気分だった。
「どうやら、俺をからかってるわけじゃなさそうだな」
「私が文彦をからかってる? 文彦が私をからかってるんじゃなくて?」
「ああ。昨日のことも忘れちゃったのか?」
「昨日――」
何だろう。頭の奥がむず痒いような感覚がある。私は何かを忘れている。だが、その忘れている内容を思い出すことができなかった。
(後編へ続く)
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