迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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1章

第9話

 続けて受付嬢は、ギルドが冒険者に依頼するクエストについて話し始める。

 国が各領に冒険者ギルドを設置している理由は、領内で起こる様々な問題を解決させるためであり、何か問題が生じると、それはクエストという形でギルドに依頼が来ることになる。

 その内容は、実にさまざまであるらしい。
 依頼は、領民からのものが大半のようだが、貴族や領主からの依頼もあるようだ。

 ギルドは依頼主から受け取った依頼金を、仲介料を引いて預かり、冒険者がクエストを達成した時に報酬としてそれを支払っている。
 なお、冒険者がクエストを達成できなかった場合は、その報酬は受け取れないことになっている。

 高ランクの冒険者ほど、報酬の高いクエストを割り振られるが、その分、クエストの難易度は上がる。
 なお、Sランク冒険者のみ特殊で、他領のギルドからの依頼も受けることができるようになる、との話であった。



「Sランク冒険者になれば、他領のクエストも受注できるんですよね」

「はい。Sランク冒険者さんはそのギルドの顔ですから。そういうことも可能になります。ちなみにですが、Sランク以外の方が他領のクエストを受ける場合は、もう一度、その領のギルドで登録をしていただく必要があります」

「そうなんですか?」

「はい。冒険者さんの管理は各ギルドごとで行っています。その場合は、また一からのスタートということになりますね。ギルドへの貢献度もクエスト達成率も、白紙の状態となります。一応、前に登録していたギルドのランクは考慮されますが……。基本的には、Fランクからの再スタートと考えてもらって構いません」

 ということは、自分が最初に選ぶ冒険者ギルドが非常に重要という話になってくる。
 他領のギルドへ移ったら、最初からまたやり直しなのだ。
  
(なんとなく、この町のギルドに立ち寄っちゃったけど)

 本来なら、領の規模やクエストの傾向、ギルドとの相性など、いろいろと調べて見て回るべきなのだろうが、さすがにそんなことをしている時間も金銭的余裕もなかった。

 それにゼノは、マスクスの町に何かしらの運命めいたものを感じていた。
 先程はデジャヴと片付けてしまったが、この町に足を踏み入れた瞬間に抱いた身に覚えのある感覚は、どうしても拭い去ることができなかった。

(ここのギルドの規模はドミナリアよりも大きそうだし。もっといいギルドを探す方が逆に難しいかもしれない)

 そう思うと、ゼノの決意は固まった。

「……というわけですから。まずは、冒険者さんの意思を確認させてください。我々のギルドに登録するということで、本当によろしいですか?」

「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」

「分かりました。私は、ギルド職員のティナと申します。基本的には毎日受付にいますので、何かあれば声をかけてください」

「ありがとうございます」

「ではまず、この水晶板に冒険者さんの情報を入力してください」

 受付嬢――ティナから水晶板を受け取ると、ディスプレイ上で操作をしながら、情報を入力していく。
 その最中、ゼノはティナに声をかけられた。

「その真っ白な剣、珍しいですね。この町じゃ見たことないですよ。どこの武器屋で購入されたんですか?」

「いえ、これは剣としては使えないんですよ」

「? でも、あなたは……剣士ですよね?」

 ちょうどそのタイミングで入力が終わり、ゼノは水晶板をティナへ返却する。

「人族、15歳……ゼノ・ウィンザー……。えっ、ゼノ……?」

 水晶板に目を落としながら、ティナは眉をひそめる。

「はい。それに俺は剣士じゃなくて――」

 ゼノがそこまで言いかけたところで、突然、ティナの鋭い声が上がった。

「ちょっと待ってくださいっ! ま……魔導師っ!? あなた、これ本気で言ってるんですか……?」

 その瞬間、ティナの態度ががらりと変わった。

「私をからかってるんですか? 〝魔導師のゼノ〟だなんて」

「あ、いや……。それは、本当に俺の名前なんです。魔導師っていうのも本当で……」

「……」

 ティナはもう一度、水晶板に目を落とすと、あからさまに大きなため息をついた。
 嫌そうな態度が顔に出てしまっている。

「はぁ……。それで、貴族様がギルドになんの御用ですか? ここ、冒険者用の窓口なんですけど? 依頼の申請なら別で行っているのを知らないわけじゃないですよね?」

「あの、俺は冒険者として登録したくて、ここにやって来たんです」

「ひょっとして冷やかしですか?」

 まるで汚いものでも覗くような目で、ティナはゼノを一瞥する。
 軽蔑の眼差しをまるで隠そうとしない。

(魔導師が冒険者ギルドに来るのは、やっぱり珍しいことなんだ)

 突然の豹変ぶりに驚きつつも、ゼノは冷静に受け答えを続ける。

「もちろん、冷やかしなんかじゃないです。それに、俺はもう随分前に、貴族の身分ではなくなりました」

「だとしても、これまで親のすねをかじって、ぬくぬくと育ってきたわけですよね? お金には困ってないんじゃないですか? 冒険者になる必要ってあります?」

「今は、数日宿泊したら底を尽きるくらいのお金しか持ってません。あの……魔導師は冒険者に登録できないんでしょうか?」

 ティナにそう訊ねたところで、ゼノは後ろから強面の男に肩を掴まれる。

「おい! テメーさっきからティナさんに、何ごちゃごちゃイチャモンつけてんだ! あぁん!?」

 強靭な肉体を兼ね備えたその体躯は、見るからに強そうだ。
 所々に勲章のような傷も多く見受けられ、かなりの場数を踏んでいることが伺える。

「いや、俺は冒険者の登録をしに来ただけで……」

「コイツ、見ない顔だぜ。新参か?」
「どうせヒヨコのビギナーだろ」
「ティナさんにでかい顔するとはいい度胸だな!」

 強面の男の後ろには、パーティーのメンバーらしき者たちの姿があった。
 皆一様に、冷ややかな視線をゼノに送っている。

「あ、大丈夫ですよ、グリーさん。この人は、本当に冒険者登録をしにやって来ただけみたいですから」

「そうでしたかぁ? さっきからこのガギがごちゃごちゃとティナさんに、言いがかりをつけていた気がしたもので、ハハハッ!」

 強面の男――グリーは、ゼノの肩をがっしりと掴みながら、ティナに対してペコペコと頭を下げる。
 ずっと、このような振舞いが染み付いているというような態度だ。

「ちょっと確認してただけです。この人が自分を魔導師だって言い張るもので」

「魔導師……ですかぁ?」

 その時、グリーはギロリと鋭い眼光をゼノに向けた。

「でも、安心してください。魔導師の方でもちゃんと冒険者として登録できますから。あとは、こちらで処理しておきますね。魔導師のゼノさん」

「……ゼノ……? おい、テメーッ! ゼノって言うのか!?」

「うぅっ……い、痛いですっ……」

 ゼノは肩を思いっきり掴まれながら、グリーににじみ寄られる。

「魔導師でその名はゼノとは上等じゃねーか! んな忌まわしい名を付けた野郎が、うちの神聖なギルドに足を踏み入れて来るとはな!」

「魔導師が何しにやって来たんだぁ?」
「魔獣も倒せないクズに、冒険者が務まるはずがねーだろ!」
「ひっははっ! 違いねー! コイツら、ろくに攻撃することもできねぇじゃん!」

 仲間たちからもバカにされ、ゼノはグリーにそのまま突き飛ばされた。

 ドスン!

「っ……」

 その場で尻もちをついたゼノを、グリーが手を払いながら見下ろす。

「まぁいい。どうせ、テメーみたいな甘ちゃんに、クエストがこなせるわけがねーからな! あと、次にティナさんに何かイチャモンつけたらタダじゃおかねーから、覚えておけよ? それじゃ、ティナさん! 俺らは失礼しますんで」

「はい。またよろしくお願いしますね」

 グリーは仲間たちと共に、ゼノのことをあざ笑いながらその場を後にする。

「……というわけです。分かりました? べつにあなたが冒険者になるのは止めませんが、誰からも歓迎されていないってことは、よく肝に銘じておいてください」

「……そう、みたいですね」

 ゼノは黒いローブを払いながら立ち上がる。
 ある程度、覚悟していたことだったとはいえ、思いのほか魔導師に対する風当たりは強いようだ。

「ちなみに、今のゼノさんにご案内できるクエストはありませんから。また、後日にでもいらしてください」

「分かりました」

 事務的な笑顔を浮かべるティナに別れを告げると、ゼノはちょっとした失望感を抱いて冒険者ギルドを後にした。
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