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1章
第12話
そのまま休むことなく登り続けて1時間。
「……ふぅ。かなり登って来たな」
眼下に広がるファイフ領の平原を眺め、ゼノはひと息ついた。
「おっ! あれってもしかして……フォーゲラングの村かな?」
方角的に間違いない、とゼノは思った。
そして、そのさらに奥には、鬱蒼と生い茂ったシャトー密林が小さく見えた。
ふと、死神の大迷宮に今も囚われているエメラルドのことをゼノは思い出す。
「……お師匠様……」
ここ数日は地上の生活にも慣れて、迷宮での日々をゼノはすっかり忘れてしまっていた。
だが、眼下に広がる光景を見てゼノは思う。
(そうじゃない。あの迷宮も、この場所と繋がっているんだ)
自分が今、死神の大迷宮で過ごした日々の延長線上にいるということを改めて認識したゼノは、顔を叩いて気持ちを入れ直す。
「うっし! まだまだ先は長いんだから、ここでさらに気合いを入れてがんばるぞ!」
それからさらに、岩場を登っていくと……。
(?)
頭上から何か声が聞えることにゼノは気付いた。
(……まさか、魔獣の声……?)
それが分かった瞬間、緊張感が一気に駆け抜ける。
そして、これまで抱いていた違和感の正体にゼノは気付いた。
(やっぱり、魔獣がいるんだ!)
ただ山を登って草を採取するだけなら、冒険者にわざわざクエストを依頼したりなどはしない。
自力では達成できないからこそ、冒険者に依頼を出したのだ。
ホルスターから聖剣を抜き取ると、ゼノはいつでも攻撃魔法が撃てる状態のまま、ゆっくりと岩場を登っていく。
その後すぐに、魔獣以外の声も上から聞えてきた。
(……人の声? もしかして、戦ってるのか……?)
体勢を低くしたままさらに登っていくと、魔獣と戦闘を繰り広げる冒険者パーティーの姿が目に飛び込んでくる。
人影は全部で3つあった。
「くらえぇぇっーー! 〈旋風蹴り〉!」
「リャリャリャリャッ!?」
そのうちに1人である恰幅のいい女が〈体術〉を繰り出すと、岩系の魔獣であるレイバーロックは、断末魔を上げながら真っ二つに砕け散った。
「おっしゃ! これで50体目! 見たかよ、オレっちの強さを!」
レイバーロックがドロップした鉄鉱石を拾い上げると、彼女はガッツポーズをする。
「やりましたね。レイバーロック討伐のクエストは達成です」
「さすがッスよ! ジェシカさん!」
3人は円陣を組みながら、それぞれ喜びを分かち合っていた。
ゼノはホルスターに聖剣をしまいつつ、そんな光景を見て感動を覚える。
(すごいっ……。あれが、冒険者の実戦なんだ……)
そして、これまで魔獣に遭遇しなかった理由に気が付く。
(ひょっとして、あの人たちが先行して倒してくれていたのかな?)
だとすれば、お礼を伝えておくべきだろう。
そう思ったゼノは、3人のもとへ向かって登り始めた。
「案外楽勝だったな! リーディングホークも、このままオレっちが簡単に倒してやるから!」
「それでこそ、我らがリーダーのジェシカさんッス!」
「ワハハハッ! オレっちの手にかかればイチコロよ!」
「……ん?」
その時。
3人のうちの1人が、駆け登ってくるゼノの存在に気付く。
「どうしたぁ、ヨハン?」
「誰かこっちに向かって来ています」
「なにぃ?」
ゼノは手を振りながら、3人に挨拶をした。
「こんにちは。あなたたちが魔獣を倒してくれていたんですね。どうもありがとうございます」
「……はぁ? んだ、お前は」
女がゼノの前に仁王立ちで立ち塞がる。
背丈はゼノよりも大きい。
彼女が腕を組むと、鉛のように硬そうな上腕二頭筋がぴくっと動いた。
彼女は、武闘家の防具を自分なりにアレンジして着こなしているようで、その露出度は高い。
くせ毛が目立つ紫色のロングヘアを女が払うと、丸々と熟れた果実のような胸が大きく揺れた。
逆光で顔はよく見えなかったが、雰囲気からして30代半ばくらいだろう、とゼノは予想する。
その声からは警戒心が滲み出ていた。
「あ、違います。怪しい者じゃないです。俺も冒険者なんですよ」
「冒険者だぁ?」
ゼノは3人を見上げるようにして立ち止まると、自分の素性を明かした。
「ゼノ・ウィンザーって言います。マスクスの冒険者ギルドからクエストを受注して、この山までやって来たんです」
「ゼノ?」
その自己紹介に、真っ先に反応を示したのは、眼鏡をかけた痩せた男だ。
「あなた……ゼノって言うんですか?」
「んだぁ? コイツの名前がどーかしたか?」
「いえ。偉人と同じ名前だったもので……」
「偉人って誰ッス? オイラでも知ってる人ッスか?」
そう訊ねてきたのは、先程から忙しそうに汗を拭っている太った男だ。
どうやらパーティーのうちの2人は、大賢者ゼノの名前を知らないようであった。
「てか、待てよ。今はコイツの名前なんかどーでもいいんだ。お前、アレか? オレっちたちの手柄を横取りに来た盗人かぁ? 鉄鉱石なら渡さねーぞ! せっかく苦労して集めたんだ」
大柄な女は威圧するように、そのままゼノに迫る。
間近で見るとものすごい圧があり、思わずゼノは後退ってしまった。
「い、いえ……。俺は、この先の生育地にあるベリー草の採取に来ただけでして……」
「おぉっ~! べリー草ッスか! ベリー草の採取クエストとは羨ましい依頼ッスね!」
「ベリー草だぁ? んだそりゃ? コナー。お前、知ってんのかぁ?」
「食用の高級草ッスよ! あれ、本当に美味いッス!」
「コナーさん。ジェシカさんに内緒で、べリー草を持って帰ろうとしていましたよね?」
「ヨハン!? それは言わない約束ッスよぉぉっ~!?」
「はぁん……? んだか知らねーが、オレっちたちの邪魔をしに来たんじゃねーなら、べつにいいんだけどよ」
どうやら誤解は無事に解けたようだ。
大柄な女は、ゼノに向かって手を差し出してくる。
「オレっちの名前はジェシカだ。ラヴニカの冒険者ギルドに所属しているんだぞ」
「ジェシカさんですね。どうもです」
ゼノは差し出された手を握り返す。
がっしりとした非常に逞しい手だった。
「ついでに、オレっちの仲間も紹介しておく。こっちの賢そうな男がヨハンだ。パーティーの分析係を担当してもらってるんだ」
「初めまして、ゼノさん。ヨハンと申します」
「あ、はい」
「んで、見るからに食いしん坊のこいつはコナー。こう見えて、魔獣の探索をやらせたら右に出る者はいねーんだ」
「オイラはコナーって言うッスよ! ゼノさん、よろしくッス!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ちなみに、パーティー名は【狂悪の凱旋】だ。どうだぁ? かっこいいだろ~?」
「僕は、もっと頭の良さそうな名前がよかったのですが……」
「そうッスか? オイラは気に入ってるッスよ! 強そうでかっこいいッス!」
「まぁ、よかったら覚えておいてくれ。そんで、オレっちたちは全員格闘家なんだ。て言っても、オレっちがほとんど魔獣を倒してるんだけどな! ワハハハッ!」
鍛え抜かれた筋肉をムキムキと動かしながら、ジェシカは高笑いを浮かべる。
その言葉通り、パーティーで一番に体を張っているのは彼女なのだろう。
すると、ヨハンが何かに気付いたように声をかけてきた。
「ゼノさんは剣士ですか?」
「え?」
コナーもゼノが腰にぶら下げた聖剣を指さしながら話に加わってくる。
「その白い剣! かっこいいッスね!」
「あぁ……そうですね。ありがとうございます」
2人は特に疑問に思うことなく、ゼノの言葉を信じたようだ。
ゼノとしても本当のことを言おうか一瞬迷ったのだが、結局、自分が魔導師であることは伏せることにする。
昨日のような反応をされるのを避けたかったのだ。
それからひと通り挨拶も済むと、ゼノはジェシカから【狂悪の凱旋】がワイド山へ来ている理由を耳にする。
どうやら彼女たちは、2つのクエストを同時にこなすために、この山までやって来ているようだ。
「……んで、レイバーロックを50体討伐するっていうクエストは終わったんだ。あとは、山の頂上にいるボス魔獣リーディングホークを倒すだけで」
「えっ……この山って、ボス魔獣がいるんですか!?」
「そいつにやられて、命を落とした冒険者も結構いるみてーでさ。だから、ラヴニカのギルドに依頼が届いたってわけさ。オレっちたちも実際に戦ったわけじゃねーから、情報でしか知らねぇけどな!」
「なるほど……」
そんなこと、ティナは一言も口にしていなかったな、とゼノは思った。
(まぁでも、ボス魔獣がいるのは頂上って話だから。あえて言う必要もないって思ったのかな)
少しだけ疑問に感じるも、ゼノはすぐに気持ちを切り替える。
「けど、すごいですね。ボス魔獣とこれから戦おうとしてるなんて」
「そうかぁ? オレっちからすれば、こんなもんは朝飯前さ! ワッハハハ!」
「ちなみに、ジェシカさんたちの冒険者ランクはいくつなんですか?」
「僕とコナーさんはDランクですが、ジェシカさんはCランクです」
「Cランク!? すごい……っ!」
興奮のあまり、ゼノは思わずジェシカの手を取ってしまう。
「うぉっ!? な、なんだぁ……?」
「感動しました! 俺、そんな高ランクの冒険者の人に会うのは初めてで……」
これまで生きてきて、ゼノは冒険者と接する機会が少なかった。
そして、Cランク冒険者といえば、ベテランの部類に入る。
そんな現役のベテラン冒険者を前にして、ゼノの興奮は最高潮へと達していた。
「そーかぁ? ハハハッ! まぁ、こんな若い子にそんな風に言ってもらえると、悪い気はしないさ!」
「ちなみに、ゼノさんのランクはいくつッスか?」
「俺はFランクなんです。実は、クエストを受注したのも今回が初めてなんですよ」
「初めて?」
「はい。だから、実際に冒険者をやられている皆さんに出会えて感動しました」
「……」
ゼノが盛り上がりながらそんなことを言うと、ヨハンは唇に指を当てて不思議そうに首をひねる。
「……おかしいですね。Fランク冒険者に、ワイド山のクエストを依頼するようなことはないと思うんですけど」
「? そうなんですか?」
「少なくとも、うちのギルドじゃあり得ません。というより、マスクスからわざわざこの山まで向かわせるのなら、普通はもっと高いランクの冒険者に頼むはずですよ」
ワイド山から徒歩圏内のラヴニカとは異なり、マスクスは行き帰りにそれなりの時間を要する。
ヨハンが言っていることは最もであった。
「まぁ、いーじゃんか! こんな所で会ったのも何かの縁だ。よかったら、オレっちたちの後ろからついて来な!」
「そうッスね! この先にも危険な魔獣はいるッス。ジェシカさんがいれば心強いッスよ?」
「何があればオレっちが守ってやるっ! ワッハハハ!」
「では……すみません。お言葉に甘えて、途中まで同行させていただきます」
「おう、そうしなっ! ほらよ、ヨハンも行くぞ!」
「え? あ……はいはい。今行きます」
ヨハンだけは、最後までそのことが引っかかっているようだったが、それ以上はゼノに何か訊ねてくるようなことはなかった。
「……ふぅ。かなり登って来たな」
眼下に広がるファイフ領の平原を眺め、ゼノはひと息ついた。
「おっ! あれってもしかして……フォーゲラングの村かな?」
方角的に間違いない、とゼノは思った。
そして、そのさらに奥には、鬱蒼と生い茂ったシャトー密林が小さく見えた。
ふと、死神の大迷宮に今も囚われているエメラルドのことをゼノは思い出す。
「……お師匠様……」
ここ数日は地上の生活にも慣れて、迷宮での日々をゼノはすっかり忘れてしまっていた。
だが、眼下に広がる光景を見てゼノは思う。
(そうじゃない。あの迷宮も、この場所と繋がっているんだ)
自分が今、死神の大迷宮で過ごした日々の延長線上にいるということを改めて認識したゼノは、顔を叩いて気持ちを入れ直す。
「うっし! まだまだ先は長いんだから、ここでさらに気合いを入れてがんばるぞ!」
それからさらに、岩場を登っていくと……。
(?)
頭上から何か声が聞えることにゼノは気付いた。
(……まさか、魔獣の声……?)
それが分かった瞬間、緊張感が一気に駆け抜ける。
そして、これまで抱いていた違和感の正体にゼノは気付いた。
(やっぱり、魔獣がいるんだ!)
ただ山を登って草を採取するだけなら、冒険者にわざわざクエストを依頼したりなどはしない。
自力では達成できないからこそ、冒険者に依頼を出したのだ。
ホルスターから聖剣を抜き取ると、ゼノはいつでも攻撃魔法が撃てる状態のまま、ゆっくりと岩場を登っていく。
その後すぐに、魔獣以外の声も上から聞えてきた。
(……人の声? もしかして、戦ってるのか……?)
体勢を低くしたままさらに登っていくと、魔獣と戦闘を繰り広げる冒険者パーティーの姿が目に飛び込んでくる。
人影は全部で3つあった。
「くらえぇぇっーー! 〈旋風蹴り〉!」
「リャリャリャリャッ!?」
そのうちに1人である恰幅のいい女が〈体術〉を繰り出すと、岩系の魔獣であるレイバーロックは、断末魔を上げながら真っ二つに砕け散った。
「おっしゃ! これで50体目! 見たかよ、オレっちの強さを!」
レイバーロックがドロップした鉄鉱石を拾い上げると、彼女はガッツポーズをする。
「やりましたね。レイバーロック討伐のクエストは達成です」
「さすがッスよ! ジェシカさん!」
3人は円陣を組みながら、それぞれ喜びを分かち合っていた。
ゼノはホルスターに聖剣をしまいつつ、そんな光景を見て感動を覚える。
(すごいっ……。あれが、冒険者の実戦なんだ……)
そして、これまで魔獣に遭遇しなかった理由に気が付く。
(ひょっとして、あの人たちが先行して倒してくれていたのかな?)
だとすれば、お礼を伝えておくべきだろう。
そう思ったゼノは、3人のもとへ向かって登り始めた。
「案外楽勝だったな! リーディングホークも、このままオレっちが簡単に倒してやるから!」
「それでこそ、我らがリーダーのジェシカさんッス!」
「ワハハハッ! オレっちの手にかかればイチコロよ!」
「……ん?」
その時。
3人のうちの1人が、駆け登ってくるゼノの存在に気付く。
「どうしたぁ、ヨハン?」
「誰かこっちに向かって来ています」
「なにぃ?」
ゼノは手を振りながら、3人に挨拶をした。
「こんにちは。あなたたちが魔獣を倒してくれていたんですね。どうもありがとうございます」
「……はぁ? んだ、お前は」
女がゼノの前に仁王立ちで立ち塞がる。
背丈はゼノよりも大きい。
彼女が腕を組むと、鉛のように硬そうな上腕二頭筋がぴくっと動いた。
彼女は、武闘家の防具を自分なりにアレンジして着こなしているようで、その露出度は高い。
くせ毛が目立つ紫色のロングヘアを女が払うと、丸々と熟れた果実のような胸が大きく揺れた。
逆光で顔はよく見えなかったが、雰囲気からして30代半ばくらいだろう、とゼノは予想する。
その声からは警戒心が滲み出ていた。
「あ、違います。怪しい者じゃないです。俺も冒険者なんですよ」
「冒険者だぁ?」
ゼノは3人を見上げるようにして立ち止まると、自分の素性を明かした。
「ゼノ・ウィンザーって言います。マスクスの冒険者ギルドからクエストを受注して、この山までやって来たんです」
「ゼノ?」
その自己紹介に、真っ先に反応を示したのは、眼鏡をかけた痩せた男だ。
「あなた……ゼノって言うんですか?」
「んだぁ? コイツの名前がどーかしたか?」
「いえ。偉人と同じ名前だったもので……」
「偉人って誰ッス? オイラでも知ってる人ッスか?」
そう訊ねてきたのは、先程から忙しそうに汗を拭っている太った男だ。
どうやらパーティーのうちの2人は、大賢者ゼノの名前を知らないようであった。
「てか、待てよ。今はコイツの名前なんかどーでもいいんだ。お前、アレか? オレっちたちの手柄を横取りに来た盗人かぁ? 鉄鉱石なら渡さねーぞ! せっかく苦労して集めたんだ」
大柄な女は威圧するように、そのままゼノに迫る。
間近で見るとものすごい圧があり、思わずゼノは後退ってしまった。
「い、いえ……。俺は、この先の生育地にあるベリー草の採取に来ただけでして……」
「おぉっ~! べリー草ッスか! ベリー草の採取クエストとは羨ましい依頼ッスね!」
「ベリー草だぁ? んだそりゃ? コナー。お前、知ってんのかぁ?」
「食用の高級草ッスよ! あれ、本当に美味いッス!」
「コナーさん。ジェシカさんに内緒で、べリー草を持って帰ろうとしていましたよね?」
「ヨハン!? それは言わない約束ッスよぉぉっ~!?」
「はぁん……? んだか知らねーが、オレっちたちの邪魔をしに来たんじゃねーなら、べつにいいんだけどよ」
どうやら誤解は無事に解けたようだ。
大柄な女は、ゼノに向かって手を差し出してくる。
「オレっちの名前はジェシカだ。ラヴニカの冒険者ギルドに所属しているんだぞ」
「ジェシカさんですね。どうもです」
ゼノは差し出された手を握り返す。
がっしりとした非常に逞しい手だった。
「ついでに、オレっちの仲間も紹介しておく。こっちの賢そうな男がヨハンだ。パーティーの分析係を担当してもらってるんだ」
「初めまして、ゼノさん。ヨハンと申します」
「あ、はい」
「んで、見るからに食いしん坊のこいつはコナー。こう見えて、魔獣の探索をやらせたら右に出る者はいねーんだ」
「オイラはコナーって言うッスよ! ゼノさん、よろしくッス!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ちなみに、パーティー名は【狂悪の凱旋】だ。どうだぁ? かっこいいだろ~?」
「僕は、もっと頭の良さそうな名前がよかったのですが……」
「そうッスか? オイラは気に入ってるッスよ! 強そうでかっこいいッス!」
「まぁ、よかったら覚えておいてくれ。そんで、オレっちたちは全員格闘家なんだ。て言っても、オレっちがほとんど魔獣を倒してるんだけどな! ワハハハッ!」
鍛え抜かれた筋肉をムキムキと動かしながら、ジェシカは高笑いを浮かべる。
その言葉通り、パーティーで一番に体を張っているのは彼女なのだろう。
すると、ヨハンが何かに気付いたように声をかけてきた。
「ゼノさんは剣士ですか?」
「え?」
コナーもゼノが腰にぶら下げた聖剣を指さしながら話に加わってくる。
「その白い剣! かっこいいッスね!」
「あぁ……そうですね。ありがとうございます」
2人は特に疑問に思うことなく、ゼノの言葉を信じたようだ。
ゼノとしても本当のことを言おうか一瞬迷ったのだが、結局、自分が魔導師であることは伏せることにする。
昨日のような反応をされるのを避けたかったのだ。
それからひと通り挨拶も済むと、ゼノはジェシカから【狂悪の凱旋】がワイド山へ来ている理由を耳にする。
どうやら彼女たちは、2つのクエストを同時にこなすために、この山までやって来ているようだ。
「……んで、レイバーロックを50体討伐するっていうクエストは終わったんだ。あとは、山の頂上にいるボス魔獣リーディングホークを倒すだけで」
「えっ……この山って、ボス魔獣がいるんですか!?」
「そいつにやられて、命を落とした冒険者も結構いるみてーでさ。だから、ラヴニカのギルドに依頼が届いたってわけさ。オレっちたちも実際に戦ったわけじゃねーから、情報でしか知らねぇけどな!」
「なるほど……」
そんなこと、ティナは一言も口にしていなかったな、とゼノは思った。
(まぁでも、ボス魔獣がいるのは頂上って話だから。あえて言う必要もないって思ったのかな)
少しだけ疑問に感じるも、ゼノはすぐに気持ちを切り替える。
「けど、すごいですね。ボス魔獣とこれから戦おうとしてるなんて」
「そうかぁ? オレっちからすれば、こんなもんは朝飯前さ! ワッハハハ!」
「ちなみに、ジェシカさんたちの冒険者ランクはいくつなんですか?」
「僕とコナーさんはDランクですが、ジェシカさんはCランクです」
「Cランク!? すごい……っ!」
興奮のあまり、ゼノは思わずジェシカの手を取ってしまう。
「うぉっ!? な、なんだぁ……?」
「感動しました! 俺、そんな高ランクの冒険者の人に会うのは初めてで……」
これまで生きてきて、ゼノは冒険者と接する機会が少なかった。
そして、Cランク冒険者といえば、ベテランの部類に入る。
そんな現役のベテラン冒険者を前にして、ゼノの興奮は最高潮へと達していた。
「そーかぁ? ハハハッ! まぁ、こんな若い子にそんな風に言ってもらえると、悪い気はしないさ!」
「ちなみに、ゼノさんのランクはいくつッスか?」
「俺はFランクなんです。実は、クエストを受注したのも今回が初めてなんですよ」
「初めて?」
「はい。だから、実際に冒険者をやられている皆さんに出会えて感動しました」
「……」
ゼノが盛り上がりながらそんなことを言うと、ヨハンは唇に指を当てて不思議そうに首をひねる。
「……おかしいですね。Fランク冒険者に、ワイド山のクエストを依頼するようなことはないと思うんですけど」
「? そうなんですか?」
「少なくとも、うちのギルドじゃあり得ません。というより、マスクスからわざわざこの山まで向かわせるのなら、普通はもっと高いランクの冒険者に頼むはずですよ」
ワイド山から徒歩圏内のラヴニカとは異なり、マスクスは行き帰りにそれなりの時間を要する。
ヨハンが言っていることは最もであった。
「まぁ、いーじゃんか! こんな所で会ったのも何かの縁だ。よかったら、オレっちたちの後ろからついて来な!」
「そうッスね! この先にも危険な魔獣はいるッス。ジェシカさんがいれば心強いッスよ?」
「何があればオレっちが守ってやるっ! ワッハハハ!」
「では……すみません。お言葉に甘えて、途中まで同行させていただきます」
「おう、そうしなっ! ほらよ、ヨハンも行くぞ!」
「え? あ……はいはい。今行きます」
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夏見ナイ
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伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!