迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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1章

第14話

 湿った草木を踏みつけながら、無我夢中で登っていくと、徐々に山の頂が見えてくる。
 頂上付近からは再びゴツゴツの岩が登場し、でこぼこの岩道をゼノは急いで駆け登った。

 すると。
 逆光の中、大きな翼を広げた魔獣と対峙する者の背中が見えてくる。

「ジェシカさん!」

「……ッ、ゼノ!?」

 ゼノがそう叫ぶと、ジェシカが一瞬、首を振り向かせる。
 彼女の足元には、その場で倒れたコナーとヨハンの姿があった。

(な、なんで……!?)

 ジェシカを含め、3人の姿はボロボロだ。
 とてもシビアな攻撃を受けたことが容易に想像できるくらい、悲痛な現状がそこには広がっていた。

「なんで来た!? ここへは近付くなぁ! お前の敵う相手じゃないぞ!」

 ジェシカは背中でそう語りながら、山頂のボス魔獣リーディングホークに向き直る。

 敵は有翼系の魔獣で、死神の大迷宮に棲息しているウェアドレイクとその姿が似ていた。
 だが、明らかに異なるのはその巨大な体躯だ。

 ジェシカの2倍くらいはありそうな大きな翼を広げて、縄張りに踏み込んで来たことを激高するように、鋭い瞳をギラつかせている。

 全身は、輝かしい白色の毛皮で覆われ、鋭い長爪と獰猛な牙は、幾多の冒険者を沈めてきたことを誇っているようにゼノの目には映った。

「ドジャァアァァアッ!」

「ちっ……」

 威嚇をするようにリーディングホークが翼で突風を巻き起こすと、ジェシカはそれを素早く回避する。

「ドジャァァアァーーーッ!!」

「〈おぼろ三段〉!」

 続けて急降下しながら仕掛けてきた踵落としによる攻撃を、ジェシカは術式を放ってなんとか相殺させる。

 彼女は、コナーとヨハンの位置を気にしながら戦っているためか、これまでのような俊敏な動きは影を潜めていた。
 すべてが後手後手に回ってしまっていたのだ。

「〈旋風蹴り〉!」

「ドジャァアァァアッ~~!」

 飛び上がって入れた蹴りも、相手の大きな翼によって簡単に防がれてしまう。
 そのままリーディングホークは頭上へと舞い上がり、口を大きく開けて咆哮した。

 むき出しとなった2つの牙が、陽の光に反射して光った瞬間。
 ゼノは最悪の事態を直感した。

(マズいっ!)

 ジェシカもそれが分かったのか、振り返ってゼノに大声を上げる。

「ここから逃げろぉぉぉっーーー!!」

 これが爆音の正体だったのだ。
 リーディングホークは今まさに、全力の攻撃をこちらへ向かって撃ち込もうとしていた。

 ボロボロとなった3人の姿を見る限り、次に同じ攻撃を受けたら、ひとたまりもないのは明らかだ。
 それが分かっていて、このまま傍観していることはゼノにはできなかった。

「っ!」

 目にも留まらぬ早さで聖剣クレイモアを抜き取ると、ゼノはほとんど無意識のうちに魔導袋の中から魔石を取り出してセットしていた。

「ドジャァッ……」

 リーディングホークが体を反らして、口から衝撃波を吐き出そうとした、まさにその瞬間。

「《氷焉の斬鉄アイスジャベリン》」

 ゼノは、聖剣を振り払いながら、そう詠唱することに成功する。
 
 シュズゥゥゥゥーーーーーン!!

 すると、鋭く氷結した槍が一斉にリーディングホークへと向かって放たれた。

「ドジャァアァァアッ~~!?」

 氷槍はすべて直撃し、リーディングホークは悲鳴を上げながら、体勢を崩してその場へと落下する。

 ドッスン!!

 ものすごい音と共に、岩場が大きく揺れ動いた。

「……ゼノ……!? お前っ、何を……!」

 目の前で繰り広げられた信じられない光景を見て、ジェシカが唖然と言葉を漏らす。
 
 だが、ゼノはその場に墜落した敵から一切目を離さなかった。
 この攻撃魔法だけで、倒れるような相手ではないと分かっていたからだ。

 すぐさま魔導袋から次の魔石を取り出すと、それを聖剣クレイモアにはめ込む。

「これでトドメにする……」

 両手でグリップを握り締め、剣身ブレイドを自身の前で垂直に立てると、光を帯びた聖剣に願いを込めた。
 そして、そのまま剣を高く掲げると、魔法名を詠唱しながらそれを力の限り振り下ろす。

「《怒号の火球マグマボール》!」

 ――その刹那。

 ギュゴゴゴゴゴゴゴーーーーンッ!!

 燃え盛る巨大な火の球が、大きな唸りを上げながら一直線に放たれる。

「ドジャァァアァドジャァッ~~!?」

 それはそのまま白い巨体にぶち当たり、リーディングホークはあっという間に、業火の中で焼き尽くされるのであった。



 ◆



 すべてが終わった後。
 ゼノはポーションを使って3人の治療を素早く行った。
 
 その甲斐もあって、コナーとヨハンが大事に至るようなこともなく、どうにか自力で起き上がれるまでに回復する。

「ゼノさん、どうもッス……」

「……すみません。ありがとう、ございます……」

 ジェシカと共にコナーとヨハンを近くの岩場に座らせると、ゼノはようやく安堵のため息を漏らした。

「よかったです。皆さんがご無事で」

「まさか、ゼノさんに助けてもらうことになるなんて、思ってなかったッスよ……」

「あぁ、そーだなぁ……。オレっちも、この山のボス魔獣を甘く見てた」

「それを言ったら、敵の戦力を見誤った僕の責任です……。ごめんなさい、ジェシカさん」

「なぁに、ヨハンが謝ることじゃないさ。にしても……」

 そこまで口にすると、ジェシカは笑顔でゼノの肩をドンと叩く。

「ゼノ! お前って、実はすげぇーヤツだったんだなぁ! オレっちよりも全然強いじゃんか!」

「いや、そんなことはないんです。俺は、ここまで楽に来させてもらって、まだ体力が余ってましたから。ジェシカさんたちは、頂上へ着くまでの間に、たくさんの魔獣と戦ってきたわけですし」

「んなことねーって! お前がすごいんだよぉ! オレっちなんか、コイツに全然歯が立たなかったからさ」

 そう言ってジェシカは、黒焦げとなったリーディングホークを指さす。

「あっ、そうだ。これを渡すのを忘れるところでした」

 ゼノは魔導袋の中から金色の小さな卵を取り出す。

「これは……」

「はい。リーディングホークがドロップした物です。ジェシカさんたち、これが必要ですよね?」

 このアイテムがあれば、ちゃんとリーディングホークを倒したという証になる。

「……け、けどよ! オレっちたちがコイツを倒したわけじゃねーから。さすがに、これは受け取れねぇって!」

「ですけど、俺がこの卵を持っていても意味はないですから。それに、ここまでいろいろと助けてもらったお礼ができればなと思ってたんです。お役に立てていただけると、俺も嬉しいので」

「そぉーか? ワハハハッ! なら悪いな、ゼノ! あんがとよ、これは受け取っておくぞ!」

 一瞬謙遜するも、ジェシカはすぐに金の卵をゼノから受け取る。
 
「さすが、ジェシカさんッスよ……。遠慮がないッス」

「だってよ、ゼノがこう言ってるんだしな! 好意を無下にするわけにはいかねーだろぉ?」

「ゼノさん、感謝いたします。あなたがいてくれて助かりました」

「オイラも感謝を伝えるッス! どうもありがとうッスよ! ゼノさん!」

「そんな、お礼だなんてやめてください。皆さんがご無事で、俺も本当に嬉しいんですから」

 それは、心からの本音だった。
 【狂悪の凱旋トライアンフキラー】の3人の役に立てたことが、ゼノとしては何よりも嬉しかったのだ。

 どこか達成感のようなものを抱きつつ、ゼノは彼女らと互いの健闘を称え合う。



 その後、話はゼノが使用した魔法について及んだ。

「でも、なんだったんだぁ? あの、ドガドガドガーって攻撃はよ。術式には見えなかったぞ?」

「はい。あれは……魔法なんです」

「……やっぱり、そーか。その剣、普通の剣じゃねーって、オレっちは気付いてたんだ」

「ごめんなさい。黙っていて」

「えっ? ちょっと待ってください。ゼノさんは魔導師だったんですか……?」

「そーみてぇだな。オレっちも魔法は専門外だけどよ。でも、これだけは分かった。ゼノが見たことのない魔法を使ってたってな」

「見たことのない魔法ッスか?」

「そりゃぁ、もうすごかったぞぉ! ガガガガッドドドドッってな具合に、ドンパチドンパチ光ってたな!」

 コナーとヨハンは気を失っていたため、ゼノの攻撃魔法は見ていなかったようだ。
 2人はジェシカの話に興味津々だ。

「それで……本当なんですか?」

「そうですね。ジェシカさんの言ってることは正しいです。俺は、わけあって……未発見魔法を扱えるんです」

「!!」

 点と点が線で繋がったように、ヨハンは納得した表情を浮かべる。
 そして、どこか確信をもってこう口にした。

「……だから〝ゼノ〟なんですね?」

「さすが、ヨハンさんですね。お察しの通り、俺の名前は大賢者様に由来します」

「大賢者様って……あの人魔大戦の英雄だっけかぁ? ゼノなんて名前だったかぁ?」

「オイラも覚えてないッスよ」

「はぁ……。ジェシカさんとコナーさんはもっと勉強してください。常識ですよ……」

 ヨハンは眼鏡の縁を上げながらため息をつく。

「でも、納得しました。あなたがゼノって名乗った時から、なんとなくそんな予感があったんです。何か只者じゃない雰囲気があったというか……。けどまさか、未発見の魔法が扱えるとは思ってませんでした。正直言って信じられません」

「おうっ! オレっちも最初から気付いてたぞぉ! ゼノは、本当はすっげぇーヤツだって!」

「ジェシカさんのそれは嘘ッスね」

「おい~コナーぁ! 余計な事言うんじゃねぇっ!」

 ポカッ!

「い、痛ぃッス!? こっちは病人なんッスよぉ!?」

「あははっ」

「ゼノさんも笑ってないで、助けてくださいッス~~!」

 彼女たちと関係が築けた今、ゼノにとってここは、とても居心地のよい空間となっていた。

 が。

 すぐに、あまり時間がないことに気付く。
 
 別れの瞬間は、あっという間に訪れた。
 
「……それじゃ、申し訳ないですけど。俺は先に山を降ります。日没までにマスクスへ帰らないといけないので」

「そぉーなのか? 分かったっ! オレっちたちはあと少しだけ、体を休めてから下山するさ。ゼノ! いろいろとありがとな!」

「はい。こちらこそ、お世話になりました」

「ゼノさんなら、すぐにマスクスで一番の冒険者になるッスよ! オイラが保証するッス!」

「さすがに……それは大げさですよ」

「いえ、コナーさんの言うこともあながち間違いじゃないかもしれません。未発見魔法を扱う魔導師……。ゼノさんはいずれ、マスクスどころか、アスター王国を代表するような冒険者になる気がしますね。これからもがんばってください」

「俺も【狂悪の凱旋トライアンフキラー】の皆さんの活躍を影ながら祈ってます」

 ヨハンが差し出してきた手を、ゼノはしっかりと握り返す。

 それ以上、言葉を交わさなくても分かり合えるような、そんな信頼感で満ちた空気が4人の間には流れていた。
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