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2章
第6話
グリューゲル修道院は、広大な畑の真ん中に、己の存在を主張するように、でかでかと建てられていた。
年季の入ったその外観から推測するに、建造されたのは聖マリアが死没してすぐの頃だったのかもしれないと、ゼノはなんとなくそんなことを思った。
修道院の敷地へ足を踏み入れると、シスターたちはちょうど農園で労働の最中だった。
本館へと続く坂を登りながら、それを物珍しそうにゼノは眺める。
「シスターは1日ずっと祈ってるわけじゃないんですよ。こうして働いて、自給自足をしながら生活しているんです」
「そうなのか」
世の中にはまだ知らないことがたくさんある、とゼノは感心する。
外壁の前に設置された門を潜り抜け、中庭を通り過ぎながら、さらに本館を目指して歩いていると、前方からハーフエルフの女性が歩いてくる。
「……っ!? あ、貴女っ……」
「お久しぶりです。ポーラ院長」
ゼノとモニカの前に立つのは、グリューゲル修道院の院長、ポーラであった。
(この人が院長?)
実際に、ハーフエルフを見るのは、ゼノは初めてのことだった。
知的そうな黒髪の短髪の間からは、少しだけとがった耳が突き出ている。
彼女は、肌を露出させない厚手のシスター服を着ているが、痩せていてスタイルもいいため、だぼっとした印象を受けることはない。
ポーラは、背筋をスラッと正したまま、切れ目で2人をきつく睨みつけた。
「……なぜ、貴女がここにいるのですか? 貴女は、我が修道院から追放したはずです」
「分かっております。今日は、お願いがあってお伺いしたんです」
「お願い……ですって?」
そう口にしながら、ポーラはゼノを一瞥する。
「この者は?」
「彼は、冒険者様です。一緒にお話を聞いてほしくてついて来てもらいました」
「……フン。用心棒をつけて来るとは、なかなかに生意気な小娘ですね」
ポーラはゼノの全身を舐め回すように眺めた後、こう口にする。
「まぁ、いいでしょう。マリア様は客人に対しても寛大です。ひとまず、話とやらを聞きましょう」
踵を返すと、ポーラは2人を本館の応接間へと案内した。
◆
「それで? 用件は、どういったものですか?」
真っ白なテーブルに向かい合うようにして座ると、ポーラがそのように問うてくる。
「はい。わたしが修道院を追い出されてから、明日でちょうど1年になります。それで……その間、各土地を巡って来たのですが、今のわたしの力ではすべての人を癒せないということに気付きました」
「それはそうでしょう。貴女は〈ヒーリング〉しか使えないのですから」
その言葉に、ゼノは少し引っかかりを覚えた。
一生、モニカは〈ヒーリング〉しか使えないと、達観しているような物言いだったからだ。
「ですが……それでは、聖女としての務めを果たせません」
「聖女? フン、笑わせないでください。我が修道院を追い出された貴女に、聖女を名乗る資格などありません。貴女はマリア様の御心に背いたのです。それくらい……当然の罰です。一生、その罪を背負って生きていきなさい」
「ですから、わたしはマリア様の像を壊したりなどしていません。1年前も同じことをお伝えしました。あれは、まったくの濡れ衣なんです。ポーラ院長は……わたしがマリア様の像を壊した瞬間を直接見たのですか?」
「はい? どういう意味でしょう? 貴女以外に、それを行った者が我が修道院にいるとでも?」
「それは……」
「濡れ衣だと主張するのなら、犯人を名指ししなさい! それができないのなら、立派な口は叩かないでください」
「っ……」
ギュッと拳を握り締め、うなだれるモニカの姿を、ゼノは黙って見つめる。
傍にいてもらえるだけで十分と言われていたため、ここで口出しするのは違うと思ったのだ。
「もうよろしいですか? そろそろ、晩課の準備を始めたいので。用件が済んだのでしたら、出て行ってください」
「違うんです……。わたしは……」
なおも訴えかけるモニカに、ポーラが追い打ちをかける。
「……貴女みたいな薄汚い孤児が、マリア様の代名詞でもある聖女を名乗るなど、おこがましいにもほどがあります」
(えっ……孤児?)
ハッとしてゼノはモニカへ目を向けるも、彼女はまだうな垂れたままだった。
「前院長も浅はかなことをしたものです。最大の汚点ですよ。どこの馬の骨だか分からない汚らわしい娘を、この神聖な修道院へ招くなどと……出来損ないなんですよ、貴女は」
(!)
その言葉を耳にした瞬間。
かつて、父ウガンに言われた言葉がゼノの脳裏に甦る。
〝この出来損ないの欠陥品が!〟
気持ちを抑えることができず、ゼノはつい勢いに任せて口を出してしまった。
「……あの、言い過ぎじゃないですか?」
「はい? というより、さっきから貴方何なんですか? この修道院に男を連れてやって来るなどと、モニカさん。貴女、恥知らずもいいところですよ。よくそれで聖女が名乗れたものですね」
「俺は、ただモニカの付き添いで来ただけです」
「護衛役というわけでしょう? 卑怯な真似を……。剣を持っているということは、貴方剣士ですか?」
「いえ。俺は魔導師です」
「……っ! 魔導師……?」
その瞬間、ポーラの顔つきが一変する。
また、これまでに見せなかった激しい動揺を覗かせた。
彼女はテーブルから立ち上がると、ゼノを指さしながら大声を張り上げる。
「魔導師が我が修道院に足を踏み入れるなどと言語道断! 今すぐここから出て行きなさい! 二度とここへは近付かないでッ!」
「っ」
ものすごい剣幕で怒鳴りつけるポーラを見て、ゼノも思わず後退ってしまう。
「……ゼノさん。行きましょう」
「えっ? けど……」
結局、ゼノはモニカに強引に手を取られる形で応接間を後にするのだった。
◆
カラン、カラン……カラン、カラン。
中庭まで出ると、ちょうどそのタイミングで鐘が鳴る。
どうやら正午を報せる鐘のようで、午前の日課を終えたシスターたちが、本館へと向かって歩いて来た。
そのすれ違いざま。
シスターのうちの1人が、モニカの姿に気付いてしまう。
「……え? 嘘っ……。貴女、もしかしてモニカさん……?」
「……っ。こ、こんにちは……」
「やだぁ、本当だわ! しかも、男の人と一緒にいる……」
「ここを出たからって、男を作ってたのよ。なんて汚らわしいの」
「この子、マリア様の像を故意に破壊して追放されたんでしょ?」
モニカを前に、シスターたちは好き放題彼女に向かって言う。
「……」
それを聞いて、モニカは縮こまってしまった。
「モニカ?」
ゼノがそう訊ねても、彼女は固まってしまったまま反応しない。
その体は微かに震えていた。
「よく平気な顔でここまで来られたわね。恥ずかしくないのかしら?」
「この子、孤児ですから。私たちと同じ感覚は持ち合わせていないのよ、きっと」
「嫌だわ。これみよがしに、自分の男と一緒に訪ねて来たんだわ」
「あの……。そんな言い方、彼女に失礼だと思います。やめていただけませんか?」
ゼノがそう声をかけても、シスターたちはそれを無視して、さらに口汚くモニカを罵り続けた。
仕方がないので、ゼノは魔導袋の中から《肉声潰し》の魔石を取り出すと、それを聖剣クレイモアの鍔にはめて詠唱する。
すると。
「――!? ……――!」
「――……!」
「……? ――! ――!?」
突然、シスターたちの声は出なくなった。
「ゼ、ゼノさん……? 一体何を……」
「大丈夫。一時的なものだから。行こう」
そのままゼノは、モニカの手を引いてグリューゲル修道院を後にした。
◆
それから。
ゼノとモニカは、無言のまま長いこと田園地帯を歩いていた。
昼過ぎには、グリューゲル修道院を出たのに、辺りはすでにオレンジ色に染まり始めている。
そこで、ようやくゼノは口を開いた。
「そろそろ半分過ぎたかな。この調子だと、マスクスに着くのは夜になるかもな~」
「……」
「でも、モニカが聖水を持っていてくれて助かったよ。これで、幻獣に襲われる心配はないし」
「……」
「あ、あのさ……。帰ったら、おいしい夕食を俺がご馳走するよ! それで……」
モニカは、そこでぴたっと立ち止まる。
そして、ゼノに目を向けると、深々と頭を下げた。
「ゼノさん、今日は本当にありがとうございました。わたしの依頼はこれでおしまいです。今回の報酬、どうぞ受け取ってください」
そう言って、モニカは金貨を1枚差し出してくる。
「……え? いや、受け取れないよ」
「大丈夫ですよ? 今回は、依頼主から直接報酬を手渡すって、ティナさんの許可は貰いましたから」
「そういうことじゃないんだが」
「? なんでですか? もしかして、報酬が少なかったですか?」
ゼノは首を横に振る。
そして、どこか気丈に振舞うモニカに目を向けた。
「だって、俺は何もしていないから。結局、誤解もまだ解けてないだろ?」
「……」
言ってから、ゼノはしまった……と思った。
その言葉に、モニカも一度顔を俯けてしまう。
が。
すぐに顔を上げると、パッと笑顔を作った。
「ついて来てくれただけで、わたしは嬉しかったです。だから、受け取ってください♪」
「お、おい……」
モニカは、無理矢理ゼノに金貨を渡す。
「ゼノさんは、このまま帰ってください。わたし、知ってますよぉ? ゼノさん、《疾走》の魔法でびゅーって、すぐにでもマスクスまで帰れちゃいますよね?」
「え……。なんでそんなこと知ってるんだ?」
「だって、未発見魔法なんてものが扱えるんですから。当然、発見済みの魔法も扱えるって、そう思っただけです。深い意味はありません」
「けど……。そんなことしたら、モニカが一緒に帰れないだろ?」
「わたしは大丈夫です。もう一度、グリューゲル修道院に戻りますから。それでは……。今日はありがとうございました!」
お辞儀をすると、モニカはそのまま来た道を戻り始めてしまう。
だが、ゼノはすぐに彼女の手を掴んだ。
「な、なんですか?」
「今から戻っても、グリューゲル修道院に着く頃には、多分閉まってるよ」
「……」
「今日はここで野宿して、明日もう一度行こう」
「え?」
「俺もついて行く。修道院を出てから、ずっと気になってたんだ」
本当にこれで良かったのか?
そんなことを思いながら、ゼノはここまで歩いていた。
「やっぱり、まだ依頼は達成できていないから。だから、これも返しておくよ」
ゼノは金貨を1枚差し出す。
「すべてが終わった後で、改めて渡してほしい」
金貨にじっと目を落としながら、モニカはやがてため息をついた。
「……はぁ。リチャードさんが言ってた通りですね」
「リチャードさん?」
「どれだけイケメンなんですか、貴方は」
「へ?」
ゼノが首をかしげていると、モニカはすぅーと息を吸い込んでからこう口にした。
「分かりました。たしかに、ゼノさんの言う通りです。まだ、わたしの目的は達成されていません。随分と戻って来ちゃいましたけど……。もう一度、わたしに付き合ってくれますか?」
「ああ。もちろんだ」
ゼノの言葉を聞いて、モニカは嬉しそうに笑みをこぼす。
今度のそれは、彼女の心からの笑顔であった。
年季の入ったその外観から推測するに、建造されたのは聖マリアが死没してすぐの頃だったのかもしれないと、ゼノはなんとなくそんなことを思った。
修道院の敷地へ足を踏み入れると、シスターたちはちょうど農園で労働の最中だった。
本館へと続く坂を登りながら、それを物珍しそうにゼノは眺める。
「シスターは1日ずっと祈ってるわけじゃないんですよ。こうして働いて、自給自足をしながら生活しているんです」
「そうなのか」
世の中にはまだ知らないことがたくさんある、とゼノは感心する。
外壁の前に設置された門を潜り抜け、中庭を通り過ぎながら、さらに本館を目指して歩いていると、前方からハーフエルフの女性が歩いてくる。
「……っ!? あ、貴女っ……」
「お久しぶりです。ポーラ院長」
ゼノとモニカの前に立つのは、グリューゲル修道院の院長、ポーラであった。
(この人が院長?)
実際に、ハーフエルフを見るのは、ゼノは初めてのことだった。
知的そうな黒髪の短髪の間からは、少しだけとがった耳が突き出ている。
彼女は、肌を露出させない厚手のシスター服を着ているが、痩せていてスタイルもいいため、だぼっとした印象を受けることはない。
ポーラは、背筋をスラッと正したまま、切れ目で2人をきつく睨みつけた。
「……なぜ、貴女がここにいるのですか? 貴女は、我が修道院から追放したはずです」
「分かっております。今日は、お願いがあってお伺いしたんです」
「お願い……ですって?」
そう口にしながら、ポーラはゼノを一瞥する。
「この者は?」
「彼は、冒険者様です。一緒にお話を聞いてほしくてついて来てもらいました」
「……フン。用心棒をつけて来るとは、なかなかに生意気な小娘ですね」
ポーラはゼノの全身を舐め回すように眺めた後、こう口にする。
「まぁ、いいでしょう。マリア様は客人に対しても寛大です。ひとまず、話とやらを聞きましょう」
踵を返すと、ポーラは2人を本館の応接間へと案内した。
◆
「それで? 用件は、どういったものですか?」
真っ白なテーブルに向かい合うようにして座ると、ポーラがそのように問うてくる。
「はい。わたしが修道院を追い出されてから、明日でちょうど1年になります。それで……その間、各土地を巡って来たのですが、今のわたしの力ではすべての人を癒せないということに気付きました」
「それはそうでしょう。貴女は〈ヒーリング〉しか使えないのですから」
その言葉に、ゼノは少し引っかかりを覚えた。
一生、モニカは〈ヒーリング〉しか使えないと、達観しているような物言いだったからだ。
「ですが……それでは、聖女としての務めを果たせません」
「聖女? フン、笑わせないでください。我が修道院を追い出された貴女に、聖女を名乗る資格などありません。貴女はマリア様の御心に背いたのです。それくらい……当然の罰です。一生、その罪を背負って生きていきなさい」
「ですから、わたしはマリア様の像を壊したりなどしていません。1年前も同じことをお伝えしました。あれは、まったくの濡れ衣なんです。ポーラ院長は……わたしがマリア様の像を壊した瞬間を直接見たのですか?」
「はい? どういう意味でしょう? 貴女以外に、それを行った者が我が修道院にいるとでも?」
「それは……」
「濡れ衣だと主張するのなら、犯人を名指ししなさい! それができないのなら、立派な口は叩かないでください」
「っ……」
ギュッと拳を握り締め、うなだれるモニカの姿を、ゼノは黙って見つめる。
傍にいてもらえるだけで十分と言われていたため、ここで口出しするのは違うと思ったのだ。
「もうよろしいですか? そろそろ、晩課の準備を始めたいので。用件が済んだのでしたら、出て行ってください」
「違うんです……。わたしは……」
なおも訴えかけるモニカに、ポーラが追い打ちをかける。
「……貴女みたいな薄汚い孤児が、マリア様の代名詞でもある聖女を名乗るなど、おこがましいにもほどがあります」
(えっ……孤児?)
ハッとしてゼノはモニカへ目を向けるも、彼女はまだうな垂れたままだった。
「前院長も浅はかなことをしたものです。最大の汚点ですよ。どこの馬の骨だか分からない汚らわしい娘を、この神聖な修道院へ招くなどと……出来損ないなんですよ、貴女は」
(!)
その言葉を耳にした瞬間。
かつて、父ウガンに言われた言葉がゼノの脳裏に甦る。
〝この出来損ないの欠陥品が!〟
気持ちを抑えることができず、ゼノはつい勢いに任せて口を出してしまった。
「……あの、言い過ぎじゃないですか?」
「はい? というより、さっきから貴方何なんですか? この修道院に男を連れてやって来るなどと、モニカさん。貴女、恥知らずもいいところですよ。よくそれで聖女が名乗れたものですね」
「俺は、ただモニカの付き添いで来ただけです」
「護衛役というわけでしょう? 卑怯な真似を……。剣を持っているということは、貴方剣士ですか?」
「いえ。俺は魔導師です」
「……っ! 魔導師……?」
その瞬間、ポーラの顔つきが一変する。
また、これまでに見せなかった激しい動揺を覗かせた。
彼女はテーブルから立ち上がると、ゼノを指さしながら大声を張り上げる。
「魔導師が我が修道院に足を踏み入れるなどと言語道断! 今すぐここから出て行きなさい! 二度とここへは近付かないでッ!」
「っ」
ものすごい剣幕で怒鳴りつけるポーラを見て、ゼノも思わず後退ってしまう。
「……ゼノさん。行きましょう」
「えっ? けど……」
結局、ゼノはモニカに強引に手を取られる形で応接間を後にするのだった。
◆
カラン、カラン……カラン、カラン。
中庭まで出ると、ちょうどそのタイミングで鐘が鳴る。
どうやら正午を報せる鐘のようで、午前の日課を終えたシスターたちが、本館へと向かって歩いて来た。
そのすれ違いざま。
シスターのうちの1人が、モニカの姿に気付いてしまう。
「……え? 嘘っ……。貴女、もしかしてモニカさん……?」
「……っ。こ、こんにちは……」
「やだぁ、本当だわ! しかも、男の人と一緒にいる……」
「ここを出たからって、男を作ってたのよ。なんて汚らわしいの」
「この子、マリア様の像を故意に破壊して追放されたんでしょ?」
モニカを前に、シスターたちは好き放題彼女に向かって言う。
「……」
それを聞いて、モニカは縮こまってしまった。
「モニカ?」
ゼノがそう訊ねても、彼女は固まってしまったまま反応しない。
その体は微かに震えていた。
「よく平気な顔でここまで来られたわね。恥ずかしくないのかしら?」
「この子、孤児ですから。私たちと同じ感覚は持ち合わせていないのよ、きっと」
「嫌だわ。これみよがしに、自分の男と一緒に訪ねて来たんだわ」
「あの……。そんな言い方、彼女に失礼だと思います。やめていただけませんか?」
ゼノがそう声をかけても、シスターたちはそれを無視して、さらに口汚くモニカを罵り続けた。
仕方がないので、ゼノは魔導袋の中から《肉声潰し》の魔石を取り出すと、それを聖剣クレイモアの鍔にはめて詠唱する。
すると。
「――!? ……――!」
「――……!」
「……? ――! ――!?」
突然、シスターたちの声は出なくなった。
「ゼ、ゼノさん……? 一体何を……」
「大丈夫。一時的なものだから。行こう」
そのままゼノは、モニカの手を引いてグリューゲル修道院を後にした。
◆
それから。
ゼノとモニカは、無言のまま長いこと田園地帯を歩いていた。
昼過ぎには、グリューゲル修道院を出たのに、辺りはすでにオレンジ色に染まり始めている。
そこで、ようやくゼノは口を開いた。
「そろそろ半分過ぎたかな。この調子だと、マスクスに着くのは夜になるかもな~」
「……」
「でも、モニカが聖水を持っていてくれて助かったよ。これで、幻獣に襲われる心配はないし」
「……」
「あ、あのさ……。帰ったら、おいしい夕食を俺がご馳走するよ! それで……」
モニカは、そこでぴたっと立ち止まる。
そして、ゼノに目を向けると、深々と頭を下げた。
「ゼノさん、今日は本当にありがとうございました。わたしの依頼はこれでおしまいです。今回の報酬、どうぞ受け取ってください」
そう言って、モニカは金貨を1枚差し出してくる。
「……え? いや、受け取れないよ」
「大丈夫ですよ? 今回は、依頼主から直接報酬を手渡すって、ティナさんの許可は貰いましたから」
「そういうことじゃないんだが」
「? なんでですか? もしかして、報酬が少なかったですか?」
ゼノは首を横に振る。
そして、どこか気丈に振舞うモニカに目を向けた。
「だって、俺は何もしていないから。結局、誤解もまだ解けてないだろ?」
「……」
言ってから、ゼノはしまった……と思った。
その言葉に、モニカも一度顔を俯けてしまう。
が。
すぐに顔を上げると、パッと笑顔を作った。
「ついて来てくれただけで、わたしは嬉しかったです。だから、受け取ってください♪」
「お、おい……」
モニカは、無理矢理ゼノに金貨を渡す。
「ゼノさんは、このまま帰ってください。わたし、知ってますよぉ? ゼノさん、《疾走》の魔法でびゅーって、すぐにでもマスクスまで帰れちゃいますよね?」
「え……。なんでそんなこと知ってるんだ?」
「だって、未発見魔法なんてものが扱えるんですから。当然、発見済みの魔法も扱えるって、そう思っただけです。深い意味はありません」
「けど……。そんなことしたら、モニカが一緒に帰れないだろ?」
「わたしは大丈夫です。もう一度、グリューゲル修道院に戻りますから。それでは……。今日はありがとうございました!」
お辞儀をすると、モニカはそのまま来た道を戻り始めてしまう。
だが、ゼノはすぐに彼女の手を掴んだ。
「な、なんですか?」
「今から戻っても、グリューゲル修道院に着く頃には、多分閉まってるよ」
「……」
「今日はここで野宿して、明日もう一度行こう」
「え?」
「俺もついて行く。修道院を出てから、ずっと気になってたんだ」
本当にこれで良かったのか?
そんなことを思いながら、ゼノはここまで歩いていた。
「やっぱり、まだ依頼は達成できていないから。だから、これも返しておくよ」
ゼノは金貨を1枚差し出す。
「すべてが終わった後で、改めて渡してほしい」
金貨にじっと目を落としながら、モニカはやがてため息をついた。
「……はぁ。リチャードさんが言ってた通りですね」
「リチャードさん?」
「どれだけイケメンなんですか、貴方は」
「へ?」
ゼノが首をかしげていると、モニカはすぅーと息を吸い込んでからこう口にした。
「分かりました。たしかに、ゼノさんの言う通りです。まだ、わたしの目的は達成されていません。随分と戻って来ちゃいましたけど……。もう一度、わたしに付き合ってくれますか?」
「ああ。もちろんだ」
ゼノの言葉を聞いて、モニカは嬉しそうに笑みをこぼす。
今度のそれは、彼女の心からの笑顔であった。
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夏見ナイ
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伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!