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2章
第7話
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話がまとまったところで、ゼノとモニカは野宿の準備を始めた。
(とりあえず、聖水があるから幻獣に襲われる心配はないけど……)
幻獣対策はそれでどうにかなる。
だが、寝床のことまでは考えが至っていなかった。
「どうしましょうか? ここにそのまま寝ます?」
「うーん」
草むらを指さしてモニカが言う。
2人とも泊りがけの準備をして出発して来なかったため、結局はそうする他なさそうであったが……。
(あっ。そういえば、今日はまだ〔魔導ガチャ〕してなかったんだっけ?)
今日は、朝一ですぐに宿舎を出たため、魔石を召喚している余裕がなかったのだ。
「ちょっと待って。もしかしたら、なんとかなるかもしれないから」
ゼノはそう言うと、魔導袋の中に手を伸ばす。
一度青クリスタルを手にするも、昨日、緑クリスタルを手に入れたことを思い出して、そっちを手に取ることに。
「何するんですか?」
「〔魔導ガチャ〕さ」
「ガチャ?」
「そうか。モニカには、まだ言ってなかったな。えっと……。俺が持っている魔石は、〔魔導ガチャ〕で手に入れてるんだよ」
「?」
「まぁ、口で言ってもよく分からないと思うから。ちょっと見ていてくれ」
ゼノは、足元に魔法陣を発生させると、その中に手にした緑クリスタルを投げ入れる。
「〔魔導ガチャ〕――発動!」
シュピーン!
すると、光り輝く緑色のサークルがゼノの周りに出現し、10個の魔石が浮かび上がった。
「なっ……!?」
モニカは驚きの表情をもって、ゼノに目を向けていた。
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〇ガチャ結果
①☆2《鍛冶》
②New! ☆2《テント》
③New! ☆2《地震》
④New! ☆2《監視》
⑤New! ☆2《バックボーン》
⑥New! ☆2《ディフェンスチャージ》
⑦New! ☆2《雷帝の独楽》
⑧New! ☆3《透明》
⑨New! ☆3《泥喰の貯蔵》
⑩New! ☆4《時渡り》
----------
「えぇっ、嘘っ……マジで!? ☆4じゃんっ!?」
まさか、☆4の魔石が召喚できるとは思っていなかったゼノは、モニカのことも忘れて思わず大きな声を出してしまう。
緑クリスタルにおける☆4の出現確率は1%だ。
かなり運が良いと言えた。
すぐに魔石を魔導袋の中にしまうと、光のディスプレイを出現させて、《時渡り》の項目をタップする。
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☆4《時渡り》
内容:対象者全員を指定した過去の日時へと送ることができる/1回
----------
「おぉ……。なんかよく分からないけど、すごいぞこれ……」
つまり、やろうと思えば、エメラルドが大賢者ゼノに囚われの魔法をかけられる前に戻ることもできるというわけだ。
(ただ、戻ったところで、どうすればいいか分からないけど)
だが、どういった状況だったのか、一度それを確認することはできる。
ひょっとしたら、そこで歴史を変えられたりするかもしれないのだ。
「ゼノさん! 一体、何をやったんですかっ?」
「えっ? ああ、こうやって毎回魔石を召喚しているんだよ」
「この周りに石が浮かび上がったのが、〔魔導ガチャ〕の力ってことですか?」
「うん。今回はかなり運が良かったよ。それと今、《テント》っていう魔石が手に入ったから。多分、これで寝泊まりする場所は確保できそうだ」
ゼノは《テント》の魔石を取り出すと、聖剣クレイモアにセットして詠唱する。
すると、2人の目の前に大型のテントが出現した。
「す、すごいっ……。こんな魔法を使うこともできるんですねっ……」
「全部で666種類あるらしいから」
「そんなに!?」
「もちろん、俺も全部知っているわけじゃないよ。でも、本当に多種多様な魔法があるみたいだ」
それは、これまでゼノがガチャで魔石を召喚してきて実感していたことだった。
中にはこんな魔法どこで使えばいいのか、というものもある。
それだけ今回のように、どんな場面でも対応できるのが未発見魔法の魅力と言えた。
◆
2人はそれから、近くで木の枝を集めてくると、それを火起こしの材料として使用する。
本来はこのように使うものではなかったが、ほかに代用できそうな魔石がなかったので、ゼノは《鍛冶》という魔法を使って火を起こした。
その後、木の枝と一緒に拾ってきた長石に、《晩餐》の魔法で豪華な料理を出現させる。
薔薇の花びらが入れられたフィンガーボールの横には、焼け焦げた白鳥の丸焼きが大きく鎮座し、またその他にも、アスパラガスのサラダやセロリを塗した鶏肉の蒸し煮、レモンで味付けがなされた牛肉のシチュー、林檎のタルトや葡萄の入ったエールなど、色とりどりの食事がそこには並んだ。
「ごくり……。こんな豪勢な料理、本当に食べてよろしいんでしょうか……?」
「もちろんだよ。言ったでしょ? おいしい夕食を用意するって」
「魔法でこんなことまでできるなんて……。ますます、その剣が気になります!」
「?」
「い、いえ……! こっちの話ですっ!」
2人は火を囲みつつ、テントの前でささやかな夕食会を開くことになった。
モニカは、これまでの態度が嘘のようによく話して笑った。
そんな彼女の笑顔を見て、ゼノも安心感を覚える。
これまでずっと、こんな親しい間柄だったように、2人は楽しい一時を過ごした。
やがて――。
お腹もたっぷりと満たされると、話は自然と初めて2人が出会った時のことについて及ぶ。
「……あははっ♪ それで、ゼノさんを初めて見た時は〝何なんですか、この人!〟って感じだったんですよぉ?」
「ごめん。あの時は、俺も後先考えずに行動してしまったよ」
「違いますって。べつにゼノさんを責めてるわけじゃないんです。わたしもあの時は、なんていうか、すごいケンカ腰でしたし……。反省してるんです」
「あっ。そういえば、ティナさんから聞いたよ。一週間くらい、傍で俺のこと見てたんだよね? 今回の件、俺にずっと話そうと思ってたんでしょ?」
「うえぇっ!? バ、バレてたんですかぁ……!?」
「なんかそうみたい」
顔を真っ赤にするモニカだったが、ゼノはそれを焚火によるものだと勘違いする。
「その、悪かったな。全然気付けなくて」
「い、いいんですよっ!? 声をかけられなかったこっちが悪いんですから!」
「でも、聞こうと思ってたのはさ。どうして俺の居場所が分かったんだ? あの時、マスクスへ行くなんて言ってなかったよな?」
「……っ、それは……」
村に噂が広まって居づらくなり、それで文句を言いに来たというのは分かる。
だが、ゼノはそのスピード感も気になっていた。
ティナの話によると、ワイド山のクエストを受注した時にはすでに、モニカはマスクスの冒険者ギルドまで来ていたようだ。
《疾走》の魔法が使えるということを知っていた件も、ゼノは引っかかりを覚えていた。
まだ、彼女には、何か話していないことがあるのではないか、と。
ゼノはそんな風に考えていた。
暫しの沈黙の後。
モニカは、白状するように本当のことを口にする。
「……実はあの後、ゼノさんの後をつけて追ったんです」
「あの後? フォーゲラングの村で別れた直後ってことか?」
「は、はい……。その剣を奪おうって思って……」
ゼノが腰にぶら下げた聖剣クレイモアをモニカは指さす。
「でも、どうしてこの剣を?」
「もちろん、理由はちゃんとあるんです。その剣があれば……わたしも以前と同じような力で、人々を癒すことができるんじゃないかって、そう思ったんです」
それを聞いて、ゼノは昼間のモニカとポーラのやり取りを思い出した。
〝今のわたしの力ではすべての人を癒せないということに気付きました〟
〝それはそうでしょう。貴女は〈ヒーリング〉しか使えないのですから〟
何か引っかかりを感じてゼノが黙っていると、モニカは焚火に目を向けながら静かに口にする。
「……ゼノさんに、まだ話していないことがあります。聞いていただけますか?」
それは、彼女のさらなる過去の扉を開く言葉となった。
(とりあえず、聖水があるから幻獣に襲われる心配はないけど……)
幻獣対策はそれでどうにかなる。
だが、寝床のことまでは考えが至っていなかった。
「どうしましょうか? ここにそのまま寝ます?」
「うーん」
草むらを指さしてモニカが言う。
2人とも泊りがけの準備をして出発して来なかったため、結局はそうする他なさそうであったが……。
(あっ。そういえば、今日はまだ〔魔導ガチャ〕してなかったんだっけ?)
今日は、朝一ですぐに宿舎を出たため、魔石を召喚している余裕がなかったのだ。
「ちょっと待って。もしかしたら、なんとかなるかもしれないから」
ゼノはそう言うと、魔導袋の中に手を伸ばす。
一度青クリスタルを手にするも、昨日、緑クリスタルを手に入れたことを思い出して、そっちを手に取ることに。
「何するんですか?」
「〔魔導ガチャ〕さ」
「ガチャ?」
「そうか。モニカには、まだ言ってなかったな。えっと……。俺が持っている魔石は、〔魔導ガチャ〕で手に入れてるんだよ」
「?」
「まぁ、口で言ってもよく分からないと思うから。ちょっと見ていてくれ」
ゼノは、足元に魔法陣を発生させると、その中に手にした緑クリスタルを投げ入れる。
「〔魔導ガチャ〕――発動!」
シュピーン!
すると、光り輝く緑色のサークルがゼノの周りに出現し、10個の魔石が浮かび上がった。
「なっ……!?」
モニカは驚きの表情をもって、ゼノに目を向けていた。
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〇ガチャ結果
①☆2《鍛冶》
②New! ☆2《テント》
③New! ☆2《地震》
④New! ☆2《監視》
⑤New! ☆2《バックボーン》
⑥New! ☆2《ディフェンスチャージ》
⑦New! ☆2《雷帝の独楽》
⑧New! ☆3《透明》
⑨New! ☆3《泥喰の貯蔵》
⑩New! ☆4《時渡り》
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「えぇっ、嘘っ……マジで!? ☆4じゃんっ!?」
まさか、☆4の魔石が召喚できるとは思っていなかったゼノは、モニカのことも忘れて思わず大きな声を出してしまう。
緑クリスタルにおける☆4の出現確率は1%だ。
かなり運が良いと言えた。
すぐに魔石を魔導袋の中にしまうと、光のディスプレイを出現させて、《時渡り》の項目をタップする。
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☆4《時渡り》
内容:対象者全員を指定した過去の日時へと送ることができる/1回
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「おぉ……。なんかよく分からないけど、すごいぞこれ……」
つまり、やろうと思えば、エメラルドが大賢者ゼノに囚われの魔法をかけられる前に戻ることもできるというわけだ。
(ただ、戻ったところで、どうすればいいか分からないけど)
だが、どういった状況だったのか、一度それを確認することはできる。
ひょっとしたら、そこで歴史を変えられたりするかもしれないのだ。
「ゼノさん! 一体、何をやったんですかっ?」
「えっ? ああ、こうやって毎回魔石を召喚しているんだよ」
「この周りに石が浮かび上がったのが、〔魔導ガチャ〕の力ってことですか?」
「うん。今回はかなり運が良かったよ。それと今、《テント》っていう魔石が手に入ったから。多分、これで寝泊まりする場所は確保できそうだ」
ゼノは《テント》の魔石を取り出すと、聖剣クレイモアにセットして詠唱する。
すると、2人の目の前に大型のテントが出現した。
「す、すごいっ……。こんな魔法を使うこともできるんですねっ……」
「全部で666種類あるらしいから」
「そんなに!?」
「もちろん、俺も全部知っているわけじゃないよ。でも、本当に多種多様な魔法があるみたいだ」
それは、これまでゼノがガチャで魔石を召喚してきて実感していたことだった。
中にはこんな魔法どこで使えばいいのか、というものもある。
それだけ今回のように、どんな場面でも対応できるのが未発見魔法の魅力と言えた。
◆
2人はそれから、近くで木の枝を集めてくると、それを火起こしの材料として使用する。
本来はこのように使うものではなかったが、ほかに代用できそうな魔石がなかったので、ゼノは《鍛冶》という魔法を使って火を起こした。
その後、木の枝と一緒に拾ってきた長石に、《晩餐》の魔法で豪華な料理を出現させる。
薔薇の花びらが入れられたフィンガーボールの横には、焼け焦げた白鳥の丸焼きが大きく鎮座し、またその他にも、アスパラガスのサラダやセロリを塗した鶏肉の蒸し煮、レモンで味付けがなされた牛肉のシチュー、林檎のタルトや葡萄の入ったエールなど、色とりどりの食事がそこには並んだ。
「ごくり……。こんな豪勢な料理、本当に食べてよろしいんでしょうか……?」
「もちろんだよ。言ったでしょ? おいしい夕食を用意するって」
「魔法でこんなことまでできるなんて……。ますます、その剣が気になります!」
「?」
「い、いえ……! こっちの話ですっ!」
2人は火を囲みつつ、テントの前でささやかな夕食会を開くことになった。
モニカは、これまでの態度が嘘のようによく話して笑った。
そんな彼女の笑顔を見て、ゼノも安心感を覚える。
これまでずっと、こんな親しい間柄だったように、2人は楽しい一時を過ごした。
やがて――。
お腹もたっぷりと満たされると、話は自然と初めて2人が出会った時のことについて及ぶ。
「……あははっ♪ それで、ゼノさんを初めて見た時は〝何なんですか、この人!〟って感じだったんですよぉ?」
「ごめん。あの時は、俺も後先考えずに行動してしまったよ」
「違いますって。べつにゼノさんを責めてるわけじゃないんです。わたしもあの時は、なんていうか、すごいケンカ腰でしたし……。反省してるんです」
「あっ。そういえば、ティナさんから聞いたよ。一週間くらい、傍で俺のこと見てたんだよね? 今回の件、俺にずっと話そうと思ってたんでしょ?」
「うえぇっ!? バ、バレてたんですかぁ……!?」
「なんかそうみたい」
顔を真っ赤にするモニカだったが、ゼノはそれを焚火によるものだと勘違いする。
「その、悪かったな。全然気付けなくて」
「い、いいんですよっ!? 声をかけられなかったこっちが悪いんですから!」
「でも、聞こうと思ってたのはさ。どうして俺の居場所が分かったんだ? あの時、マスクスへ行くなんて言ってなかったよな?」
「……っ、それは……」
村に噂が広まって居づらくなり、それで文句を言いに来たというのは分かる。
だが、ゼノはそのスピード感も気になっていた。
ティナの話によると、ワイド山のクエストを受注した時にはすでに、モニカはマスクスの冒険者ギルドまで来ていたようだ。
《疾走》の魔法が使えるということを知っていた件も、ゼノは引っかかりを覚えていた。
まだ、彼女には、何か話していないことがあるのではないか、と。
ゼノはそんな風に考えていた。
暫しの沈黙の後。
モニカは、白状するように本当のことを口にする。
「……実はあの後、ゼノさんの後をつけて追ったんです」
「あの後? フォーゲラングの村で別れた直後ってことか?」
「は、はい……。その剣を奪おうって思って……」
ゼノが腰にぶら下げた聖剣クレイモアをモニカは指さす。
「でも、どうしてこの剣を?」
「もちろん、理由はちゃんとあるんです。その剣があれば……わたしも以前と同じような力で、人々を癒すことができるんじゃないかって、そう思ったんです」
それを聞いて、ゼノは昼間のモニカとポーラのやり取りを思い出した。
〝今のわたしの力ではすべての人を癒せないということに気付きました〟
〝それはそうでしょう。貴女は〈ヒーリング〉しか使えないのですから〟
何か引っかかりを感じてゼノが黙っていると、モニカは焚火に目を向けながら静かに口にする。
「……ゼノさんに、まだ話していないことがあります。聞いていただけますか?」
それは、彼女のさらなる過去の扉を開く言葉となった。
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