迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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2章

第8話

「まだ話していないこと?」

「はい。わたし、以前に言いましたよね? 〝本来のわたしの力をもってすれば、あのご婦人の傷は治せた〟って。あれは、誇張でもなんでもなくて本当のことなんです」

「ああ。そうだと思うけど……」

「いいえ。ゼノさんはまだ、わたしが言いたいことが分かっていません」

 そう口にするモニカの表情は、どこか悲しげであった。
 
 そして、彼女は息を深く吐き出すと、決心したようにこう絞り出す。

「……今、わたしの〈回復術〉は、制限をかけられているんです」

「えっ!?」

「ポーラ院長……あの人に。だから、わたしはそれを解いてもらいたくて、本当は会いに行ったんです」

「ちょ……ちょっと待ってくれ! 〈回復術〉に制限っ? 術式に制限をかけるなんて、そんなことが……」

「できるんですよ。ポーラ院長がハーフエルフだったのは、ゼノさんもお気付きですよね?」

「それは気付いたけど……」

「人族と〝亜人族〟の混血。つまり、ポーラ院長はスキルが使用できるんです。そのスキルの内容というのが……」

「……術式に制限をかけることができる?」

 ゼノがそう声を上げると、モニカはゆっくりと頷く。
 
 亜人族が使用するスキルは千差万別と言われている。
 〔魔導ガチャ〕も、スキルの1つだ。

 術式に制限をかけるスキルなんてものが存在しても、べつに不思議なことではなかった。

「けど……。どうして、そんな制限なんてかけられたんだ?」

「わたしがマリア様の像を壊したその罰として、ポーラ院長はわたしの〈回復術〉に制限をかけたんです」

「でも、それは濡れ衣なんだろっ? 独断でそんなことが許されるわけがないじゃないか」

 修道院から追い出すだけとは訳が違う。
 術式に制限をかけるというのは、その者が持っているアイデンティティーを奪うのと同義だからだ。

「ポーラ院長には、それができてしまったんです」

「っ」

「わたしは孤児院出身でした。ヒーラーの血を絶やしてはいけないっていう純血主義的な考えを持つポーラ院長にとって、孤児のわたしはまさに目の上の瘤だったんですよ」

「……」

 そこで、モニカは自虐気味に笑みを浮かべる。

「だけど、仕方ないですよね。わたしは孤児だったんですから。どんな親から生まれたかも分からないんです。それに……嘘つきです。気付いてました? わたし、本当は教皇様からライセンスも受け取っていないんですよ? 闇ヒーラーとして、献金と偽って日銭を稼いでいたんです。だから、本当はゼノさんにあれこれと言えた身分じゃないんです」

「でもさ。これまでモニカが〈回復術〉で奉仕してきたのは確かだろ? それで救われた人も大勢いたんじゃないのか?」

「責めないんですね……ゼノさん。わたし、色々と酷いこと言ったのに……」

「俺には、誰かの役に立つなんて、そんなことできないから。尊敬しているんだ、モニカを」

「ちょっと……やめてください。そんなのって、ズルいです……」

 モニカは、恥ずかしそうにゼノから顔を背けてしまう。

 彼女の話を聞いていると、ゼノは自分だけが安全圏に留まっていることはできなかった。
 
(モニカも全部話してくれたんだ。次は俺もすべて話すべきだ)

 ギュッと拳を握り締めると、ゼノはこう話を切り出す。

「……俺も、実家を追放されたんだ」

「え」

「この前、今はもう貴族じゃないって話したよな? でも、元々俺は貴族だったんだよ」

「……」

「俺が貴族じゃなくなったきっかけは単純だ。【魔力固定の儀】で、魔法適性ゼロを宣告されたから。魔力値が0だって分かると、父上は……俺を迷宮に廃棄したんだ」

「迷宮に廃棄した……ですか?」

 一瞬、当時の嫌な記憶がゼノの脳裏をかすめる。

「けど、俺はラッキーだった。400年以上の時を生きる魔女――お師匠様に救われたから」

「は、はいっ!? 400年以上の時を生きる魔女っ……?」

「お師匠様は、《不老不死》っていう魔法をその身に受けたから。ずっと、若い時の姿のままでいられるんだよ」

「……っ、そんな魔法があるなんて……。にわかに信じられません……」

 モニカもまた、口元に手を押さえる。
 この話を聞かされたティナと、まったく同じようなリアクションであった。

「俺のゼノっていう名前も、お師匠様が付けてくれたんだ。貴族の頃の名前はもう捨てたから」

「っ……」

「俺は、お師匠様のことを命の恩人だって思ってる。だって、お師匠様に助けてもらわなかったら、俺はすぐに死んでいたと思うし」

「……そんなのって……全然、わたしの比じゃないですよ。悲劇のお姫様みたいな顔して、話していた自分が恥ずかしいです」

「なんでだよ?」

「だって……」

「どっちが悲劇とか悲劇じゃないとか、そういう問題じゃないと俺は思う。こうやって包み隠さずに、お互いの過去を話せていることに意味があるんじゃないかな?」

 ゼノがそう口にすると、モニカはため息をつきながら、小さく首を横に振る。

「……ゼノさんって……なんか、強いですね」

「俺が?」

「そんなことをさらっと平気で言うとか、普通できないですよ」

「えっ、そうなのか……?」

「まぁ、そういう鈍感なところもゼノさんの良さだと思いますけど。うふふっ」

 どこか可笑しそうにモニカは笑みをこぼした。
 よく分からなかったが、ゼノは彼女が笑顔を見せてくれたことでホッとしていた。





 それから、ゼノは聖剣クレイモアや〔魔導ガチャ〕のスキルをエメラルドから授かったことや、彼女のもとで5年間修行に励んだこともモニカに話した。

 そして、400年近くエメラルドが死神の大迷宮に囚われていることや、彼女を迷宮から出すためには666の魔法をすべて列挙する必要があるということも、包み隠さずに打ち明ける。

「……というわけで、俺は王国の筆頭冒険者になるために冒険者をやり始めたんだ」

「そんな壮大な話だったんですか。なんか、ゼノさんのお話を聞いてると、本当に自分がちっぽけな存在に思えちゃいます……」

「大きいとか小さいとか、そういう問題でもないよ」

「もちろん、それは分かってます。わたしには、わたしが解決しなくちゃいけない問題がありますから」

「うん、そういうことだ。でもなんか、ようやくモニカと打ち解けられたって感じがするな」

「急にどうしたんです?」

「急じゃないよ。あの日、別れた時からずっと気になってたんだ。だから、こうやってモニカの事情も知れて、俺の事情も知ってもらえて、嬉しいんだ」

「つくづく、ゼノさんって美男子ですよね。モテモテなんじゃないんですか? よく女子に言い寄られません?」

「? いや、俺はお師匠様一筋だけど?」

「そういう返事が聞きたかったんじゃないんですけど……。というか、やっぱり魔女さんのこと、そう思ってるんですね」

「ああ。お師匠様は、俺が世界で一番好きな女性だ」

「むぅ~! はっきりそう惚気られると、それはそれでなんかムカつくんでやめてくださいっ!」

「なんで!?」

 しばらくそんな和やかな時間を過ごした後。
 明日は、ゼノも一緒にポーラに話をしに行くということを決めて、この日の夕食会はお開きとなった。



 ◆



 遡ること数時間前。

 グリューゲル修道院の執務室には、ポーラと修道院護衛隊長の姿があった。

「院長。我々に何か用件があるという話だったが」

「一つお願いがしたいことがあります。追放した元シスターと、その用心棒の男を始末してほしいのです」

「始末ですか?」

「1年前、彼女はマリア様の像を破壊するという造反行為に出ました。そのため、私が追放したのです。ですが、先程、あろうことか魔導師の男を連れて一緒に現れました。目的は、我が修道院に対する復讐です。明日までにここを明け渡さなければ、この場で暮らす者を全員皆殺しにすると脅してきたのです」

「……っ、なんと……それは酷い」

 ポーラは、あからさまな嘘をさも真実であるかのように口にする。
 これこそが、彼女の本性であった。

「ここでは、多くのシスターと修道士が共同生活を送っております。それにこの修道院は、マリア様の意志を継ぐ者たちによって代々受け継がれてきた神聖な場所でもあります。当然、背教者に簡単に明け渡すようなことはできません。グリューゲル修道院を守るためです。どうかこの任務、お願いできないでしょうか?」

「了解した。その者たちの特徴を教えてくれ」

「はい。まだ彼女らは遠くへは行っていないはずです」

 その後。
 ポーラは、モニカとゼノの身なりを伝えて、修道院護衛隊長を見送る。

 そして、暮れかかる空を窓越しに見上げながら、口元をにやりと釣り上げた。

「……孤児の分際で、私に盾を突こうなどと身の程を知れ、モニカ。魔導師の男と一緒になった罰をその身に受けるといい」
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