迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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2章

第12話

 グリューゲル修道院の帰り道。
 ゼノとモニカは、修道士が手配した馬車に揺られながら、マスクスの町へと帰っていた。

 結局、あの後、自らの私情でモニカに濡れ衣を着せたことを認めたポーラは、モニカにかけた〔オラクル・ロック〕の制限を解除した。

 馬車を手配した修道士によると、王都の総本山教会に今回の件の手紙を書くという話であった。
 近々、グリューゲル修道院には調査が入るようだ。

 ゼノは、ワゴンから橙色に染まる田園風景を眺めていた。
 ふと、隣りに座るモニカに視線を向ける。

「……」

 修道院を出てからモニカはずっと黙ったままだ。
 何かを1人で考えているように、ゼノの目には映った。

 ――やがて。

 マスクスの入口が見てきたところで、ゼノはモニカと一緒に下車する。
 御者に銅貨を6枚手渡し、馬車が走り去ってしまうと、後には2人だけが残された。 

「着いちゃいましたね」

「そうだな」

「本当にいろいろとありがとうございました。これ、昨日渡せなかった報酬です」

「うん」

 今度こそ、ゼノはモニカから報酬を受け取る。

 すると。

 本当にすべてが終わってしまったようで、ゼノの中に寂しさのようなものが一気に込み上げてくる。
 それを誤魔化すように、ゼノは早口で訊ねた。

「でも、よかったのか? 修道院に残らなくてさ。シスターたちからも、これまでのことはきちんと謝られたんだろ?」

「はい。あの人たちもちゃんと話してみると、そんなに悪い人じゃないって分かりました」

「だったら……」

「いいんです。わたしは自分の居場所を……ちゃーんと見つけましたから♪」

「居場所?」

 ゼノが首を傾げると、モニカがいきなり腕に抱きついてくる。

「はぁい♪ のお隣りです♡」

「お……おいっ!?」

「実は、これまでずっ~~とガマンしてたんです! ゼノ様にこうやってくっ付きたくて。だから、もういいですよね?」

「いいって何がっ?」

「殿方に惹かれたのなんて……生まれて初めての経験なんです。あんなカッコいい姿を見せられちゃったら、もう自分の気持ちに嘘はつけません。ゼノ様……好きです♡」

「!?」

「んぅ……」

 顔を赤らめながら、モニカがぷるっぷるっに潤った唇を差し出してくる。

「ちょ、ちょっと待ったッ!!」

「あのぉ……。乙女に、恥をかかせないでください……」

「いやいやっ! いきなり展開がおかしいだろ!?」

 たしかに、別れるのは寂しいと思ったが、こんなことを望んでいたわけじゃない、とゼノは思う。

(モニカとは、依頼主とクエストを受注する冒険者って関係だったはずで……どうしてこうなった!?)

 両肩を掴むと、ゼノは彼女に冷静に言い聞かせる。

「いや、あのさ……。気持ちは嬉しいんだけど、俺には好きな女性がいて……。これ、昨日も言ったよな?」

「もちろん、分かってますよぉ~。魔女さんですよね?」

「だったら、なんでっ?」

「べつに、わたしは二番目でもいいんです。愛人枠ということで♪」

「そんな枠は設けたくない!」

「まぁ、でも……今回は分かりました。ゼノ様にもキスをするには心の準備がありますよね?」

「心の準備とか、そういう問題じゃないんだが」

「んふふっ、ゼノ様は案外照れ屋なんですね♡ そこもなんか可愛いです~♪」

 そう言いながら、モニカはゼノの腕にぴったりとくっ付いてくる。

(む、胸が当たってるんですけどぉ……!?)

 横乳のボリュームはまさに国宝級だ。

 これまでほとんど意識してこなかったゼノだったが、改めてモニカの胸に目を向けると、彼女が量感たっぷりの巨乳持ちであることに気付く。

(……いや、何を考えているんだ。俺は)

「居場所を見つけたって……まさか、ずっと傍にいるつもりなのか?」

「はい♪ もちろんですよ~。ゼノ様と一緒に暮らしちゃいます♡」

「そんな余裕、うちの宿舎には……」

 そう言いかけたところで、ゼノはふと気付く。

(……あるなぁ。それもかなりの部屋が)

「ゼノ様が、どこで寝泊まりしているのかはもう調査済みです。なので、余裕はないなんて言えませんよね?」

「……なんか、めちゃくちゃ怖いんだが。というか、いつ調査したんだよ!?」

「あ、そんな態度でいーんですか? わたしがフォーゲラングの村に居づらくなったっていうのは、事実なんですからね」

「いや……。その件は本当に悪いと思ってるんだけど……」

「だったら、いいですよね? 一緒に暮らしても。わたし、これまでずっと宿屋で寝泊まりをしてきたんで、マイホームって憧れがあったんですよ♪」

「マイホームじゃない! ただ俺はギルドから借りてるだけだっ!」

 ゼノの声が耳に入っていないのか、モニカは夢見心地で話し続ける。

「それと……ゼノ様と一緒にパーティーを組んで冒険者もやっちゃいます♪」

「は……? ちょっと待ってくれっ……! さすがに、話が早すぎて追いついていけない……」

「だって、ゼノ様は〈回復術〉を使えないじゃないですかぁ~? だから、ヒーラーのわたしとパーティーを組むメリットはあると思うんです」

「いや、そうだろうけど……。でも、そんな簡単に自分の人生決めていいのか? 冒険者なんかよりも、もっとやりたいことがあるんじゃ……」

 依頼を受けてもらった見返りとして、モニカがそう提案しているように思えて、ゼノはその申し出を素直に受け入れることができない。
 
 が。

 モニカは、ゆっくりと首を横に振る。

「……違いますよ、ゼノ様。そんな簡単に、じゃないんです」

「え?」

「わたしはこの一週間近く、自分のすべきことについてずっと考えてきました。そして今日、わたしはようやくその答えを見つけたんです。ゼノ様……。わたしは、貴方のお役に立つために生まれてきたんです。大げさでもなんでもなく、ゼノ様と出会えたことは運命なんだって……。わたしにはそう思えたんです。だから、わたしは決めました。ゼノ様のお傍にずっといたいって」

「モニカ……」

「ちょっと重たいかもしれないですけど、あはは……。でも、これがわたしの出した答えなんです」

 さすがにここまで言われてしまうと、ゼノはそれ以上拒むことができなかった。
 モニカの想いが、はっきりと伝わってきたのだ。

「……分かった、もう何も言わないよ。今日から俺とパーティーを組もう。それで、一緒に暮らして……。お師匠様を救う手助けをしてほしい」

「はい♪ 聖女として、精一杯ゼノ様のお役に立ちたいと思います」

「ありがとう」

「魔女さんを助け出した際は、ゼノ様の愛人としてご挨拶させていただきますね♡」

「いや、それはいろいろと誤解を招きそうだからやめてくれ……」

 マスクスの入口に、鮮やかな西日が差し込む。
 2人はそんな景色を背景に、しっかりと握手をかわした。

「これからはずっ~~と、ゼノ様と一緒です。えへへ♪」

 そんな風に満面の笑みをこぼすモニカを目にして、これでよかったのかもしれないな、とゼノはふと思った。

 彼女が一歩前に踏み出したことが分かって、ゼノは心から嬉しく感じるのであった。



 ◆



 アスター王国の王都サーガ。
 
 山岳地帯の天上にそびえ立つアスター城の、煌びやかな玉座の間。
 上段の黄金の椅子に腰を掛けるのは、6年前に15歳の若さで女王の座に就いたギュスターヴだ。

 ブロンド色の艶やかなロングヘアと色白で整った上品な美貌は、まさに絶世の美女と呼ぶに相応しいオーラがあった。

 すらっとのびた長い脚を組み替え、すべてを見通したような妖艶な瞳で、真下の者に目を向けている。

 彼女は、華やかな装飾とアスター王国の国旗が模様されたサーコートの上にブルーのマントを羽織っており、その気品に満ち溢れたさまは、まさに一国の君主そのものであった。

 ギュスターヴの眼下には、頭を低く下げて敬礼する貴族の男がいる。
 
 ゼノの父親ウガンだ。
 その傍らには、兄であるアーロンの姿もあった。

「陛下、お呼びでしょうか?」

「ハワード卿。よく来てくれたな。そなたと話したいことがあってな」

「はい。なんでしょうか?」

「その息子……アーロンについてなのだが、実は処罰に悩んでおってな」

「処罰っ……? こいつが何かしましたか……?」

「うむ。率直に言うが、魔導官の一員として宮廷の役に立っていないのだ」

「!」

「これまでの3年間、大した結果も残せずにおる。徴税においては、《疾走》の魔法で運んでいる最中、大量の金貨をバラまいて失ったと聞いておる。議会の議事録への書き込みも、《達筆》の魔法を上手く扱えず、作成することができなかったという話もあるな」

「アーロン、貴様……!」

「す、すみません、父様っ……!」

 アーロンがウガンに深々と頭を下げる。

「大変申し訳ございません、陛下……。この愚息のせいで多大なるご迷惑をおかけしました。お好きに、処罰を与えていただければと思います……!」

「いや、ハワード卿よ。処罰を与えようと思っているのは、何もアーロンだけではないのだ。そなたなら、分かっておるのではないか?」

 冷ややかな目をギュスターヴが向けてくる。
 一瞬ゾッとしつつ、ウガンは女王へ訊ねた。

「……と、おっしゃいますと?」

「そなたが治める領地の奉納品の質は、年々低下しておる。また、領民からも悪政を指摘する声や不満が届いているのは知っておるな? このままだと、そなたの爵位を格下げすることになるぞ」

「っ……し、承知いたしました! すぐに状況を改善し、今後そのような粗相がないように、精一杯努めたいと思います……!」

 ここでギュスターヴは目を細めてウガンに口にする。

「そなた。たしか、次男がおったようだな? なんでも、生まれながらにして魔力値9999を授かり、大賢者の素質があったとか」

「え、えぇ……」

「仮にもし、その者が生きておったのなら……。そなたらの粗相もカバーするほどの働きを見せてくれていたかもしれんな。実に残念だ」

「っ……」

 ウガンもアーロンも屈辱的な表情を浮かべる。
 
「まぁよい。今回の件は大目に見よう。だが、次はないぞハワード卿。我は父王のように甘くはない。至らぬ点が改善しないと判断した瞬間、その場できつく処罰する」

 ギュスターヴは冷酷にそう一言告げる。
 それに、ウガンもアーロンも戦々恐々とするのであった。
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