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4章

第3話

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 ひと通り準備を整えた3人は、中央広場の貸馬車屋で馬車を借りてから、マスクスの町を出発する。

 マウゼル洞窟のダンジョンを越えてさらに西へ進むと、しばらくしてカロリング領へと入った。

 そのまま馬車に揺られること、2時間近く。
 ようやく、イニスラードの町が見えてくる。
 
 昼前には、マスクスの町を出たゼノたちだったが、イニストラードに到着する頃には、すでに辺りは暮れ始めていた。



「ふぅ~けっこうな長旅だったな。やっと着いたぜ!」

「うん。さっそく中へ入ろう」

 3人は町の入口で御者に別れを告げると、町の中に足を踏み入れた。

 イニストラードは、アスター王国の中でも非常に大きな町として知られている。
 商業が盛んなことも有名で、町の中心にある巨大マーケットには、王国中からたくさんの商人が訪れ、多くの商店が軒を連ねていた。
 
 また、娯楽の聖地としても名が通っており、大型の劇場やカジノなどの店も有している。
 これを求めて、他国からわざわざアスター王国を訪れる観光客も多いようだ。

「へぇー、ここがイニストラードか! かなりでかいんだな! 通りの奥までまったく見えねーぜ!」

「アーシャさんは、この町へやって来るのは初めてなんですか?」

「まぁな。領地から出るなんてこと、ほとんどなかったし。ワイアットからも禁止されてたからな。こうやって訪れることができてアタシは嬉しいぜ」

「モニカは来たことがあるんだよね?」

「はい。闇ヒーラーをしてた時期に滞在していたんです。こんなに大きな町なんですけど、イニストラードには、南方教会が設置されていないんですよ」

「それは、かなり珍しいな」

 かつて暮らしていたドミナリアでは、南方教会は人々の生活に根づいていたことを、ゼノは改めて思い出す。
 町の規模から考えて、イニストラードに南方教会が設置されていないのは不思議に思えた。

「カロリング卿は、熱心な魔法至上主義者で有名だからな。南方教会の設置には否定的だったんじゃねーのか?」

「……ひょっとすると、それが今回、カロリング領がレヴェナント旅団に狙われた原因なんでしょうか?」

「うーん、どうかな……。ひとまず、ギルドへ行って詳しい話を聞いてみよう。モニカ、案内してくれるか?」

「はい。こちらです」

 モニカが先導する形で、3人はそのまま冒険者ギルドへ向かうことに。



 ◆



 イニストラードの冒険者ギルドは、想定していた通り、その規模はマスクスよりも大きかった。
 館の中には、たくさんの冒険者が溢れている。

 活気に満ち溢れた館内を歩きながら、ゼノはふと思った。

(これだけ冒険者がいるのに、誰も今回のクエストを受けなかったんだ……)

 レヴェナント旅団の確保。
 それがどれほど危険な依頼か、ゼノは改めて思い知る。
 
 そのまま3人で受付カウンターまで向かうと、アーシャがまず口を開いた。

「アタシたちは、マスクスの【天空の魔導団クランセレスティアル】だぜ! こっちのギルドからクエストの依頼を受けてやって来た。ギルマスを呼んでくれ」

「こ……これは、【天空の魔導団クランセレスティアル】の皆様……!? お待ちしておりましたっ! 話は聞いておりますので、少々お待ちください!」

 慌てた様子で、受付嬢がカウンターの奥へと消えていく。

 そして。
 その後すぐに、丸ぶちの眼鏡をかけた痩せ男が現れた。

 不健康そうな色白の肌とやせ細った華奢な体つきは、相手にどこか頼りなげな印象を与える。

 年齢は、20代前半くらいだろうか。
 この館を仕切る立場の者としては、十分に若いと言えた。

「あぁ……よかった。【天空の魔導団クランセレスティアル】の皆さん、来てくださったんですね」

「あんたがギルマスかよ?」

 アーシャがそう訊ねると、男は深々と頭を下げた。

「はい。私は、このギルドの責任者をやっておりますマシューと申します」

 ギルドマスターと言えば、ダニエルのイメージが強かったため、マシューの立ち振る舞いは、ゼノに新鮮に映った。
 
 同じように頭を下げて、ゼノも挨拶をする。

「初めまして、マシューさん。俺は、マスクスの冒険者のゼノ・ウィンザーです。この2人の女の子はパーティーメンバーで、モニカとアーシャって言います」

「ご丁寧にどうもありがとうございます。もちろん、お三方のことは存じ上げておりますよ」

「その若さでギルドマスターってすごいですね~♪」

 モニカが笑顔でそう言うと、マシューは少しだけ顔を曇らせる。

「……い、いえ。私は、最近辞めてしまった者の代わりとして就いただけでして……」

「それでも立派だぜ! んなむさ苦しい連中をまとめてんだからなっ!」

「は、はぁ……」

 アーシャの言葉に、マシューはどこか困り顔だ。
 ゼノは、すぐに彼の表情に気付いた。

「あの……わざわざ他領ギルド所属の俺らに、依頼を出されたことと、何か関係があるんでしょうか?」

「……さすが、マスクスでSランク冒険者に最速でなられた方は違いますね。ゼノさんのようなお方が、うちにいてくれたら助かったのですが……」

 ここでゼノは、マシューが抱えている悩みを耳にする。



 実は、彼はカロリング侯爵家の三男なのだという。

 なぜ、貴族の彼がギルドマスターを務めているのかというと、ギルドマスターを辞職する者が後を絶たないからという話であった。

「……お父様は、熱烈な魔法至上主義者でして、術使いの方々をあまり信用していないんです。当然、そんな領主が治める町ですから、冒険者たちからの受けも良くありません。だから、ギルドマスターは突き上げによく遭うんです。それがイヤになって辞めてしまう方が多くて……。だから、カロリング家出身の私に、その役目が回ってきたんです。領主の息子なら、少しは言うことを聞くだろうというのが、お父様のお考えのようでして……」

 イニストラードの冒険者たちは、容易なクエストの回すようにせがんだり、報酬を上げるように要求したり、ギルドマスター相手でも好き放題やっていたのだという。

(マスクスのギルドとは、かなり違うな。ダニエルさんが上手くコントロールしているってわけか)

 ゼノは改めて、ダニエルの手腕を見直した。

「お恥ずかしい話なのですが、今回のクエストも、Sランクの者を含むほとんどの冒険者に声をかけたのですが……断られてしまいました」

「とんでもねーヤツらだぜ……! 自分たちの領地で悲惨なことが起こったってのに、知らん顔なんてな」

「でも……レヴェナント旅団を相手にするのはとても危険ですから。ここの人たちのことは責められません。簡単なクエストを受ける方が楽ですし」

「たしかに、そうなんだろーけどよ……」

 モニカの言葉に、アーシャは納得がいかない様子だ。
 けれど、ゼノもモニカには同意見だった。

(俺たちが責められることじゃない。誰だって命を落としたくはないはずだ)

 だが、レヴェナント旅団を捕らえなければ、新たな被害が出るかもしれない。
 誰もやらないなら、それをやれるのは自分たちしかいない、とゼノは思う。

「そういうわけでしたから、【天空の魔導団クランセレスティアル】の皆さんが来てくれて、本当に助かりました」

「いえ、こちらこそ依頼を出していただいて嬉しかったです。後は俺たちに任せてください。できる限りのことはしたいと思います」

「すみません……。どうか、よろしくお願いします」

 マシューは改めて深くお辞儀をした。

「町の宿屋を無料で宿泊できるように手配しておきます。今日はそこへお泊りください。明日、職員の者にラチャオの村へと案内させますから」

「? これから現地へ行って、確認しなくてもいいのかよっ?」

「イニストラードからラチャオの村までは少し距離があります。今日は、マシューさんの言う通りにした方がいいと思います」

 地理に詳しいモニカがそう言うと、説得力がある。
 たしかに、これからラチャオへ出発するとなると、村へ到着する頃には夜になってしまうに違いなかった。

「アーシャさん、ご安心ください。領内の町や村は、現在、侯爵騎士団によって厳重に警備されています。警戒された中で、レヴェナント旅団もなかなか手出しはできないはずです」

 マシューがそう付け加えると、アーシャも納得したようだ。

「そーゆうことなら、安心だぜ。なら、出発は明日だな」

「うん。今日は3人で宿屋に泊まらせてもらおう」

 ゼノがそう言うと、話はまとまった。

 その後。
 ゼノたち3人はマシューに案内され、イニストラードの宿屋で一晩を明かした。
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