迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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4章

第7話

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「それより、ゼノ。目的は達成できたんだ。早いとこ連中を拘束して、イニストラードのギルドに報告しに戻ろうぜ」

 アーシャがその場で気絶した男たちに目を向けながらそう口にする。
 だが、ゼノは首を横に振った。

「いや。まだ目的は達成されてないと思う」

「? どういうことですか?」 

 疑問の声を上げるモニカに目を向けながら、ゼノは答えた。

「この中に、ルーファウスは多分いない」

「っ……なんで分かんだよ?」

「他国の領都を1人で壊滅させたような相手が、こんな簡単にやられるはずがないよ。それに、見たところ二本の刀を持った人もいないから」

「たしかに……言われてみればそうですね」

「んだよ、ぬか喜びしちまったぜっ……。ってことは、なんだ? ルーファウスはまだ、どこかに身を潜めてるってことかよ?」

「うん……おそらく」

 そう口にしながら、ゼノは自分たちが今、とても危険な状況にいることに気付く。

 これだけ大々的に、構成員の者たちを倒したのだ。 
 どこかで目撃されていた可能性は十分にある。

 それが分かった瞬間。

「! 2人ともこっちだ!」

 ゼノは、とっさにモニカとアーシャの手を取って、その場から素早く移動する。

 ――次の刹那。

 ドゥゴゴゴゴゴゴゴーーーーーンッ!!

 白刃の衝撃波が、地面を抉りながら3人の近くを通り過ぎて行った。

「えっ!?」

「な……んだよっ……」

 モニカもアーシャも、突然の出来事にまったく理解が追いついていない様子だ。

「っ!」
 
 すぐさまゼノは、ホルスターから聖剣クレイモアを抜き取った。
 そして、黄昏の陽を背中に受けながら、こちらへゆっくりと歩いて来る男の姿を確認する。

 彼は、両手に長い刀を持ち、ベルを従えて歩いていた。

「ベルっ!?」

 ゼノがそう声を上げても、彼女は反応しない。
 まるで、男に意思まで奪われてしまったかのように、その瞳は虚ろだ。

 男は、むさ苦しいグレーのぐしゃぐしゃ髪の間から、据わった切れ長の目を覗かせていた。

 背丈もゼノよりだいぶ高い。
 紅のマントの下に、頑丈そうな紫色の鎧を身につけている。

 彼には、ワイアットとはまた違った只者ではない雰囲気があり、どこか生臭い血の匂いをゼノは感じ取った。

「今の技をよく見切ったな。褒めてやろう、青年」

「……っ、あなたが……ルーファウスなんですね……?」

「ほう、私の名前を知っているか。いかにも……。私がレヴェナント旅団のルーファウスだ」

 その低く発せられた声を耳にして、モニカもアーシャも目を大きく見開く。
 ルーファウスは、先程の男たちとは比較にならないほどの凶悪なオーラを身にまとっていた。

「少し外出している間に、このようなことになっていたとはな。出来の悪い部下たちを持つと、頭は苦労するものだ」

 そう言いながら、ルーファウスはベルをその場に放り投げる。

 ドスン!

「ぅっ!」

「ベル! 大丈夫か!?」

 ゼノが駆けつけようとすると、ルーファウスがベルの首筋に片方の刀を当てる。

「このエルフの命が惜しくば、それ以上は近付かないことだ」

「くっ……」

「私としても、ここで斬り捨てるようなことはしたくないのでね。コレには、金貨50枚も支払ったのだ。まだ利用しなければ勿体ないのだよ」

「ぅぅっ……」 

 ルーファウスはそう続けながら、ベルの綺麗な白銀の髪をぐちゃりと鷲掴みにする。

「逃げたのか? 奴隷の分際で、我々に歯向かおうとは実に小賢しい。あとで、きちんとお仕置きをしないとだな」

「やめてくださいっ! お願いします……ベルを解放してやってください!」

「フッ……おかしなことを言う。なぜ、君がコレの心配をするのだ? コレは、君とはなんら関わりのない奴隷のはずだ」

「っ……」

 そうルーファウスに言われると、ゼノは何も言えなくなってしまう。

 たしかに、なぜ自分はベルを助けようとしているのか。
 とっさにその答えをゼノは見つけることができない。

「というわけだ、青年。我々の高貴な職務を邪魔しないでもらいたい。君たちがどんな理由でこの場にいるかは、あえて問わないでおこう。今すぐここから消え去ると言うなら見逃す。だが、私に歯向かうようなら――」

 ルーファウスがそこまで口にした、その時。

「〈ブーメラントマホーク〉!」

 突如、アーシャがクロノスアクス・改をルーファウスに向けて投げつける。

 シュルッ、シュルッ、シュルッ!!

「チィッ」

 高速回転で迫って来る大斧を回避するために、ルーファウスは一度体勢を崩す。

「まだ終わりじゃねーぜ!」 

 アーシャは、さらに背中から小型の斧を取り出すと、それも両手で思いっきり投げつけた。

「ハぁッ!」 

 カッキーン!

 それを二本の刀でルーファウスが斬り落としているうちに、モニカが走ってその場に投げ出されたベルを救出する。
 2人の見事な連携技であった。

「……ほう……。この私を出し抜くとは、なかなかいい度胸をしている。どうしても、我々の職務の邪魔をしたいらしいな。少し君たちを甘く見ていたようだ」

「なにが職務だ! お前たちは、ただ暴力にもの言わせて、好き勝手やってるだけだぜ!」

 ベルを匿いながら、モニカもアーシャの言葉に続く。

「あなたたちの行っていることは、マリア様の教えに背く行為です。術式は、人々に危害を加えるためにあるわけではありません」

「……フハハッ! まさか、マリアの名を引き合いに出すとはな! フッ……笑わせる! あの悪女が選択を間違えたからこそ、世は間違った方向へと進み始めたのだ」

「なっ……」

「世も正せなかったような悪女の戯言を、私に向かって唱えるなど笑止千万。我々に言わせれば、マリアの行いなどぬるいのだよ。〈回復術〉だけでは世界は変わらない。この腐った世の中を変えるには、ある程度の犠牲は必要なのだからな」

「……村を焼いたり、人々を困らせることが、必要な犠牲だって言うんですか?」

 聖剣クレイモアを構えながら、真剣な表情でゼノがルーファウスに問う。

「フッ……。君たちはまだ青い。理解できなくて当然だ。我々の高貴な行いが」

 そう口にしながら、ルーファウスは二本の刀を高く掲げた。

「冒険者なんだな? 君たち3人は」

「そうです……。イニストラードの冒険者ギルドから、あなたたちを捕らえてほしいっていう依頼を受けてここまで追って来ました」

「フフッ、これまで何人もの冒険者が同じ台詞を口にしてきたぞ? しかし、どうだ。結局、君たち冒険者は、我々を1人も捕まえることができていない。私からしてみれば、冒険者なんぞは、お互いの傷を舐め合っているだけの連中にしか見えないのだがね」

「……たしかに、これまではあなたたちを捕らえることができなかったのかもしれません。でも……。また新たな被害が出るかもしれないって分かっていて、このまま放っておくことは、俺にはどうしてもできません」

「そうか……いいだろう。君たちの言い分は理解した。どうしても邪魔がしたいらしい。ならば、今すぐここで死んでもらうことにしよう」

 ルーファウスの目がスッと据わるのが、ゼノには分かった。

 そして、彼は掲げた二本の刀をクロスさせながら、思いっきり振り下ろしてくる。

「〈暴双刃〉!」

 その瞬間。
 
 ドゥゴゴゴゴゴゴゴーーーーーンッ!! 
 
 二本の白刃の衝撃波が地面を抉りながら、再びゼノへ向かって飛んでいく。

「っ!」

 ゼノは、すぐさま魔導袋の中に手を突っ込むと、聖剣に魔石をセットして詠唱した。

「《水月の崩叉撃ハイドロアッパー》」

 バッシャアァアアァァーーーンッ!!

 巨大な水の塊が放たれ、白刃の衝撃波を相殺する。
 なんとか、相手の攻撃を寸前のところで防ぐことができたようだ。

「! なんだ、それは……!?」

 一方のルーファウスはというと、ゼノがとっさに放った攻撃魔法を目の当たりにして、初めて驚きの表情を浮かべた。

「……まさか、魔法……? いや、こんなでたらめな魔法があるわけがないッ……!!」

 まだ、目の前で起ったことが信じられないのか。
 唖然と口を開いたまま、ルーファウスはゼノが手にする聖剣クレイモアへと目を向けていた。

 相手が動揺している隙に、ゼノはモニカとアーシャに声をかける。

「2人とも! その子を連れてここから遠くへ離れてくれ!」

「んぁっ? ゼノを置き去りになんかして行けるかよっ……!」

 アーシャが反対するも、ゼノは強い言葉で続ける。

「ダメだ! ここにいたらみんな危ない! お願いだから言うことを聞いてほしいんだ!」

「け、けどよ……」

 ゼノは、相手の攻撃を防ぐことができる魔石の数に限りがあることに気付いていた。

(これ以上、攻撃を繰り返されたら防ぎきれない。3人が逃げ切れるまでの間だけでも、なんとしても時間を稼がないと……)

 決意を滲ませるそんなゼノの表情を横目に見て、モニカがアーシャに声をかける。

「……行きましょう、アーシャさん」

「っ?」

「わたしたちがこの場にいたら、ゼノ様は庇いながら戦わなくちゃいけません。大丈夫です。ゼノ様なら、必ず敵を捕らえてくれるはずです。わたしはそう信じてます」

「……ッ、分かったぜ……。アタシもゼノを信じる……。頼んだぜ、ゼノ!」

「ベルちゃんは、わたしたちについて来てください。それではゼノ様。あとのことは、どうかよろしくお願いします」

 一度頭を下げると、モニカはベルの手を引きながら、アーシャと一緒にこの場を離れる。

「ぅ……」

 どこか名残惜しそうに振り返るベルの姿に目を向けながら、ゼノは3人の背中を見送るのだった。
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