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5章
第9話
「それで……。さっきの話の続きなんだけど、どうかな? これから町を襲わないでくれるか?」
『うむ、もちろんだ。以前、ゼノに止められてからは、我は人を襲ったことは一度もなかった。我はゼノによって改心したのだ。それからは、静かに森の中で暮らしていたというものだ』
「そっか、ありがとう。それが聞けてよかったよ。町を襲う気がないのならいいんだ。それじゃ、俺はこれで」
そう言って、ゼノはこの場を離れようとする。
だが。
そこでバハムートの声が上がった。
『待たれよ。ゼノ』
「?」
『人たちに迷惑をかけて、このままというのも忍びない』
「いやでも、自我を失っていたんだろう? なら仕方ないよ」
『……うむ。しかし、我が人たちを傷付けてしまったのは事実であろう? その詫びとして、我はお主に力を貸したい』
「力を貸す?」
『あの時もそう思っていたのだ。ゼノに力を貸すことができず、我は後悔をした。だから、今度こそ我は力を貸したいのだ。ゼノ、お主に』
「あの……だから、俺はその大賢者様じゃないんだけど……」
『しかし、見たところ、お主はあのゼノと遜色ない賢者としてのオーラを感じるぞ』
「賢者? 俺が……?」
その時、ゼノはハッとする。
迷宮を出る際に、エメラルドに言われた言葉がふと甦ったのだ。
〝私は信じているんだ。君が世界で最強の大賢者になるって〟
今でもその実感はないゼノであったが、以前よりかは、その言葉の意味を理解できるようになっていた。
『……それに。魔王が現れたということは、この世界は再び混沌に包まれるかもしれん。その時、我の力がきっと必要となるはずだ』
「……? え、今なんて……?」
聞き間違いだろうか。
一瞬、恐ろしい言葉を聞いたような気がして、ゼノはそう返してしまう。
『ん? 我は何かおかしなことを言ったか?』
「聞き間違いだと思うんだけど……。今、魔王がどうとかって……」
『うむ。魔王が再び現れた今、世界はまた、混沌と化す恐れがあるのでな』
「!? ち、ちょっと待ってくれっ……! 魔王が再び現れた!? なんでそんなことが……」
『以前もそうだったからな。我が自我を失ったのは、おそらく今回も、あの者に操られたことが原因だろう。つまり、魔王は再臨している可能性が非常に高いのだ』
「――ッ!?」
まるで、頭に白い靄がかかってしまったようだ。
《言語理解》の魔法をかけたというのに、バハムートが何をしゃべっているのか、ゼノは途端に分からなくなる。
だが、もちろんバハムートと意思疎通がはかれなくなってしまったわけではない。
あまりに衝撃的な話の内容に、ゼノの理解が追いつかないだけなのである。
今のゼノには、こう口にするだけで精一杯だった。
「魔王って……まさか、魔王エレシュキガルのこと、なのか……?」
『左様。あの者は、我ら魔族を意のままに操ることができる異能を所有しているのだ』
「!!」
『今回もまた、同じような手を使ったのだろう。でなければ、我が自我を失った説明がつかぬ』
「そんな……」
聖剣を地面に突き刺したまま、ゼノは膝から崩れ落ちてしまう。
魔王エレシュキガルは、大賢者ゼノが禁忌魔法を使って多くの同胞の命を犠牲にして、ようやく倒すことができた相手だ。
(その魔王が復活したかもしれない……?)
それは、ゼノにとって受け入れ難い話であった。
――けれど。
まだ確定ではないにしろ、バハムートの話しぶりからみても、おそらく間違いないのだろう、とゼノは思う。
あとは、その事実を自分が受け入れられるかどうか、というところであった。
『……? ゼノ?』
「……」
『どうしたのだ? 様子がおかしいぞ?』
「……いや……。ちょっと、魔王が再び現れたって話が受け入れられなくて……」
『そうなのか? 我たち魔族にとっては、あの者がこの地へ再臨することは、特別不思議なことではないのだが……少し配慮が足りなかったようだ』
バハムートは反省するように、頭を一度低くする。
それを見て、ゼノはふと我に返った。
(……そうだ。ここで俺がいくら思い悩んでいても、事実が変わるわけじゃない。今、自分がすべきことは……この事実を受け入れて前を見ることだ)
それが分かると、ゼノは膝を上げて立ち上がる。
そして、ふぅ……と大きく息を吐き出して、バハムートに向き直った。
「……ごめん。少し取り乱したよ」
『平気か?』
「うん、ありがとう。もう大丈夫。キミには……魔王エレシュキガルが復活したって分かるんだね?」
『うむ。我の自我を奪い、操るなどという芸当ができるのは……あの者しかおらぬからな』
その口ぶりには、歯痒さのような感情が含まれていた。
これまでは、魔王エレシュキガルは魔獣に知恵を与えて魔王軍を率いていたと考えられてきたわけだが、実際は違ったのかもしれない。
自分の意思とは関係なしに操られていたのだとすると、話は大きく変わってくる。
「ほかの獄獣たちも、それは同じなのか?」
『獄獣とは何を指しているのか我には分からないが、魔王はすべての魔族を自在にコントロールすることができるぞ』
「そっか」
とすると、かなり厄介な相手が復活したことになる。
「たしかに、魔王エレシュキガルが本当に現れたのなら、また誰かが倒さなくちゃいけないんだろうけど……」
『ゼノ、お主にはそれができるはずだ』
「俺が? いやいやっ……さすがにそれは無理だよ! 大賢者様だって、相打ちにするのがやっとだったんだから……」
自分が魔王を倒すなんて、夢物語もいいところだ。
そうゼノが思うも、バハムートは自らの主張をなかなか曲げようとしない。
『しかし、お主以上に力を持った人族は、今の時代には存在しないだろうしな』
「あり得ないって……。というか、なんでそんなことが分かるのっ?」
『500年も生きてきた我が言うのだから間違いない。我を倒せる者など、そうそういないのだぞ?』
「随分と自信満々だなぁ……」
『事実だからのぅ~』
(でも……そうだよな。これも、誰かがやらないといけないんだ)
仮にもし、魔王エレシュキガルを倒す者が現れなかったら、また人魔大戦の頃と同じ悲劇を繰り返すことになってしまう。
(……誰もやらないのなら、その時は俺がやるしかない……)
そのためにも、バハムートの提案は受けておいた方がいいと言えた。
「その……力を貸したいって言ってくれるのは、たしかに嬉しいんだけどさ。でも、具体的にはどうするんだ?」
『我と従属契約を結べば、いつでもお主の力となれるぞ』
「従属契約?」
『左様。お主ほどの魔導師なら、そのような魔法も扱えるのではないか?』
そういえば……とゼノは、先程赤クリスタルで魔石を召喚した際に、《契約》という魔石を手に入れていたことを思い出す。
(ひょっとして、それでいけたりするのかな?)
ゼノは、その場で少しバハムートに待ってもらうと、光のディスプレイに自身のステータスを表示させて、《契約》の項目をタップする。
----------
☆4《契約》
内容:対象相手と従属契約を結ぶことができる/終年
----------
(……うん。やっぱり、大丈夫そうだ)
魔導袋の中から《契約》の魔石を取り出すと、バハムートが声をかけてくる。
『それはなんだ?』
「えっと……これは魔石って言って、魔法を使う際に必要なものなんだ。この剣のくぼみに、この丸い石をセットすると、魔法を発動させることができるんだよ」
そう言いながら、ゼノはホルスターから聖剣クレイモアを抜き取ってバハムートに見せる。
『その剣で、魔法が使えるのだな?』
「うん。これも大賢者様から受け継いだものなんだ。俺の魔力値は0だから、本来なら魔法は使えないんだけど、でもこの聖剣と〔魔導ガチャ〕で入手した魔石を組み合わせれば、魔法が使えるようになって――」
『ふむ。以前のゼノとお主は、魔法の発動手順が違うようだな』
「え? ああっ……そうだね」
この時になってようやく、バハムートは、目の前にいるゼノとかつての大賢者が別人であるということを理解したようだ。
(大賢者様と俺とじゃ、まったく違う。俺はただ、大賢者様が残してくれた発動具で、かつての魔法を再現しているに過ぎないんだから……)
大賢者ゼノは、発動具などに頼らずとも、666種類ある魔法を自在に操れたのだ。
一瞬、ゼノは自身を見失いそうになる。
だが、すぐに首を振った。
(……いや、余計なことは考えないようにしよう。今は、バハムートの力を借りるために、《契約》の魔石が使えるか試すんだ)
大きく深呼吸をすると、ゼノは改めてバハムートに確認した。
「でも、本当にいいの? 俺に力を貸すってことは、この先魔族と敵対することになると思うんだけど……」
『先程も言った通りだ。我は、ゼノによって改心させられた。いや……人族の味方となるように、意識を再構築させられたとでも言うべきか。だから、お主が我の力を必要とするならば、たとえ同胞が相手であろうとも、我はお主の力となる』
「それは、魔王が相手でも同じ?」
『……ふむ、魔王エレシュキガルか。あの者は魔族ではないぞ?』
「えっ!? 魔族じゃないのかっ……?」
予想外の言葉にゼノは思わず息を呑む。
『あれは、我たちの住む世界とは異なる次元からやって来た者だ。だから、そもそも仲間などではないのだ』
〝異なる次元〟という言葉の意味はよく分からなかったが、今はバハムートの協力が確認できただけでも十分だと言えた。
魔王の正体については、今後よく調べればそれでいい。
ゼノはバハムートに礼を述べてから、最終確認を行う。
「……それじゃ、従属契約を結ぶけど、それでいいかな?」
『うむ。よろしく頼むぞ』
バハムートが頷くのを待ってから、ゼノは聖剣クレイモアに《契約》の魔石をはめ込む。
そして、剣身に手を触れると、すぐさま詠唱した。
「《契約》」
すると、その瞬間。
ポワワァァーーーン!
ゼノとバハムートの間に、緩やかな光の輪が発生する。
それは徐々に煌めきを増し、それぞれを暖かな輝きによって包み込むのだった。
「ぅっ……」
光がゆっくりと収まっていき、ゼノが目を開けると、目の前にいた巨大な翼竜は、なぜかとても小さくなっていた。
「へっ!? キミ……もしかして、バハムートっ!?」
『ふむ。我も人と従属契約を交わすのは初めてのことだが……このようになるのだな』
バハムートは、ゼノの手のひらサイズまで縮小していた。
妙にかわいらしいのは気のせいではない。
かと思えば……。
シュピーーーン!
「うわぁ!?」
バハムートは再び巨大となって、上空へと浮上する。
びっくりして、ゼノはその場に思わず尻もちをついた。
シュピーーーン!
そして、すぐに手のひらサイズまで縮小する。
『……なるほど、これは実に面白いぞ。我の意思で、大きくなったり小さくなったりできるようだ』
「そう……なんだ?」
『その気になれば、消え去ることもできそうだ』
シュポン!
そんな言葉を残すと、バハムートは宣言通りにその場から姿を消してしまう。
「えっ!? お、おいっ……バハムート……?」
シュポン!
『なんだ? 我を呼んだか?』
「どわぁぁ!?」
すぐに、手のひらサイズのバハムートが出現する。
これにはさすがに、ゼノも驚きを隠せなかった。
『何かあれば、これからは我を呼ぶといい。さすれば、我はすぐにゼノの前に姿を現すぞ』
「……あ、ありがとう……ははっ……」
まだ上手く馴染めないゼノであったが、どうやら従属契約を結ぶことは成功したようだ。
「これからよろしくな。バハムート」
『うむ。我は必ず、ゼノの助けになってみせよう』
『うむ、もちろんだ。以前、ゼノに止められてからは、我は人を襲ったことは一度もなかった。我はゼノによって改心したのだ。それからは、静かに森の中で暮らしていたというものだ』
「そっか、ありがとう。それが聞けてよかったよ。町を襲う気がないのならいいんだ。それじゃ、俺はこれで」
そう言って、ゼノはこの場を離れようとする。
だが。
そこでバハムートの声が上がった。
『待たれよ。ゼノ』
「?」
『人たちに迷惑をかけて、このままというのも忍びない』
「いやでも、自我を失っていたんだろう? なら仕方ないよ」
『……うむ。しかし、我が人たちを傷付けてしまったのは事実であろう? その詫びとして、我はお主に力を貸したい』
「力を貸す?」
『あの時もそう思っていたのだ。ゼノに力を貸すことができず、我は後悔をした。だから、今度こそ我は力を貸したいのだ。ゼノ、お主に』
「あの……だから、俺はその大賢者様じゃないんだけど……」
『しかし、見たところ、お主はあのゼノと遜色ない賢者としてのオーラを感じるぞ』
「賢者? 俺が……?」
その時、ゼノはハッとする。
迷宮を出る際に、エメラルドに言われた言葉がふと甦ったのだ。
〝私は信じているんだ。君が世界で最強の大賢者になるって〟
今でもその実感はないゼノであったが、以前よりかは、その言葉の意味を理解できるようになっていた。
『……それに。魔王が現れたということは、この世界は再び混沌に包まれるかもしれん。その時、我の力がきっと必要となるはずだ』
「……? え、今なんて……?」
聞き間違いだろうか。
一瞬、恐ろしい言葉を聞いたような気がして、ゼノはそう返してしまう。
『ん? 我は何かおかしなことを言ったか?』
「聞き間違いだと思うんだけど……。今、魔王がどうとかって……」
『うむ。魔王が再び現れた今、世界はまた、混沌と化す恐れがあるのでな』
「!? ち、ちょっと待ってくれっ……! 魔王が再び現れた!? なんでそんなことが……」
『以前もそうだったからな。我が自我を失ったのは、おそらく今回も、あの者に操られたことが原因だろう。つまり、魔王は再臨している可能性が非常に高いのだ』
「――ッ!?」
まるで、頭に白い靄がかかってしまったようだ。
《言語理解》の魔法をかけたというのに、バハムートが何をしゃべっているのか、ゼノは途端に分からなくなる。
だが、もちろんバハムートと意思疎通がはかれなくなってしまったわけではない。
あまりに衝撃的な話の内容に、ゼノの理解が追いつかないだけなのである。
今のゼノには、こう口にするだけで精一杯だった。
「魔王って……まさか、魔王エレシュキガルのこと、なのか……?」
『左様。あの者は、我ら魔族を意のままに操ることができる異能を所有しているのだ』
「!!」
『今回もまた、同じような手を使ったのだろう。でなければ、我が自我を失った説明がつかぬ』
「そんな……」
聖剣を地面に突き刺したまま、ゼノは膝から崩れ落ちてしまう。
魔王エレシュキガルは、大賢者ゼノが禁忌魔法を使って多くの同胞の命を犠牲にして、ようやく倒すことができた相手だ。
(その魔王が復活したかもしれない……?)
それは、ゼノにとって受け入れ難い話であった。
――けれど。
まだ確定ではないにしろ、バハムートの話しぶりからみても、おそらく間違いないのだろう、とゼノは思う。
あとは、その事実を自分が受け入れられるかどうか、というところであった。
『……? ゼノ?』
「……」
『どうしたのだ? 様子がおかしいぞ?』
「……いや……。ちょっと、魔王が再び現れたって話が受け入れられなくて……」
『そうなのか? 我たち魔族にとっては、あの者がこの地へ再臨することは、特別不思議なことではないのだが……少し配慮が足りなかったようだ』
バハムートは反省するように、頭を一度低くする。
それを見て、ゼノはふと我に返った。
(……そうだ。ここで俺がいくら思い悩んでいても、事実が変わるわけじゃない。今、自分がすべきことは……この事実を受け入れて前を見ることだ)
それが分かると、ゼノは膝を上げて立ち上がる。
そして、ふぅ……と大きく息を吐き出して、バハムートに向き直った。
「……ごめん。少し取り乱したよ」
『平気か?』
「うん、ありがとう。もう大丈夫。キミには……魔王エレシュキガルが復活したって分かるんだね?」
『うむ。我の自我を奪い、操るなどという芸当ができるのは……あの者しかおらぬからな』
その口ぶりには、歯痒さのような感情が含まれていた。
これまでは、魔王エレシュキガルは魔獣に知恵を与えて魔王軍を率いていたと考えられてきたわけだが、実際は違ったのかもしれない。
自分の意思とは関係なしに操られていたのだとすると、話は大きく変わってくる。
「ほかの獄獣たちも、それは同じなのか?」
『獄獣とは何を指しているのか我には分からないが、魔王はすべての魔族を自在にコントロールすることができるぞ』
「そっか」
とすると、かなり厄介な相手が復活したことになる。
「たしかに、魔王エレシュキガルが本当に現れたのなら、また誰かが倒さなくちゃいけないんだろうけど……」
『ゼノ、お主にはそれができるはずだ』
「俺が? いやいやっ……さすがにそれは無理だよ! 大賢者様だって、相打ちにするのがやっとだったんだから……」
自分が魔王を倒すなんて、夢物語もいいところだ。
そうゼノが思うも、バハムートは自らの主張をなかなか曲げようとしない。
『しかし、お主以上に力を持った人族は、今の時代には存在しないだろうしな』
「あり得ないって……。というか、なんでそんなことが分かるのっ?」
『500年も生きてきた我が言うのだから間違いない。我を倒せる者など、そうそういないのだぞ?』
「随分と自信満々だなぁ……」
『事実だからのぅ~』
(でも……そうだよな。これも、誰かがやらないといけないんだ)
仮にもし、魔王エレシュキガルを倒す者が現れなかったら、また人魔大戦の頃と同じ悲劇を繰り返すことになってしまう。
(……誰もやらないのなら、その時は俺がやるしかない……)
そのためにも、バハムートの提案は受けておいた方がいいと言えた。
「その……力を貸したいって言ってくれるのは、たしかに嬉しいんだけどさ。でも、具体的にはどうするんだ?」
『我と従属契約を結べば、いつでもお主の力となれるぞ』
「従属契約?」
『左様。お主ほどの魔導師なら、そのような魔法も扱えるのではないか?』
そういえば……とゼノは、先程赤クリスタルで魔石を召喚した際に、《契約》という魔石を手に入れていたことを思い出す。
(ひょっとして、それでいけたりするのかな?)
ゼノは、その場で少しバハムートに待ってもらうと、光のディスプレイに自身のステータスを表示させて、《契約》の項目をタップする。
----------
☆4《契約》
内容:対象相手と従属契約を結ぶことができる/終年
----------
(……うん。やっぱり、大丈夫そうだ)
魔導袋の中から《契約》の魔石を取り出すと、バハムートが声をかけてくる。
『それはなんだ?』
「えっと……これは魔石って言って、魔法を使う際に必要なものなんだ。この剣のくぼみに、この丸い石をセットすると、魔法を発動させることができるんだよ」
そう言いながら、ゼノはホルスターから聖剣クレイモアを抜き取ってバハムートに見せる。
『その剣で、魔法が使えるのだな?』
「うん。これも大賢者様から受け継いだものなんだ。俺の魔力値は0だから、本来なら魔法は使えないんだけど、でもこの聖剣と〔魔導ガチャ〕で入手した魔石を組み合わせれば、魔法が使えるようになって――」
『ふむ。以前のゼノとお主は、魔法の発動手順が違うようだな』
「え? ああっ……そうだね」
この時になってようやく、バハムートは、目の前にいるゼノとかつての大賢者が別人であるということを理解したようだ。
(大賢者様と俺とじゃ、まったく違う。俺はただ、大賢者様が残してくれた発動具で、かつての魔法を再現しているに過ぎないんだから……)
大賢者ゼノは、発動具などに頼らずとも、666種類ある魔法を自在に操れたのだ。
一瞬、ゼノは自身を見失いそうになる。
だが、すぐに首を振った。
(……いや、余計なことは考えないようにしよう。今は、バハムートの力を借りるために、《契約》の魔石が使えるか試すんだ)
大きく深呼吸をすると、ゼノは改めてバハムートに確認した。
「でも、本当にいいの? 俺に力を貸すってことは、この先魔族と敵対することになると思うんだけど……」
『先程も言った通りだ。我は、ゼノによって改心させられた。いや……人族の味方となるように、意識を再構築させられたとでも言うべきか。だから、お主が我の力を必要とするならば、たとえ同胞が相手であろうとも、我はお主の力となる』
「それは、魔王が相手でも同じ?」
『……ふむ、魔王エレシュキガルか。あの者は魔族ではないぞ?』
「えっ!? 魔族じゃないのかっ……?」
予想外の言葉にゼノは思わず息を呑む。
『あれは、我たちの住む世界とは異なる次元からやって来た者だ。だから、そもそも仲間などではないのだ』
〝異なる次元〟という言葉の意味はよく分からなかったが、今はバハムートの協力が確認できただけでも十分だと言えた。
魔王の正体については、今後よく調べればそれでいい。
ゼノはバハムートに礼を述べてから、最終確認を行う。
「……それじゃ、従属契約を結ぶけど、それでいいかな?」
『うむ。よろしく頼むぞ』
バハムートが頷くのを待ってから、ゼノは聖剣クレイモアに《契約》の魔石をはめ込む。
そして、剣身に手を触れると、すぐさま詠唱した。
「《契約》」
すると、その瞬間。
ポワワァァーーーン!
ゼノとバハムートの間に、緩やかな光の輪が発生する。
それは徐々に煌めきを増し、それぞれを暖かな輝きによって包み込むのだった。
「ぅっ……」
光がゆっくりと収まっていき、ゼノが目を開けると、目の前にいた巨大な翼竜は、なぜかとても小さくなっていた。
「へっ!? キミ……もしかして、バハムートっ!?」
『ふむ。我も人と従属契約を交わすのは初めてのことだが……このようになるのだな』
バハムートは、ゼノの手のひらサイズまで縮小していた。
妙にかわいらしいのは気のせいではない。
かと思えば……。
シュピーーーン!
「うわぁ!?」
バハムートは再び巨大となって、上空へと浮上する。
びっくりして、ゼノはその場に思わず尻もちをついた。
シュピーーーン!
そして、すぐに手のひらサイズまで縮小する。
『……なるほど、これは実に面白いぞ。我の意思で、大きくなったり小さくなったりできるようだ』
「そう……なんだ?」
『その気になれば、消え去ることもできそうだ』
シュポン!
そんな言葉を残すと、バハムートは宣言通りにその場から姿を消してしまう。
「えっ!? お、おいっ……バハムート……?」
シュポン!
『なんだ? 我を呼んだか?』
「どわぁぁ!?」
すぐに、手のひらサイズのバハムートが出現する。
これにはさすがに、ゼノも驚きを隠せなかった。
『何かあれば、これからは我を呼ぶといい。さすれば、我はすぐにゼノの前に姿を現すぞ』
「……あ、ありがとう……ははっ……」
まだ上手く馴染めないゼノであったが、どうやら従属契約を結ぶことは成功したようだ。
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しまうま弁当
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魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。