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5章
第10話
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それからゼノは、小さくなったバハムートと一緒に来た道を戻っていた。
しばらくそのまま進んで行くと、白銀の鎧を身につけた宮廷近衛師団の者たちの姿が見えてくる。
彼らは、なだらかな平原まで後退し、そこで態勢を立て直しているようだった。
その中に、せわしなく動き回るモニカの姿をゼノは発見する。
「今そちらへ向かいますっ! 少々お待ちください~!」
彼女は簡易的な野戦教会を立ち上げ、衛生兵と共に負傷した師団員たちに〈回復術〉を施していた。
『ゼノ、あの者たちは?』
「あの人たちは、宮廷近衛師団って言うんだ。王国最強のエキスパートだよ。キミの暴走を止めるために、ここまでやって来たんだ」
『ふむ、そうか……。だいぶ負傷しているようだな。我はお主ら人族に、本当に迷惑をかけてしまったようだ』
「大丈夫。あそこにいる女の子はモニカって言って、超優秀な聖女だから。みんなすぐに良くなるはずだよ」
『あの少女が……』
バハムートがモニカに視線を向けたところで。
「!? ゼノ……ッ!」
こちらの存在に気付いたアーシャが手を大きく振ってくる。
「おーいっ!! ゼノぉぉーーーー!!」
彼女の隣りにはベルの姿もあった。
ゼノはバハムートと一緒に、駆け足で2人のもとへと向かう。
「……っ、お兄ちゃん……?」
その場で横になっていたベルは、ゼノの姿に気付くとゆっくり起き上がった。
そして、すぐに訊ねてくる。
「……バハムートは?」
「うん。いろいろあったけど、なんとかなったよ」
「マジかよ!? さっき、大湿原の方角で空からドカドカと流星が降り注いでたから、絶対にゼノが何かすっげー魔法使って、バハムートを倒したんだって思ったぜ!!」
「バハムートを倒しちゃうなんて……お兄ちゃん、すごいすごいっ♪」
興奮気味に手を握ってくる2人に対して、ゼノは弁解する。
「いや、倒したわけじゃないんだ。俺はただ……」
『何を言っておる? お主はしっかりと我を倒したではないか』
「……え? なに、その子……」
その時。
ベルがゼノの肩に乗っているバハムートの存在に気付く。
「この小さくなった彼がバハムートなんだ。わけあって、従属契約を結ぶことになって……」
「ハ……あぁぁっ!? コイツ、生きてたのか! 許せねぇっ~~!!」
「お、おい!?」
背中に装着したクロノスアクス・改を引き抜くと、アーシャはバハムートに目がけてそれを斬りつける。
『ほう』
不意打ちにもかかわらず、バハムートはくるりと宙に舞ってそれを簡単に回避した。
「チッ!」
「待て待てアーシャっ! バハムートはもう俺たちに敵意はないんだ……!」
「なんで、んなことが分かんだよ! この獄獣は今ここで倒しておかねーと!」
「でもアーシャ姉……この子、小さいよ?」
「んぁっ?」
そこでようやく、アーシャは目の前の相手が小さくなっていることに気付いたようだ。
「マスコットみたいでかわいい」
「い、言われてみりゃ……そうかもしれねーが……」
「こんな小型なら、脅威はないんじゃない? それに、お兄ちゃんと従属契約したなら、もう襲って来ないと思うし……」
「従属契約したって、ホントなのかよ……ゼノ!?」
『すまぬ。我は、お主らに多大な危害を加えてしまったようだ。許してほしい』
バハムートはぺこりと頭と尻尾を曲げてお辞儀する。
その姿を見て、アーシャは気が削がれてしまったようだ。
「……んだよ、こいつ。妙にかわいくなりやがって……」
「この子、性格まで変わった?」
『我は、元々このような性格なのだ』
「つか、どーゆうことなんだぜ!? いろいろって何があったっ?」
「うん、そうだよな。ちゃんと順を追って話すよ」
ゼノはそこで、アーシャとベルにこれまでの経緯を簡単に説明することにした。
◆
「……ちょ、ちょっと待て! 今なんて言ったんだッ……!?」
なだらかな平原に、アーシャの大きな声が響き渡る。
「おい、まさか……魔王って言ったのか……?」
「ああ。バハムートは魔王エレシュキガルに操られていたんだ。だから、あんな風に自我を失って――」
「待てよ、ゼノ! それって……魔王がまたこの世界に現れたってことだろッ……。んなことが、あるわけねーぜ……!」
『いや、おそらく間違いない。本来、ウルザズ大陸に棲息する魔族は、結界を越えてメルカディアン大陸へ渡って来ることはできぬのだ。我を自在に操り、結界までも破ってしまう……。そんな芸当ができるのは……』
「……魔王しかいないってこと?」
ベルが不安そうに訊ねると、バハムートはこくんと頷いた。
「なんでなんだよ! ゼノはどうして、んな落ちついてられんだっ!?」
「俺もめちゃくちゃ動揺してるって」
魔王エレシュキガルが、再びこの世界に降臨したのだ。
これで、動揺しないはずがない。
けれど、今はそれよりも気になることが1つあった。
「2人とも。申し訳ないけど、話は一旦これくらいにさせてもらうよ」
「あ! おいゼノっ……!?」
◆
「はい、これでおしまいです。すぐに良くなりますからね~♪」
「ううぅ……すまねぇ、お嬢ちゃん……」
「聖女の癒しは偉大ですから♪ それでは失礼します」
モニカはぺこりと頭を下げて負傷した師団員のもとを後にすると、ふぅーと小さく息を吐く。
これで、深い傷を負った者の手当は大体が終了した。
「(……あとは衛生兵の方たちが、皆さんにポーションを配布してくれるはずですね。ゼノ様……ご無事でしょうか……)」
サザンギル大湿原の方へモニカは一度目を向ける。
先程、ものすごい数の流星が大湿原の上空から降り注いでいたのだ。
それにモニカは気付いていた。
このままアーシャとベルの様子を見に戻ろうとするモニカだったが、遠くの方から自分を呼ぶ声が響く。
「おーい、モニカーーっ!」
「……っ、え? ゼノ様ッ……!?」
そこには、手を振って駆けつけて来るゼノの姿があった。
ゼノは、野戦教会で手当てをするモニカの姿を見つけると、すぐに彼女のもとまで駆けつける。
同じように、こちらの存在に気付いたモニカが駆け出して来て、ゼノは彼女に思いっきり抱きつかれた。
「ゼノ様あぁぁ~~~っ!!」
「どぉっ!?」
「ご無事だったんですね!?」
「う、うんっ……」
「わたし、すっ~~ごく心配してましたよぉ……! さっき大湿原の方角にものすごい数の流星が落ちてきて……。でも、ゼノ様なら必ず戻って来てくれるって信じてました。ゼノ様がいらしたってことは……バハムートを倒したんですね!」
「あ、いや……。というか……く、苦しいから一度離れてくれないっ……?」
先程から、モニカの豊満な胸がむにぃむにぃと当たって大変なことになっていた。
「え~っ? わたしは、このままずっとゼノ様の傍でくっ付いていたいんですけどぉ~」
「こんなところ、アーシャとベルには見せられないだろ……」
多分、アーシャなんかは、斧で即斬りかかってくるに違いない。
「はぁ……分かりましたよ~。〝皆さん〟のゼノ様ですもんね~?」
どこか不貞腐れたようにモニカがゼノから離れる。
「むぅ~心配して損しましたよぉ……」
『……ふむ、この者はお主の細君か何かなのか?』
「えぇ~? 細君だなんてそんなぁ~。まぁでも、わたしはゼノ様となら、いつでも婚約する心構えはありますけど♪」
『フォフォッ。なんとも羨ましい限りだぞ、ゼノよ。お主の周りには、実に麗人が多い』
「たしかに……それはそうなんだよね」
自分にはもったいないくらいだ、とゼノは常々思っていた。
そんなことを考えていると、モニカが口をぽかんと開けて驚きの声を上げる。
「……え」
「ん? どうした?」
「ゼ……ゼノ様ぁぁっ!? そこに小さな幻獣が浮かんでますぅッ!! しかも、人の言葉をしゃべって…………御成敗を~~!!」
「あ、違うんだ。彼は幻獣じゃなくて……バハムートなんだよ」
「バハムート!? な、な……なんで、こんな所にぃぃい~~!?」
モニカは、目をぐるぐると回しながら大きく混乱する。
それから彼女に経緯を理解してもらうには、しばらくの時間を要した。
しばらくそのまま進んで行くと、白銀の鎧を身につけた宮廷近衛師団の者たちの姿が見えてくる。
彼らは、なだらかな平原まで後退し、そこで態勢を立て直しているようだった。
その中に、せわしなく動き回るモニカの姿をゼノは発見する。
「今そちらへ向かいますっ! 少々お待ちください~!」
彼女は簡易的な野戦教会を立ち上げ、衛生兵と共に負傷した師団員たちに〈回復術〉を施していた。
『ゼノ、あの者たちは?』
「あの人たちは、宮廷近衛師団って言うんだ。王国最強のエキスパートだよ。キミの暴走を止めるために、ここまでやって来たんだ」
『ふむ、そうか……。だいぶ負傷しているようだな。我はお主ら人族に、本当に迷惑をかけてしまったようだ』
「大丈夫。あそこにいる女の子はモニカって言って、超優秀な聖女だから。みんなすぐに良くなるはずだよ」
『あの少女が……』
バハムートがモニカに視線を向けたところで。
「!? ゼノ……ッ!」
こちらの存在に気付いたアーシャが手を大きく振ってくる。
「おーいっ!! ゼノぉぉーーーー!!」
彼女の隣りにはベルの姿もあった。
ゼノはバハムートと一緒に、駆け足で2人のもとへと向かう。
「……っ、お兄ちゃん……?」
その場で横になっていたベルは、ゼノの姿に気付くとゆっくり起き上がった。
そして、すぐに訊ねてくる。
「……バハムートは?」
「うん。いろいろあったけど、なんとかなったよ」
「マジかよ!? さっき、大湿原の方角で空からドカドカと流星が降り注いでたから、絶対にゼノが何かすっげー魔法使って、バハムートを倒したんだって思ったぜ!!」
「バハムートを倒しちゃうなんて……お兄ちゃん、すごいすごいっ♪」
興奮気味に手を握ってくる2人に対して、ゼノは弁解する。
「いや、倒したわけじゃないんだ。俺はただ……」
『何を言っておる? お主はしっかりと我を倒したではないか』
「……え? なに、その子……」
その時。
ベルがゼノの肩に乗っているバハムートの存在に気付く。
「この小さくなった彼がバハムートなんだ。わけあって、従属契約を結ぶことになって……」
「ハ……あぁぁっ!? コイツ、生きてたのか! 許せねぇっ~~!!」
「お、おい!?」
背中に装着したクロノスアクス・改を引き抜くと、アーシャはバハムートに目がけてそれを斬りつける。
『ほう』
不意打ちにもかかわらず、バハムートはくるりと宙に舞ってそれを簡単に回避した。
「チッ!」
「待て待てアーシャっ! バハムートはもう俺たちに敵意はないんだ……!」
「なんで、んなことが分かんだよ! この獄獣は今ここで倒しておかねーと!」
「でもアーシャ姉……この子、小さいよ?」
「んぁっ?」
そこでようやく、アーシャは目の前の相手が小さくなっていることに気付いたようだ。
「マスコットみたいでかわいい」
「い、言われてみりゃ……そうかもしれねーが……」
「こんな小型なら、脅威はないんじゃない? それに、お兄ちゃんと従属契約したなら、もう襲って来ないと思うし……」
「従属契約したって、ホントなのかよ……ゼノ!?」
『すまぬ。我は、お主らに多大な危害を加えてしまったようだ。許してほしい』
バハムートはぺこりと頭と尻尾を曲げてお辞儀する。
その姿を見て、アーシャは気が削がれてしまったようだ。
「……んだよ、こいつ。妙にかわいくなりやがって……」
「この子、性格まで変わった?」
『我は、元々このような性格なのだ』
「つか、どーゆうことなんだぜ!? いろいろって何があったっ?」
「うん、そうだよな。ちゃんと順を追って話すよ」
ゼノはそこで、アーシャとベルにこれまでの経緯を簡単に説明することにした。
◆
「……ちょ、ちょっと待て! 今なんて言ったんだッ……!?」
なだらかな平原に、アーシャの大きな声が響き渡る。
「おい、まさか……魔王って言ったのか……?」
「ああ。バハムートは魔王エレシュキガルに操られていたんだ。だから、あんな風に自我を失って――」
「待てよ、ゼノ! それって……魔王がまたこの世界に現れたってことだろッ……。んなことが、あるわけねーぜ……!」
『いや、おそらく間違いない。本来、ウルザズ大陸に棲息する魔族は、結界を越えてメルカディアン大陸へ渡って来ることはできぬのだ。我を自在に操り、結界までも破ってしまう……。そんな芸当ができるのは……』
「……魔王しかいないってこと?」
ベルが不安そうに訊ねると、バハムートはこくんと頷いた。
「なんでなんだよ! ゼノはどうして、んな落ちついてられんだっ!?」
「俺もめちゃくちゃ動揺してるって」
魔王エレシュキガルが、再びこの世界に降臨したのだ。
これで、動揺しないはずがない。
けれど、今はそれよりも気になることが1つあった。
「2人とも。申し訳ないけど、話は一旦これくらいにさせてもらうよ」
「あ! おいゼノっ……!?」
◆
「はい、これでおしまいです。すぐに良くなりますからね~♪」
「ううぅ……すまねぇ、お嬢ちゃん……」
「聖女の癒しは偉大ですから♪ それでは失礼します」
モニカはぺこりと頭を下げて負傷した師団員のもとを後にすると、ふぅーと小さく息を吐く。
これで、深い傷を負った者の手当は大体が終了した。
「(……あとは衛生兵の方たちが、皆さんにポーションを配布してくれるはずですね。ゼノ様……ご無事でしょうか……)」
サザンギル大湿原の方へモニカは一度目を向ける。
先程、ものすごい数の流星が大湿原の上空から降り注いでいたのだ。
それにモニカは気付いていた。
このままアーシャとベルの様子を見に戻ろうとするモニカだったが、遠くの方から自分を呼ぶ声が響く。
「おーい、モニカーーっ!」
「……っ、え? ゼノ様ッ……!?」
そこには、手を振って駆けつけて来るゼノの姿があった。
ゼノは、野戦教会で手当てをするモニカの姿を見つけると、すぐに彼女のもとまで駆けつける。
同じように、こちらの存在に気付いたモニカが駆け出して来て、ゼノは彼女に思いっきり抱きつかれた。
「ゼノ様あぁぁ~~~っ!!」
「どぉっ!?」
「ご無事だったんですね!?」
「う、うんっ……」
「わたし、すっ~~ごく心配してましたよぉ……! さっき大湿原の方角にものすごい数の流星が落ちてきて……。でも、ゼノ様なら必ず戻って来てくれるって信じてました。ゼノ様がいらしたってことは……バハムートを倒したんですね!」
「あ、いや……。というか……く、苦しいから一度離れてくれないっ……?」
先程から、モニカの豊満な胸がむにぃむにぃと当たって大変なことになっていた。
「え~っ? わたしは、このままずっとゼノ様の傍でくっ付いていたいんですけどぉ~」
「こんなところ、アーシャとベルには見せられないだろ……」
多分、アーシャなんかは、斧で即斬りかかってくるに違いない。
「はぁ……分かりましたよ~。〝皆さん〟のゼノ様ですもんね~?」
どこか不貞腐れたようにモニカがゼノから離れる。
「むぅ~心配して損しましたよぉ……」
『……ふむ、この者はお主の細君か何かなのか?』
「えぇ~? 細君だなんてそんなぁ~。まぁでも、わたしはゼノ様となら、いつでも婚約する心構えはありますけど♪」
『フォフォッ。なんとも羨ましい限りだぞ、ゼノよ。お主の周りには、実に麗人が多い』
「たしかに……それはそうなんだよね」
自分にはもったいないくらいだ、とゼノは常々思っていた。
そんなことを考えていると、モニカが口をぽかんと開けて驚きの声を上げる。
「……え」
「ん? どうした?」
「ゼ……ゼノ様ぁぁっ!? そこに小さな幻獣が浮かんでますぅッ!! しかも、人の言葉をしゃべって…………御成敗を~~!!」
「あ、違うんだ。彼は幻獣じゃなくて……バハムートなんだよ」
「バハムート!? な、な……なんで、こんな所にぃぃい~~!?」
モニカは、目をぐるぐると回しながら大きく混乱する。
それから彼女に経緯を理解してもらうには、しばらくの時間を要した。
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