女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ

文字の大きさ
50 / 77
第2章

24話 レモンSIDE

しおりを挟む
「この青銅の剣は飾りみたいなものでして。実はダンジョンのモンスターはほとんど魔剣で倒してました」

「だから、そっちの剣はあまり使わなかったんだ?」

 そこでレモンは気づく。
 肝心の魔剣をゲントがどこにも持っていないことに。

 それどころか、そんなものを使っている様子をこれまで一度も目にしたことがなかった。

「えっと、魔剣はヒト族の目には視えないみたいでして・・・」

「視えない?」

「魔王と同じですね。だから、レモンさんには俺がなにもしてないように映ってたんだと思います」

「なるほど・・・」

 その話を聞いて一瞬納得しかけるも、レモンはある矛盾に気づく。
 
(え? じゃあなんでゲントは魔剣が使えるんだろう? ヒト族には視えないはずなのに・・・)

 ただそこまで深くレモンは詮索しなかった。
 
 姿の視えないモンスターが視えた彼なのだから、視えない魔剣が扱えたとしてもべつに不思議ではなかったからだ。

「ゲントの強さが本物だってことはよーく理解できたよ」

「ありがとうございます。それと、これまで黙っててごめんなさい」

「べつに謝ることじゃないよ。こうして助けてくれたんだし。それだけでウチは十分。そろそろ戻ろっか」

「そうですね」

 見ればあたりは徐々に陽が傾きはじめていた。

「帰りは歩きになっちゃいますけど、疲れてないですか?」

「へーきだよ?」

「足が疲れるようでしたら言ってください。背負うことくらいはできると思いますので」

「だいじょーぶ。普段から鍛えてるし」

「わかりました。それじゃ、ゆっくり歩いて帰りましょう」

 それからレモンはゲントとともに大草原を歩いてエンペルト領へと向かった。

 その間、ほとんど会話らしい会話はなかったが。

 それでも。
 そんな一時がレモンにとってはとても心地が良いものだった。



 ***



 2人がエンペルト領の領都――ロゲスに到着する頃にはすでに夜となっていた。

 そのままいつもたむろしている酒場へと向かう。
 この酒場はバヌーの父親である領主が所有する店のため一般人は近寄らない。
 
 人目を気にせず騒ぐには打ってつけの場所だった。

 カウンターではエール片手に騒ぐバヌーたち3人の姿があった。
 すでにかなり出来上がっているようだ。

「おっ! ゲントのおっさん~! ちゃんと帰って来たじゃねぇ~かぁ!」

「お疲れさまです、皆さん。レモンさんと一緒にクエストをこなしてきました」

「でかしたぞぉ~~!!」

 バヌーがふらふらと千鳥足でレモンのもとまでやって来ると、首に腕をまわしながら耳打ちしてくる。

「おいレモンぁ~。んであのおっさんよぉ、どうだったー?」

「間違いなかったよ」

「あんっ?」

「本物ってこと」

「くっくっく~! そっかぁそっかぁ~! 報告ご苦労さん~~!!」

 その間、ゲントはダンジョンで拾ったアイテムをすべてジョネスに渡していた。
 それを確認すると、ジョネスがバヌーに手を振る。

「間違いない。戦利品はぜんぶ戴いたぞ」

「よぉーし! 『幻影飛魔天』をクリアしたってことはよぉ、オレサマがきちーんとギルドに報告しておいてやっからぁ! おっさん、あんたは今日はゆっくり休んでくれやぁ~!!」

「すみませんが、よろしくお願いします」

「あいよ。これが今日のあんたの報酬ね」

「ありがとうございます」

 ゲントはアウラから報酬の金貨2枚を受け取った。

「また次も頼むぜぇ、ゲントのおっさん~!」

「はい。それでは連絡をお待ちしてます。レモンさんも今日は疲れたと思いますので、ゆっくり休んでください」

「ウチはべつに・・・。疲れてなんかないよ」

「そうですか。それではまた」

 ゲントは一礼してからその場を去っていった。
 
 その姿を見送ったあと。
 レモンはバヌーに声をかける。

「ちょっといい」

「あんっ?」

「いくらなんでも報酬少なすぎだよね?」

「ハァ? 先に金貨3枚も渡してんだぞぉ? いーんだよぉ、あんなもんでよぉ~!」

 レモンは知っていた。
 これからバヌーがその10倍近い報酬を冒険者ギルドから受け取るということを。

「あのおっさんはバカだからなぁ~。ひゃはははぁ! 気分よく帰って行きやがったぜぇっ~!」 

「でも、やっぱり本来の報酬分は・・・」

「んあぁぁぁ~!? てめぇレモンぁ! オレサマに逆らうってのかぁ、オイィ? ガキどもがよぉ! どーなってもいいってのかぁぁ!?」

 ガシャン!!

 カウンターにグラスを叩きつけると、バヌーはレモンの胸倉に掴みかかる。

「べつに・・・」

 その光景を見てジョネスもアウラも面白おかしそうに野次を飛ばした。

「バヌー。そのへんにしておいてやれよぉ。そいつ泣きそうじゃねーか、ひっひっひ」

「アタイは1発ぐらい殴ってもいいんじゃね?って思うけどねぇ~。その女、いつも生意気なんだし~」

「てめーらは黙ってろぉ! んでどーなんだァ? オレサマに逆らうってのかぁぁ? オイッ! レモンァァ!!」

「ち、違う・・・。逆らわないよ・・・」

 レモンのその言葉を聞いて、バヌーは満足そうにエールをあおる。

「ひゃははは! てめぇはそれでいーんだよぉ~! 余計なことはなーんも考えなくて~。ただオレサマの命令に従ってりゃいいんだからよぉ! ハハハッ!!」

 それからバヌーたち3人はバカ騒ぎに戻る。

(ゲント・・・)

 レモンはひとり、ゲントが消えていったドアに静かに目を向けるのだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...