俺とシロ

マネキネコ

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63 単独突破

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 メアリーはニコニコだし、シロはフリフリだし。(ボス部屋の前です)

 さあ、どうすんのよ俺?

 「…………」

 否! 流されてはいか~ん。

 ――その前にメシだ。

 俺たちは昼食をとることにした。

 今日はたまたま市場でコッペパンを見つけたので、そのコッペパンにナイフで切れ目を入れ串焼くしやき肉と葉野菜を一緒にはさんで食べてみることにした。

 もちろんシロも同じものを作ってあげている。仲間外なかまはずれはいけない。

 俺とメアリーは手に持って、シロはいつものようにフライパンに入れて食べている。

 なかなか美味しい。美味しいのだが……。

 やっぱり、塩だけではちょっとさびしいかな。

 (ケチャップかマヨネーズが欲しくなるよなぁ)

 だけどトマトは見たことないし、おなんか作ってないだろう。

 いや、ビネガーがあればワンチャンあるのか。

 ただ、そのビネガーで作ったマヨネーズがうまいかどうか?

 カボスみたいな酸っぱいみかんの方がいけるんじゃね?

 「…………!」

 あっ、いかんいかん。

 今はそんなことを考えている場合ではなかった。

 ボスへの挑戦をどうやってあきらめさせるかだよな。

 う~ん、お昼寝中にこっそり家に帰るのも、ひとつの手なんだけど……。

 しばらく口をきいてくれなくなるかもな~。

 おおっ寝たか。

 今日もはりきってモンスターを倒してたからなぁ。

 どれ、――鑑定!


 メアリー・クルーガー Lv10

 年齢    6
 状態   通常
 HP   39/40
 MP   51/33(+20)
 筋力    24
 防御    17
 魔防    21
 敏捷    32(+5)
 器用    19
 知力    22

【スキル】   魔法適性(光・風・水・聖) 魔力操作(4) 槍術(1)
【魔法】    光魔法(2)  水魔法(3)  聖魔法 (1)
        風魔法(3)  身体強化(1)
【称号】    大公の庶子、シロの妹、ゲンの家族、兎の天敵、
【加護】    ユカリーナ・サーメクス


 やりが良く振れてると思ったらスキルが生えていたか。

 カニサイ先生の稽古けいこでもがんばっていたからな。

 う~ん伸びてる。伸びてるけどまだ届いてないよなぁ。

 あらためてボス戦を考えていく。

 魔法も有効だけど今回は数が多いからね。メアリーのMPだと広域魔法で2発というところか。

 ――やっぱりきびしい。

 ゴブリンライダーまでは何とかいけるだろうが、そのあとにゴブリンキングが控えているしな。

 体力がきちゃうだろう。

 そのように考え込んでいると、いつの間にかシロが目の前にお座りしていた。

 「ん…………」

 俺はシロの頭をでながら、

 「シロはどう思う。やっぱメアリーには無理だよなぁ」

 『いける、あそぶ、まもる、ふよ、けっかい、うれしい』

 「…………!?」

 おおっ、なるほど付与ふよか! その手があったか。

 防御結界ぼうぎょけっかいを付与してやるんだな。

 それならあるいは……。

 う~ん、しかしなぁ。

 『いけるよ!』とでも言うかのように、シロはなんども頷いている。

 そうか……、じゃあやらせてみるか。

 ダメなら次があるわけだしな。よ~し!

 俺が決意を固めていると、ちょうどメアリーが起きてきた。

 目をこすりながらよたよたと近寄ってきて、ポスンと俺のひざの上にすわる。

 ――かわいい。

 こうして頭をでているとさっきの決意もゆるんでしまうよなぁ。





 俺たちはボス戦に向けて最終的なブリーフィングに入った。

 まずは『勝つ』イメージからだ。

 その上でどのように展開てんかいさせていくか。

 ゴブリンライダーをいかにまとめて倒すのか。

 ………………

 大まかな戦略せんりゃくれたはずだ。

 思い通りにいくとは限らないが、これも経験だ。力尽ちからつきるまでやってみればいい。

 シロに結界魔法を付与してもらったメアリー。

 俺たちに手を振ると巨大な鉄扉の前にちょこんと立った。

 ――ゴゴゴゴゴゴゴッ!

 扉が奥へ開いていき、いよいよ戦闘開始である。

 ボス部屋に入ったメアリーはひとりでトコトコ中を進んでいく。

 ゴブリンライダー共は半円状はんえんじょう突撃体制とつげきたいせいのまま動かない。

 (今回も完全なる舐めプである)

 相手が動かないのならエアハンマーより殺傷力さっしょうりょくの高いカッター系での殲滅せんめつがいいだろう。

 敵との相対距離そうたいきょりが15m程に迫った時。

 メアリーは『ガオーの手ポーズ』をとり目の前にいるゴブリンライダーに向けた。

 「デビルカッター!」 (おい!

 次の瞬間、小さい手から繰り出される三日月型のやいばがゴブリンとブラックウルフを切り裂いていく。

 (おおっ、さすがは正義のヒーローの必殺技。イメージがしっかりしてる分、威力いりょくが半端ないな)

 中心付近にいた5対のゴブリンライダーはその場でくずれおちた。

 そのサイドにいた2対も手傷を負ったのか動きが鈍い。

 「グギャ――――――ッ!」

 奥にいたゴブリンキングが奇声きせいを発すると、あわてたように動きだす3騎のゴブリンライダー。

 てんでバラバラに突っ込んでくる。

 それを見ていたメアリーは短槍を両手で持ちわずかに腰をおとす。

 瞬時に動ける態勢をとって待ち受けているのだ。

 (ホントに6歳? 疑いたくなるほど落ち着いてるよなぁ)

 まず左側から1騎のゴブリンライダーが向かってくる。

 これに対してメアリーは素早い動きで正面に立つと、すれ違いざまブラックウルフの前足をすくうようにいだ。

 前足を失ったブラックウルフはつんのめるように崩れ、上に乗っていたゴブリンは大きく前方に投げ出された。

 グシャっと地面に叩きつけられたゴブリン。

 これはかなりのダメージだろう。

 魔石に変わっていないので生きてはいるんだろうが、立ち上がる気配はない。

 そして残った2騎のゴブリンライダーもまたたく間に倒されていった。

 傷を負って戦線を離れているモンスターもいるが、奴らはもはや脅威きょういではない。

 すると、いよいよゴブリンキングとのたたかいとなる。

 ゴブリンキングの方はというと……、(またしても) 十字槍じゅうじやりを頭上でまわしている。

 (この光景、何度も見ているときてくるよなぁ)

 さて、この2mはあるゴブリンキングにメアリーはどういどんでいくのかな。





 もう1回、大きい魔法を放てるぐらいにはMPを残しているはず。

 だけど魔法は撃たないようだ。

 メアリーはゴブリンキングの正面に立つと、槍を半身はんみ正眼せいがんかまえる。

 身体からは気勢きせいがあがる。身体強化・・・・だ。

 これを目にしたヤツも槍をまわすのは止め、しっかりと構えてきた。

 それと同時にメアリーは左手一本でヤツの鳩尾みぞおちえぐりにいくがかろうじてはじかれる。

 (速い! なんて動きをするんだ。これではまばたきすら出来ないぞ!)

 メアリーが放った短槍のがヤツの左肩ひだりかたに突き刺さる。

 この電光石火でんこうせっかともいえる素早い攻撃にヤツはひるんでしまった。

 するとメアリーはこのすきを逃さず次々に槍を打ち込んでいく。

 狙いはもっぱらヤツのひざだ。

 ゴブリンキングも防戦しているのだが槍の速さと正確さが違う。

 それに一発大きいのは狙わず、ヤツが放つ槍を右へ左へとかわしながら小刻こきざみにけずっていくのだ。

 これでは、もうすべがないだろう。ヤツの両膝はすでに血塗ちまみれだ。

 やがて崩れ落ちるように両膝を突いたゴブリンキング。

 ――勝負は決した。

 大振りになった槍を軽くかわし、

 膝立ひざだちになったお陰でねらいやすくなった喉元のどもとをメアリーは丁寧ていねいつらぬいた。

 しばらく藻掻もがいていたヤツも、やがて動かなくなり前のめりに沈んでいく。

 ――ボンッ!

 そして大きな音とともに魔石へと変わった。

 あとは油断なく残りのモンスターを掃討そうとうして、

 ここにメアリーは10階層のボス戦において単独制覇たんどくせいはを果たした。





 出口の扉が静かに開いていく。

 俺は感動のあまり動けないでいた。

 いつもの調子でまわりの魔石を集め終えたメアリーが俺の元に戻ってくる。

 涙を流しながらたたずんでいる俺をみて、心配そうに手をつないでくれた。

 「どうしたの~?」

 「ごめんなぁ~。かっこいいメアリーを見ていたら嬉しくなって泣いちゃったよぉ」

 首をかしげてくるメアリーに俺は正直な気持ちを伝えた。

 するとメアリーはニッコリ笑って、

 「ゲンパパ行こっ! シロにぃが待ってるよ」 

 小さな手でグイグイ俺を引っ張っていく。

 ああ――――っ、これほど『ビデオカメラ』が欲しいと思ったことはない。

 そっと心にきざんでおくか……。

 メアリーを抱えて転移台座てんいだいざぎょくに触れさせた。

 これでみんな10階層を突破だ。

 この先俺たちは一緒に攻略していける。

 こんなにうれしい事はない……。





 昼過ぎてからはボス戦だけだったので時間は十分にある。

 そこで俺たちはダンジョンリビングに行ってみることにした。

 (サラ。ダンジョンリビングへやってくれ)

 [はいマスター。了解しました]

 次の瞬間、俺たちは何もない・・・・草原の真ん中に立っていた。

 (おおいサラ。なんで草原なんだよ?)

 [はい。これはマスターがまだ何も設定されていないためです]

 (なるほど設定か……。で、どーすればいいんだ)

 [はい、マスターが想像そうぞうされたものを出来る限り再現いたします]

 想像するだけで近いものを作ってくれるのだろうか?

 (それじゃあ、こんなのはどうだ。 太陽はこう・海はこう・白い砂浜すなはま夫婦岩めおといわ・そして海の家うみのいえだぁ)

 (それにそうそう、海の家には調理場ちょうりばがあって、鉄板焼きグリル・ビールサーバーは無理だろうからエールのたるを置いてたらいには氷だ。かき氷機・手漕ぎボート・浮き輪・ビーチボール。そしてシャワー室があって、隣はジャグジーバスなら最高!)

 (そんなところだが出来るのか?)

 [はい、お任せください。………………いかがでしょうか]

 おお――――っ。なんかそれらしく出来てるよなぁ。

 細部さいぶはおいおいめていくとしよう。風呂の温度とかもあるしな。

 ああ、でも思ったよりゆったりできそうな空間になったかな。





 しかし、なんだよココ。

 海の家やジャグジーバスはともかく、ここの周りの自然はどう見てもホンモノだよな。

 そして海はしっかり海水だった。

 この世界にも海はあるようで、それを参考にしているらしい。

 ジャグジーは普通のお湯だったな。

 できたら温泉がいいので、今度ダンジョンの近くを掘ってもらうとするか。

 シロとメアリーは楽しそうに砂浜を駆けまわっている。

 海に入ろうとメアリーが全裸 (はだか) になっていたので、

 これだけは着ておけと、貫頭衣かんとういを頭からかぶせた。

 つつしみは大事だぞぉ。

 しかしまあ、砂浜を走る犬と少女って絵になっていいよね。

 さ――て、おやつにクレープと冷たいアイスティーでも作りますかね。

 俺を泣かせるほど頑張ってくれたメアリーのために。

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