俺とシロ

マネキネコ

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93 クリスタル・タンブラー

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 ここはダンジョン・サラの4階層。

 昼食をとってお昼休みをはさむと、みんなは再び各階層へ散っていった。

 白猫しろねこ姉弟きょうだいのタマとトキもだいぶれてきた様子で攻略スピードがあがってきた。

 タマの方は敵の死角しかくを突いての奇襲きしゅうや、こっそり後ろから忍び寄りのど掻っ切かっきる戦法。

 その動きは実にスピーディーで容赦ようしゃがない。暗殺者あんさつしゃのようだ。

 そしてトキの方は本当に初心者か? と疑うぐらい短槍たんそうを使いこなしている。

 こちらも姉におとらずスピーディーだ。

 (確かにメアリーをトレースしたような動きを見せる時もあるよなぁ)

 なかなか研究しているようだ。

 5階層に入っても2人は全く危なげなく進んでいる。

 ほどなくして『ボス部屋』にたどり着いた。

 一応、どうするか聞いてはみたが行くようである。

 ――もちろん秒殺だった。

 ボス部屋を出て転移台座いてんだいざの前まで進みぎょくに触れるように指示していく。

 するとタマは、台座のぎょくをいろんな角度から観察したあげく、ぎょくに向かって必殺ひっさつのネコパンチを繰り出していた。

 なのに弟のトキの方は、いたって普通であり落ち着いて手を乗せている。

 同じ白猫族の姉弟ではあるが、なんとも対照的たいしょうてきな二人である。

 その後も探索は順調に進んでいき、6階層の半ばを過ぎたあたりで今日のところはお開きとなった。

 みんなを集めて浄化をかけ、先に子クマ姉弟をログハウスへと転送。

 続いて俺たちも王都のツーハイム邸に戻ってきた。

 「これからの仕事も気を抜かずにしっかり務めるんだぞ」

 「「はい!」」

 「じゃあ、これを持っていけ」

 白猫姉弟のタマとトキには、今日二人で倒した分の魔石を革袋に入れて渡してあげた。

 「これは?」

 「シオンにはちゃんと話してあるから、持っていけ!」

 タマはその革袋を両手で受け取ると、ペコリと頭を下げて仕事場へ戻っていった。





 さて、残った課題かだいはタマの服なんだが。

 ふつうに冒険者装備でもいいだろうが、仕事の一環いっかんなのでメイド服という手もある。

 (猫みみ戦闘メイドかぁ~。スカートに隠したクナイでシュパパパンッ! )

 うん……、有りだな!

 戦闘スタイルは ”暗殺者” だよな。

 実際に動きやすい軽装がいいだろう。

 するとくノ一装備くのいちそうびも有りなのか?

 ”かすみ” のような?

 無いな、ないない。……いいとは思うけど、ない!

 じゃあ戦国無双スタイル? 

 これも無しかなぁ。

 だいたいよろいや戦闘服なのに何故ノンスリーブなんだ?

 そしてミニスカートだっておかしいだろ! どう考えても。

 防御のために着てるんだよな。気づけよ!

 ――様式美ようしきび? 

 いらんいらん。宴会えんかいやコスプレではないんだし。

 んっ、んんっ、じゃあ宴会なら有りなのか???

 あぁ――――っ、脳内でかすみシリーズ・・・・・・・がフラッシュバックしてきた~~~。

 (真○くノ一忍法伝 かすみ)

 「……ゲン様、ゲン様、如何いかがなされましたか?」

 「お、おう、シオンか。どうかしたのか?」

 頭上に浮かんでいる妄想もうそうを片手でパタパタとかきき消す。

 「い、いえ、アリスが参りましたので、ご準備をと」

 いかんいかん。盛大にふけっていたなぁ。(汗)

 衣装については、また後日考えることにしよう。




     ▽




 それから10日が過ぎた。

 当然のことながら散歩も朝練も続いている。

 最近では参加人数が増えてきたため模擬戦もぎせんを行うようになった。

 ついつい熱が入りすぎて、打ち身などの怪我けがをする事もあるが回復要員かいふくよういんが居るのでダメージを残すことはない。

 白猫姉弟きょうだいのタマとトキも良く頑張っている。

 ここでタマを鑑定してみる。


 タマ    Lv.5

 年齢    15
 状態     通常
 HP   35/36
 MP     6/6
 筋力    16
 防御    13
 魔防      7
 敏捷    15
 器用    12
 知力      8

【スキル】    
【祝福】    ユカリーナ・サーメクス


 朝練を始めた頃はLv.2だったのでそれなりに伸びてると思う。

 女神さまから祝福しゅくふくさずかっているので普通の人よりは伸びが早いようだ。

 それで考えていた装備なのだが、

 厚めの長袖シャツにパンツは膝下ひざしたを絞った細めのニッカポッカタイプ。

 履物はコンバットブーツを採用さいようし、つま先部分に鉄板を入れ補強している。

 両ショルダーの胸当むねあて・クナイ4本差しベルト・鉄板入りアームガード・指空きグローブ。

 頭部はナツと同じで、首元までカバーできる ”チェインヘルム” 猫耳タイプ だ。

 ブーツからヘルムまですべて黒の艶消つやけしで統一している。

 これがすんごくカッコイイのだ!

 おまけに手に持つクナイまで黒いからね。

 まさに影の軍団かげのぐんだんである。まだ二人だけど。

 適性がありそうな奴隷どれいを購入して、軍団として鍛えていくのも有りかもしれない。

 吹き矢ふきや棒手裏剣ぼうしゅりけんなどもそのうち仕込んでいくかな。

 フフフッ♪ 怖すぎる!





 ツーハイム邸でもようされるパーティーまで残り10日となった。

 懸案事項けんあんじこうの一つであった引き出物 (おみやげ) なのだが、

 いろいろと迷い苦戦しながらもこの程ようやく完成した。

 作ったのは ”クリスタル・タンブラー” である。

 この国はガラスがそれほど普及ふきゅうしておらず、あっても色のくすんだ透明とはいえないお粗末そまつなものであった。

 それでも見かけたのは王宮内であって、町中や店では見たことがない。

 初めはワイングラスにしようかとも思ったのだが、馬車で運ぶことを考慮こうりょしタンブラーへと切り替えたのだ。

 そのクリスタル・タンブラーなのだが、俺の知識の甘さからデレク (ダンジョン) にはかなり頑張ってもらった。

 何に苦戦していたのかというと、それは ”なまり” だ。

 いやー、地球と同じような環境だからあるとふんでいたのだが……。

 普通、鉛といえば釣り用の ”おもり” ぐらいしか思い浮かばない。

 特徴とくちょうとしては、ねずみ色・柔らかい・重い、そんな感じだ。

 デレクに手伝ってもらって探したのだが、どこにもない。

 ダンジョンの範囲を 隈無くまなく探していくのだが見つからないのだ。

 もうダメかとあきらめかけていたのだが、

 最後に比重ひじゅうの重たい順番に金属を並べてもらい、

 やっとの思いで見つけた。

 なんだよこれ、サイコロのような結晶体けっしょうたいに銀のような輝きだよ。

 はぁ~? こんなんでわかるか――――っ!

 後は透明なガラスを作る際に配合の比率を変えながら何度も試作してもらって、なんとか完成させることができた。





 もう一つの懸案事項けんあんじこうはパーティー招待客しょうたいきゃくの選定であった。

 アランさんの他、おもだった所にはすでに招待状を送っており、準備は万端整っているはずであった。

 それが思いもよらない所から横槍よこやりが入ってきたのだ。

 「なんで、おばば様やアランは良くてわたくしはダメなのかしら~」

 まあ、ご存知のことと思うが王妃おうひ様である。

 しかし、困ったことに王妃様だけ・・・・・をお呼びする訳にはいかないのだ。

 そうなると必然的に王様もお呼びしなければならず、それにはいろいろと問題が生じてしまう。

 格式・会場・準備、どれを取っても困難であり、如何いかにしても無理なのである。

 まあ、こちらを困らせたい訳でもないと思うし……。

 王妃様からしてみれば夜会のような感覚なのだろう。

 う~~~ん、シカトする訳にもいかないしなぁ。どーすんのよ?

 仕方がない、ここはおばば様に相談するしか……。





 そして次の日の午後、

 俺は離宮にお住いのおばば様を訪ねた。(王城の側)

 「大変ご無沙汰ぶさたしております。……様におかれましてはご機嫌うるわしく……」

 「あ~はいはい、挨拶はそのくらいでいいよ。今日はどーしたんだい?」

 俺は持参してきた今川焼をテーブルに広げ、……カクカク・シカジカ・マルマル……でと相談を持ちかけた。

 おばば様は俺の話にふんふんと頷きながら、皿にのった今川焼を手に取る。

 「あちちっあちちっ」と言いながらぱっくり二つに割っている。

 すると中のほっくり小豆あずきからは、ふんわりあ~まい湯気が立ちのぼる。

 それをホクホク言いながら口に頬張ほおばっているおばば様。

 (あの…………、俺のはなし聞いてますよねぇ?)

 「そうかい。まったくあの娘はしょうがないね~」

 (おや、聞いてらした……)

 「そうなんですよねぇ~。よろしかったらこちらも召し上がってみてください」

 次にフライドポテトを出してみる。

 「おおっコレコレ! なんとかって芋だったかね? 町じゃ行列まで出来てるそうじゃないかい」

 「はい、ジャガイモですね。こちらでは馴染なじみが薄いようなんですが」

 「これはワインよりエールの方が合いそうだねぇ」

 パクパクと美味しそうに食べている。まったく手が止まらない。

 シロも隣でブンブン尻尾を振って食べている。

 それにメイドさん達……。

 わかってますから、持ってきてますから、そんな穴があくほど見つめないで!

 「セシリアのことは任せときな。な~に少し足腰あしこしが弱くなったから、い代わりに連れてきたとでも言っておいたらいいさね」

 「はぁ……」

 「招待状なんて出すんじゃないよ。あくまでも偶然ぐうぜんさね、偶然。わかったねっ!」 

 流石はおばば様。此度こたびの問題も一発解消である。

 しっかりと頭を下げてお願いしておいた。





 このあとメイドさん達におみやげをお渡しして、

 せっかくなので、メアリーも呼んで王宮へ遊びにいくことにした。

 ………………

 今は暖炉のある応接室でマリアベルとお茶を楽しんでいる。

 談笑していく中で、話題はダンジョンや魔法のことに移っていったのだが、

 「ねぇねぇ、見て見て!」

 みんなの目がマリアベルに集まった次の瞬間、 

 ―――ブウォン!―――

 身体強化しやがった。

 なにか気を練っていたことは知っていたが……。

 金色の髪に金色のオーラ。

 マリアベルの場合、もともとが金髪なので今は明るく輝いている感じかな。

 ―――ブウォン!―――

 ―――ブウォン!―――

 こらこらシロもメアリーも真似まねしないの!

 「ねぇねぇ、これでPANちゃんみたいになれるかなぁ」

 それローマ字になってるだけで、ぜんぜん隠せてないからね。

 ………………
 …………
 ……

 これにて懸案事項はすべてクリアされた。

 只今、家人総出かじんそうででタンブラーの梱包作業こんぽうさぎょうに追われている。

 馬車に積んでも割れないように、クリスタル・タンブラーを緩衝材かんしょうざいで巻き、2脚ずつ木箱に収めていく。

 「もし、譲ってほしいと言われた場合はどのように致しましょうか?」

 横で作業をしていたシオンがたずねてきた。

 タンブラーもワイングラスも一家に対し10脚まで出そう、

 価格は1脚あたり金貨2枚、20,000バースとした。

 もし運搬中うんぱんちゅうや手違いで割れたとしても、1年以内なら無償むしょう交換こうかんするというショッピング・プロテクションつきだ。

 送料……。送料は別途請求べっとせいきゅうだな。

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