悪役令嬢の妹に憑依した私は、全力で姉の味方をすることにしました。

ひめめ

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01.悪役令嬢の妹になりました。

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 悪役令嬢。それは物語の最中、主人公や主人公を慕う者を陥れる悪役と言われる令嬢の事。悪役令嬢は結末で必ずと言っていいほどに処刑され、その人生の幕を閉じる。...らしい。これも前世で読んだ小説で付けた知識なので、まあ間違っていることもあるだろうが。大まかにそう言う事なのだろう。

 私、日高愛理はそんな悪役令嬢の大ファンだった。

 そして今、悪役令嬢の姉を持ったマリア・サヴィチェワに転生したらしく、幸せな生活を送っているのだ。
 まさに天国!悪役令嬢万歳!と、言いたいところだが……。


「マリアお嬢様、そろそろ朝食のお時間です。支度をして公爵様の元へ行きましょう」
「ええ。毎朝ありがとう、ヴェラ」

 この世界に来てから早二週間。仕事終わりの疲れた体でヤケ酒し、目覚めれば知らない場所。パニクって階段から転げ落ちたのはここだけの話だが、だいぶこちらの生活にも慣れてきた。
 地図が無ければお屋敷を動けないのは二週間前と変わらないけれど、馬鹿多い……おっと失礼。沢山雇っているメイドや執事の顔と名前が一致するくらいには慣れたと言っていいだろう。ヴェラは私の専属メイドで朝の支度は毎回彼女がしてくれている。長い長い銀髪を時間をかけて梳かして、着替えまで手伝ってくれるし、この世界の貴族というものは実にいい生活をしていると思う。
 ヴェラはこの公爵家で働き始めて二週間と、私と同時期にここにやってきたらしいので勝手に仲間だと思っている。

「おはよう、マリア」
「おはようございます、姉様」

 支度を終えた私はヴェラが開けた扉の間をすり抜けて部屋の外に出た。外にはマリアと同じ銀髪の美女が立っている。これがマリアの、私の姉。そう、私が日本にいたころに読んでいた小説内の悪役令嬢であるナターシャ・サヴィチェワだ。黒いドレスを身に纏っているナターシャは間違いなく世界一美しく、上品な女性だった。うん、誰にも否定させないわ。

「(流石、我が推し…)」

 例に漏れず悪役令嬢であるナターシャは推しであった。この世界に来た時には思いもよらなかった推しとの遭遇、しかも姉。これは身を粉にして働いた私へのご褒美かと思うくらいだったが。でも、悪役令嬢には悲惨な未来が待ち受けているというので、そう楽しんでもいられなかった。
 ナターシャは三年後の二十を迎える年に処刑される運命なのだ。

 推しの処刑を止めるのはファンであるオタクの使命。名前も出てこない悪役令嬢の妹である主要キャラでもない私に、もちろんその使命を全うしない選択肢など一ミリもなかった。そうと決まれば作るのは味方から。自分でも困惑するくらい、この状況を冷静に考えられていたし、元々この世界の人間かと思うくらいすんなりとコミュニケーションも取れていたので、味方作りで困る事も無かったといえるだろう。
 まず、私が目を付けたのはヴェラだ。ヴェラは仕事を覚えるのがとても早く、公爵家への忠誠心も申し分ない。何より、ヴェラはあのゲームで家族以外唯一の姉様の味方だったから。
 周りの男どもがヒロインを庇う中、ヴェラはナターシャが目の前で処刑されるまでナターシャの無実を叫び続けた。その結末はあまりにも残酷で、その後ヴェラ自身も処刑されてしまう運命なのだが、私がいる限りそんな未来にはさせない。
 悪役と呼ばれたナターシャは、貴族としての威厳と姿勢を守りに守り抜き、正しい選択をした。けれど、それは認められることはなく、ナターシャが向けられるはずだった人々の賞賛の声は全てヒロインに奪われた。誰も聞き入れなかったナターシャの意見と嘆きを私は絶対に聞き逃さない。推しを守るため。姉を守るために。そして、そんな姉を信じてくれていた家族たちを守るため。

「リ、ア…マリア、聞いているの?」
「はっ!すみません姉様」
「それは良いのだけれど、外では気を付けなさい。ほら、着いたわ」

 ナターシャの後に続き、足を踏み入れる。何回見ても慣れない豪華な食卓に大勢の使用人たち。奥には私とナターシャの両親である二人が座っている。私たちに気づいたお母様はこちらに視線を向け、手を上下に動かし、こちらへ来るよう合図した。

「遅かったな」
「申し訳ありませんお父様、わたくしの支度が少々長引いてしまいまして」

 低く言ったお父様の声にナターシャはすぐに返事を返す。姉様は私の支度を待っていてくれたのに庇うように嘘を吐いた。やはり、こういうところなのだ。姉様はいつも自分を犠牲にして相手を守ってくれる。そういう方だからこそ、ヒロインの策略にはまってしまったのかもしれない。

 独特な雰囲気の中静かに始まる食事に、私は必死について行く。ここ二週間で学んだ歪な作法と家族とのコミュニケーション。フル活用したとしてもやはりどこか違うような気がする。お母様の視線と姉様の完璧な姿勢を見て、もう一度ぎゅっとカトラリーを握った。

「マリア、アカデミーはどうだ」
「へ?」

 マリアの覇気のないだらけた声にナターシャはキッと睨む。

 それよりもアカデミーとは。私の頭の中はアカデミーという言葉で埋め尽くされ、頭にはハテナが浮かんでいた。この二週間、家庭教師である先生との授業は毎日あったがアカデミーの話など一度も耳にしていない。貴族の令嬢はそんなものなのか、と勝手に解釈していたのだが実際のところそういう訳では無いのだろう。

「今年からアカデミーに入学したけれど勉学はどうかしら?という意味だと私は解釈したのだけど。ちなみに今は長期休みよね、マリア」

 そういうことか。姉様に鋭い目線を向けられて目を逸らしつつ良い答えを探す。マリアはアカデミーの生徒だったかもしれないが私は違う。アカデミーの存在すら知らなかった私にアカデミーについて語れるわけがないのだ。
 とりあえず成績は優秀とでも言っておくべきか。それともハードルを上げないほうが良いのだろうか。
 私自身、お世辞にも学生時代優秀だったとは言えないレベルの成績で、何度も親を困らせてしまったものだ。
 もしも、私がマリア・サヴィチェワに憑依してしまったことで急に成績が落ちてしまったら…。
 この体の持ち主であるマリアの成績が優秀ではないことを祈るしかない。

「どうなの、マリア」
「えっと、な、仲良く?友好関係を築けています…」

 教えてくれた姉様には悪いけどここは勉強について触れないほうが安全かもしれない。幸いお父様に注目されることはなく、自然に話は移り変わっていった。
 けれど姉様に説教をされるのは免れなさそうだ。とても睨まれているし、溜息こそ吐かないが呆れられているのは確か。推しに怒られるという貴重な体験を経験できるのは私の不出来が招いた幸運だったのかも。ちょっとだけ、楽しみにしておこうかな。ごめんね、姉様。
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