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Falling 1
出ないんですけど!!
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「ふぅ……」
カイネ達が拠点としている掘っ立て小屋から、思いっきり飛んで行った岩陰でルルフェルはしゃがんでいた。
「こんな恥ずかしいことをしなくちゃならないなんて……。全く、不便な体になったものです、堕天も考えものですね」
用を済ませてすっきりした堕天使は、一人地面に向かって文句を言う。
そして、近くに何者かの気配を感じた。
「カイネさん!?ついてこないでって言ったじゃないですか!!」
慌てて立ち上がったルルフェルは、向かいの丘からこちらを見ている影に叫ぶ。
『グルルルルぅ……!』
気配の主は、ヘルヘイム原産の獰猛な狼モンスターであるヘルウルフの群れ。
ヘルヘイムの渓谷エリアに入り込んでしまったルルフェルは、彼らの縄張りで呑気にお花摘みをしてしまっていたらしい。
「乙女の恥ずかしいシーンを覗き見るなんて……。お仕置きが必要なワンちゃん達ですね」
襲い掛かってきたモンスターの群れに、ルルフェルは問答無用で破滅ノ光を放とうと右手を構えた。
◇◇◇◇◇◇
一方、お留守番のカイネは一人悶々と考え事をしていた。
「天使ってのは、やっぱり人間と感覚が違うのか……?」
あいつ、初対面の俺の横でぐっすり気持ちよさそうに寝てたし……。
しかもあんな無防備に、服もだらしなくはだけさせて……。
俺は変に意識して、全然休んだ気がしなかったぞ?
それに今日だって、何だあの会話?
何で俺があいつの生理現象について、色々思考させられなければいけないんだよ。
それでなくたって、基本的に何か距離感近くて、こう……ドキドキするんだよ!!
……やっぱり、一度しっかり言っておかないとな。
これからどのくらい一緒に過ごすのか分からないんだ。
もっと、淑女らしい感覚を意識して貰わなければ……。
ルルフェルは中身はともかく、外見は可愛らしい天使そのものだ。
年頃のカイネは、そんな彼女との意識のギャップに思うところがあった。
上流貴族出身で一応育ちのいい彼は、お互い理性的に接していくべきだと思っている。
そういう結論に至ったところで…。
「カイネさーーーん!!!」
悩みの種の大きな呼び声が聞こえてきた。
帰ってくるなり騒がしいやつだなと、すくっと立ち上がる俺だったが……。
「全然出ないんですけどぉー!!!」
いきなりの品のない発言に力が抜けた。
「そんな報告、大声でするなぁ!!!お前、そろそろいい加減……」
そう言って勢い良くドアを開けたが、目の前の光景に愕然とした。
大量のヘルウルフに追いかけられている半泣きの堕天使が、こちらへ向かって全速力で飛んできているのだ。
「カイネさん、ゲット!!」
ルルフェルはスピードに乗ったまま、俺をタックルするようにキャッチして飛ぶ。
「ぐふっ!痛ってぇ!……お前、何なんだこの状況!?」
「私、あの子達にその……覗かれたんですよ!それでお仕置きしようとしたんですけど、なぜか破滅ノ光が出なくて!」
「出ないってそっちかよ!ていうか、何でいきなりお前の一番の長所失ってんだよ!!」
「知りませんよ!下界の空気が汚いせいですかね!?」
この堕天使は、何でもかんでも空気の汚さのせいにしたがる。
だが、そんなことよりも気になるのは、段々と高度が下がってきていることだ。
「おい、もっと高く飛べないのか!?このままだと追いつかれるぞ!?」
「むぅ~!二人だとこれが限界です!」
「じゃあ、何で俺を巻き込んだ!?一人で逃げてればどうにかなってただろ!?」
「一人じゃ怖かったんですもん~!!」
大体分かっていたけど、確信が持てた。
こいつ、ポンコツだ。
「カイネさんは、何か出せないんですか!?」
「出せるか!!」
「もう!この甲斐性なし!……あ!そうだ、あの黒いモヤモヤとかで何とかなりませんか!?」
「あれで…!?」
天使の輪を壊すスキルを、モンスター相手に使って何になる言うのだろうか。
だが、俺の出せるもので少しでも攻撃できそうな可能性があるのは、まだ未知数なあのスキルだけだ。
「くそ…!何とかなってくれぇ!!俺のモヤモヤぁ!!!」
やけくそで俺は左手を突き出した。
そして、あの黒い霧状のものを出そうとしたが、出てきたのは全く正反対の見た目のものだった。
俺の左手から放たれたのは、白いレーザー状の閃光。
それは目の前のヘルウルフ達を、一瞬で殲滅していく。
その光は、昨日見たルルフェルの破滅ノ光そのものだった。
「へ?」
堕天スキルのもう一つの能力が分かった。
このスキルで堕天させた天使の能力は、俺のものになる。
カイネ達が拠点としている掘っ立て小屋から、思いっきり飛んで行った岩陰でルルフェルはしゃがんでいた。
「こんな恥ずかしいことをしなくちゃならないなんて……。全く、不便な体になったものです、堕天も考えものですね」
用を済ませてすっきりした堕天使は、一人地面に向かって文句を言う。
そして、近くに何者かの気配を感じた。
「カイネさん!?ついてこないでって言ったじゃないですか!!」
慌てて立ち上がったルルフェルは、向かいの丘からこちらを見ている影に叫ぶ。
『グルルルルぅ……!』
気配の主は、ヘルヘイム原産の獰猛な狼モンスターであるヘルウルフの群れ。
ヘルヘイムの渓谷エリアに入り込んでしまったルルフェルは、彼らの縄張りで呑気にお花摘みをしてしまっていたらしい。
「乙女の恥ずかしいシーンを覗き見るなんて……。お仕置きが必要なワンちゃん達ですね」
襲い掛かってきたモンスターの群れに、ルルフェルは問答無用で破滅ノ光を放とうと右手を構えた。
◇◇◇◇◇◇
一方、お留守番のカイネは一人悶々と考え事をしていた。
「天使ってのは、やっぱり人間と感覚が違うのか……?」
あいつ、初対面の俺の横でぐっすり気持ちよさそうに寝てたし……。
しかもあんな無防備に、服もだらしなくはだけさせて……。
俺は変に意識して、全然休んだ気がしなかったぞ?
それに今日だって、何だあの会話?
何で俺があいつの生理現象について、色々思考させられなければいけないんだよ。
それでなくたって、基本的に何か距離感近くて、こう……ドキドキするんだよ!!
……やっぱり、一度しっかり言っておかないとな。
これからどのくらい一緒に過ごすのか分からないんだ。
もっと、淑女らしい感覚を意識して貰わなければ……。
ルルフェルは中身はともかく、外見は可愛らしい天使そのものだ。
年頃のカイネは、そんな彼女との意識のギャップに思うところがあった。
上流貴族出身で一応育ちのいい彼は、お互い理性的に接していくべきだと思っている。
そういう結論に至ったところで…。
「カイネさーーーん!!!」
悩みの種の大きな呼び声が聞こえてきた。
帰ってくるなり騒がしいやつだなと、すくっと立ち上がる俺だったが……。
「全然出ないんですけどぉー!!!」
いきなりの品のない発言に力が抜けた。
「そんな報告、大声でするなぁ!!!お前、そろそろいい加減……」
そう言って勢い良くドアを開けたが、目の前の光景に愕然とした。
大量のヘルウルフに追いかけられている半泣きの堕天使が、こちらへ向かって全速力で飛んできているのだ。
「カイネさん、ゲット!!」
ルルフェルはスピードに乗ったまま、俺をタックルするようにキャッチして飛ぶ。
「ぐふっ!痛ってぇ!……お前、何なんだこの状況!?」
「私、あの子達にその……覗かれたんですよ!それでお仕置きしようとしたんですけど、なぜか破滅ノ光が出なくて!」
「出ないってそっちかよ!ていうか、何でいきなりお前の一番の長所失ってんだよ!!」
「知りませんよ!下界の空気が汚いせいですかね!?」
この堕天使は、何でもかんでも空気の汚さのせいにしたがる。
だが、そんなことよりも気になるのは、段々と高度が下がってきていることだ。
「おい、もっと高く飛べないのか!?このままだと追いつかれるぞ!?」
「むぅ~!二人だとこれが限界です!」
「じゃあ、何で俺を巻き込んだ!?一人で逃げてればどうにかなってただろ!?」
「一人じゃ怖かったんですもん~!!」
大体分かっていたけど、確信が持てた。
こいつ、ポンコツだ。
「カイネさんは、何か出せないんですか!?」
「出せるか!!」
「もう!この甲斐性なし!……あ!そうだ、あの黒いモヤモヤとかで何とかなりませんか!?」
「あれで…!?」
天使の輪を壊すスキルを、モンスター相手に使って何になる言うのだろうか。
だが、俺の出せるもので少しでも攻撃できそうな可能性があるのは、まだ未知数なあのスキルだけだ。
「くそ…!何とかなってくれぇ!!俺のモヤモヤぁ!!!」
やけくそで俺は左手を突き出した。
そして、あの黒い霧状のものを出そうとしたが、出てきたのは全く正反対の見た目のものだった。
俺の左手から放たれたのは、白いレーザー状の閃光。
それは目の前のヘルウルフ達を、一瞬で殲滅していく。
その光は、昨日見たルルフェルの破滅ノ光そのものだった。
「へ?」
堕天スキルのもう一つの能力が分かった。
このスキルで堕天させた天使の能力は、俺のものになる。
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