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Falling 1
ヘルヘイム緑化運動
しおりを挟む草一つ生えない命を拒絶された隔離域、ヘルヘイム。
そんなところに島流しされたはずの俺の眼前に、今一面の緑が広がっている。
「すげえ、地面に草生えてんの久しぶりに見た……」
俺が成行きで作ってしまった湖の周辺に、お試しでメルメルの能力をチュートリアル的に使ってみたのだ。
豊穣の天使である彼女の能力は、一言で言えば植物を生やす能力。
左手を地面につけて適当に草を思い浮かべたら、一瞬で緑豊かな土壌が出来上がってしまった。
「カイネ様、なぜ雑草ばかり生やすんですの?植物だったら、何だって生やせられますのに」
彼女の言う通りに試してみると、花や木、野菜から果物まで何でも生やすことができた。
「マジか、一瞬で桃が生えた……!すげえよメルメル!今までの天使の力で一番役に立つよ!」
感動した俺がメルメルをべた褒めすると、それがトリガーになってしまったらしい。
「で、でも!私の力がなかったら、多分初日で死んでましたよね!?サクっていってましたよね!?」
「カイネはそんなんじゃ死なないわよ!それより、飲み水が一番大切でしょーが!聖水で浄化したから、植物も生えてこれるんでしょーが!」
一番という言葉に反応した残りの堕天使が、異議を唱えながら自分の貢献度をPRしてきた。
横からギャーギャーと騒ぎ立てる二人に、俺は冷静に説明する。
「お前ら気付いてなかったのか?この生活の中で不満はいっぱいあるけど、俺が一番嫌だったのは食事なんだよ」
持ち込まれた食料が尽きた後の俺は、ちまちま魚を釣ってはそれを食べて命を繋いでいた。ヘルヘイム近海に生息できるような屈強な魚は、結構グロテスクな見た目のやつが多い。今までずっと上級貴族として、何不自由なく優雅な暮らしをしていた俺にとっては、それが一番辛かった。
「何でですか!ヘルウルフのお肉おいしいじゃないですかぁ!」
「火が無いんだよここはぁ!いくら聖水漬けで無害になってるからって、人間は生であんなもん食わないんだよ!あと、普通に捌いてるお前ら怖いんだよ!」
想像できるだろうか。
カイネさんの分ですよと、返り血を浴びた堕天使に、モンスターの生肉をドサッと差し出された時の絶望感を。
「とにかく、よく来てくれたメルメル!歓迎するよ、今までで一番!」
俺はメルメルの目をキョドらないように意識しながら見て、彼女の能力に熱い期待を寄せる。
「カイネ様……!そんなに見つめられると、私、狂い咲いてしまいますわ♡」
「え?」
メルメルが急に不穏なことを言って俯いたと思ったら、彼女の頭の花が激しく動き出す。
そして、その花からおびただしい量の粉が舞う。
「ちょ、ちょっと!急に花粉撒き散らさないでよ!どうなってんのよ、その花!?」
「も、申し訳ありませんわ。感情が高ぶってしまうとすぐ花に出てしまいますの、私……」
「メルちゃんのお花は正直ですもんね、こほ!こほ!」
正直、楽園をつくるなどと曖昧で果てしないことを目標にしてしまい、少し調子に乗り過ぎてたかなと思っていた。
でも今の景色を見ていると、それはそう不可能なことではないような……。
ゲホゲホと舞い散る花粉にむせながら、俺はそんなことを考えていた。
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