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Falling 2
ルプスルガル
しおりを挟む「ねぇ、とりあえず聖水かけてみない?」
ヘルウルフの巣の最奥、こんな所にあるはずのない得体の知れない像。
それを見たユールの第一声がそれだった。
「お前さ、何でもかんでも聖水で解決しようとするよな……」
「ふふん、大抵のトラブルは聖水で解決するのよ?」
この堕天使、明らかに偏った思想を持っている。
無い胸張って得意気に……。
まあ、それは置いといて少しこの像を観察してみた。
見たところ獣人の少女のような形をしている、実際に獣人なんて見たこともないが。背中には羽はないし、頭に輪も付いていないし、堕天希望で来た天使とも関係なさそうだ。
「……なあ、これ別にほっといてもよくないか?」
こんな場所に大切そうに置いてある像、絶対いじらない方がいい。
それに余所の物に勝手に水をかけるだなんて、人間的にはアウトだし。
だが、残りの堕天使2人は……。
「でも、楽園にこんなのあったら嫌じゃないです?私は何なのか調べた方がいいと思います、やっぱり聖水ですよ」
「人間はお地蔵様を見ると、頭からお水をかけると聞きましたわ」
何だこいつら?
聖水に対する信頼感が尋常じゃない。
……俺がおかしいのか?
「せ・い・すい!せ・い・すい!せ・い・すい!」
遂にユールが聖水コールを始めてしまった。
是が非でも聖水をかけてみたいようだ。
「分かったよ!俺はやめた方いいと思うけど、一回だけだからな?」
こんな洞窟でコールされ続けたら響いて仕方ない。
どうせ何も起こらないだろうけど……。
そう思いながら俺は、チョロチョロと聖水を像の頭からかけてみる。
「……ほらな、何もないだろ?」
俺は特に変化がないことを確認してから、3人の方にドヤ顔で向き直った。
「まあ、そんな上手くいきませんか……」
「えぇー。本当に今の聖水?あんたの手汗じゃないのぉー?」
「人間はお地蔵様に水をかけたら、お花も添えると聞きましたわ」
その結果に、堕天使達はあれこれと、好き勝手な感想を述べる。
意気込んで狩りに来たものの何も見つからず、唯一見つけた面白そうなものも期待外れ。
ワクワクしていたユールは、分かりやすくがっかりする。
「今日は全然ダメみたいね。何も見つからないし、もう帰りましょうか……。今度は朝4時に出発よ、次こそ結果を出すわよ」
テンションがた落ちの隊長の判断により、今日はもう諦めることにした。
メルメルに催促され花を像に供えた後、俺達は残念そうにとぼとぼ帰ろうとしたのだが……。
「何じゃお前ら?どこのもんじゃ?」
突然響いた聞き慣れない声に、俺達の足は一斉に止まる。
そして、互いに顔を見合わせた後、恐る恐る後ろを振り向くと……。
「おう、わしじゃ」
さっきの像と目が合った。
いや、正確には像だったものだ。
「うわああ!?何だ!?お前!?」
声の主は、いつの間にか動き出している少女だった。
あまりの出来事に思わず後ろへ飛び退く。
「何だって……。もしかして、わしを知らんのか?」
少し目を離した間に、すっかり色も付いて普通に会話してくるケモ耳少女。
知らんのかって言われてもな……。
俺はダメ元で後ろの3人の顔を見るが、黙って首を横に振るだけだ。
「あの、ごめん……。誰?」
どうしようもないので、俺はその少女に聞いてみた。
「むぅ、知らんのか。確かに見ない顔じゃが……。お前らも元天使か?」
元天使……。
確かに今そう言った。
え、こいつそんなの分かるのか?
「仕っ方ないやつらじゃのぉ。わしは魔王様の右腕、ルプスルガル!ルガル様と呼ぶがいい、しっかり覚えとくのじゃぞ?新入りぃ!」
魔王……魔王?
予想外過ぎる不穏な単語に、俺の表情は固まる。
大抵のトラブルは、聖水で解決するんだったよな?
わざとらしく視線を逸らすユールの目を、俺はじっと見つめる。
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