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Falling 2
ヘルウルフの巣
しおりを挟むここは渓谷エリアで一番大きな岩山。
そこに仰々しく掘り削られた岩穴の中、このエリア一帯を支配するヘルウルフ達の巣だ。
「新マップはワクワクしますね!」
「マップとか言うなよ……」
初めて足を踏み入れる場所に、楽しそうな顔のルルフェル。
彼らの家になぜ上がり込んでいるのかと言うと、それは昨日の夜……。
♢♢♢♢♢♢♢
辺りもすっかり暗くなり、全員が横になり「おやすみなさい」と静まり返った小屋の中。
「肉が食べたいわ、両手に収まり切らないくらいの……」
ユールが遠い目をしながら、唐突な願望を呟いた。
「……分かります、ユールちゃん」
寝る前には不適切なその話題に、ルルフェルが静かに同意した。
この肉食堕天使達が言う肉とは、ヘルウルフの肉。
火がないから俺は口にしていないが、こいつらは聖水で浄化して馬刺しみたいな感覚で、パクパクいっている。
曰く、口の中でとろけるさっぱりとした上品な味わい……だそうだ。
「お二人がそんなにも仰るなんて……。何だか私も興味が湧いてきましたわ」
「やめてくれ、メルメルは生肉食べない系女子でいてくれ」
俺はあちら側へ踏み込まんとしているメルメルを引き止める。
食べるのは最悪いいとしても、こいつらが捌いたりしている姿が嫌だ。
普段は普通の女子みたいな感じでいるのに、急に違う種族感を出されるのが何か嫌だ。
それにこいつら、妙に下処理の手際がいい。
天使じゃなくて、マタギだったんじゃないか?
「分かったから夜中に食い物の話すんなよ、もう寝ようぜ」
実はこの堕天使2名、最近ヘルウルフの肉を食べていない。
というか、ヘルウルフ自体に出逢わなくなっている。
ヘルヘイムに来た当初は、少し縄張りに入ろうものなら容赦無く襲って来た彼らも、何度も返り討ちにされている内に学習したのだろうか。
こいつらには関わってはいけないと……。
このまま欲求不満なこいつらに話を続けさせると面倒なことにになりそうだ。
そう思った俺は話を終わらせようと試みるが、もう手遅れだった。
「決めたわ。明日、一狩り行くわよ」
「賛成!大賛成です!隊長!」
「まぁ、楽しみですわ~♡早起きしてお弁当つくりましょう」
誰もブレーキをかけないので、話がスムーズに進んでいく。
正直そんなことはさせたくない派の俺だが、今日は俺の希望で果樹園作りを手伝わせた手前、ダメだとは言い辛い。
こうして、堕天使達によるヘルウルフ狩りが決行されてしまうのだった。
♢♢♢♢♢♢♢♢
そして、今朝。
いつも寝起きの悪いユールが今日だけは一番に起床し、早朝から目を輝かせて狩りに出発したのだが、ターゲットの狼達はどこにも見当たらなかった。
残念そうに落ち込んだのも束の間、そっちがその気なら直接乗り込んでやろうと、喧嘩上等な思考でカチコミをかけて、今に至る……。
「それにしても、本当にどこにもいないですわね…」
巣の中に侵入したが、ヘルウルフ達は1匹もいない。
彼らの危機察知能力は、相当優秀なようだ。
そんなに嫌か、俺達に会うの。
「何か空き巣してるみたいで、ドキドキするわね」
すこぶる嫌な例えをするユール。
もっとも、俺達は空き巣よりずっと質の悪い事をしにきたのだが。
「天界にいたら、こんなスリリングなことできないですわ……! 」
「……お前ら、本当楽しそうだな 」
無法地帯のヘルヘイムだから許されるが、ここ以外だったら多分何かしらの問題になるだろう、密猟とか倫理的に。
好奇心旺盛な堕天使達を先頭に、俺達はもぬけの殻の巣の奥へとどんどん進んでいく。
すると、ノリノリだったルルフェルの足取りが少し重くなる。
「うぅ~、それにしてもここ……。ちょっと何て言うか、獣くさいですね」
ルルフェルは器用に羽で鼻を隠しながら、不満を口にする。
言われてみれば、確かに洗っていない犬のようなにおいがする。
「そうね、確かにちょっとにおうわね……聖水かけとこうかしら。ほら、カイネ!」
そう言うと、ユールは俺の脇腹を肘でつつく。
「え、聖水って消臭効果もあんの!?」
「浄化するんだからにおいも消えるわよ。肉の臭みもそれで取れるんだから」
言われてみればそうか。
聖水風呂に入っている俺達の体も清潔だし、何なら貴族生活してた時より肌のコンディションがいい。
本当に万能だな、聖水……。
妙に納得した俺は、言われるがまま辺りに聖水を撒いてみる。
「わあ!においがなくなりました!」
深呼吸をして消臭効果を実感するルルフェル。
聖水って一体何なんだよと、そう思わずにはいられなかった。
すっかりストレスフリーになった巣穴を、ルルフェルは楽しそうに駆けて行く。
こんなことまでされて、ヘルウルフ側からしたらたまったものじゃないだろうな。
そんなことを考えていると、突然一人で進んでいったルルフェルの叫び声が反響した。
「な、何ですかこれぇ!?」
どうやら、奥で何かを見つけたらしい。
本当に元気だなこいつはと、半ば呆れながら様子を見に行ったが、そこにあった物を見て、俺も同じ反応をしてしまった。
「な、何だよこれ…!?」
人間は決して足を踏み入れない、隔離域ヘルヘイムの奥地。
そんなところに、絶対にあるはずのないもの。
そこには、モンスターでは到底作れないであろう明らかに人工物である像が、大切そうに祀られてあったのだ。
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