【堕天】スキルのせいで速攻島流しされたけど、堕天希望の天使達が割と多いので、一緒に楽園を創ることにします

ゴトー

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Falling 4

そろそろ来ると思っていた

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 ヘルヘイムに来て、もう結構な日数が経っている。

 ここでの生活にも慣れたし、天使の能力のおかげで、何とか暮らせている。
 植物を何でも生やす能力、贅沢に宝石を鉄代わりに使う能力、浄化に治癒に生活用水と万能な聖水、当たったらお終いの破滅の力。
 あとどんぐり……。

 ラピスの後は全然天使も来ないが、あの日以降(俺達はルガルの乱と呼んでいる)、悪魔2人との関係も良好だ。ギリィと妹達はあまり姿を見せないが、ルガルはほぼ毎日、用がある訳でもないのにやって来る。

 そんな非日常な日常を今日も過ごすのだろう。
 そう思っていた俺の元に、少しずつ海の向こうからあるものが近づいていた。
 この日常を壊してしまうような、そんなものが。


◇◇◇◇◇◇


「カイ姉ぇ!!あれ何ぃ!?」
「急に大声出すなよ、エル。魚が逃げるだろ」

 ラピスの作ったダイヤの竿で、今日も呑気に釣りをしていた俺は、エルの指差す方を見た。

「あれは……」

 それを見た瞬間、俺の脳裏に苦い記憶が蘇る。
 優雅な貴族生活からの転落、周囲の見事な手のひら返し、それに俺を蹴飛ばした一般兵士野郎。

「あ!あれ人間の海を移動するやつじゃないです!?すごい!私、初めて見ました!」

 そう、俺を拘束してこの島へ送り込んだ、クソ故郷のあの船だ。
 帰りに魔物にやられたせいか、前より重装備になっている。
 そして、このヘルヘイムに来たという事は、あれには確実にが乗っているのだ……。

「カイネっちみたいのがもう一人来るってことッスか?ど、どうしよう、何だか緊張してきたッス……」
「何そわそわしてんのよ、ここに流されるって事は犯罪者のやばい奴なのよ。ね、カイネ?」

 暗にやばい奴呼ばわりされた気がしたが、それよりも俺には気になる事があった。

「……お前らを見たら、あの連中どんな反応するだろう?」

 人間にとっての絶対的信仰対象である天使。
 こいつらは、それが堕天して魔物の亜種みたいになっている。
 
 色んなパターンが想定できるが、いずれにしろ絶対面倒な事になりそうだ。
 極力向こうの人間には会わせたくない。
 それに、まずこの城について絶対ツッコまれるだろ。
 どうしよう、俺が頑張りましたで通るか?通らねえな。
 そんなごちゃごちゃな思考を巡らせ、俺が一人であれこれと苦悩していると……。

「そうです!」

 それを吹き飛ばすようなルルフェルの明るい声が響いた。

「な、何ですの?急に大声を出したりして」

 驚いたメルメルは、頭の花をビクッと揺らした。
 
「人間の社会には、娯楽や美味しい物。素敵なものがたくさんあると聞きます!」

 目を輝かせて人間に思いを馳せる堕天使を見て、何だが嫌な予感がしてきた。

「このヘルヘイムに足りない物を、人間達に貰いましょう!人間は天使が大好きです!大切に扱ってくれるはずです!」

 やっぱり関わる気満々だ。
 かなり傲慢な考え方で。

「そうよ!この島には娯楽がカイネしかないのよ!ユールも色んな本とか読みたいわ!!」
「おい、俺はエンターテイメントか?あ?」
「やったー!!エルも人間さんと仲良くするぅ!!」

 娯楽というワードにユールとエルも乗り気になっている。
 正直、どこかに隠れていて欲しいレベルなのに。

「待てよ、お前ら堕天使じゃん。天使絶対崇拝のあの連中からしたら、冒涜の象徴もいいとこだろ」

 俺が尤もらしい事を言うと、一同は分かりやすくしゅんと落ち込む。

「じゃ、じゃあ!ここを堕天使と触れ合えるテーマパークとして売り込んで、そこを切り口に仲良くして……」
「切り込めねえよ、それじゃあ」

 錯乱したアイデアを出したルルフェルを嗜める。
 すると、今度はラピスが意見を出した。

「コホン!人間と仲良くするなら、アタシの宝石が一番ッスよ!」

 こっちの堕天使もノリノリだった。
 少し意外だったが、ラピスはアクセサリーとか好きそうだもんな。
 この間、新しい服が欲しいとかぼやいてたし。

「それよ!宝石を貢げば、何でもやってくれるわよ!人間だもの!」
「そうです!人間はお金大好きですもん!やりましたねラピスちゃん!頭なでなでしてあげます!」
 
 人間に対し随分な偏見を持っている堕天使達。

 日常にこんな劇薬みたいな出来事が発生したのだ。
 もうこいつらは止められないと、俺は静かに諦めた。
 みんな波打ち際まで行って、元気に手を振って人間をお迎えしようとしてるし。
 
 だが、わくわくムードから一転、いきなりメルメルの悲鳴が響いた。

「ふわぁ!?何ですの、あれぇ!?」

 何事かと顔をあげると、なんと突如出現した巨大なクラーケンが船を襲っていたのだ。

「ああ!!私達の文化的な生活がぁ!!」

 悲痛な叫びをあげるルルフェル。
 しかし、意外なことに人間側も負けていなかった。
 なんと前回の反省から完全に武装した船は、これでもかというくらいの砲撃を放ち、さらに兵士達は各々のスキルも使い、巨大な魔物と互角以上に戦えているのだ。

「人間さんがんばれぇ!負けるなぁ!」
「そうよ、そこよ!差せ!差せ!差せぇ!」

 その様子を見たエル達は、一生懸命人間側の応援をし始めた。
 
「本当楽しそうだなこいつら……」
 
 そう思って、後ろで静かに見守っていた次の瞬間。
 追い打ちをかけるように、もっと凄い事態が起きた。


─── バシャアアアアッ!!!!


 お次は爆音と共に滝のような水飛沫をあげ、巨大なクジラの魔物が水中から顔を出したのだ。    
 そして、バチバチとやり合う人間達とクラーケンを、一緒くたに飲み込み、何事もなかったかのように帰っていった。

 あっという間の出来事過ぎて、俺達は呆然と立ち尽くすだけだった。
 千載一遇のチャンスを失った堕天使達は、露骨にテンションガタ落ちだ。

「……あの、助けに行かなくていいんですか?」

 意気消沈の空気の中、ルルフェルが静かに問いかける。

「でも、魔物に手を出すとルガルに怒られるし……。それに俺達、水中では無力だし」

 魔物との共存は、悪魔達との大事な約束だ。
 しかも、水中で魚類と戦うのは部が悪過ぎる。
 俺達は普通に泳ぐしかないし、息も続かないし、唯一水属性っぽいやつが特段水に強い訳でもないし。
 
「うぅ、人間さん、ごめんなさいなの……」

 応援していたエルも渋々人間さんを諦める。
 さっきまであんなに肩入れしていたユールも、すんっとしている。

「何で人間は、こんなとこ流刑地にしてるんスか?あんなクジラがいるなら、来るだけで命がけじゃないスか」

 残念そうに砂浜にしゃがみこんだラピスは、至極真っ当な疑問を口にしたが、俺には昔からそうだからとしか言えなかった。

 天使に縋りきった古い考えの教会。
 その教会が政治に司法に何にでも深く介入しているので、納得出来るような理由などない。
 大抵の事は、「昔、天使にそうしろと教えられたから」で通る世界だ。


「あれはクジラじゃないよ、フグだよ」


 どこからともなく、どうでもいい補足が聞こえた。

「うわぁ!?」

 すると、突然ギリィが背後から俺の体を貫通して現れた。

「お、お前!急に妖怪みたいな事すんじゃねえ!」

 驚いて尻餅をついた俺の胸から、顔だけにゅるっと出したギリィは、用件だけ簡潔に述べてきた。


「さ、カイネ。そろそろ魔王様を探しに行くよ」


 にっこりと唐突に、滅茶苦茶面倒そうな事を言い出す悪魔に、俺達はきょとんとすることしかできなかった。 

「……は?」

 壊れそうで壊れなかった日常は、やっぱり壊れそうだった。
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