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Falling 4
魔王の行方
しおりを挟む「カ、カイネさーん!」
理不尽に飛んでった俺を、ルルフェルはすかさず受け止めてくれた。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、ありがと……」
優しさと温もりと柔らかさに触れ、俺は何とか難を逃れた。
「ナイスキャッチ、へいパス!」
「パスパスですわ!」
横ではバカ2人が俺をパスしろと要求する。
ルルフェルは一瞬パスしそうになったが、俺が抵抗したので何とか阻止できた。
「ギリィにルガル……。私は今まで……。それに何なんだこいつらは?」
俺達の一連の振る舞いを見て、アンリスは余計に頭を抱えているようだ。
そんな彼女にギリィが手を差し伸べる。
「彼女達は天界から降りてきた堕天使だよ」
「堕天……使?」
驚いた顔でこちらをじっと見るアンリスの体に、ルガルがひょいっと身軽によじ登った。
そして、いつかのように耳元でまたヒソヒソと現状説明し出した。
……俺達にも聞こえるようにやれよ。
「ごにょごにょ……ごにょごにょ……」
ルガルはしきりにこちらを指差したり、身振り手振りで熱心に説明を続ける。
それにしても、こいつの耳打ちは何でこんなに長いのだろう。
「長いッスね……」
「ああ、前もそうだったんだよ。あと5分はいくぞ」
「やってて気まずくないのかしら?結構な人数待たせてるのに」
と、ルガルの話を待っている内に時間はどんどん経過し……。
「……という訳じゃ、分かったかの?」
ようやく本筋の説明が終わったようだ。
「ああ。濡れてて気持ち悪いから離れて」
「ぬ、濡れてるのはお前もじゃろーが!!」
怒鳴りながら聖水塗れの濡れギツネは、堕天使の体から飛び降りる。
ルガルって悪魔の中でもそんな扱いなのか……。
「……大体の事情は分かった、貴様らの素性もな」
そして、アンリスは俺達を一瞥し、腕を組みながら宣言した。
「私は堕天使だの人間だの、種族の話には全く興味ない。貴様らが魔王様のために働くのならば、手を組んでやってもいい」
少し上から目線だが、今回のルガルはちゃんと説明したらしい。
割りと友好的だ。
「あ、あのぉ……アンリスさんって本当に堕天使なんですか?」
アンリスが言い終わると、ルルフェルは早速言い辛そうな質問をした。
初対面でもぐいぐいいくのは、こいつの長所でもあり短所でもある。
「昔の記憶はないが、魔王様がそう言うのだからそうだ。魔王様は行き場のない私を、恐れ多くも右腕として拾ってくれた。私にとっては、魔王様が全てなのだ」
少し話しただけで、偏った思考の持ち主だという事が露呈した。
ていうか、魔王の右腕って前も聞いた覚えがあるような気がする。
「あれ?ルガルも右腕って言ってなかったかしら?」
「すごーい!魔王って右腕2本もあるの!?」
「そんな訳ないやん。右だけ2本やったら、バランス悪くて敵わんわぁ」
後ろで揚げ足を取るような会話が聞こえてくると、話題に上がったルガルも黙っていなかった。
「こーれだから無闇に記憶失うような奴はぁ!わしが右腕やっとったら、お前が急に出てきて、いつの間にか右腕名乗り始めたんじゃろがぁ!」
聖水で濡れた髪は逆立たないが、ルガルは必死に抗議する。
「だが、貴様は私より弱いだろう」
「なっ!?じゃ、じゃが、お前は魔王様一筋の脳筋じゃし、ギリィは面白い事と人間にしか興味持たんし、わしが一番働いとったじゃろがぁ!!」
魔王側の幹部の内情が露わになってきた。
……何だかんだでルガルも苦労してたんだな。
「何で右に来たんじゃ!?わしが右じゃあ!お前は左に行け!」
「私は右の方が好きだ」
「わしも右の方が好きじゃあ!!」
口論のレベルが目に見えて下がり出したところで、ようやくギリィが2人を宥めにいった。
「まあまあまあ、落ち着きなよ。何ならボクも右に行こうか?皆で仲良く右になればいい。ボク達がケンカしてると、魔王様も草葉の陰で泣いちゃうよ?」
その言葉を聞いたアンリスは、ぴたっと大人しくなった。
いや、正確には標的が変わっただけだった。
「おい貴様、言葉には気をつけろ。魔王様は死んでなどいない」
一瞬でルガルの前から消え、今度はギリィに噛みつきにいった。
……こいつら仲悪いのか?
薄ら笑いを浮かべたギリィをしばらく睨んだ後、アンリスは諦めたように、再び俺達に目を向ける。
「ふん、貴様らは魔王様の居場所を知るため、私を目覚めさせたのだったな」
やっと話を元に戻してくれた。
ゆっくり息を吸ったアンリスは、躊躇いながら、言葉を選ぶように口を開く。
そして、絶対に救出不可能な居場所を告げられた俺達は、しばらく言葉を失ってしまった。
「魔王様は、天界に連れて行かれた」
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