ドラゴンレディーの目覚め

莉絵流

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マーキング?命の優劣?

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エレベーターホールにあった案内板を頼りに
プレゼン会場になってる会議室に向かった。

マジで、みんなで来て良かったって思った。
だって、思ってたより緊張するもん。
キレイで、広い廊下、会議室もいっぱいあって、大きい会社って、
ドラマに出てくるまんまだなって思ったね(苦笑)

プレゼン会場に到着すると、他の会社はまだ来ていなくて、
私たちが一番乗りだったんだ。でも、早めに来て良かったとも思ったの。

だって、大手に人たちが先に来てたら、圧がハンパないでしょ?
入る時に、視線が集まるワケじゃない?想像しただけで、怖いもん(笑)
どんだけ小心者なんだよって感じだけど、こういうキレイで、
大きいところは慣れてないから仕方ないよね(苦笑)

メンバーのみんなも緊張してるみたい。エレベーターに乗ったくらいから、
口数が少ないの(笑)ま、私も人のこと言えないんだけどね(汗)

でも、このままプレゼンに突入したら、ボロボロになっちゃいそうだから、
小さな声で、みんなに話しかけてみた。

「ね、みんな、緊張しちゃってる?」

「チーフ、なんか、ヤバいっすね(苦笑)おっきな会社になんて
入ったことないから、マジでドラマの中に入っちゃったような
気分なんですよ」

「だよね。私もビックリしちゃった。
ウチの会社と違い過ぎるぅ~!って感じ(笑)
でも、一番乗りして良かったね。これで、先に大手の人が来てたら、
思わず回れ右しちゃったかも(笑)」

「あっ、確かに!っていうか、チーフ、めっちゃ余裕じゃないですか?」

「だって、緊張しないで、楽しんでくるって、さっき約束したじゃん!」

「えっ、約束しましたっけ?」

「あっ、そういうこと言うんだ・・・。なんか、裏切られた気分なんですけど」

「もう、そうやって睨まないでくださいよ。
しました!約束しました!これで良いんですよね?」

「そ。それで良し!(笑)どう、みんな、少しは緊張、和らいだ?」

「チーフ、ヤバすぎです(笑)
なんか、変なスイッチ入っちゃったみたいで、今度は笑いが
止まらなくなりそう(笑)」

「楽しくなったのなら、それで良しっ!」

ふざけてたワケじゃないけど、みんなの緊張をほぐすため、
そして、何より自分の緊張をほぐすために、ど~でも良いことを話して、
みんなで笑ってたら、芳村部長と藤崎さんが入ってきた。

「お疲れさまです。皆さん、早いですね」

「あっ、この度は、参加させて頂きまして、ありがとうございます。
何かあったら困るので、早めに出て来たんですけど、早過ぎましたか?」

「いいや、早いのは良いことですよ。やる気を感じて、こちらとしても
嬉しい限りだ。久遠さん、あれっきりで藤崎に任せてしまって
申し訳なかったですね」

「いいえ、芳村部長がお忙しいのは分かっておりますので、お気遣いなく」

「そう言ってもらえると有り難いな。な、藤崎」

「はい、そうですね。じゃ、早速ですが、本日の手順を先にお伝えしますね。
順番は、こちらで決めさせて頂きました。シネムンドさんは、一番最後です。
この後、何か予定が詰まっているということはありますか?早めに切り上げて、
戻りたいということであれば、再度、順番は検討しますけど・・・」

「いいえ。今日は、このプレゼンだけです。なので、最後でも大丈夫です!」

「それは、良かった。では、他社さんのプレゼンを聞いて頂いてから
ということになりますので、よろしくお願いします。

まだ、スタートまでに時間もありますから、トイレとか、
あと、休憩スペースもありますので、ずっとここに居て頂かなくても
大丈夫ですよ。13時からなので、5分前くらいまでに戻って頂ければ
問題ないので、自由にお過ごしくださいね。あ、あと、こちらは控え室です。
プレゼンは、隣の会議室で行いますので、よろしくお願いします。」

「はい、ありがとうございます。じゃ、途中でトイレに行きたくなっても
なんだから、トイレだけ、行っておこうか?」

「そ、そうですね」

「じゃ、トイレ、お借りしますね」

「どうぞ。いってらっしゃい」

きっと、トイレもキレイなんだろうな・・・。やっぱり、ホテルのトイレみたい。
個室が4つもある!ウチの会社のトイレも汚いワケじゃないけど、
便座の前に立ったら、フタが自動で開いて、マジで驚いた!
こんな会社で働いてる人もいるんだなぁ・・・って。
私だけじゃなくて、中川さんも五十嵐さんも私と同じようなことを
思ったみたい(笑)

洗面台もそう。手を出せば石鹸が泡で出てくるし、洗い終わったら
少し手を右にずらせば温風が出てくる。鏡も大きいし、メイクスペースもある。
こんな会社もあるんだねぇ(苦笑)

「キレイで、色々揃ってて良いんですけど、なんか落ち着きませんね。
貧乏性なのかな?(苦笑)」

「理沙ちゃん、智美ちゃん、そんなことないよ。
ただ、慣れないだけなんじゃない?毎日、ここを使ってたら、
なんとも思わなくなると思うよ」

「ま、それは、そうなんでしょうけど・・・。
でも、羨ましいって思えないのは、私が素直じゃないからなのかなぁ・・・」

理沙ちゃんが、ポツリと呟いた。う~ん、どうなのかなぁ。
っていうか、私も正直、『良いなぁ』とは思うけど、羨ましいのかって
聞かれたら、「はい」とは言わないと思うんだよね(苦笑)

「な、理沙ちゃん。私もね、キレイだなぁとか、良いなぁとは思うんだけど、
だからといって、羨ましいとまでは思わないんだよね。
たぶん、それは、今の会社っていうか、今の自分に満足してるから
なんじゃないかな?どう?」

「確かに、それはあると思います!」

智美ちゃんが、なぜか、目を輝かせている。

「私もチーフと同じで、良いなとか、キレイだなとか、広いなって
思いましたけど、じゃ、ウチの会社にも取り入れて欲しいかって聞かれたら、
どっちでも良いかなって思います。だから、別に羨ましいとは思いません。
でも、それは、ひがんでいるということじゃないと思います」

「だってよ、理沙ちゃん。私も智美ちゃんと同じかな」

「そっか!別に羨ましいと思わなくても良いんですよね。
今のままでも満たされてるし、っていうか、今のチームが、私にとって、
最高のチームだから、トイレより、そっちの方が大事なんですね」

「なんか、トイレと比べられるってのもなんだけどね(笑)じゃ、戻ろうか」

「はい!」

たかがトイレ、されどトイレ。って誰かが言ったのかどうかは分かんないけど、
トイレに行って良かった。なんとなく、緊張もほぐれてきたし、
それは、私だけじゃなくて、理沙ちゃんと智美ちゃんもそうみたいだから。
トイレって、マーキングだもんね。動物として、マーキングすると
落ち着くのかも(笑)もちろん、そういうつもりでトイレに行った
ワケじゃないけど。

トイレから戻ると男性メンバーも戻ってて、他の会社の人たちも集まり始めてた。
でも、私たちと同じで、男性メンバーもさっきより余裕のある顔つきをしていた。

「女子トイレもキレイでした?」

谷潤也が真っ先に聞いてきた。

「ってことは、男性用トイレもキレイだったの?」

「めっちゃキレイでしたよ!高級ホテルのトイレみたいでした!」

「女性用トイレもそう。最新式の洗面台だったし、メイクスペースもあったよ」

「うわっ、スゲッ!」

「みんな、トイレに行って良かったみたいだね」

レオンくんに言うと、さっき私が思ったことをレオンくんも言ってきた。

「人間は、動物ですから、動物の本能として、マーキングすると
自分のスペースだという認識が生まれて、落ち着くんだと思います。
もちろん、みんなは、そんなこと意識していないと思いますけどね」

「だよね?私もトイレから戻ってくる時にそう思った!初めての場所に行ったら、
まずはトイレに行くってこと、覚えておこうって。

そういえば、受験の時、予備校の先生から言われたかもしれないって
思ったんだよね。試験当日は、1時間前に行って、まずトイレを
済ませなさいって。そうすれば、緊張で、失敗することはないぞって。
あれって、そういう意味だったのかな?」

「その先生は、マーキングとは言わなかったんですか?」

「うん。そこまでは言わなかったね。まだ10代の子たちには、
マーキングとかって言わない方が良いと思ったんじゃない?
繊細だし、動物と同じってことを受け容れられない子もいるかもしれないしね」

「人間の悪いところですよね。人も動物も植物も命の価値に優劣は
ないのに・・・」

「ま、そうなんだけど、優劣をつけてる人が多いからね。
それに予備校って、人としてってことは二の次で、
とりあえず勉強を教えるところだからね(苦笑)」

「本当は、予備校に行くようになる前、小さな子供の頃から、
命の大切さについて教える必要があるんですけどね。
学校も親も教えないですよね。なぜなんでしょうね」

「そうだね(汗)レオンくん、どうしたの?今する話?
今度、ゆっくり話そう」

「あっ、そうですね。これから、命について教えられる企画とか
出来たら良いですね」

「そうだね!帰ったら、早速、真田部長に相談してみようよ!」

「あっ、それ、良いですね!そうしましょう」

「何?何の話してるの?」

「ん?この後のプランについて、レオンくんがヒントをくれたの」

「えっ、なんですか?僕たちにも教えてくださいよ」

「これが終わってからね。ほら、そろそろ始まるんじゃない?
席に戻った方が良いよ」

「は~い」


<次回へ続く>
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