ドラゴンレディーの目覚め

莉絵流

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何を選ぶ?何を優先させる?

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会社まで、あっという間に着いてしまった。いつもそうなんだけど、
駅から会社までの道のりは、チェリーと話したことを自分の中に
落とし込む大切な時間。

でも、今日は、いつも以上にあっという間だった気がする。
それだけ、私の中で、思うところが多かったのかもしれない。
あと、『よしっ!やってみよう!』って、なんか初心に戻ったような、
ちょっと新鮮なワクワクやドキドキもあったりする。やっぱり、今日は
充実した1日になりそうだよ。

「おはようございま~す!」

朝の大きな声での挨拶。これは、私のルーティーン。
前は、誰も大きな声で挨拶を返してくれないって思ってたけど、今は違う。
でも、今だったら、誰も大きな声で挨拶を返してくれなくても
気にならないかもしれない。

だって、大きな声での挨拶は、私が自分のためにしていることだって
気づいたから。それに対して、人がどういう反応を示すのは、それぞれの自由
だからね。私が気にすることなんてないんだって、今は思えるんだ。
ね、私、成長したでしょ?(笑)

「みんな、おはよう!今日も楽しい1日にしようね!」

「チーフ、おはようございます!言われなくても楽しい1日にしますよ!(笑)」

「うん!頼もしいね。じゃ、それぞれ、よろしくね。何か困ったこととか
あったら、いつでも、どんなことでも相談してください」

「は~い!」

なんか、小学校の先生になった気分(笑)そういえば、五十嵐智美は、
どんな感じかな?昨日は、早く帰ることばっかり考えてたから、気にして
なかったけど、今日は少し気にしてみようかな。ま、彼女のプライベートだし、
私がとやかく言う権利はないから、あちらから何か言って来ない限り、
私がどうこうすることでもないんだけどね(苦笑)私は私の仕事に集中しよう!

今日は水曜日で、週の真ん中。気持ちが緩みやすいって、アトランティーナにも
言われたし、今、出来ることは、早めに片づけておいた方が、
明後日、すんなり帰れるからね。

午前中も何事もなく過ぎて、まもなくランチというタイミングで、
五十嵐智美が私の席までやってきた。何かトラブルかなって思ってたら、
ランチに誘われてビックリ!今まで、彼女からランチに誘われたことなんて
なかったからね(汗)

特に親しいワケでもないし、藤崎さんのこともあるから、どうしようかなって
思ったけど、今朝、彼女のことを気にかけてしまったことを思い出し、
自分で招いたことだと観念して応じることにした。何もなければ良いけど・・・。

って、心配なんかしちゃダメダメ。だって、心配すると、その心配が現実に
なっちゃうじゃん!大丈夫。チーフとして、メンバーと食事するのも大事だよ。
ただ、それだけのことなんだから。気持ちに余裕を持って臨みましょう。

二人で席を立って、食事に行こうとした時、他のメンバーたちから
<珍しい組み合わせですね>って声が掛かった。『だよねぇ~(汗)』
っていう心の声は誰にも聞こえてないと思うけど、レオンくんだけは、
ちょっと心配そうに見てたような気がする(苦笑)

社食でも良かったんだけど、<外に行きましょう>って五十嵐智美に
言われて、外に行くことにした。社食で、サクッと済ませてしまい
たかったんだけどね(汗)それで、会社の近くにある昔ながらの喫茶店に
入った。ランチメニューもあるんだけど、いつも比較的空いてるんだよね。

席に座って、メニューを見て注文して、ホッとひと息ついた。
何か話した方が良いんだろうけど、いきなり仕事の話をするっていうのも
何だよね。っていうか、ランチの時間は基本的には、仕事のことは、
あまり考えたくないんだよね(苦笑)そんなことを考えてたら、
五十嵐智美から口を開いた。

「チーフ、いきなりランチに誘ってしまってすみませんでした」

「いや、別に謝ることではないけど、何かあったの?」

「あの・・・。大したことではないんですけど、ちょっと気になってる
ことがあって・・・。なんか、ウジウジ考えてても答えが出ることは
ないし、思い切って聞いた方が良いなと思って」

「えっ、何!?私のことで、何か考えることがあったっていうこと?
不満とか?ちょっと怖いなぁ(笑)」

「いいえ、仕事のことじゃないんです。チーフに不満なんてないし・・・」

「じゃ、何?」

「あの、ブルータイガーの藤崎さんのことなんですけど、先週、シネコンに
行った後、一緒にランチしたじゃないですか?あの時、藤崎さんが
チーフのハンバーグ好きを知ってたのが、やっぱり気になってしまって・・・」

「あ~、そのこと?な~んだ、良かった。あれはね、私もよく覚えて
ないんだけど、たぶん、藤崎さんと食べ物の話になった時に話したんだと
思うよ」

「藤崎さんと仕事以外の話もしたりするんですか?」

「基本的には仕事の話が中心だけど、たまに仕事以外のことも話題に
出たりするかな?特にプレゼンの前は、私も緊張しちゃってたし、
その緊張をほぐすために仕事以外の話題も振ってくれてたような気がする。
あんまり覚えてないんだけどね(苦笑)

藤崎さん的には、ウチの担当を任されてたこともあって、ウチのプレゼンが
どんな感じなのか気になってただろうし、ウチみたいな小さい会社との取引も
したことなかったみたいだから、余計に気にかけてくれてたんだと思うよ。
ほら、プレゼンに慣れてなくて、お粗末だったら、自分の責任に
なっちゃうかもしれないじゃない?」

「それでフォローしてくれてたってことですか?」

「私も毎日、午前中に電話してたから、その熱心さも評価してくれて、
緊張しないように気遣ってもらってたよ」

「そうだったんですね!そういえば、毎日、チーフ、電話してましたもんね」

「そうそう。ブルータイガーに行ってプレゼンに参加させてもらえるって
言われた時、<毎日、お電話します!>って宣言しちゃったからね(笑)
自分から言い出したのに、電話しなかったら、信用失くしちゃうでしょ?」

「確かに!チーフ、私たちが気づかないところで、頑張ってくれてたんですね。
ありがとうございます。こんなに大きなプレゼンをすることになることも
そうですけど、こんなに大きなイベントを企画する日が来るなんて、
会社に入った時は想像すらしてませんでした」

「じゃ、迷惑だった?(笑)」

「いいえ、迷惑だなんてとんでもないです!チーフには、感謝しても
しきれないくらいです。プレゼンも、今やってるイベントの準備も、
めちゃくちゃ勉強になってるし、今後に活かして行こうとも思ってます。

それに、何より大きな自信になりました。そういった意味で、私自身が
成長できたなって実感しているので、本当に感謝してます!」

「私もね、入社して以来なの。こんなに大きなプレゼンやイベントに
関わるの(笑)だから、緊張の連続でね。それが藤崎さんに
伝わっちゃったんじゃないかなって思う。

あの時、私のハンバーグ好きをどうして知っているのかって聞かれた時、
藤崎さん、忘れちゃったんだと思うよ。でも、私もあの場に居たし、
忘れちゃったって言えなかったんじゃないかな(苦笑)

だから、夢を見たなんていう苦し紛れな答えになっちゃったんだと思うよ。
そんな気を遣ってくれなくても良かったんだけどね(笑)」

「そっか。やっぱり直接聞いて良かったです。スッキリしました」

「そう、それは良かった。心の中がモヤモヤしてると仕事にも支障を
きたしちゃうもんね。話してくれて、ありがとう」

「チーフって、スゴイですよね」

「えっ、何が?」

「他の人がチーフだったら、私、きっと聞けなかったと思います。
他のチーフって、メンバーとチーフは違うんだっていう、線を引いてる
っていうか、メンバーのことを格下みたいに見てる人、多いじゃないですか。
でも、チーフは、仲間として、対等に扱ってくれて、本当に嬉しいんです。
これは、私だけじゃなくて、他の人もみんな思ってると思います」

「なんかさ、格下とか、格上とかって何?って思っちゃうんだよ、私。
マウント取りたいのかもしれないけど、そういうことをしている時点で、
器の小ささを自らアピールしてることに気づかないのかなって、
全然、マウント取れてないよって教えてあげたくなっちゃう(笑)
そんなことしてるヒマがあるんだったら、デッカイ仕事取ってきて、
それで、チーフだってことをアピールした方がチーフらしくて良いと
思うんだよね」

「チーフが言うと説得力ありますね。だって、本当に今までウチの部が
やったことがないようなデッカイ仕事取ってきちゃったし(笑)」

「男女平等って表面的には言われてるけど、実際、女のクセにって
思ってる人、まだまだ居ると思うんだよね。口には出さないけど(苦笑)

なんかさ、そういう表には出て来ないけど、まだ残ってる差別があるから、
余計に頑張れるっていうかさ。でも、差別が残ってるって感じるのも、
単に私の被害妄想なのかもしれないけどね(笑)」

「ううん。チーフの言ってること、分かります。私も女だから。
たぶん、男の人は無意識なんだと思うんですよ。でも、根底には
女のクセにっていう思いっていうか、残ってると思います」

「ま、お互い様ってところもあるとは思うんだけどね。
私もハッキリしない男とか、仕事で手抜きするヤツを見ると心の中で
『男のクセに!』って思っちゃたりするもん(笑)」

「確かにそうですね。私もあります(笑)」

「でしょ?だから、まずは自分から考え方を改めていった方が
良いんだよね。自分が『周りは女のクセにって思ってるに違いない』って
思ってることを認めて、それから、その思いや考えを改めて行くの。
そうすれば、その思いや考えが完全に拭えた時に見える景色も
変わってると思うんだよね。だから、今は、そこを目指してるの」

「チーフ、カッコイイ!カッコ良すぎです!惚れちゃいそう(笑)」

「ありがとう。女性から褒められるのが一番嬉しいよね」

思いがけず、話も盛り上がり、楽しくランチを過ごすことが出来た。
これって、誤魔化したことになるのかなぁ?でも嘘はついてないから、
罪悪感を抱く必要はないよね。それに思いがけなかったけど、
彼女と話が出来て良かったとも思う。レオンくんの心配が的中しなくて
良かった。きっと、私が心配を即座に手放して、『大丈夫だよ』って
自分に言い聞かせたことが良かったんだと思う。

周りの人が何を思い、何を考えていても、自分の思いや考えが優先される
ってことが証明できた。だから、これからも私は、私にとって有利になる
思いや考えを選ぶようにしようと思う。たったそれだけで、人生は大きく
変わっていくからね。何を選ぶのか、何を優先させるのか、そこが大事なんだよ。

だって、今日のランチみたいな小さなことが積み重なって人生って
創られていくワケでしょ?だったら、小さなことも大事にしなきゃだよね。

結果として、小さなことをおざなりにしてると人生そのものをおざなりに
することになっちゃう!でも、小さなことを大切にしてると人生そのものを
大切にすることになるでしょ?だから、小さなことこそ、大事にした方が
良いんだよ、きっと。それが、自分を愛すること、大切にすることに繋がって
いくんだと思うから。


<次回へ続く>
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