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一章-抜け落ちた羽②
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「……僕が……勇者?」
「そうだ、シヴァ。お前が勇者だ。」
……自分が勇者である。何らかの要因で覚醒したのかもしれないが、僕はそれを素直に喜ぶ事が出来なかった。
勇者の役割は、魔族を追い払って地球を救うこと。僕を含めると、ちょうど30代目になる勇者も、これだけ聞けばまだかっこいい、勇者になりたい。となるのかもしれない。ぶっちゃけ、幼少までの僕もそうだった。
だが、現実は違った。
勇者ってのは思ったより権力の無いもので、国のマスコットとして、道化を晒して生きて行く。そういう事
だというのを軍に入ったばかりの青春真っ只中、王国図書館で見つけた29代目の自伝で知った。
要は操り人形って事だ。
更に、この世界の勇者にはとあるジンクスがある。6の倍数の代の勇者には、何かしらの不幸により、命を落とす。とかいう御伽噺もびっくりな、無茶な設定。
信じなければどうと言うことはないのだが、それでも内容が生々しい。仲間に裏切られて池に落ちたり、恨みを持った街の人に刺されたり。直近で行けば、街へ移動している中、蛮族に襲われて首が飛んだらしい。
「…なぁ、シヴァ。勇者ってのは…そんなにイヤか?」
そんな闇を抱えたモノになってしまうのか……などと、考え込んでいる間に……王様が僕に質問した。
「……それは……えぇ。せっかく人類を救うチャンスですが……出来るならばイヤに決まってます。」
「……そうだよな。わざわざ国の顔色伺ってまで訳の分からん相手とは戦いたくは無いよな……じゃ、よろしくお願いします。」
……勇者ってのは、こんなに忌み嫌われる物なんだな…………ん?よろしくお願いします?誰かいるのか……?と思っているといきなり、前から拳が飛んできた。ここまで意気消沈仕切っているのを見かねてか、何者かが僕の顔面に思いっきりグーパンを喰らわせてきたのだろう。
「…あんた、そこまで浮き沈みが激しいの?それとも……ただの諦め?」
恐る恐る顔を上げてみると、僕の中に焦燥と焦りと…驚きが一気に攻め込んで来た。しかし、そんなことなどお構い無しに少女は僕に畳み掛ける。
「ちょっと…なんで貴方がここに…」
「あんたがちょっと前に、必死になって捧げてきた祈りはそんなに軽かったの?それとももう熱は冷めた?!」
…だいぶ否定的な畳み掛けられ方をして、萎縮してしまった。何せ、ちょっと前に僕が願いや弱みを吐露し、さらには力も与えてくれた張本人がここにいるって事もデカかった。
「私は貴方に…魔族の討伐を、希望を託して…能力をあげたのよ?!私のエゴにもなるかもしれないけど……それでもあなたはあの祠で、約束したんでしょう…?戦争を止めるって。だから…これ以上、これ以上私を裏切らないで!半端な思いだけで…軽々しく言わないでよ!!」
王様…痛烈な批判とトゲが胸に刺さりまくる。そうだ。力を貰ってまでした約束が果たせないと言うのは、一種の裏切りに近い……それに、これ以上と言うのも、昔起きた壮絶な人間の闇に葬られたかもしれない少女の最後の希望を、もしかしたら踏みにじってしまっているかもしれなかった。
「ハイム、水を差して悪いが…こいつは「ロク」の勇者だ、それに…君が生きていた頃の勇者と、今の勇者じゃかなり扱われ方に差があり過ぎてるんだ。確かにハイムの言う事も分からんじゃないが……アイツの心情も、察してあげてはくれないか?」
「…………「ロク」……?何よそれ。」
…そこから王様と少女の講習会が始まったが、その中でも、僕は「裏切り」の一言がこびり付いて離れなかった。別に任務が達成出来なかったなんてそんなことじゃない。多分……何故やろうとしないのか。そういう事を問いたいんだと思う。
「……ってなわけでな?ハイム。お前の代の勇者…えーと……名前なんつったかな……」
「ベルガルトやミシュランと同じ運命を辿ってしまう。そういう事ね?」
「あぁ、飲み込んでくれて助かっ……あら?ハイムさん?」
……王様から説明を受けたハイムは、なおも強気で、僕に問いかけた。
「……だから何?魔族になじられて、人生壊されて……そんな人が居るのにもかかわらず、見ているだけなの?」
「それは……」
「正直、ロクだの扱われ方とか言われても……私は運命を盾にして逃げてるだけとしか思えない!だから……今ここで、ハッキリしてちょうだい!貴方は……やるの?やらないの?」
……そうだ。
あの戦いでも、僕は何が出来た?
結局自分の心に負けて、逃げて……結果がコレに……大佐の腕…
「……声が聞こえて来ないわね…これが最後よ、やるの?やらないの?」
現状と将来を天秤にかけ……ようやく決意した。
何故今まで、決めてこなかったのか。ひとりよがりだったのか。そして……天秤にかけたのか。
「…わかった。やる。やるよ……。」
「……そう、やるのね。分かったわ。」
今までの内気な僕と決別して、今。
俺の人生が、幕を開けた。
「じゃ……手始めに。ここから南にある森へ向かって欲しい。そこにはもう何百年と凶悪な魔獣が住んでいて…近隣の村や街を襲っている。詳細は分からんが……森の奥深い洞窟の中に住んでいる。あとは……やってくれるな?ユウシャ様。」
自信に溢れた声を貼って、俺は告げた。
「あぁ、行ってくる。」
「そうだ、シヴァ。お前が勇者だ。」
……自分が勇者である。何らかの要因で覚醒したのかもしれないが、僕はそれを素直に喜ぶ事が出来なかった。
勇者の役割は、魔族を追い払って地球を救うこと。僕を含めると、ちょうど30代目になる勇者も、これだけ聞けばまだかっこいい、勇者になりたい。となるのかもしれない。ぶっちゃけ、幼少までの僕もそうだった。
だが、現実は違った。
勇者ってのは思ったより権力の無いもので、国のマスコットとして、道化を晒して生きて行く。そういう事
だというのを軍に入ったばかりの青春真っ只中、王国図書館で見つけた29代目の自伝で知った。
要は操り人形って事だ。
更に、この世界の勇者にはとあるジンクスがある。6の倍数の代の勇者には、何かしらの不幸により、命を落とす。とかいう御伽噺もびっくりな、無茶な設定。
信じなければどうと言うことはないのだが、それでも内容が生々しい。仲間に裏切られて池に落ちたり、恨みを持った街の人に刺されたり。直近で行けば、街へ移動している中、蛮族に襲われて首が飛んだらしい。
「…なぁ、シヴァ。勇者ってのは…そんなにイヤか?」
そんな闇を抱えたモノになってしまうのか……などと、考え込んでいる間に……王様が僕に質問した。
「……それは……えぇ。せっかく人類を救うチャンスですが……出来るならばイヤに決まってます。」
「……そうだよな。わざわざ国の顔色伺ってまで訳の分からん相手とは戦いたくは無いよな……じゃ、よろしくお願いします。」
……勇者ってのは、こんなに忌み嫌われる物なんだな…………ん?よろしくお願いします?誰かいるのか……?と思っているといきなり、前から拳が飛んできた。ここまで意気消沈仕切っているのを見かねてか、何者かが僕の顔面に思いっきりグーパンを喰らわせてきたのだろう。
「…あんた、そこまで浮き沈みが激しいの?それとも……ただの諦め?」
恐る恐る顔を上げてみると、僕の中に焦燥と焦りと…驚きが一気に攻め込んで来た。しかし、そんなことなどお構い無しに少女は僕に畳み掛ける。
「ちょっと…なんで貴方がここに…」
「あんたがちょっと前に、必死になって捧げてきた祈りはそんなに軽かったの?それとももう熱は冷めた?!」
…だいぶ否定的な畳み掛けられ方をして、萎縮してしまった。何せ、ちょっと前に僕が願いや弱みを吐露し、さらには力も与えてくれた張本人がここにいるって事もデカかった。
「私は貴方に…魔族の討伐を、希望を託して…能力をあげたのよ?!私のエゴにもなるかもしれないけど……それでもあなたはあの祠で、約束したんでしょう…?戦争を止めるって。だから…これ以上、これ以上私を裏切らないで!半端な思いだけで…軽々しく言わないでよ!!」
王様…痛烈な批判とトゲが胸に刺さりまくる。そうだ。力を貰ってまでした約束が果たせないと言うのは、一種の裏切りに近い……それに、これ以上と言うのも、昔起きた壮絶な人間の闇に葬られたかもしれない少女の最後の希望を、もしかしたら踏みにじってしまっているかもしれなかった。
「ハイム、水を差して悪いが…こいつは「ロク」の勇者だ、それに…君が生きていた頃の勇者と、今の勇者じゃかなり扱われ方に差があり過ぎてるんだ。確かにハイムの言う事も分からんじゃないが……アイツの心情も、察してあげてはくれないか?」
「…………「ロク」……?何よそれ。」
…そこから王様と少女の講習会が始まったが、その中でも、僕は「裏切り」の一言がこびり付いて離れなかった。別に任務が達成出来なかったなんてそんなことじゃない。多分……何故やろうとしないのか。そういう事を問いたいんだと思う。
「……ってなわけでな?ハイム。お前の代の勇者…えーと……名前なんつったかな……」
「ベルガルトやミシュランと同じ運命を辿ってしまう。そういう事ね?」
「あぁ、飲み込んでくれて助かっ……あら?ハイムさん?」
……王様から説明を受けたハイムは、なおも強気で、僕に問いかけた。
「……だから何?魔族になじられて、人生壊されて……そんな人が居るのにもかかわらず、見ているだけなの?」
「それは……」
「正直、ロクだの扱われ方とか言われても……私は運命を盾にして逃げてるだけとしか思えない!だから……今ここで、ハッキリしてちょうだい!貴方は……やるの?やらないの?」
……そうだ。
あの戦いでも、僕は何が出来た?
結局自分の心に負けて、逃げて……結果がコレに……大佐の腕…
「……声が聞こえて来ないわね…これが最後よ、やるの?やらないの?」
現状と将来を天秤にかけ……ようやく決意した。
何故今まで、決めてこなかったのか。ひとりよがりだったのか。そして……天秤にかけたのか。
「…わかった。やる。やるよ……。」
「……そう、やるのね。分かったわ。」
今までの内気な僕と決別して、今。
俺の人生が、幕を開けた。
「じゃ……手始めに。ここから南にある森へ向かって欲しい。そこにはもう何百年と凶悪な魔獣が住んでいて…近隣の村や街を襲っている。詳細は分からんが……森の奥深い洞窟の中に住んでいる。あとは……やってくれるな?ユウシャ様。」
自信に溢れた声を貼って、俺は告げた。
「あぁ、行ってくる。」
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