【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす

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隣の配信者はエスパー

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SED:キリト(誠)



公孝さんと距離を置くようになって、どれくらい経っただろう。イベントのあとだから、もう半月は過ぎたはずだ。こんなにも連絡を取らないなんて、公孝さんと繋がり始めてから初めてだ。

連絡したい。声が聞きたい。やろうと思えば、全部できる。でも、できない。
ちゃんと自分の中で折り合いがつくまでは、公孝さんに会うことはできない。

だってもう——おちゃらけて誤魔化して、あの人のそばにいることができないんだ。俺の気持ちが、あまりにも大きくなりすぎてしまったから。

だけど。

だけど——

「公孝さん不足で死にそうだぁ~……」

俺のオアシスである公孝さんのチャンネルも、ここ数日まったく更新されていない。それどころか、つぶやきアプリのゼットですら動いていない。
最後の投稿は、【仕事が忙しくなってしまったので、落ち着いたら上げます。申し訳ない……】それだけ。

フォロワーたちは、「頑張ってください」とか「無理しないでくださいね」とか、優しい言葉を返している。
俺も言いたい。でもここでコメントしたら、俺もその“フォロワーの一人”になってしまう気がして嫌だった。
俺は——もっと、公孝さんにとっての特別な——

「……特別な存在、か……」

特別な存在になりたい。なりたかった。なれていたんだろうか。

公孝さんのチャンネルはあれからどんどん伸びて、今では登録者が九百人近くになった。その数字を見たとき、公孝さんは「もういい、もうこれ以上は怖い……」って怖気づいてて、——あぁ、ほんと面白い人だなって思った。

欲があるんだか、ないんだか。多くを求めないのに、どこか寂しそうで。少し卑屈で、自尊心が低いのに、変にプラス思考で。

そんな人を、ずっと隣で見ていたい。ただの“隣”じゃなくて、その人のいちばん近く——特等席で、見ていたいんだ。

「……無理だよなぁ」

恋が叶わなかったことなんて、いくつもある。むしろ、それしかない。いつだって俺は、ただ眺めてるだけ。指を咥えて、見てるだけ。

「今回も、指咥えて見てるだけ。いい加減、指ふやけるっての」

ぐったりとゲーミングチェアに寄りかかって、やる気が出ない。でも今日は配信仲間とコラボ撮影予定だ。やる気よ帰ってこい。

ーーー

「はーい、お疲れ~。やー今日はなかなかハードだった。キリトとなら勝てると思ったんだけどなぁ。勝てないもんだよな~ムズィ~」
「俺だって万能じゃないからな。ダメな時もあるし。ま、次頑張ろうや。あずさん、今日はありがと。お疲れ~」

とある配信者の大会企画に呼ばれ、今日はあずさんとチームを組んで練習がてら同時配信をしていた。結果は、正直あまり良くない。原因は多分、俺。気持ちを切り替えないと。
自分ひとりならともかく、チームメイトに迷惑をかけるのは絶対にダメだ。

「あー!ちょっと待って!」
「ん?」

配信も終わり、「今日はお開き」とドスコードを切ろうとしたその時、あずさんが慌てて俺を引き止めた。

「なんか悩み事でもあんの? あるっしょ? 根暗さんと喧嘩でもした?さっさとごめんなさいしちゃいなよ~。こーゆーのはね、惚れたほうが負けって相場は決まってんのよ。ちなみに喧嘩の原因はなに?回数多いとか?やだー!もうキリト君わか──」
「ちょっと黙ってくれる?」
「ウィー」

頭を抱えるって、こういう時のためにある言葉なんだろう。
……いや待て、今なんつった? 惚れたほうがどうとか言わなかったか?
確かに、俺が“公孝さん大好きオーラ”を出してるのは周囲にもバレてると思う。でもそれはあくまで人としての好意であって、恋愛的な意味では——いや、違う。違うはず。……うん。こいつ、ノリで言っただけだ。危ない、変に意識するとこだった。

「トナリさんとは喧嘩してない。ただ……仕事が忙しくて、遊べてないだけ」
冷静を装ってそう言うと、あずさんは「ふーん」と全然信じてなさそうな声を出した。

「ぶっちゃけ、どこまで行ってるの?」
「は?」
「だから、お付き合いまでは行けたの? 行けてないの? おうちデートはしてるでしょ? こないだ配信してたもんね?」

ジーザス。

「……つ、付き合ってない、から」

言いたくなさすぎて、歯を食いしばりながら吐き出す。だがその苦労を無視して、あずさんは軽やかに続けた。

「え~! まだ付き合ってないの? お前ヘタレか? ヘタレなんだな? 可愛いやつめ~」

……殺意。人の気も知らんで、ほんと殺意しか出てこない。

「あのな、あずさん……何か勘違いしてるようだけど、俺はトナリさんを恋愛的に好きなんじゃなくて、人として──」
「あーいい、いい、そーゆーの。で、本題だけど、喧嘩じゃないってことは……のめり込まないように距離置いちゃった的な?」

ジーザス・クライスト。
神よ、この男はなんなんですか。エスパーか何かですか。

「だから違うって言ってるじゃん……」
「そうかなぁ。俺、空気読めないってよく言われるけど、勘は鋭いってねーちゃんに褒められたことあるよ?」
「それ、多分褒めてないと思う。」

本格的に頭が痛い。俺は自分の“性”のことなんて、誰にも言いたくない。そっとしておいてほしい。だって、俺は弱虫だから。逃げることしかできないから。

「キリトさー。別に悪いことしてるわけじゃないんだから、そんなに自分をいじめんなよ。お前が可哀想だよ」
「……」

そう、俺は悪いことなんてしてない。ただ——ただ人を、好きになっただけ。

「ちなみに~、俺は中身が女の子だったら“側”はどっちでもいいかな~」
「側?」
「あー、体! 体が男でも、中身が女の子だったら気にしないってこと。あーでも、あんまりにも魅力的だったら……もう何でもいいかも~」
「つ、付き合ったことあるの? その……」
「ない! ないけど、ねーちゃんが女の子と付き合ってるよ」
「えっ……」

初めて聞く話だった。俺の周りに、同性同士で付き合ってる人なんていなかった。怖くて、そういうコミュニティにも行ったことがない。

「そ、それって家族も知ってるの?」
「うん。ママンもパパンも知ってる。ちなみにママンは理解してくれたけど、パパンは理解できなくて大喧嘩。今も和解できてないねぇ」
「そうなんだ……」
「まぁでも、別にいいんじゃん? 理解できないものは仕方ないじゃん。わかってくれたらそりゃ嬉しいけど、人それぞれだからしゃーないって、ねーちゃんが言ってた」

しゃーない、か……。

「強いね、おねーさん」
「うん。でも、すごい苦しんでたの俺見てたからさ。元から強かったわけじゃないってことも知ってんだ。だからさ~、キリト見てるとねーちゃんの昔を思い出しちゃって、つい口挟んじゃうんだよね」
「や、だから俺は──」
「わかった、わかった。そう簡単にカミングアウトなんてできないもんな。無理やり言わせるのも違うし、別に言わなくてもいいよ。たださ~、“理解者はいるぞ~”ってことだけ、頭の片隅に置いといてほしいのと……俺的には、ぜひ根暗さんを射止めてほしいと思ってるよ。このカップリングは尊い、ってねーちゃんが言ってたし」

そう言い放って、あずさんは「じゃ、ばいちゃ~」と一方的に話を切り、一方的にドスコードから去っていった。

「……何だったんだ、ほんとに」

嵐のような人というのか、何というのか。けれど、不思議と心が軽くなっていた。

「面白い人だな……理解者、かぁ」

俺は、公孝さんに気持ちを伝えてもいいのだろうか。
揺れ続ける心は、まだ——勇気を持つには少し足りなかった。


ーーーーーーーーーーー

だみだー!シリアス続けられん(笑)
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