【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす

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幻よ彼を連れてきて

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結局あれから、忙しさを理由に誠君へ連絡をすることができなかった。一言「元気?」だけでいいのに。意気地がなくて情けない。俺以外の誰かと仲良くしてるのを見たくなくて、ここ最近は彼の動画すら見ていない。

(どうして、こうなっちゃったんだろう……)

出勤途中の電車で、ぼーっとそのことばかり考えていた。そのせいなのか、なんだか頭まで痛い。

(薬買ってから出勤するか……はぁ、体が重いなぁ……)

心も体も絶不調だ。もはや他人事みたいにそんなことを思った。
会社に着き、まずは栄養ドリンクを口に流し込む。パソコンを立ち上げ、メールをチェックして、今日終わらせなければいけないタスクを確認する。タスクを確認……タスク……たすく……。

「おい……おーい、一色?」
「……あ、はい?」
「お前、大丈夫か? ずーっとモニター見たまま動かないから心配になったわ。つーか、顔色悪いぞ」

先輩の声ではっと我に返る。時計を見れば、出勤してからすでに一時間近く経っていた。

「あれ……なんでこんなに時間経ってんだ……」
「……一色、今日は帰った方がいいよ。ここ最近無理させてたしな。うん、早退しよう。少し休んでから帰るか? それともすぐ帰る?」

頭が全く回らないまま、先輩は俺を帰す方向でどんどん話を進めていく。いいのかな、帰って……。ダメな気がする……仕事しないと……。

「佐藤先輩、一色先輩帰ったらこれ誰がやるんですか?明日までのやつですよ?」

後輩の蟹沢が差し出した資料を見て、あぁ、と記憶がやっと繋がる。確かに明日までの仕事だ。半分は終わっていて、今日仕上げる予定だった。
危うく大惨事になるところだったとマウスを動かそうとすると、佐藤先輩がそれを制した。

「いや、一色は無理。今日は帰んなさい。これはお前がやれ、蟹沢」
「え?! いや、俺できませんよ!」
「できませんよって……お前、入社して何年よ」
「二年目ですけど」
「おま……いや、んー……これ言うとパワハラ扱いされそうだけどさ。二年も仕事してて資料の一つも作れんの? てか今まで誰が作ってたんだよ」
「……一色先輩が……」

先輩からの視線が刺さる。いや……だって、蟹沢は分からないって言いながらギリギリまで手をつけないし……。見てる方が怖いんだよ。だったら自分でやった方が早いし安全で……。

「はぁ……一色、お前にも問題あるな……でも蟹沢、お前は一色に甘えすぎなんだよ。自分から覚えようとしないから、いつまで経ってもできないんだ。つーことで、頑張れ。一色はデータを蟹沢に送れ。蟹沢、詰まったら聞きに来い。いいな?」

言い放って、佐藤先輩はデスクへ戻っていった。
もう頭がまともに働かない俺は、言われた通りデータを蟹沢に送り、「よろしく」とだけ伝えて席を立つ。
上司への連絡も佐藤先輩が済ませてくれていたらしく、「そのまま帰れ」と背中を押され、俺はふらふらと会社を後にした。

通勤ラッシュを終えた電車内は、とても静かで穏やかな空気が漂っていた。いつもと違う雰囲気のせいか、不思議な気持ちになる。自分だけ少し違う世界に放り込まれたようで、なんだか心地よい。
ぼんやりとそんなことを考えているうちに最寄り駅へ着き、フラフラと家まで歩いて帰った。
スーツを脱ぎ捨て、ラフな格好になってベッドに倒れ込む。あとは目を閉じるだけなのに、不思議と瞼が降りてこない。眠くなるまでスマホでもいじろうかと手に取ると、ショートメッセージが一件。
開けなくてもわかる。これは見ない。見たくない。俺が見たいのは、誠君からのメッセージだ。
メッセージ……か。いや、メッセージよりも声が聞きたい。楽しく話したい。誠君の声、どんなだったっけ……。

『……もしもし? 公孝さん?』
「……ん?」

今、誠君の声がした。

『あの……もしもし? 誤操作かな……』
「……誠君だ……」

スマホから、誠君の声がする。

『あ、き、公孝さん? 急に電話来たんで、びっくりしました……』
「わぁ……誠君だぁ……」
『ん? 公孝さん? 大丈夫ですか? 酔ってます?』
「お酒? 飲んでないよ。朝だからね、まだ飲まない時間だね。誠君は飲んでるの?」

誠君と会話してる。嬉しい。嬉しくてたまらない。

『な、なんだろ……すっごい可愛いんだけど、なんかおかしい……今日平日だよな……公孝さん、今日会社は?』
「会社? お休みだよ」
『お休みなんですか? 忙しいの終わったんです?』
「ん? 忙しいよ?」
『んー……なんか、話が噛み合ってない……公孝さん……体調不良でお休み、ってこと?』
「ん? んー、今日は会社行ったよ? それより誠君、また俺と遊ぼうよ。いっぱい話してさ、たくさん遊ぼ? 俺ね、誠君と話すのも遊ぶのも、すごく好きなんだ。だからね、あ、そうだ——」
『ちょ、ちょっと待って公孝さん! めちゃくちゃ嬉しいこと言ってくれてるし、胸きゅんで死にそうなんだけど、まず確認させて? 今日、会社行ったんだよね? 今どこ? 家? 会社?』
「……家だよ? さっき帰ってきた……あのね、まことくん、俺たくさん考えたんだけど——」
『さっき帰ってきた?! 早退ですよね?! だからそんなポワポワして……』

誠君は、俺が何か言うたびに遮ってくる。俺と話したくないのかな。ちゃんと謝りたいのに。ダメなのかな。許してくれないのかな……。

「あのね、まことくん、」
『公孝さん、具合悪いんですね? もう寝ましょ。ね?』

そのまま電話を切ろうとする気配。ああ、やっぱり。俺とはもう話したくないんだ。許してくれないんだ。

「あ……うん、わかった……ごめん、ごめん……ごめん……」
『公孝さん? あれ、なんか……すごい嫌な予感する……公孝さん? 落ち着こうね、大丈夫だから、ね? あのね——』

誠君が何か話していた気がするけれど、うまく思い出せない。いつの間にか通話は切れていて、気がつけばインターホンが何度も鳴っていた。
ぼーっとした頭では何も考えられず、しばらくその音を聞き続ける。しかし——誰かが俺を呼んでいる、とふいに理解し、重い体を引きずってドアへ向かい、外を確認もせずに開けた。

「あ……公孝さん? 大丈夫? ごめん、寝てるのに起こしちゃったよね……」
「………………」
「公孝さん?」
「まことくんだ……」

そう言った瞬間、俺の意識はぷつりと消えた。何となく大きな音と、誰かの声がした気がするけれど、もう、あとは何も分からなかった。
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