【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす

文字の大きさ
1 / 35

見つからない居場所

しおりを挟む
好きなこと。やりたいこと。 それが何なのか、いつだって霧の向こうにあるようで、はっきりと見えてこなかった。 ぼんやりと生きてきたつもりはない。むしろ、必死に自分の居場所を探していた……はずだった。

 だけど、気づけば足元は動かないまま。 世界だけが、勝手に進んでいってしまっていた。
「このままじゃダメだ」
 そんな思いが、心の底からふつふつと湧きあがったのは、いつだったか。 行動を起こしたのは……なんとも無謀な挑戦。俺は、ゲーム実況者になるという道を選んだ。

 別に、ゲームが死ぬほど好きなわけじゃない。 かといって、他人に自慢できるほど上手いわけでもない。
 それでも、この道を選んだのは——きっと、誰かに“俺”という存在を見つけてほしかったからだ。 そう。いわゆる“承認欲求”ってやつだ。

 ゲーミングPCを買って、録画と配信のやり方をネットで調べまくって、やってみたいゲームをダウンロードして……いよいよ初めての実況を投稿したときのことは、今でもはっきりと覚えている。

 ワクワクして、ドキドキして。 自分の声がネットに流れるなんて、何か世界が広がる気がしていた。

 ——でも、それから約二年が経った。
 登録者数、八十二人。 投稿数はそれなりに増えてきた。でも、数字は伸びない。 気づけば、自分よりあとから始めた実況者たちが、次々に登録者百人を突破していった。

 焦りがないと言えば、嘘になる。 比べたって仕方がないと、何度も自分に言い聞かせた。でも、気持ちは追いつかない。
 それでも——それでも、俺はやめられなかった。 作ってきた動画たち。録ってきた声。積み重ねてきた時間。 それらを、まるごと捨ててしまうことが、どうしてもできなかった。

 再生数の伸びない動画を、今日もまた一人編集して、アップロードする。
「そんなにつまんねぇかな……」
 ぽつりと漏れた独り言が、部屋の静けさにやけに響いた。 むなしい。苦しい。報われなさすぎて、笑えてくる。

 悪あがきみたいなものだと思いながら、独り言アプリ『ゼット』に、動画をアップしたことを呟き、フォロワー達のつぶやきにいいねを押していく。 地道な営業活動。……それも、またむなしい。
 いいねはつく。リプライも、たまにくる。 

だけど、実際に動画を見にきてくれる人は——ほぼゼロ。

 それでも、「諦めたらダメだ」「コツコツと続けていくことが大事なんだ」そんなふうに自分を励ましながら、PCの電源を落とす。ベッドに潜り込んで、目を閉じる。

(……でも、本当はもう限界かもしれない)

「もう……やめてしまおうか……」

 ぽつりと呟いた瞬間、胸の奥からこみあげる無力感に、全身が押しつぶされそうになった。

 このまま、誰にも見つけてもらえず終わっていくのか。 俺が積み上げてきたものは、なんだったのか。
 そんな思考が渦を巻いて、眠れない夜になる予感がした——その時だった。

 ピリリ、と短く震える音。 枕元に置いていたスマホが、通知をひとつ鳴らした。

(……いいねか)

 繋がらない誰かが、反応してくれたのだろう。それだけのことなのに、なぜだろう。 
ほんの少し、心の中がふっと軽くなった気がした。

 ——誰かが見てくれている。 たった一人かもしれないけれど、確かに反応してくれた。

 その小さな事実に、ほんの少しだけ救われた気がして。俺はそのまま、ゆっくりと眠りへと落ちていった。

まさか——この通知が、“一人だけの世界”を大きく変えることになるなんて。 そのときの俺は、知る由もなかった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

恋人は配信者ですが一緒に居られる時間がないです!!

海野(サブ)
BL
一吾には大人気配信者グループの1人鈴と付き合っている。しかし恋人が人気配信者ゆえ忙しくて一緒に居る時間がなくて…

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

処理中です...