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上げて落とされる憂鬱な朝
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朝。
重たいまぶたを無理やりこじ開けて、スマホの画面を確認する。
「……DM?」
てっきり、昨夜の呟きに誰かが“いいね”を押してくれたのかと思っていたが、そうではなかったらしい。届いていたのは、ダイレクトメッセージだった。
とはいえ、特別めずらしいことでもない。 最近は他の配信者からの、いわゆる「相互登録しませんか?」系のメッセージがちょくちょく届く。
最初のころは、そういう誘いもありがたく感じていた。登録者が増えるなら、手段は選ばなくてもいいと思っていた。だが、現実は甘くない。
こちらがチャンネル登録した途端、向こうは登録を外す。仮に登録が残ったとしても、それで動画を見てくれるわけじゃない。
そんな“空っぽの数字”に何の意味があるのか、やっと気づいたのだ。
「……まあ、八十二人ぽっちの雑魚配信者の、ちっぽけなプライドなんだけどな」
苦笑まじりに独り言を呟きながら、通知を開く。 正直、また相互登録の誘い文句だろうと、期待なんてしていなかった。
だが——画面に表示された文章を目にした瞬間、思わず読み返した。
---
『突然のDM失礼します。トナリさんのゲーム実況を、いつも楽しく拝見させていただいています。昨日アップされた「IF」も、すごく面白かったです!』
---
……トナリ。 それは俺の配信者ネーム、『隣のネクラ』の略称だった。
「……ホントかよ……」
心臓が、ひとつドクンと鳴った。 “面白かった”という、その一言が胸の奥に刺さって離れない。
けれど、現実はそう甘くない。 案の定、その続きにはこう書かれていた。
---
『実は自分も実況をしているものなのですが——』
---
「はい、出た。あげて落とすやつ」
テンプレみたいな展開。わかりやすい伏線回収。 “持ち上げてからの、相互登録のお願い”。もう何度見たかわからない。
メッセージの残りを読むまでもなく、俺はスマホを伏せた。
「朝の時間に、なに無駄な感情使ってんだか……」
心の中に浮かび上がった微かな期待が、するりと音を立てて崩れていく。 このまま読んでいたら、また変に期待して落ち込むだけだ。
朝の支度を淡々とこなす。洗顔、着替え、荷物確認。 平日、いつもの出勤ルーティン。 変わり映えのしない一日の始まり。
(……これを変えたくて、実況を始めたはずだったのにな)
ため息をつきながら、玄関を出て、最寄り駅までの道を歩く。 憂鬱な気持ちを少しでも紛らわせようと、スマホを取り出して配信アプリを開いた。
「……あ、キリトさんの動画、上がってる」
投稿は五時間前。すでに再生回数は、余裕で三桁を超えていた。
(……これが現実ってやつか)
キリト。 俺がゲーム実況を始めるきっかけになった配信者だ。
比べるのもおこがましいことはわかってる。 でも、それでも、見てしまう。差を、数字で突きつけられる。
(見てもらえるようになったら、どんな気持ちになるんだろうな)
再生数が伸びて、コメントがついて、ファンができて。 もし自分がそんなふうになれたら——嬉しいに決まってる。
キリトの実況は、いつだって自然体だ。 ゲームに負ければ「くっそー」と悔しがるが、それでも面白いゲームだなぁと笑っている。 騒ぎすぎるわけでもなく、説教臭くなるわけでもなく、まるで友達の家で一緒にゲームしてるような感覚。
(俺も、あんな実況者になりたい)
それは、ずっと心の中にある憧れ。 けれど、どうやったらそこに届くのか。答えは、わからないままだ。
動画の音声がイヤホンから流れ出す。 キリトの楽しそうな笑い声が、俺のため息に混じった。
重たいまぶたを無理やりこじ開けて、スマホの画面を確認する。
「……DM?」
てっきり、昨夜の呟きに誰かが“いいね”を押してくれたのかと思っていたが、そうではなかったらしい。届いていたのは、ダイレクトメッセージだった。
とはいえ、特別めずらしいことでもない。 最近は他の配信者からの、いわゆる「相互登録しませんか?」系のメッセージがちょくちょく届く。
最初のころは、そういう誘いもありがたく感じていた。登録者が増えるなら、手段は選ばなくてもいいと思っていた。だが、現実は甘くない。
こちらがチャンネル登録した途端、向こうは登録を外す。仮に登録が残ったとしても、それで動画を見てくれるわけじゃない。
そんな“空っぽの数字”に何の意味があるのか、やっと気づいたのだ。
「……まあ、八十二人ぽっちの雑魚配信者の、ちっぽけなプライドなんだけどな」
苦笑まじりに独り言を呟きながら、通知を開く。 正直、また相互登録の誘い文句だろうと、期待なんてしていなかった。
だが——画面に表示された文章を目にした瞬間、思わず読み返した。
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『突然のDM失礼します。トナリさんのゲーム実況を、いつも楽しく拝見させていただいています。昨日アップされた「IF」も、すごく面白かったです!』
---
……トナリ。 それは俺の配信者ネーム、『隣のネクラ』の略称だった。
「……ホントかよ……」
心臓が、ひとつドクンと鳴った。 “面白かった”という、その一言が胸の奥に刺さって離れない。
けれど、現実はそう甘くない。 案の定、その続きにはこう書かれていた。
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『実は自分も実況をしているものなのですが——』
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「はい、出た。あげて落とすやつ」
テンプレみたいな展開。わかりやすい伏線回収。 “持ち上げてからの、相互登録のお願い”。もう何度見たかわからない。
メッセージの残りを読むまでもなく、俺はスマホを伏せた。
「朝の時間に、なに無駄な感情使ってんだか……」
心の中に浮かび上がった微かな期待が、するりと音を立てて崩れていく。 このまま読んでいたら、また変に期待して落ち込むだけだ。
朝の支度を淡々とこなす。洗顔、着替え、荷物確認。 平日、いつもの出勤ルーティン。 変わり映えのしない一日の始まり。
(……これを変えたくて、実況を始めたはずだったのにな)
ため息をつきながら、玄関を出て、最寄り駅までの道を歩く。 憂鬱な気持ちを少しでも紛らわせようと、スマホを取り出して配信アプリを開いた。
「……あ、キリトさんの動画、上がってる」
投稿は五時間前。すでに再生回数は、余裕で三桁を超えていた。
(……これが現実ってやつか)
キリト。 俺がゲーム実況を始めるきっかけになった配信者だ。
比べるのもおこがましいことはわかってる。 でも、それでも、見てしまう。差を、数字で突きつけられる。
(見てもらえるようになったら、どんな気持ちになるんだろうな)
再生数が伸びて、コメントがついて、ファンができて。 もし自分がそんなふうになれたら——嬉しいに決まってる。
キリトの実況は、いつだって自然体だ。 ゲームに負ければ「くっそー」と悔しがるが、それでも面白いゲームだなぁと笑っている。 騒ぎすぎるわけでもなく、説教臭くなるわけでもなく、まるで友達の家で一緒にゲームしてるような感覚。
(俺も、あんな実況者になりたい)
それは、ずっと心の中にある憧れ。 けれど、どうやったらそこに届くのか。答えは、わからないままだ。
動画の音声がイヤホンから流れ出す。 キリトの楽しそうな笑い声が、俺のため息に混じった。
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