【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす

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「おはようございますー」
「おはざーす……あれ、一色さん、なんか眠そうじゃない?どうしたの?」

出勤早々、同僚に声をかけられた俺は、苦笑いを浮かべるしかなかった。

「あー……ちょっと、夕べいろいろありまして」

――まさか、“偽キリト”からのDMが本物で、そのうえ、生配信であんな無茶をさせることになるなんて、誰が予想できただろうか。
あの「西山ダディダディ」の謎パフォーマンスが終わった直後、俺はあわててDMを開き、土下座する勢いで謝罪メッセージを連投した。「本当に申し訳ありませんでした」と何度も繰り返しながら。

でも、キリト――本物のキリトは、信じられないほど寛大だった。

《信じてもらえるなら、なんだってしますよ!大丈夫です!》

そう、配信アプリ越しに明るく笑っていた彼の声は、少しも怒気を孕んでいなかった。むしろ、どこか楽しそうですらあった。

「……キリトさんが許してくれても、ファンは許さねぇだろうな」

怖すぎてチャット欄なんか覗けなかったし、とはいえ途中で離脱する勇気もなかった。俺は正座して、黙って最後まで見届けた。まるでお通夜のようなテンションで。
おかげで眠い。だが完全に自業自得。
はあ、と重たい溜息をついたところで、スマホが静かに震えた。

「……もうこの振動が怖ぇよ……」

昨日から続くトラウマ級の通知にビクつきつつも、恐る恐るスマホの電源を入れる。通知元は、メッセージアプリ「DEIM」だった。
画面に表示されているお知らせ通知を、俺は一拍おいてから、そっと開いた。

『おはようございます!昨日は遅くまで付き合わせちゃってすみませんでした。今日もお仕事ですよね?頑張ってください!本日お仕事終わりましたら、少しお話しさせてください!』

文面の最後には「ファイト~」と叫ぶおばあちゃんスタンプ。なんというか……一周回って、癒される。

「まさか、キリトさんとDEIMのIDを交換する日が来るとは思わなんだ……」

そう、昨夜のやり取りのなかで、キリトの希望でIDを交換する流れになったのだ。何が起こるかわからないもんだ。
そしてどうやら今夜も、彼と連絡を取ることになりそうだった。

瞼は重たいままだが、スマホの中のおばあちゃんが「頑張れぇ」と叫んでいる。……よし、今日もなんとか乗り切ってみせよう。


こうして本日もちょっぴり残業し、無事に業務を終えて、ぐったりとした体を引きずりながら帰宅。風呂に入り、遅めの夕飯を済ませて、ようやく一息。そして――昨日からすでにトラウマと化しつつある、スマホと向き合う時間がやってきた。

「はて……なんて連絡すりゃいいんだ? “話をさせてほしい”って……コラボのこと、だよな……多分」

連絡をもらった理由は確か”コラボしたい”という内容だったはず。
でも――なぜそんな発想になったのか。いや、そもそもなぜ“俺”なんだ?彼ほどの人気者が、地味で陰キャな実況者と組みたいなんて、どこをどう間違えばそうなる?

「凡人とは思考回路が違うんかな……」
そうなると、もう考えたって仕方がない。もし本当にコラボの話なら、本人に直接聞いてみればいい。
俺は意を決して、キリトにDEIMでメッセージを送る。すると――返事はすぐに返ってきた。

『こんばんわ!お疲れ様です!』
『こんばんわです。すみません、遅くなってしまって。』
『いえいえ!お気になさらず! それで早速なんですが……あの、トナリさんさえよければ、コラボ動画を撮らせていただきたくて……どうでしょうか……』

“早速”にもほどがあるだろ、と思いつつも、やはりこれが本題らしい。俺は、あらかじめ考えていた質問をぶつけてみる。

『あれ、本気だったんですね……嬉しいんですが……なんで俺なんかとって思ってまして。俺のチャンネル登録者数、知ってます? 82人ですよ?笑』

あまり自分を卑下した物言いはよくないとは思ったけど、これが正直な気持ちだった。

『急すぎてびっくりさせちゃいましたよね……実はというかなんというか……俺、本当にトナリさんの実況スタイルが好きで全部の動画見てるんです! 特に『シャナ』が好きで! だんだんトナリさんがシャナに感情移入していって、最後に泣いちゃうところとか、もう……ほっこりするっていうか、可愛いっていうか、トナリさんの優しさにメロメロというか!』

読むのがちょっと恥ずかしくなるほどの長文。そして、「これ本当に俺のことか?」となる感想も混じってはいるが……でも、どうやら本当に見てくれているらしい。

『だからってわけじゃないんですが……“俺なんか”なんて言わないでください! 俺はトナリさんの一番のファンですから! そんなこと言われたら、悲しいです』

ファン。キリトさんが、俺の、ファン――。すごいワードが飛び出してきたもんだ。

『すみません、気をつけます……ですが、コラボって俺、やったことなくて……というか、そこそこのコミュ障なんですよ、俺。だから面白い動画になるか……それにキリトさんのファンの方には、絶対“誰だコイツ”って思われますよ?』
『大丈夫です。むしろコミュ障のトナリさんも俺は見たいです。それに、面白い動画にしようとしなくていいですよ! 普通にしてもらえたら、それだけで俺が楽しいんで(笑) “誰だコイツ”って言われたら、俺の好きな配信者だって言いまくるんで、なんの問題もないっす!』

……いや、何が問題ないのかはちょっとわからないし、なぜ俺のコミュ障が見たいのかも謎だ。ただ、ものすごい勢いでゴリ押しされてるのだけは伝わってくる。
どうしたものかと悩んでいると、シュポッと音がして、再びキリトからメッセージが届いた。

『俺と一緒にゲームするのは嫌ですか?』

そんなわけ、ない!
俺は慌てて返事を打ち込む。

『嫌じゃないです!! むしろしたいです! 配信者だから~とかじゃなくて、キリトさんとゲームしたら絶対面白いだろうなって、ずっと思ってました! だから、そんなことないです! ただ、俺にはちょっとハードルが高いというか……すごくありがたい話なんですが、ちょいと怖気づいちゃうというか……』
『よかった(笑) っていうか、俺とゲームしたいって思ってくれてたなんて嬉しすぎますね~!ならこうしましょう! 録画とかなしで、純粋に一緒にゲームして遊びましょう!』

録画なし……それならファンに詰められることも、面白くしなきゃというプレッシャーもない。

『それならいけそうです。ぜひ一緒に遊びましょう』
『やった!! 何しましょうかね! 協力プレイがいいですかね~対戦がいいですかねぇ……あ~でも俺、トナリさんと戦うのやだなぁ~ 協力プレイにしましょう! そうなると何かなぁ~やりたいのあります?』

とにかくノリノリなキリトに少し押されながらも、二人であれこれ話し合い、都合の合う日を決め、この日のやりとりは一旦お開きとなった。

『それじゃあ、この日はよろしくお願いします! わ~めっちゃ楽しみだなぁ!』
『はい、よろしくお願いします。俺も楽しみです。ではおやすみなさい』

キリトからのおやすみスタンプが届き、忙しなく動いていた俺のスマホはようやく静かになった。
ふーっと息を吐いて、スマホから目を離す。そして数秒後――


「……俺、キリトさんと遊ぶ約束しちゃった……」


なんとも現実味のないワードが、口からぽろりとこぼれ落ちた。
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