【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす

文字の大きさ
16 / 35

隣にいてくれたのは誰?

しおりを挟む
※修正日2025/07/29


「イっちゃん! お待たせ~」
「……お前、その“イっちゃん”って呼び方、そろそろやめろよ。さすがに恥ずかしいわ」

──劇団季節、当日。

俺は、高校時代からの友人・高橋友斗(たかはし ゆうと)と、駅で待ち合わせをしていた。

俺の本名は、一色 公孝(いっしき きみたか)というのだが、高橋は昔から俺のことを“イっちゃん”と呼ぶ。もう三十路半ばのいい年したオッサンに“ちゃん付け”はキツい。ちなみに、俺はあいつのことを”ワガ”と呼んでいる。

「いーじゃねーか”イっちゃん”。
てか、それ言うなら“ワガ”もやめろや。どうやったら高橋から“ワガ”になるんだよ」
「えー……なんだっけな。“たかはし”から“はしたか”になって、なんか“アシタカ”に似てね?
って話になって、アシタカといえば“我が名はアシタカ”っていうセリフだよなー……で、長すぎるから“我”が残って、“ワガ”ってことでしょ?」
「……いつ聞いてもその流れが理解できん。もう高橋のカケラも残ってねーんだわ」

久々に会ったせいか、くだらない話ひとつでも会話が弾む。ずっと張り詰めていた心が、少しだけ、ほどけていくのを感じた。

「あ、そういえばさ。
実況の方はどうなん? そろそろチャンネル名くらい教えろや」
「あー、まぁ……うん。頑張ってるよ。でも教えん」

できれば今日は忘れていたい話題だった。苦笑いしながら濁すと、ワガは少し考え込んだあと、いつもの軽い調子で「そっか」とだけ言って、それ以上は何も言ってこなかった。


それから俺たちは腹ごしらえにラーメン屋に寄り、会場へ向かった。劇場前で記念撮影をして、グッズ売り場でいくつか戦利品をゲット。指定された席に座って、開演までの時間をあれこれ喋って過ごす。

──そして、いよいよ幕が上がった。

劇は、言うまでもなく──最高だった。
二部公演だったため、終演後にはすっかり陽も暮れていた。

昂ぶった気持ちを落ち着けるために、俺たちは適当な居酒屋へ入り、酒を片手に「あそこが良かった」「あのシーン、泣きそうだった」と、それぞれの感想を思い思いにぶつけ合った。

「あーほんと……感無量だわ。すげー楽しい一日になった。ワガ、ありがとな。一緒に来てくれて」
「なーに言ってんだよ。ありがとうはこっちのセリフだわ。誘ってくれて、あんがと。……でも、良かったよ。お前の顔が、少し明るくなってさ」
「……へ?」

ワガは、安心したようにビールをグイッとあおった。

「待ち合わせのときさ、お前、けっこうヤバい顔してたぞ? 暗いっていうか……疲れてるっていうか……思い詰めてる感じ? よくわかんねーけど、とにかく“らしく”なかった」

思い当たることはある。だが、それが顔に出ていたとは思わなかった。
──配信のこと。誰にも話せない、自分勝手すぎる悩み。

「……あ。また暗くなった。何だよ、どーした? 言ってみ? 解決できなくても、話くらいは聞けるぜ」
「んー……」

話してもいいのだろうか──。
この悩みはあまりにも贅沢で、わがままで、甘えているだけだ。けれど、ワガはテーブルに肘をついて、こっちを見ながら軽く言った。

「イっちゃん。ゲロっちまえよ。そしたら楽になるぞ~。……あれか? 仕事? それとも配信? 登録者が伸びなくて悩んでんのか?」

完全に“聞くモード”に入ってしまったワガに、もう誤魔化すこともできなくなって、俺はぽつりぽつりと話し始めた。

「いや……その悩みは、もう解決してて……どっちかというと、その、逆でさ」
「逆? あ、伸びてんのか? マジ? すげーじゃん! 今、何人くらい?」
「あー……今は、たぶん、350人くらい……」
「うお、すげぇな。え、じゃあ何が悩みなん? プレッシャーとか?」

──ドンピシャすぎて、頷くしかなかった。

「へー、そうか。……じゃあ、ちょっとゆっくりすれば? でも、それだと登録者減っちゃうか。頑張ってそこまで来たのに減らしたくねーよなぁ」
「……まぁ、そうなんだけど……」

ワガの言葉は確かに正しい。でも、俺がこの数字に辿り着けたのは、俺ひとりの力じゃない。キリトがいてくれたからだ。彼の存在があったから、続けてこられた。

彼が居なかったらとうに辞めていただろう。

──キリトがこんなにも応援してくれているというのに、プレッシャーに負けそうになってるなんて、情けない。

俺は、ワガには“キリト”という名前を伏せたまま、今の状況と心境だけをぽつぽつと語った。
全部話し終える頃には、また自己嫌悪に引き戻されそうになっていた。
本当に、こんな悩みは自分勝手で、くだらないのかもしれない。

だが──

「ふーん」

ワガはそう言って少し黙り、それから、穏やかな声で問いかけてきた。

「イっちゃんは、何のために頑張ってきたん?」
「え……何のためって……」
「手伝ってくれた配信者の人のため?」

一瞬、返事に詰まった。

「……いや、そうじゃないけど……俺の、居場所が欲しかったから……。俺だけの世界が、欲しかったから……頑張ってた。頑張ってきた」
「そっか。じゃあさ、その“世界”って、どこまでいったら出来上がるん?」
「どこまで、って……」

そうだ。俺は、いつまで“頑張り続ける”んだろう。どこまでいったら、「ここが俺の場所だ」って、胸を張れるんだろう。

「……わからん。俺、どこまでやればいいんだろう……」
「うんうん。まぁ、わかんないってことは、まだまだ先なのかなー」

ワガは頷きながら、さらに言葉を重ねる。

「でさ。その世界を作ったあと、イッちゃんはどうしたいの? 有名になりたい? 配信だけで食ってくとか、そういう?」
「……いや。そこまでは、正直考えてなかったな……」

俺はただ、居場所が欲しかった。誰にも邪魔されない、自分だけの場所が。

ワガはビールをぐいっと飲み干すと、ふっと笑った。

「だったらさ。もう少し気楽でいいんじゃね? そんな急ぐことないよ。手伝ってくれる人もいるんだし、ゆっくり楽しみなよ」
「……でも」

キリトが──キリトに、ガッカリされたらどうしよう。

「イッちゃん、その配信者さんのこと、好きなんだねぇ」
「えっ」

突拍子もない言葉に、豆鉄砲を食らったような顔をしてしまう。
ワガはそれを見て、ケタケタと笑った。

「だってさぁ、イッちゃんずっとその人のこと気にしてるじゃん。せっかく増えた登録者より、その人に呆れられる方が嫌そうに見える。よっぽど嫌われたくないんだねぇ」
「そっ、そんなことっ……! ……あるかもしれん……」

登録者数が減るのも、確かに嫌だ。けど、それよりも彼にガッカリされる方が、ずっと苦しい。

なんでだろう。

「その配信者さんって、どうやって知り合ったの?」
「ん? どうって……んー……突然、向こうからDMが来て……」

俺は、ざっくりとキリトとの出会いと、そこから一緒にゲームをするようになった経緯を話した。
ワガは驚いたように目を丸くしていたが、すぐに納得したように頷いて、言った。

「その配信者さんも、イッちゃんのこと好きなんだねぇ。期待に応えたいんだろうな。健気だな~」
「俺の……期待?」
「うん。イッちゃんに喜んでほしくて、続けてほしくて──まぁ、どこまで本気かはわかんないけど、すごく頑張ってくれてるんじゃないかなぁ」
「う……」
「だからさ。ここでイッちゃんが無理して潰れたら、その人、きっとすごくショックだと思うよ」
「うぅ……」

ワガは、残っていたビールを飲み干して、優しい声で言った。

「一人で頑張ってきたんじゃないって思ってるならさ、ちゃんと話してごらん。今の気持ちも、これからのことも。そうやって一緒に作っていくもんじゃない? “居場所”ってさ」

その言葉が、胸にすとんと落ちた。

(ああ、俺……一人で頑張ってきたつもりで、ずっとキリトと一緒にいたんだな。なんでこんなことにも気が付かなかったんだろう。)

心の奥で、何かがふっと軽くなった気がした。

「で? そのチャンネル名は?」

「それは教えない」

「ケチ!」

俺たちは顔を見合わせて、笑い合った。
くだらなくて、でもどこかあたたかい笑いだった。

──やっぱり、友達っていいな。
そう、改めて思った夜だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ちょっとどころか結構修正。
うへ。
誤字方向サンクス!

修正日7/29
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

恋人は配信者ですが一緒に居られる時間がないです!!

海野(サブ)
BL
一吾には大人気配信者グループの1人鈴と付き合っている。しかし恋人が人気配信者ゆえ忙しくて一緒に居る時間がなくて…

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

処理中です...