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「大丈夫」は呪いの言葉
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キリトとコラボしてから、俺の日常は大きく変わった。
登録者数はみるみるうちに伸び、zのフォロワーもあっという間に三桁を超えた。
正直、コラボ動画以外にはそこまで反応はないだろうと思っていたが──そんなことはなかった。以前ならコメントひとつ付くことも稀だった動画に、今ではたくさんの「いいね」やコメントがつく。
ひと月前の俺には、到底想像もできなかった光景だった。
Zにくだらないひと言を呟くだけで、通知が何倍にも膨れ上がって返ってくる。初めのうちはただただ嬉しくて、いい歳をした大人がニヤつきながらスマホを眺めるという、なんとも小っ恥ずかしい日々を送っていた。
──だが、それもいつの間にか変わっていた。
通知が鳴るたびに、胸の奥に黒い霧がじんわりと広がるようになったのだ。
素直に、喜べなくなっていた。
知らないうちに、“プレッシャー”という名の重圧に押し潰されそうになっていたのだ。
誰かに知ってほしい。見てもらいたい──そう願っていたくせに、今さら何を言ってるんだと自分でも思う。それに、キリトは俺のためにたくさん動いてくれている。コラボだって、宣伝だって、俺の動画を心から楽しんでくれているというのに。
何を甘えてるんだ。弱音なんか吐くな。負けるな。乗り越えろ──。
……そう言い聞かせながらも、
「面白かった」「もっと見たいです」「次の動画、早く見たい!」
そんな言葉が目に入るたび、胸がじわりと苦しくなる。“応えなきゃ”という気持ちが、どこかで焦りに変わっていく。
──わかってる。よくない思考だってことは。
だけど、ここで「ちょっと休憩」なんて甘えれば、キリトの期待を裏切ることになる。彼のためにも、俺は手を止めたくなかった。
「大丈夫、やれる。大丈夫だ」
そう呪文のように繰り返しながら、どんなに仕事で疲れていても、帰宅後は少しでも編集を進めるようにしていた。投稿頻度は多くないが、それでも週に一本は、欠かさず動画を上げ続けている。
そんな俺の今のモチベーションになっているのが、一年前にチケットを取った『劇団季節』の舞台だった。何年も前から観たくてたまらなかった演目なのに、なかなかこっちでは公演されなくて──ようやく今年、手の届く距離にやってきた。
そして、いよいよ来週。待ちに待った観劇の日がやってくる。
舞台そのものももちろん楽しみだが、「ゲームから少し離れられる」ということに、ほんの少しだけ、ホッとしている自分がいる。
これは、俺なりの──息抜きなのだ。
息抜きをしたら、また頑張れる。このモヤモヤだって、きっと消えてくれる。そう信じながら、俺は本日の見守り配信用ホラー実況を、ヒーヒー言いながら収録していた。
「よし、今日はここまでにしておきましょうか! トナリさん、お疲れ様です!」
「……はい、お疲れ様です……」
「元気ない(笑) まあ今回のは、ちょっとびっくりしましたね~」
「“今回のは”じゃないですよ、毎回ですって……。可愛い見た目してるからあんま怖くないと思ってたのに……」
ガチで凹んでいると、キリトはくすくす笑った。
「あ、そういえばトナリさん、ホラーゲーム、めちゃくちゃ好調ですね。登録者、明日には二百人超えそうですよ!」
「……そうですね……。嬉しいです……」
「今日も疲弊してますね(笑)」
「ん……驚き疲れました……」
面白くないわけじゃない。ヒット作なだけあって、ゲーム自体はよくできている。ただ、驚かされすぎて神経が擦り減る。キリトが見守ってくれてなかったら、とっくに挫折していただろう。
心の中であらためて感謝していると、キリトから来週の予定を確認されたがその日は、待ちに待った劇団季節の観劇日だ。「予定がある」とだけ伝えると、キリトは「お仕事ですか?」と心配してくれた。
「いえ、友達と出かける予定があって……」
「え~、まさか。デートだったりして?」
デートか──。最後に誰かとそういう時間を過ごしたのは、いつだったか。思い出すだけ虚しくなるから、やめておいた。
軽く笑って否定し、「劇団季節を観に行くんです」と伝えると、キリトは意外にも興味を示してくれた。「行ってみたいな」そんなことを言われたら、劇団季節ファンとしては嬉しくなる。
今回の公演はもう間に合わないけど、次に気になる演目があれば──そのときは、俺がチケットを取ってもいいかもしれない。
(……あ。でも、キリトさんってどこに住んでるんだ?)
危うく、できもしないお節介を焼くところだった。
そんなことを思いながら、──いつか本当に、一緒に出かけられたらいいな。そんな淡い願いが、心の奥でふっと灯った。
_____________________________
二人とも会って見ないなーとは思っているようですが、会ってみたいの方向が違うんですね。
そしてトナリ君は急激に増えた登録者数の現実に心が追いつかないご様子。
ちなみに実体験で、私は急激に増えて不安になってしまったので、しばらく数字は見ないようにしていました。
そんな気持ちをトナリ君にも味わってもらいました。
登録者数はみるみるうちに伸び、zのフォロワーもあっという間に三桁を超えた。
正直、コラボ動画以外にはそこまで反応はないだろうと思っていたが──そんなことはなかった。以前ならコメントひとつ付くことも稀だった動画に、今ではたくさんの「いいね」やコメントがつく。
ひと月前の俺には、到底想像もできなかった光景だった。
Zにくだらないひと言を呟くだけで、通知が何倍にも膨れ上がって返ってくる。初めのうちはただただ嬉しくて、いい歳をした大人がニヤつきながらスマホを眺めるという、なんとも小っ恥ずかしい日々を送っていた。
──だが、それもいつの間にか変わっていた。
通知が鳴るたびに、胸の奥に黒い霧がじんわりと広がるようになったのだ。
素直に、喜べなくなっていた。
知らないうちに、“プレッシャー”という名の重圧に押し潰されそうになっていたのだ。
誰かに知ってほしい。見てもらいたい──そう願っていたくせに、今さら何を言ってるんだと自分でも思う。それに、キリトは俺のためにたくさん動いてくれている。コラボだって、宣伝だって、俺の動画を心から楽しんでくれているというのに。
何を甘えてるんだ。弱音なんか吐くな。負けるな。乗り越えろ──。
……そう言い聞かせながらも、
「面白かった」「もっと見たいです」「次の動画、早く見たい!」
そんな言葉が目に入るたび、胸がじわりと苦しくなる。“応えなきゃ”という気持ちが、どこかで焦りに変わっていく。
──わかってる。よくない思考だってことは。
だけど、ここで「ちょっと休憩」なんて甘えれば、キリトの期待を裏切ることになる。彼のためにも、俺は手を止めたくなかった。
「大丈夫、やれる。大丈夫だ」
そう呪文のように繰り返しながら、どんなに仕事で疲れていても、帰宅後は少しでも編集を進めるようにしていた。投稿頻度は多くないが、それでも週に一本は、欠かさず動画を上げ続けている。
そんな俺の今のモチベーションになっているのが、一年前にチケットを取った『劇団季節』の舞台だった。何年も前から観たくてたまらなかった演目なのに、なかなかこっちでは公演されなくて──ようやく今年、手の届く距離にやってきた。
そして、いよいよ来週。待ちに待った観劇の日がやってくる。
舞台そのものももちろん楽しみだが、「ゲームから少し離れられる」ということに、ほんの少しだけ、ホッとしている自分がいる。
これは、俺なりの──息抜きなのだ。
息抜きをしたら、また頑張れる。このモヤモヤだって、きっと消えてくれる。そう信じながら、俺は本日の見守り配信用ホラー実況を、ヒーヒー言いながら収録していた。
「よし、今日はここまでにしておきましょうか! トナリさん、お疲れ様です!」
「……はい、お疲れ様です……」
「元気ない(笑) まあ今回のは、ちょっとびっくりしましたね~」
「“今回のは”じゃないですよ、毎回ですって……。可愛い見た目してるからあんま怖くないと思ってたのに……」
ガチで凹んでいると、キリトはくすくす笑った。
「あ、そういえばトナリさん、ホラーゲーム、めちゃくちゃ好調ですね。登録者、明日には二百人超えそうですよ!」
「……そうですね……。嬉しいです……」
「今日も疲弊してますね(笑)」
「ん……驚き疲れました……」
面白くないわけじゃない。ヒット作なだけあって、ゲーム自体はよくできている。ただ、驚かされすぎて神経が擦り減る。キリトが見守ってくれてなかったら、とっくに挫折していただろう。
心の中であらためて感謝していると、キリトから来週の予定を確認されたがその日は、待ちに待った劇団季節の観劇日だ。「予定がある」とだけ伝えると、キリトは「お仕事ですか?」と心配してくれた。
「いえ、友達と出かける予定があって……」
「え~、まさか。デートだったりして?」
デートか──。最後に誰かとそういう時間を過ごしたのは、いつだったか。思い出すだけ虚しくなるから、やめておいた。
軽く笑って否定し、「劇団季節を観に行くんです」と伝えると、キリトは意外にも興味を示してくれた。「行ってみたいな」そんなことを言われたら、劇団季節ファンとしては嬉しくなる。
今回の公演はもう間に合わないけど、次に気になる演目があれば──そのときは、俺がチケットを取ってもいいかもしれない。
(……あ。でも、キリトさんってどこに住んでるんだ?)
危うく、できもしないお節介を焼くところだった。
そんなことを思いながら、──いつか本当に、一緒に出かけられたらいいな。そんな淡い願いが、心の奥でふっと灯った。
_____________________________
二人とも会って見ないなーとは思っているようですが、会ってみたいの方向が違うんですね。
そしてトナリ君は急激に増えた登録者数の現実に心が追いつかないご様子。
ちなみに実体験で、私は急激に増えて不安になってしまったので、しばらく数字は見ないようにしていました。
そんな気持ちをトナリ君にも味わってもらいました。
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