地獄の門の先に楽園があるかもしれない

宇宙超涅槃菩薩

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第三話

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???
「お客さん……お客さん……」
太郎
「……?」
???
「お客さん……起きて……」
太郎
「……あと五分……」
???
「お客さん、終点だよ!」
太郎
「……!!」

目を開くと至近距離に深紅の髑髏が!

太郎
「ぎゃあああああ!!!」
ガミジン
「一度やってみたかったんですよね、この起こし方。」
太郎
「勘弁してくださいよ!心臓止まるかと思ったよ!!」

言いたくはないが寝起きに直視するのは正直辛い顔なのだ。しかも近い。
そこも加味して普通に起こしてほしいものである。

状況を確認しよう。
地下鉄に乗って終点まで居眠りしていたようだ。
怨霊みたいなのに起こされたが別に地獄行きの列車に乗ったわけではない。
観光……ではなく買い物をしに王都までやってきたのだ。

衝撃的な目覚めだったが深呼吸をして一応落ち着く。
正面に居るガミジンさんから目をそらすように隣を見る。

太郎
「ゴンザレス……!お前、頭どうした!?」

頭部が無くなっている!?
……と思ったがよく見ると膝の上で拭かれている頭蓋骨。

ガミジン
「ゴンザレスは自分の意志で頭が取り外せるんですよ。メンテナンスも楽でいいですよね。」
太郎
「便利そうですね、真似したくはならないけど。」
ガミジン
「太郎さんが真似したら死んじゃいますよ。」
太郎
「……とりあえず下車しましょうか。」

忘れ物が無いか確かめ席を立つ。
ゴンザレスも頭を付けて立ち上がる。いや待て前後逆だぞ頭蓋骨……。

太郎
「ゴンザレス大丈夫か?前見えないんじゃ……ムーンウォークだとぉ!?」

後ろを見ながら後ろ向きに歩いて行くゴンザレス。

ガミジン
「大丈夫そうですね。」
太郎
「器用なやつだなぁ……。」

呆れつつもゴンザレスに続き下車する俺たち。
ホームから階段を上って行くと改札……と検問がくっついているようである。
よく考えたらここ国境だもんな……。

太郎
「検問だぞ?首戻したほうがいいんじゃない?」
ゴンザレス
「……。」

おもむろにゴンザレスの前(後)に立つガミジンさん。
側頭部に手を伸ばし……

ガミジン
「フンッ!!」
ゴンザレス
「……!」

一気に反転させる。
凄い荒療治だ。人間にやったら即死不可避だな。

太郎
「手慣れてますね、ガミジンさん。」
ガミジン
「召喚時に組み違いが出てる子も少なからずおりましてね、それで何度かやっているんですよ。」
太郎
「知られざる眷属召喚の裏側……。」

スケルトン特有の初期不良なのだろうか……?
ともかく身嗜みその他諸々を正し検問に突入。
中に入ると思ったより混んでいた……。

検問所職員
「あぁ、ガミジン様!ようこそ、お話は伺っております!」
ガミジン
「これはどうも。今日はいつもより忙しそうですねぇ。」
検問所職員
「ええ……最近またアレが活動し始めたようでして……。」
ガミジン
「あー……例の……。」
検問所職員
「ですので荷物チェックの後そちらの部屋で消毒をお願いしております。」

会話の内容があまり穏やかではない気がするが……思い切って聞いてみよう。

太郎
「何か……あったんですか?」
検問所職員
「『種付けおじさん』が出たんですよ。」
太郎
「種付け……おじさん……??」
ガミジン
「太郎さんはご存じないですよね。」
検問所職員
「そうなのですか?では説明しておきますね。」
「『種付けおじさん』というのは現在指名手配中のテロリスト集団です。」
太郎
「テロリスト!?」
検問所職員
「ええ、環境破壊を目的とした秘密結社のような存在で……」
「気付かれないように旅行者の身体や荷物に外来植物の種をくっつけて送り込んでくるんですよ。」
太郎
「麻薬の密輸と同じ手口じゃないか……。しかもそれでやることは環境破壊なのか。」
ガミジン
「我々が来てしまったせいで島の環境は荒れています。少しの外来植物でも何が起こるか……。」
検問所職員
「ガミジン様たちのせいではありませんよ。それに我々も検問を強化しておりますので密輸などさせません。」

やってることは分かったが締まらない名前である。
勝手につけられた呼び名なのか、それとも自分たちで名乗っているのかは気になるところだが……。

検問所職員
「昔は麻薬の密輸も散見されたのですが今は全然ですね。」
太郎
「おぉ?何かあって治安が良くなったのですか?」
検問所職員
「過去に麻薬の生産地とされていた土地は……。」
ガミジン
「現在、ゴエティア領内となっているみたいです。」
太郎
「つまり……瘴気で麻薬が撲滅されたと……。」
検問所職員
「はい。」

ちょっと出来すぎている気がするが偶然なのだろうか?

検問所職員
「それで現在はそういう輩が活動しておりまして検査、消毒など徹底しております。」
太郎
「事情はわかりました。いつの間にか運び屋にされてる可能性があるってことですね。」
検問所職員
「そうなのですよ。ですので不用意に近寄ってくる不審人物等は警戒してくださいね。」
太郎
「了解です。しかしそこまでして環境破壊って何の得があるんでしょうかね……?」

なぜ指名手配されてまでそんなことをするのか……リスクに見合う何かがあるのだろうか?

検問所職員
「逮捕された構成員からそれも聞き出そうとしたそうですが……言っていることが支離滅裂でわからなかったらしいです。」
太郎
「違う意味でもヤバイ奴らだった……。」
検問所職員
「ヤバイ奴を唆して実行犯にしている、黒幕が居ると言われてますね。組織立って動いていますから。」
太郎
「それはまた難敵ですね……。」

自治区とは違った方向で治安が悪いようである。
検問も思ったより手間がかかるなぁ……。

検問所職員
「では荷物検査から……おっ、これは……。」
太郎
「あっ、それは……。」
検問所職員
「聖書ですか。信仰熱心ですね。」
太郎
「ええ、まぁ……。」

入信はしていないので持っているだけなのだが……。
おもむろに聖書を捲り始める職員さん。

検問所職員
「内容も間違いなく聖書ですね。」
太郎
「内容も……?まさかパチモノが存在する!?」
検問所職員
「ちょっと前に聖書に偽装された官能小説が持ち込まれまして……。」
太郎
「そこまでして持ち込みたかったのか……。」

検問も楽じゃないな、などと思いながら二人を待つ。

ガミジン
「終わりましたか?」
検問所職員
「ええ、お荷物は全員問題なしです。後はそちらの部屋で着衣の消毒をお願いします。」

俺だけ別室である。魔物は人間とは異なる方法で消毒するのだろうか?
部屋に入り着衣の付着物を落とす。そして変な匂いの薬品を霧吹きで雑にかけられた。
大丈夫なのかこれで……もしかして思っているより凄い薬品なのか?

なんやかんやで手続きも終わり駅を出る。
そこに広がるのは中世風の活気ある街並みだ。

太郎
「ここが王都……。」

まず空を見上げる。
自治区は全体に屋根があった。ゴエティアは瘴気で曇っていた。しかしここの空は青く澄み渡っている。

太郎
「久々だなぁ……青空を見るの。」
ガミジン
「そういえば太郎さん、自治区からはあまり出ていませんでしたね。」
太郎
「そうなんですよ。」

和やかな表情で空を見上げていたが唐突に何かデカいのが視界を過る。

太郎
「あれは……プテラノドン!?」
ガミジン
「ですね。」

ガミジンさんの落ち着き様を見るに日常茶飯事なのだろう。
飛行するプテラノドンを眺めていると異変が……。

太郎
「あっ、今何か落ちましたよ!?」
ガミジン
「プテラノドンのフンですねぇ。」
太郎
「……。」

どうやら害獣のようである。
屋根が無いということはこのようなリスクを負うのである。なんと非情な生態系か……。

ガミジン
「めったにないことなのですが……撤去作業の邪魔にならないようにあそこは避けて行きましょうか。」
太郎
「そうですね。」

足音が聞こえたので駅の方を振り返るとゴンザレスが走り寄ってきた。
手元に何か持っているぞ?

太郎
「何だそれ、売店で買ったのか?」

ゴンザレスが持ってきたのは地図と……なぜか竹輪である。

太郎
「えぇ……竹輪も売ってるのか……。」
ガミジン
「あなた食べられないのになんで買ってきたんですか……。」

我々の困惑などどこ吹く風、おもむろに竹輪の袋を開封するゴンザレス。

太郎
「ん?どうする気だ?」
ゴンザレス
「……。」

ゆっくりと顔を上げるゴンザレス。その眼窩には竹輪が差し込まれている。

ゴンザレス
「……。(ドヤァ」
太郎
「絵的にキツい。マジで。」
ガミジン
「食べ物で遊ばないでくださいよ……。」

窘めるためにゴンザレスに近寄るガミジンさん。
……が唐突に振り向く。
彼の眼にも竹輪が!!

太郎
「止めると見せかけて便乗しないでね!?その竹輪の目線マジでヤバいから!!」
ガミジン&ゴンザレス
「……。」

竹輪の穴から突然水雲が流れ出す!!
遠くから見れば髑髏の飛び出した眼から黒い涙が出ているようで非常におぞましい光景に違いない。

太郎
「どうやってるのそれぇ!?」

つい叫んでしまったが原理はともかく止めた方が良いのでは……?

???
「竹輪にも穴はあるんだよな……。」
太郎
「ファッ!?」

声のした方を振り返ると浮浪者風の男が立っていた。

太郎
「誰ですか?」
浮浪者風の男
「これは失礼。私は通りすがりの竹輪ソムリエです。」
太郎
「えぇ……(困惑)」
自称竹輪ソムリエ
「食べないのであれば私がいただいてもよろしいでしょうか。」

あれ見て食欲無くならないのか……。肝が据わっていらっしゃる。
再度竹輪アイ2名を見やると……竹輪が膨れているではないか。
指先で先端の穴を塞ぎ水雲の流出を止めているようである。

太郎
「チャージショットは洒落にならんからやめろォ!」

銃口(?)は確実に俺を狙っている。
竹輪ソムリエに助けを求めようとする……が。

自称竹輪ソムリエ
「いただきます。」
太郎
「抜かずにそこから喰うのかよ!」

ゴンザレスの眼窩に刺さった竹輪を横から豪快に齧り付く。
そして水雲で膨張していた竹輪は見事に爆ぜたのである。
意に介さず竹輪を貪り喰らう竹輪ソムリエ。顔に水雲がかかり呆然とする俺。
周りからどう見えているのか、考えたくもない。

……結論から言おう。彼は4本の竹輪を完食した。
ちなみにガミジンさんは齧られる前に竹輪を眼窩から抜いて差し出していた。

竹輪ソムリエ
「ごちそうさまでした。」
太郎
「事態は収束した、という判断でよいのだろうか……。」

竹輪ソムリエは満足げな表情でこちらにお辞儀をし去って行った。

太郎
「悪ノリが過ぎますよお二人さん。」
ガミジン
「いやあ申し訳ない。ギャグに竹輪を使う機会が今まで無かったのでつい……。」
太郎
「そりゃあんなギャグは人間には不可能ですからね……。」

文字通り人間業ではない……。
もし自分も人間ではなくなったらあのようなギャグをやってしまうようになるのだろうか……。

ガミジン
「あぁっ、止めなさいゴンザレス!」
太郎
「地図で水雲を拭くんじゃない!」

まだ暴走気味のゴンザレスを窘めつつ王都に来た目的を再確認する。
先んじては備品の購入と人材の確保か……。
地図上ではギルドのほうが現在地に近い。こっちから行くか。

ガミジン
「では太郎さん、合流地点も決めておきましょうか。」
太郎
「迷子になったときの……ですかね?」
ガミジン
「いえ、私は少しの間別行動したいので。」
太郎
「はぁ……どこに行かれるんです?」
ガミジン
「こちらの教会にも顔を出しておきたいのです。」
太郎
「教会あるんだ……了解です。」

でも布教は上手くいっていないって話じゃなかったか?
ちょっと突っ込んで聞いてみよう。

太郎
「どういう経緯で教会が建ったんですか?」
ガミジン
「ゴエティアが融資した慈善事業で建ちました。」
太郎
「慈善事業……。」
ガミジン
「ここだけの話、何を建てるかで魔王の間でかなり揉めましてね……。多目的施設の一部を教会にすることでなんとか納得していただきました。」

なかなか無理をしたらしい。やはり信仰熱心だ。
それはそれとして……当初の目的通り護衛を雇いに行こう。

太郎
「では合流場所はショッピングモールの駐車場……?」
ガミジン
「中に休憩所があったはずなのでそちらのほうがよろしいかと。」
太郎
「あぁ……屋外はさっきのアレがありますもんね……。」

流石に例の落下物は怖い、というか遠目から見てもかなりの質量だったし当たったら怪我は免れないだろう。

ガミジン
「ではゴンザレス、戻るまで太郎さんを頼みますよ。」
ゴンザレス
「……。(無言の敬礼)」

ゴンザレスの持つ地図にも念のため教会の位置に印を付けるとガミジンさんは歩いて行った。

太郎
「ああ言ってたけど『自分が同伴すると気を使わせてしまう』って理由だろうな、別行動は。」

俺のつぶやきにゴンザレスは頷きながら地図を差し出す。
地図には駅から冒険者ギルドへの最短ルートに赤線が引かれていた。ずっとふざけ倒しているかと思ったがそうでもないらしい。

とりあえず地図の通りに歩き出す。目的地はそう遠くなく徒歩圏内なのだ。
ネクロマンサー呼ばわりを避けるためゴンザレスには目立たないよう真後ろを歩いてもらっている。
メインストリートはなかなかの活気だ。馬車も多少通るが歩行者が多い。
周囲をチラチラ見ながら歩いていると気になるものが目に入ってしまった。

太郎
「あれは……自治区で見たパンダ猫!?」

パンダ柄の猫と目が合いお互いに固まる。
緊張、そして沈黙が走る……。

パンダ猫
「……ニャァ?」
太郎
「よかった……喋らなかったよ……。」

どうやら柄が似ていただけの普通の猫のようである。
なんでこんなことで緊張してるんだ俺……。

時々目に入る珍獣の類を徹底的にスルーしつつ目的地の近くまでやってくる。

太郎
「あぁ……あれか?妙に派手な看板だな……。」

『冒険者ギルド』の巨大な文字が虹色に発光している。悪趣味なネオン看板だ……。
入口の端でビキニアーマーを着た三人の女が談笑している。いや待て、一番右に居るあいつ……よく見ると男じゃん!?

強面のおっさん
「そこの君……もしかして冒険者ギルドに用事かな?」
太郎
「!?」

いきなり後方から話しかけられた。
振り向くとごつい鎧を着た怖い顔の壮年が居た。

強面のおっさん
「驚かせたね。私は怪しいものではないよ。ほら、これ名刺。」
太郎
「あ、どうも……。」

このおじさんは冒険者ギルドの警備員らしい。

強面のおっさん
「そっちの建物はギルドじゃないからね。」
太郎
「ファッ!?」
強面のおっさん
「冒険者ギルドはこちらになります。」

向かいを見るとそこには……さっきのよりだいぶまともそうな外観の建物が。勿論看板は光ったりしない。

太郎
「まさかカチコミを想定してダミーの建物を……?」
強面のおっさん
「なんだよカチコミって、ヤクザじゃねーよ。」
太郎
「それで……なんなんですか?向かいの建物は。」
強面のおっさん
「あれはな……冒険者ギルドに便乗した同名の風俗店(無許可)だ。」
太郎
「阿漕な商売しやがる。」
強面のおっさん
「本当に風評被害もいいところだぜ。」
太郎
「通報すれば摘発できる気がしますけど。」
強面のおっさん
「ああ、摘発される度にゾンビの如く復活するんだ……。あれで四軒目だよ。」

おっさんの顔からは諦観が見て取れる。王都の治安はどうなってるんだ……。

強面のおっさん
「ご時世柄行政もあれの対処に人員を割けないのだろうが……。」
太郎
「人員ならそれこそ冒険者ギルドから出せばいいんじゃないですか?」
強面のおっさん
「いや、ギルドは一応民営だから……介入するとちょっと話がややこしくなる。」
太郎
「はぁ……。」

いろいろと難しい事情があるようだ。深く聞くと時間がかかりそうなので切り上げて冒険者ギルド(本物)に入る。

太郎
「おぉ……なかなか混んでるな。順番待ちなのかこれ。」

受付と思しきところに行ってみると整理券を渡されてしまった。
ゴンザレスと一緒にロビーのソファーに座る。そしておもむろにスケッチブックに何か描き始めるゴンザレス。

ゴンザレス
「『似顔絵描きます』」
太郎
「待ち時間暇だからってここで営業しないでね!?」

しまった。俺の突っ込みのせいで目立ってしまった……。

???
「これは初めて見る魔物ですね。」
太郎
「ん?誰だ……?」

声の方に目をやると眼鏡を掛けた少年が立っていた。
小学生くらいの年齢だろうか?しかしここに居るということは……まさか冒険者なのか!?

???
「お腹空いたデブー」
眼鏡の少年
「おやつは温存しておけって言われたじゃないですか……。」

眼鏡の少年の後ろから小太りの少年が現れた。わざとらしいから語尾にデブって付けるなよ……。

太郎
「君たちはギルドの人かい?」
眼鏡の少年
「いえ、待ち合わせにここを使わせてもらっているんですよ。」

待ち合わせか……しかしこの取り合わせ、一応聞いてみるか。
解説役のメガネ、太鼓持ちのデブ、この編成であと一人来るとしたら……。

太郎
「待ち合わせてるのは逆毛の熱血少年かな?」
眼鏡の少年
「……お見通し!!あなたはエスパーさんですか!?」
太郎
「いいえ、ネクロマンサーです。(大嘘)」
眼鏡の少年
「まさか霊能力で……。」
小太りの少年
「嘘に決まってるデブー」

どこからか取り出したピコハンでメガネの後頭部を叩くデブ。

太郎
「お前ツッコミ役かよぉ!?」
小太りの少年
「周りのみんながいつもボケ倒すんデブー。本当はおいらもボケかましたいデブー。」

実は苦労人だった……。
ふと玄関口を見ると手を振っている少年が居ることに気付く。

眼鏡の少年
「あっ、隊長さん!」
太郎
「隊長?」
眼鏡の少年
「僕たちは探検隊をやっているんですよ!」

この年頃ならよくあることだろう。しかし本当に少年漫画みたいな編成だなぁ。

逆毛の少年
「おまたせ!……おじさん誰?」
太郎
「おじさんだと!?ふざけんじゃねぇよお前お兄さんダルルォ!?(迫真)」

デブからピコハンを奪い逆毛の頭を叩く。うむ、いい音だ。

逆毛の少年
「おじさんやめちくり~」
太郎
「まだ言うか。」
小太りの少年
「ピコハン返すデブー」

なかなか賑やかな探検隊だ、などと和んでいるとゴンザレスが俺をつついてくる。

太郎
「どうした?……ああ、待ち時間が終わったのか。」

自称『王都探検隊』と別れ、受付へと向かう俺たち。

受付
「大変お待たせしました。本日のご用件をどうぞ。」
太郎
「人材雇用……えーと、ボディーガードになる人を雇いたい。」
受付
「承りました。少々お待ちください。」

資料を確認しているようだ。どんな人材が出てくるのか見ものだぜ。

受付
「コボルトは全員出ていますね。人間、またはゴブリンが空いて……ん?」
太郎
「コボルト人気なのか……。」
受付
「運がいいですね、リザードマンが一匹だけ残っていますよ。」
太郎
「でもお高いんでしょう?」
受付
「この方は人間と同じくらいの報酬に設定されていますね……。何でだろう?」
太郎
「訳ありくさいけど一応会ってみようかな。」
受付
「畏まりました。こちらへどうぞ。」

なぜか座敷へ通される。『冒険者ギルド』にどうしてこんな部屋が……?
受付の人が襖を開く。広めの畳部屋に布団が敷いてあった。おいおっさん本当にこっちが本物のギルドなんだよな?

太郎
「あの布団は……?」
受付
「リザードマンは変温動物でして仕事の前には布団で体を温めているんですよ。」

また獣人に関する無駄な知識が増えてしまった……。
とりあえず布団を剥がして顔を見てみようと近づく。

???
「曲者!!」
太郎
「!!?」
受付
「あっ!布団が吹っ飛んだ!!」

ダジャレ言ってる場合じゃないんだよなぁ……。
布団を弾き飛ばした大きな影は勢いよく跳躍し天井に張り付いた。

受付
「訳あり……でしたね。」
太郎
「そうですね(白目)」

天井に張り付いているのは忍者装束を着込んだ巨大なカメレオンである。

太郎
「他に雇える人材は?」
受付
「残っているのは暑苦しいおっさん連中と猿並みの知能を持つゴブリンですね。」
太郎
「迷うなぁ……。」

戦闘力は未知数にしても外見から既にキャラが濃すぎる。そして代替えも怪しい。

カメレオン
「もしや雇用主様でしたか……でござる。」
太郎
「ござる(笑)」
受付
「お客様がまだ決めかねているので自己PRをどうぞ(ゲス顔)」
カメレオン
「おお!では拙者の忍術を披露しますでござる!」

なんで煽ってるんだこの受付は……。
とにかく忍術とやらを見てやることにする。

カメレオン
「……隠れ身の術!!」

カメレオンの顔色が変わる。物理的に変わる。
顔面の皮膚に後ろの景色を投影しているようだ。
しかし……顔面だけである。忍者装束に変化はない。
つまり隠れる効果は皆無。

太郎
「忍術じゃねーだろ宴会芸だろこれ!」
カメレオン
「オォン!(哀叫)」

どうするかなコイツ……。ん?ゴンザレスが何か書き始めたぞ?

ゴンザレス
「『著者に面倒がられて早死にしそう』」
太郎
「そういうメタな感想はしなくていいんですよ……。」

ゴンザレスに呆れつつ受付さんを見ると別な襖の前に立っていた。

受付
「他の候補とも会ってみます?」
太郎
「そうですね。」
カメレオン
「えっ!?拙者とは契約しないのですか?……でござる。」
太郎
「あんたは保留。」

受付が襖を開ける。
その先にあったのは……土俵だとっ!?

毛深いおっさん1
「ごっつぁんです!」
毛深いおっさん2
「ごっつぁんです!」

毛深いおっさん二人が土俵の上で全裸で相撲を取っている……。
受付の人はおっさんたちがこちらに気付く前に襖を閉めた。

受付
「いかがいたしましょう?」
太郎
「……。」
ゴンザレス
「……。」
受付
「……。」

一通り迷った挙句、リザードマンを採用することにした。

受付
「自己紹介をどうぞ。」
カメレオン
「拙者の名前は『ジャクソン』。職業は忍者をやっていますでござる。」

そうそうこのツノの生えた面構え。ジャクソンカメレオンって種類だな。図鑑で見たのを思い出した。

ジャクソン
「趣味はパントマイム、好きな食べ物は昆虫全般、特技は……舌で虫を捕まえられます!でござる。」
太郎
「食生活はカメレオンそのものか……。腕っ節に関して何か無い?」
ジャクソン
「拙者、猫を素手で倒せますでござる!」
太郎
「ね、猫……?」
ジャクソン
「血の滲むような修行の末、ついに同胞の仇を討ちましたでござる。」

眼が涙ぐんでいる。たぶん本人は大真面目なのだろう。
カメレオンの天敵が猫なのは分かった。しかしリザードマンの戦歴としては評価してよいものか……。

太郎
「もし猫よりデカい敵が出てきたらどう戦う?」
ジャクソン
「木に登って上から手裏剣を死ぬまで投げますでござる。」
太郎
「なんか思ってた忍者の戦術と違う……。」
受付
「ジャクソンさん、依頼人はボディーガードを所望なのでそれに合わせた戦い方をお願いします。」
ジャクソン
「じゃあ木に登って上から撒菱を死ぬまで投げますでござる。」
太郎
「やること同じじゃねーか!!」
ジャクソン
「違いますでござる!手裏剣と撒菱は全然違いますでござる!」

凄い怒るなぁ……何か拘りでもあるのか?

毛深いおっさん1
「ごっつぁんです!」
毛深いおっさん2
「ごっつぁんです!」
太郎
「!?」

俺たちがコントをしている間におっさんたちが全裸のまま廊下を通り過ぎて行った。

受付
「彼等も仕事が入ったようですね。」
太郎
「どんな目的で雇ったんだ……。」

おっさんたちが出て行ったため残った人員はゴブリンだけだ。
猿並みの知能と言われたあたりボディーガードをこなせるか怪しい。
ジャクソンが頼りにならなかった場合、保険として追加で雇うことも視野に入れていたのだが……諦めよう。

太郎
「じゃあ契約の手続きを……。」
ジャクソン
「初仕事で緊張してきましたでござる!」

凄いの雇っちゃったなぁ。しかし選べる中では一応最善だったと思いたい。
ギルドでの手続きを終え次の目的地を確認する。
ショッピグモールも一応徒歩圏内か……流石にさっきよりは歩くが。
地図の裏面にはレンタル馬車の広告が載っていたが今回は使うほどでもなさそうだ。

太郎
「出発するぞ……ん?何やってんだ?」
ジャクソン
「ゴンザレス殿が洗礼とやらをしてくれると言うので……。」

洗礼受ける忍者は初めて見たよ……。
気を取り直してジャクソンに今後の予定を説明する。

ジャクソン
「拙者もお買い物に同伴しますでござる。」
太郎
「ああ、頼む。自治区では買い物中に酷い目にあったからな……。」
ジャクソン
「まさか強盗にでも遭遇したのですか?でござる。」
太郎
「いや、全裸のおっさんが店内でブレイクダンスしてた。」
ジャクソン
「……!?」

理解が追い付かないようである。まあ当然ですよね。

太郎
「じゃあ改めて出発だ。」
ジャクソン
「拙者、出陣しますでござる!」

とりあえず俺が先頭になって歩き出す。
右後方にゴンザレス(ロザリオを高く掲げながら歩く)。
左後方にジャクソン(胸前で九字を切りながら歩く)。
言うまでもないが擦れ違う歩行者にはかなり距離を取られている。
買い物に行くとは思えない陣形だから仕方ないね。

周りの視線に耐えながら進んで行く。

ジャクソン
「太郎殿、なぜ拙者たちはこんなに注目されているのですか?でござる。」
太郎
「あんたが目立ってるからだゾ……。」
ジャクソン
「冗談きついですよでござる。拙者は忍者なのですよ?でござる。」

本気で言ってるようだがその自信はどこから来るんだ……?

太郎
「わかっていると思うが買い物中に九字を切るなよ?」
ジャクソン
「!?」
太郎
「忍者だか不審者だかわからなくなるからな。大人しくしていてくれ。」
ジャクソン
「依頼とあらば……我慢しますでござる。」

言われなければやるつもりだったらしい。

太郎
「ところでジャクソン君は野営の経験とかある?」
ジャクソン
「リザードマンになってからは野営してませんね……でござる。」

野営未経験の忍者か……。経験があれば参考にしようと思ったが仕方あるまい。
店員さんに見繕ってもらうことにしよう。

ジャクソン
「太郎殿、太郎殿。」
太郎
「質問があるのか?言っとくけど俺も野営は初心者だからな。」
ジャクソン
「おやつはどの程度持って行けるのですか?でござる。」
太郎
「おやつって……遠足じゃないんだぞ。」
ジャクソン
「(´・ω・`)」
太郎
「保存食は買っていくけどおやつ感覚で食べらると思うなよ。」
ジャクソン
「酷いですでござる。拙者は育ち盛りなのでおやつは必要なのですでござる。」

そんな涙目になって見つめるなよ……。
だいたいリザードマンの食事量なんて俺知らんし……。
ゴンザレスに助けを求めてみる。

ゴンザレス
「『彼のおやつは現地調達でいいと思う。』」
太郎
「それだ。」
ジャクソン
「!?」
太郎
「好物は昆虫全般って言ってたよね?」
ジャクソン
「言ったけれど味の好みが……。」
太郎
「贅沢言うな。」
ジャクソン
「はい……。」

とりあえず昆虫は現地調達でいいだろう。『食料として』持ち歩くのは個人的に気が進まないし。
密輸目的で捕るわけでもないし許してもらえるだろう。

ジャクソン
「目的地に着きましたでござる。」
太郎
「すっげぇ混んでる……。」

ショッピングモールのような施設に着く。
なかなかの人混みだ。これでは不審者が出ても迅速に逃げられないではないか。

太郎
「万が一はぐれたときは休憩所に集合な。」

無言の敬礼で答えるジャクソンとゴンザレス。
流石に目立ちまくりのこの二人を見失うことはなさそうだが……。『お呼び出し』の放送をされないように保険をかけておくのだ。

案内板を見てから店内に入る。まずはテントと寝袋と照明か。調理器具や保存食は残金と相談しつつ……ん?

ゴンザレス
「『絵具買って』」
太郎
「色鉛筆じゃダメか?」

筆談のため筆記用具を切らすわけにはいかない。これは経費で落ちるのか後でガミジンさんに聞いておこう。

ジャクソン
「いい匂いがしますでござる!」
太郎
「どこに行こうというのかね。」

外皮を変色させながらふらふらと歩き出すジャクソン。心配なことこの上ない。
呆れつつ後を追うと……ペット用品売り場に来てしまった。
ペットフードを保存食として持ち歩くのは避けたいが……。

ジャクソン
「匂いのもとはこれですねでござる。」
太郎
「餌じゃなくてそれ自体がペットなんだよなぁ……。」

ジャクソンは虫篭に入ったカブトムシを凝視している。
未練がましい表情をしているこのトカゲにとどめを刺してやるしかあるまい。
無言で値札の横の注意書きを指さす。
『本品は食用ではございません。』
わざわざ書いてあるということは過去に何かあったのだろう……。

ジャクソン
「……。」

不服そうにまた外皮の色を変えている。
この感情表現、正直反応に困るんだが……。

太郎
「ペット用品は今は買わないからな。」
ジャクソン
「承知しました……でござる。」

ジャクソンの尻尾をゴンザレスに掴ませて移動開始。またどこかに行かれては困るからな。

太郎
「キャンプ用品……ここだな。」

気を取り直し、改めて品定めだ。
まずは店員に声をかけて……

ナポレオンフィッシュ顔のサハギン
「いらっしゃいませ。」
太郎
「ここの店員サハギンなのか……。」

鮮やかなブルーの体色を見てジャクソンが対抗しようと顔色を変え始める。そんなところに対抗意識燃やしてどうすんだ……。

太郎
「野営の道具を見繕っていただけませんかね。」
ナポレオンフィッシュ
「畏まりました。お連れ様の方は?」
ジャクソン
「拙者も見繕ってもらえるのですね!ござる。」
太郎
「俺の他にはこのリザードマンと……あと魔物二名の計四人ですね。」

一瞬黙り込むナポレオンフィッシュ。何か変なことを言ってしまったのだろうか?
サハギンはほとんど表情変わらないから黙られると変に緊張するんだよなぁ……。

ナポレオンフィッシュ
「随分と少人数ですね。」
太郎
「ええ、まぁ……。」

護衛が思わぬタイミングで在庫切れだったし人数は仕方ないよね。
ガミジンさんに頼んで追加で眷属召喚してもらえば一応の増員は可能だが……。

ナポレオンフィッシュ
「その人数だと比較的安全な山でキャンプですかな?」
太郎
「いえ、集落間の移動とかに……。」
ナポレオンフィッシュ
「それは無謀ですよお客さん。」

予想はしていたがどうやら無謀らしい。

ナポレオンフィッシュ
「その人数なら大規模なキャラバン隊等にくっついて行くのが安全かと。」
太郎
「あぁ……やっぱり治安悪いんですか?」
ナポレオンフィッシュ
「最近では大型の害獣に加え、王都付近でさえオークやトロールの目撃が増えていまして……少人数での移動は推奨されません。」

オーク、トロール双方とも島の人間と敵対する亜人である。
しかし……冒険者ギルドではゴブリンさえ雇用可能になっていた。こいつらも何とかして和解できないものか。

太郎
「自分はまだそいつらと遭遇したこと無いんですよ。どのくらい危険なんです?」
ナポレオンフィッシュ
「犀や河馬と同程度のガタイで山賊のように徒党を組んで襲撃してきます。」
太郎
「確かに今の戦力じゃ危険っすね……。」

誇張抜きでそれならかなりヤバイ奴らなんじゃ……?

ジャクソン
「大き目の撒菱が必要ですねでござる。」
太郎
「意地でも撒菱で対処するのか……。」
ナポレオンフィッシュ
「当店に撒菱はございません(無慈悲)」
太郎
「ですよね……。そいつらが出てきたときの対処は……。」
ナポレオンフィッシュ
「近場に居る騎士団員が初動対処、次いでゴエティアに駆除依頼が出ます。」
ジャクソン
「拙者たちはどうするんですか?でござる。」
ナポレオンフィッシュ
「交戦せずに避難ですね。」

身も蓋も無い回答だが応戦が推奨されない以上仕方のないことではある。

ジャクソン
「撒菱……。拙者の武器がぁ……。」
太郎
「気を落とすなよ……忍者の武器って撒菱だけじゃないだろ。」
ナポレオンフィッシュ
「当店にもソフトビニール製の四方手裏剣とかございますよ。」
太郎
「それ玩具じゃねーか!!」

コスプレだと思われてるぞこの忍者……。
しかし困ったな。自衛に関してガミジンさんと再度相談せねばなるまい。

一応最低限の野営の道具だけ買い、休憩所へ向かう。
店内の案内板を頼りに休憩所に到着。ベンチに座るガミジンさんを発見した。

ガミジン
「あっ、太郎さん。お買い物は済みましたか?」
太郎
「ええ、まぁ……。」

店員に言われたことをとりあえず伝えてみようか。

太郎
「店員さんに道具を見繕ってもらったんですが、その際に助言をいただきまして。」
ガミジン
「はい。」
太郎
「今の人数では危険なのでキャラバン隊なんかにくっついて移動することを提案されました。」
ガミジン
「ううん……やはりそう言われましたか。」
太郎
「やはり……?」
ガミジン
「私も教会で耳にしたのですが……」
ジャクソン
「えっ?耳の骨ってどれですか?でござる。」

ガミジンさんの横に回り耳を確認するジャクソン。

太郎
「話の腰を折るんじゃねぇ!」
ジャクソン
「……!!」

側面から近づきジャクソンの太ももに軽く膝蹴りを入れる。
リザードマンに効くか心配だったが無事悶絶しているので有効のようだ。

ガミジン
「この方は?」
太郎
「雇った護衛(売れ残り)です。お気になさらずお話の続きをどうぞ。」

ジャクソンを傍観しようとしていたゴンザレスに押し付け、ガミジンさんに続きを促す。

ガミジン
「大型の亜人の生息域が南下してきていると言う話を教会でも聞きまして。」
太郎
「聞く限り切実な問題ですよね……。」
ガミジン
「はい。トロールの目撃例なんて私も寝耳に水でした。」

これから行く地域の治安は大丈夫なのだろうか……。

ガミジン
「しかしこのままでは……。」
太郎
「心配ですよね。」
ガミジン
「はい。狩り好きの魔王への依頼が増えてしまいますからね。」
太郎
「そうですね……いや、現地民の心配しましょうよ。」
ガミジン
「トロール以上に現地民に会わせたくない魔王も居るんですよ……。」
太郎
「どういうことだってばよ……」

話が非常に不穏な方向に……。なんとかして話題を変えねば。

太郎
「トロールはともかく移動手段について話ましょう。」
ガミジン
「そうでした。キャラバン隊については私が探してみます。」
太郎
「お願いします。」

素直に魔王様の力を借りよう。売れ残りのリザードマンを雇うほどに今日の俺は運が悪い。出しゃばらないほうが良い結果になると見た。

ガミジン
「では、太郎さんたちはもう少し休んでいてください。」

店内へ入って行くガミジンさん。……店内で情報収集するのか?
等と考えているとゴンザレスが荷物を手渡してきた。買ったものを仕分けしてくれていたようだ。

太郎
「ありがとう。お前よく働くな。もしかしてボケるネタが無くなったのか?」
ゴンザレス
「……!!」

あ、いかん。からかったら火が付いちゃった感じだ。
ゴンザレスが自らの人差し指の先端を取り外し、右の眼窩に放り込む。
そして両手で側頭部を抑え、頭蓋骨をシェイク!
鼻から指先の骨が三つほど出てきた。どうやって増やしたんだよそれ……。
指先を再度装着。よく見ると人差し指の他に中指と薬指も改めて付けている。無から有を生み出したわけではなく単にほかの指も移動させただけのようだ。

結局ボケというより手品だった。よってツッコミは無しでいいな!

ジャクソン
「凄い!拙者にも教えてくださいでござる!」

ツッコミを怠ると天然リザードマンが食いついてきちゃう……。どうしたもんかなこれ。
ゴンザレスの『どうせ覚えても真似できない手品講座』を見ているとガミジンさんが戻ってきた。

ガミジン
「キャラバン隊の同行が出来そうですよ!」
太郎
「やったぜ。」
ガミジン
「オークの目撃情報があった村に支援物資を届けに行くそうです。」
太郎
「ちょっと危険な所じゃ……。」
ガミジン
「危険な思いをしているのは現地の村人ですよ。」
太郎
「おっしゃる通りです。」

至極まっとうな指摘に返す言葉もない。

ガミジン
「キャラバン隊の方々に太郎さんのことを話したら『ぜひ同行してほしい』と言われまして。」
太郎
「えっ、なぜ?」
ガミジン
「支援物資の中に家電製品がいくつかあるとのことです。」
太郎
「なるほど……。電源はどうするんです?」
ガミジン
「自家発電用の発電機も持っていくみたいですね。」

ガミジンさん経由で頼まれたら流石に断れないな、多少危険だとしても。

太郎
「フォルネウスさんからの依頼どうしよう?」
ガミジン
「キャラバン隊の編成の中にサハギンの方がいらっしゃったので話を通してくれると思いますよ。」
太郎
「わかりました。そのキャラバン隊に同行しましょう。ってことでいいな?ジャクソンくん。」
ジャクソン
「拙者、鱗を三枚に増やす手品を習得しましたでござる!」
太郎
「話聞けよ!ってか手品まだやってたのかよ!!」

結局キャラバン隊に同行するわけだからこいつの存在意義がいよいよ怪しくなってきたな……。

ガミジン
「出発は明日、朝七時、北門前に集合……地図上だとここですね。」

ゴンザレスが差し出した水雲の染み付きの地図に印を付ける。

太郎
「明日出発かぁ、今夜は王都で一泊ですかね。」
ジャクソン
「買ったばかりのキャンプセットが火を噴くぜ!でござる。」
太郎
「いや、普通に宿屋に泊まるからね?」
ガミジン
「宿が取れなかった場合、教会で一夜過ごすというプランで行きましょう。」
太郎
「そうしましょう。つまり、キャンプセットは今夜は出番無しだ。」
ジャクソン
「オォン!(哀叫)」

キャンプではしゃごうとするリザードマン(自称忍者)を牽制しつつ宿を探すこととなった。

太郎
「泊まれるところは……駅近辺が多いな。」
ガミジン
「便利ですからね。」

しかし駅から北門までは遠い……。

太郎
「門近辺は少ないっすね。」
ガミジン
「安全性の問題で人気が無いんでしょうな。」
「非常時の避難経路も地下鉄経由を想定してますからね。」
太郎
「なるほど……。」

避難経路の説明を受けつつも結局移動距離を考え北門周辺で探すことにした。

ガミジン
「馬車の人にお声掛けして北門まで頼んでみましょう。」
太郎
「そうですね、歩くにも荷物あるし。」
ジャクソン
「ヘイタクシー!!」

右手を挙げて通りがかりの馬車を止める忍者。いやそれで止まるのかよ。

太郎
「それどこで覚えたの……。」
ガミジン
「タクシー呼びは……ゴエティアの誰かがふざけてやっちゃったら流行ってしまったみたいで……。」
太郎
「えぇ……(困惑)」

なお、タクシー呼びこそ定着したもののタクシーそのものは普及していないそうである。
特にタクシーでも何でもない一般の馬車が止まってくれたようだ。
馬車の主は奇怪な忍者を見てドン引きしていたがゴンザレスが筆談で交渉し乗せてもらえることになった。

馬車の主
「じゃあ荷台に乗ってくれ。」
太郎
「お邪魔します。」

順番に乗り込む。奥を見ると先客が居るようだ。
小柄な人影……よく見るとこれがゴブリンか。
猿程の知能の亜人と聞いたが……二匹のゴブリンが延々とあっち向いてホイしてる……。

馬車の主
「そいつらは気にしないでくれ。」
ガミジン
「なんかお取込み中みたいだしそっとしておきましょう。」
太郎
「ですね……。」

二十数分かけて北門前広場に到着。
その間ゴブリンは俺らに気付くことなく遊び続けていた。なかなかの忍耐力だ。

馬車の主
「到着だ。お疲れさん。」
太郎
「ありがとうございました。」

下車後、ゴンザレスが馬車の主に何か渡していた。

太郎
「お礼の品か?何渡したの?」

ゴンザレスは空になった竹輪の袋を見せる。
それまだ予備あったのか……。
とりあえず周囲を見渡し、泊まれるところを探し歩き出す。

ジャクソン
「太郎殿!あそこ、あそこがいいですでござる!」
太郎
「何だ急にテンション上げて……。」

ジャクソンの指さす方向を見てみると……なんと和風建築の宿があるではないか。
周りの建物が軒並み洋風なので異彩を放っているぞ。

太郎
「どうします?」
ガミジン
「いいんじゃないでしょうか。」
ジャクソン
「やったぁ!」
太郎
「じゃ、入ってみよう。」

戸を開けて中へ。

ジャクソン
「いったいどんな仕掛けが……」
太郎
「和風建築なだけで忍者屋敷じゃないでしょ。」
ジャクソン
「……。(無言で体色変化)」

いちいち変色するのは俺のツッコミに対して抗議しているのか……?
ジャクソンの変色芸を無視して受付へ行き泊まれるか聞いてみる。

受付
「何名様でしょうか。」
ガミジン
「四名でお願いします。」
受付
「……!!」

ガミジンさんを見て一瞬固まる受付の人。

太郎
「地縛霊を置いて行ったりしないので安心してください。」
受付
「……!?」
ガミジン
「太郎さん……。」

いつものノリで軽口言って滑った感……。

受付
「どうしましょう……魔王様をお泊めするほどの部屋は……。」
ガミジン
「気を使わないでください。急に来てしまったのは我々ですし。」
受付
「……。」

受付の人は神妙な顔をして黙っているが……何かあったのだろうか?

ガミジン
「……もしかして何かお困りでしょうか?我々でお力になれることがあれば聞きますよ。」
受付
「……ありがとうございます!」

善人特有の安請け合いかな?
受付はガミジンさんに何か小声で耳打ちしているようだが……果たして何を頼んでいるのか?
話が終わったようでこちらに振り返るガミジンさん。

ガミジン
「太郎さん、ジャクソンさん。」
太郎
「はい。」
ジャクソン
「どうしたのですかでござる。」
ガミジン
「申し訳ございませんが私とゴンザレスはお二人とは別室に泊まることになりました。」
ジャクソン
「じゃあ拙者と太郎殿が相部屋ですねでござる。」
ガミジン
「それがよろしいでしょう。太郎さんの護衛、よろしくお願いしますね。」

本音を言うとジャクソンを『護衛』として雇ったことをちょっとだけ忘れかけていた……。

太郎
「別室に行くのは何か理由が?」
ガミジン
「その説明は明日にでもしましょうか。」

受付の人の表情を思い出す……。何か説明しにくいことを相談されたのだろう。

従業員
「お部屋までお連れしますね。」
太郎
「よろしくお願いします。ところでこの宿だけ近隣と雰囲気違いますけどどうしてなんですか?」
従業員
「建物の外見の話ですよね。サハギンさんに建ててもらったらこうなりました。」

和風建築を持ち込んだのはサハギンなのか……?

従業員
「特徴的ですよね。彼らの故郷はどんなところなんでしょうか……。」
太郎
「気になりますよね。」
従業員
「気になって夜しか眠れません。」
太郎
「快眠やんけ!」
従業員
「よく眠れるのが取り柄の宿なので。」

そう来たか……。

太郎
「よく眠れるのはいいんですけど明日は朝早く出かけるので……。」
従業員
「わかりました。お時間を指定いただければ起こしに参ります。」

明日は7時集合だったか?余裕をもって6時起床が無難か……。
従業員に起床時間を伝えて部屋に入る。

ジャクソン
「畳部屋!見事な和室……!さて、隠し扉はどこかな?でござる。」
太郎
「あるわけないだろ!いい加減にしろ!」

ツッコミ疲れてきた……。このボケ続ける変温動物は早めに寝かしつけて俺も休憩しなければ。
ジャクソンに隠し部屋を探されないように他の話題を振ってみる。

太郎
「なあジャクソン、手品見せてくれよ。ゴンザレスに習ったんだろ?」
ジャクソン
「おぉ!ではお見せしますでござる!」

嬉しそうに食いついてきたな。単純なやつめ。

ジャクソンの手品を見ていると戸が叩かれた。夕食の時間になっていたようだ。
運ばれてきた料理はよくある和食である。

太郎
「先に聞いてなかったけどリザードマンって普通に和食喰える?」
ジャクソン
「拙者、好き嫌いはしませんでござる。」
太郎
「なら良かった。」

拒否されて虫を要求されてはかなわないからな……。
並んだ料理をとりあえず食べてみる。うむ、美味い。
山菜と……これは魚か。そう言えば自治区ではあまり海産物は食べていなかったな。
海では漁は行われていないと聞いたが川魚のほうは大丈夫なようだ。

ジャクソン
「……。」
太郎
「何を凝視しているんだ?……あっそれは!!」
ジャクソン
「……!!!」

ジャクソンの舌が勢いよく伸びる!その先にあるのは……皿に盛られた緑色の物体、山葵である。

ジャクソン
「グワーッ!!」

口を押えて悶絶するジャクソン。顔色が目まぐるしく変色する。凄い反応だ。
呆れながら水の入ったコップを渡す。

ジャクソン
「味覚が……味覚が爆発四散する……。」
太郎
「山葵で爆発四散する忍者なんて見たくねーよ。」

ダウンしたジャクソンに代わり結局俺が料理を完食した。リザードマンに山葵は早すぎたようである。
まだ悶絶しているジャクソンを布団の上に投げトイレへ行く。

太郎
「なんか疲れたな……。というか事あるごとに疲れる……。」

放尿を開始した直後、突然不穏な気配を感じる……!?

???
「おうおうお疲れ様道化くん。」
太郎
「何だお前!?(驚愕)」

天井を見上げるとそこには……ヒキガエルが天井に張り付いている!?
喋る蛙……間違いない。例の賞金首だ。……無駄によく通る声しやがって。

バエル
「しかし何だ……報われねえなぁお前も。」
太郎
「畜生!手が離せないときに出やがって!!」

捕まえられなければ賞金は出ないではないか……これは困った。

バエル
「でかい鮫に騙されて……積んだ石を崩される、賽の河原ってやつか。」
太郎
「……?」
バエル
「仕事貰ったんだろ?」
太郎
「俺の仕事が何だっていうんだよ。」

あっ、いかん……つい話を聞いてしまった。

バエル
「それ、無駄だから。なんたってあの鮫の目的は資本主義をぶっ壊すことだぜぇ?」
太郎
「……!!?」
バエル
「だからお前の稼ぎは意味ねーよ。(暗黒微笑)」

資本主義を潰す……?いくら魔王でもそんなこと出来るのか……?

バエル
「徒労ご苦労様でした~。」
太郎
「あっ、待て蛙!」

換気用の小さい窓から脱出するヒキガエル。手を伸ばすがやはり遅かった。

太郎
「……。」

さりげなくとんでもない情報がもたらされたが……果たして鵜呑みにしてよいものか?
言っていたことが真実か否かはともかく、目撃した事実はガミジンさんに報告するべきだろう。
しかし……まずは手を洗おう。

部屋に戻り、ジャクソンを見る。何事もなく寝ているようだ……。
心を落ち着けて考えてみよう。
蛙が言っていた『資本主義をぶっ壊す』とは通貨の価値が無くなることだろうか?
それで魔王にどんな得があるのかわからないが……。
とりあえずこれからどうするかだ。
賞金首との遭遇は一応報告する……が、問題なのは情報の方だ。
魔王側の目的を一応知ってしまったことになるのだろうか。そうなればかなり重要な情報ではある。
しかも初耳。仮に機密情報を知ったことになれば……消されてしまう可能性も無くはないのでは?
ガミジンさんに言わ……いや待て、『あの鮫の目的』って言ってなかったか?
鮫が指すのがフォルネウスさんだとして……魔王全員ではなく個人の目的ともとれる。
ガミジンさんにだけ話すなら大丈夫……?いや、あの人も魔王だしなぁ……。

ジャクソン
「太郎殿……?」
太郎
「なんだ、起きたのか。味覚はもう大丈夫か?」

寝ていたリザードマンを起こしてしまった……。

太郎
「ガミジンさんたちがどの部屋に泊まったか聞いてない?」
ジャクソン
「わかりませんでござる!何かあったんですか?でござる。」
太郎
「うん……まぁ。部屋は受付で聞くから寝ててくれ。」

まずトイレに蛙が出たことだけ報告しよう。
情報は噓の可能性もある。信憑性の怪しいものを伝えるのも良くないしこちらは保留だ。

ジャクソンを置いて受付に出向く。

太郎
「ガミジンさんに会えませんかね?」
受付
「お取込み中ですが……伝言があれば伝えます。」
太郎
「さっきトイレで……その……」
受付
「……まさか覗きでも出たのですか!?」
太郎
「バエルが出ました……。」
受付
「それマジ……?」

うわぁめちゃくちゃ動揺してるぞ……。

受付
「ガミジン様は私が呼んでくる。お前は詰所のサハギンに伝えろ。」
従業員
「了解っす……。」
受付
「お客様は念のためこれを。」
太郎
「……!?」

ゴム手袋とビニールパイプを渡されてしまった。素手で触るなということだろうが絵面が酷い。
慌しく走って行く二人、遅れてもう一人の従業員がこちらに走り寄ってきた。
新しく来た従業員はビニールパイプを二本持っている。二刀流の使い手か……?

従業員2
「お客様!例の賞金首はどこに?」
太郎
「トイレの換気窓から外に出ました。」
従業員2
「わかりました。私が窓の外を見てきますのでお客様はトイレ側を見張っていただけますか?」
太郎
「了解です。」

現場に戻るため走り出そうとすると隣から新たな従業員が合流した。

従業員3
「自分がお供します!」
太郎
「おぉ、心強い!」

合流した従業員は金属製のトングと土鍋の蓋を装備している。ビニールパイプよりは良さそうだ。
部屋に到着、爆睡する忍者をスルーしトイレへ向かう。
扉を開けると……やはりというべきか、何もいない。

従業員3
「そこの窓ですね?」
太郎
「そうです。」

従業員は窓を覗き込み外を確認している。

従業員3
「先輩ー、蛙居ましたー?」
従業員2
「居ないねー。もう逃げちゃったかなー?」

外の従業員と状況確認している。

従業員2
「犯人は現場に戻るって言うしもう少しトイレ張っててー。」
従業員3
「了解っすー。」

あぁ……トイレ封鎖になっちゃったか……。

ガミジン
「太郎さん!大丈夫でしたか?」

後方から魔王襲来、ガミジンさんが合流した。

太郎
「俺は大丈夫です。でもトイレが封鎖されちゃいました……。」
従業員3
「申し訳ないす……催した際は受付横のトイレを使ってください……。」
ガミジン
「とにかく怪我人が出なくてよかったです。」
太郎
「怪我人……今までバエルから直接攻撃は無かったって話じゃ……?」
ガミジン
「いえ、賞金のせいか皆さん慌てて捕獲しようとするので……。」
太郎
「注意散漫な状態で追いかけちゃうから危ないってことかぁ。」

賞金首にした弊害のようだ。結構な額だったもんなぁ。二次災害には気を付けよう!

ガミジン
「しかし……バエルが居たということは……。」

何か考え事をしている様子だ。声をかけるべきか否か……。

ガミジン
「太郎さん、一度受付のところに行きましょうか。」
太郎
「はい。……何かあるんですか?」
ガミジン
「依頼人を交えて話しますので。」
太郎
「依頼……?あぁ、ゴンザレスと一緒に別室に行った件ですね。」

ガミジンさんに連れられてロビーに到着。初老の男性とゴンザレスが待っていた。
こちらに歩み寄ってくる初老の男性には見覚えが無い。

太郎
「この方は?」
ガミジン
「オーナーさんですね。」
太郎
「じゃあこの方が依頼を?」
ガミジン
「ええ。ちょっと状況が変わりましたので依頼内容を話していいか聞いてみますね。」

俺とジャクソンには別室で何が行われていたのか知り得なかったわけだが……どういう理由で隠されていたのか明かされる……?

オーナー
「そちらはガミジン様のお連れ様ですね。」
太郎
「はい。」
ガミジン
「依頼の件、話しても大丈夫でしょうかね。」
オーナー
「そうですね、あれがバエルの仕業なら一応解決したわけですし……。」
太郎
「バエルの仕業……?」
ガミジン
「では別室の件、順を追って説明しますね。」

バエルの仕業……あの蛙、旅館に何か嫌がらせでもしていたのだろうか。

ガミジン
「太郎さんは心理的瑕疵物件という言葉は知っていますか?」
太郎
「……?初耳です。」
ガミジン
「簡単に言うと人が死んでいる物件です。厳密に言うと他の条件もあるんですが……。」
太郎
「えっ……もしかしてこの宿……。」
オーナー
「二か月ほど前にあるお客様が自死されまして……現在までその部屋を封鎖していましたのですが」
「部屋から物音や声が聞こえると従業員たちの間で話題になってしまいまして。」

話が読めてきたぞ。人が死んだ部屋の怪現象に対して元神父のガミジンさんに対処を頼んだのだろう。

太郎
「幽霊の出る部屋!?」
ガミジン
「私は霊感とか全く無いのですがどうしてもと言われまして……。」
太郎
「ごめんなさい。スケルトンを召喚できるから霊感もあるものだと勝手に思い込んでました。」
ガミジン
「まあそれはそれとして、件の原因はオカルトでもなんでもなかったわけですが。」
太郎
「声も物音もバエルの仕業だった……?」

本当に酷いオチである。喋る蛙が潜伏していたとは……。

オーナー
「怪現象の原因がわかったのでガミジン様への依頼は終了とさせていただきます。」
「こちらが報酬となります。お受け取りください。」
「バエルに関してはサハギンの増援を呼んだのでこちらで対処いたします。」
ガミジン
「ありがとうございます。我々も明日は早起きしなければならないので休ませてもらいますね。」

話が片付いたようだ。これ以上何かが起こる前に寝よう……。
部屋に向かって歩き出す……が。

太郎
「ガミジンさん、ゴンザレス……。」
ガミジン
「はい。」

ごく自然に俺の後ろについてきている二人。

太郎
「部屋、変えるんです?」
ガミジン
「だって人が死んだ部屋なんて嫌じゃないですか。」
太郎
「ごもっともです……。」

どうやら俺と相部屋で休むらしい。
下手な幽霊よりもよっぽど禍々しい外見の二人だが心理的瑕疵物件とやらは気にするようだ。
三人で部屋に入り座る。相変わらずジャクソンは寝ているがリザードマンはみんな寝つきがいいのか?

ガミジン
「うまく捕まえてくれると良いのですが……。」
太郎
「そうですね。トイレで話しかけてくる蛙とか野放しにしとくの良くないですもんね。」
ガミジン
「トイレに出たんでしたね……。まさか覗き目的で……?」
太郎
「そんな性癖の蛙嫌だなぁ。」

欲情しているような感じはしなかったが……出現場所にわざわざトイレを選んだのだ。目的はあるはず……。
ゴンザレスが押入れの襖を開けた。新たに布団を取り出すようである。

ゴンザレス
「……!!?」

押入れから後ろに飛びのくゴンザレス。何だ?様子がおかしいぞ……?

太郎
「どうしたんだよ、ゴキブリでも出たか?」
ゴンザレス
「ガタガタガタガタ」

歩み寄り、ゴンザレスが指さしている押入れの中を覗き込む。

太郎
「こ、これは……!?」

恐る恐る中の物体に手を伸ばし取り出す。

ガミジン
「……何ですかそれ。」
太郎
「うわあ……これは呪物ですね。間違いない。何だこれは……たまげたなあ。」

出てきたのは市松人形だ……しかも着ている服に『悪霊退散』の文字が無数に書き込まれている。
別室の件で精神的に参っていた従業員がやったのだろうか?それともこれもバエルの悪戯なのか?
どちらにしろ悪趣味極まりないが……。

太郎
「一応宿の備品だし戻しておきますね。」

見なかったことにする。『触らぬ神に祟りなし』である。

太郎
「布団は俺が出すからゴンザレスは退いててくれ。」
ゴンザレス
「『心臓止まるかと思った』」
太郎
「お前心臓無いじゃん。」

少しだけ和んだところで布団を敷き始める。

太郎
「凄いところに泊まっちゃったなぁ……。」
ガミジン
「過ぎたことはしかたありませんよ。寝ましょう。」
太郎
「そうですね。怖いことは寝て忘れよう。」

鎧を着たまま布団に入るガミジンさん。脱げないから仕方ない……でもそれ布団破いちゃったりしない?
一方ゴンザレスは着ていた布を畳み枕元に置く。妙なところで行儀が良い。
そして布団に入ったスケルトンは……寝たまま亡くなった白骨死体だろこれ。こいつの隣で寝るのは落ち着かないって……。
ジャクソンの寝ている布団をゴンザレスの隣に引き摺って行き、その隣に自分の布団を移動させた。
こうして寝る準備は整ったが……。

ドジョウ顔のサハギン
「邪魔するぞ。」

このタイミングで蛙捜索のための増援が到着だ。

太郎
「いや待ってドジョウさん。バエルを捕まえに来たんだよね?」
ドジョウ
「そうだよ。」

真顔で返しているが持ち物がおかしい。
右手にはドジョウ掬いの笊、左手にはラバーカップが握られている。

太郎
「何だよその装備はよぉ!」
ドジョウ
「これか?これはだな……。」
太郎
「止めろ!ラバーカップをこっちに向けんな!」

いや、これは……ラバーカップじゃないぞ!?

ドジョウ
「ラバーカップに偽装した刺股だ。しかも電流が流れる。」
太郎
「なんでそんなのあるんだよ……。」
ドジョウ
「害獣対策だ。」

……うん。この世界の害獣桁違いに危険だもんね……。

ドジョウ
「交代の時間だ。」
従業員
「やっと休める……。」

トイレから出てきた従業員はドジョウの獲物を見て固まる。
意に介さずドジョウはトイレに入った。

従業員
「トイレは詰まっていないよね?」
太郎
「あのラバーカップは捕獲に使うらしいっすよ。」
従業員
「マジかよ……。」

従業員は少し考えた後、トングをトイレに置いていくことにしたようだ。

従業員
「じゃあまた何かあったときは呼んでください。」
太郎
「はい。」

さて、もう疲れたから就寝しよう……。

……翌日早朝。
顔にザラザラした鱗の感触が……。

太郎
「おいジャクソン」
ジャクソン
「……?朝ですか……でござる。」

カメレオンの尻尾で顔面を擦られて起床。
こんな起こし方想定外だよ……。

ジャクソン
「おはようございますでござる!」
ガミジン
「おはようございます。全員起きたようですね。」
太郎
「おはようございます。顔痛え……。」

ジャクソンの鱗で俺の頬はボロボロだ。

従業員
「失礼します……。皆さんお目覚めでしたか。」

従業員が朝食を運んできた。

ガミジン
「バエルの件はどうなりました?」
従業員
「まだ捕まってないみたいですねー。」
太郎
「ってことはトイレもまだ封鎖中か……。」
従業員
「申し訳ございません……。」

嘆いても仕方ないのでとりあえず朝食を食べることにする。
……隣を見るとガミジンさんがジャクソンに箸の持ち方を教えている。
舌が伸びるやつに箸を教えても使ってくれるのか……?

ガミジン
「太郎さんを見て練習するといいですよ。」
ジャクソン
「御意でござる。」
太郎
「見られてると落ち着かないゾ……。」

変な状況での朝食となったが無事完食。
出かける準備に取り掛かる。

従業員
「あの……ガミジン様、記念写真いいですか?」
ガミジン
「ええ、かまいませんよ。」
太郎
「なるほど、魔王が泊まった宿なら拍が付くもんな。」

でもその写真大丈夫か……?悪霊の出る宿だと誤認されない……?
部屋の前、両手でピースサインを作るガミジンさん。もう何も言うまい。

写真撮影も終わったようだし出発するか……。

太郎
「皆、忘れ物は無いな?」
ジャクソン
「太郎殿!ゴンザレス殿の足の小指が見つかりませんでござる。」
太郎
「……。」
ジャクソン
「……。」
太郎
「ガミジンさん、部品単位での再召喚って出来ます?」
ガミジン
「ええ、出来ますよ。瘴気は必要ですが……。」
太郎
「じゃあ後で補充だな!」
ガミジン
「ここで後から見つかったときは落とし物として後日受け取りましょう。」

欠損部位の扱いが軽い。魔物特有の価値観に慣れつつある……。

太郎
「じゃあ改めて出発だな。」
従業員
「本当にありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。」

いろいろあったが俺たちは宿を後にした。
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