地獄の門の先に楽園があるかもしれない

宇宙超涅槃菩薩

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第六話

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……クマノミに導かれ村の西側のバリケード付近に来た。
でかい馬車が二台ほど見える。あれに乗って移動するようだ。
馬車に近づくと金さんが馬の首元を撫でていた。

クマノミ
「運転は金さんの担当なんですよ。」
太郎
「意外な技能をお持ちでいらっしゃる。」

馬の鬣に蛸の触手が微妙に絡まっているが当事者たちは割と平気なようだ。

クマノミ
「目的地ですが……ここですね。現在地から西にまっすぐ。」

クマノミが地図を取り出して説明する。

太郎
「北西第四区画十三番……いやこれ地名……?村落の名前……?」
ガミジン
「……あぁ、それ気になりますよね……。」

この地図だと地名のほとんどが番号を振られているのだが……。

太郎
「もともとこんな地名だったんですか?」
クマノミ
「それはですね……元の地名は地図に載せるうえで問題があって暫定で番号を割り振っているんですよ。」
太郎
「問題って……?」
クマノミ
「地名のほとんどが卑猥な単語と同音だったのです。」
太郎
「……!!?」

あまりにどうしようもない理由だった……。

ガミジン
「地図にそのまま載せると凄まじいことになっちゃうんですよ。」
太郎
「あまり考えたくないな……。」

地図を作る人も使う人もいろいろな意味で大変だろう。
そういえば自治区も王都も正式な名前は教えてもらっていなかったな……。まさかそれも同じ理由なのか……?

太郎
「最初に地名決めた人は何を考えていたのだろうか?」
ガミジン
「当事者に訊かないとなんとも……。」
クマノミ
「なお、存命中の当事者は居ない模様。」

これは……深く突っ込んでも仕方がないな……。

クマノミ
「遅くなる前に出発したいので馬車に乗っていただけますか。」
太郎
「ウッス。」

俺とガミジンさんとゴンザレス、三人で馬車に乗る。
座席からは金さんの後頭部が見えるが日光が反射してめちゃくちゃ眩しい。

太郎
「眩しいな……サングラスか何かありません?」
ガミジン
「竹輪はもう使い果たしてしまいましたからねぇ……。」
太郎
「竹輪を目に刺すネタはもう止めましょうよ……。」
ゴンザレス
「……。」

ゴンザレスが『紙製の』サングラスを手渡してきた……。
またスケッチブックから切り抜いたお手製である。

太郎
「レンズまで紙だからサングラスというかアイマスクじゃ……。」
ガミジン
「レンズ部分を切り抜いてそこに竹輪を刺しましょう。」
太郎
「竹輪眼鏡とか用途が不明過ぎるゾ……。」

竹輪の持ち合わせが無いためこの案は未遂に終わった。

金さん
「じゃあ出発するぞ。」
太郎
「よろしくお願いします。」

金さんが乗馬鞭を振りかぶる。そして……鞭を使わず触手を伸ばして馬の尻を叩いた。

太郎
「鞭使わないのかよ!」
金さん
「実は使い方がわからない。」
太郎
「無知かよ!」

触手で叩かれた馬は普通に歩き出したので移動する分には問題ないようだ。
馬車に合わせてクマノミも歩き出す。死角のないフォーメーションだ。

太郎
「移動時間はどれくらいかかるんですか?」
ガミジン
「王都よりはだいぶ近いようですね。一時間くらいでしょうか。」
太郎
「じゃあアイマスク(紙製)着けて寝てますかね……。」
ガミジン
「寝ちゃうんですか?野生動物との遭遇を見逃しちゃうかもしれませんよ?」

野生動物……ここ数日でいろんな奴と出くわしているな……。
しかし本音を言うと今日は河童との遭遇でお腹いっぱいなのだ……。

ガミジン
「あっ、見てください!」

言っている傍から何か出たらしい。

太郎
「あれは……エミューの群れ!?」

陸棲の鳥、エミューが徒党を組んで爆走している。砂煙を巻き上げながら走る様はなかなか壮観だ。
エミューを遠目から眺めていると金さんが触手で何かを渡してきた。
よく見ずに受け取ったものは双眼鏡だった……。

太郎
「受け取ったからには観察せねば……。ん?最後尾のやつはエミューじゃないぞ?」

よく見るとあれは……羽毛を生やしてはいるが恐竜のようだ。
エミューはあいつから逃げて走っているのか。

ガミジン
「あのエミューたち……こっちに向かってません?」
太郎
「……!?」
金さん
「やれやれ……墨の出番かな?」
太郎
「墨で撃退は流石に無理でしょ……。」

我々の心配をよそにクマノミが空砲を撃って威嚇。エミューたちは無事進路を変えた。

太郎
「なんでいちいち墨吐きたがるんだよ……。」
金さん
「吐かないと溜まるんだよ!」
太郎
「不便だなそれ。」
金さん
「我慢し続けると他の物と一緒に出る。」
太郎
「例えば?」
金さん
「涙や鼻水や唾液や汗、果ては小便大便も墨塗れに……。」
太郎
「うわぁ……。」

なんか突然汚い話になってきたぞ……。

ガミジン
「体のいたるところから墨を出せるんですね。」
太郎
「その言い方なら聞こえはいいが出すところは選んでほしいな。」

墨談義で時間を潰す。
その後は野生動物との遭遇はなく無事に目的地に着いたのだった。

太郎
「着いた……ここが、ええと何だっけ……。」

地図を取り出そうとするが……

金さん
「地名は憶えなくていいぞ。特に不都合はないからな。」
太郎
「はぁ……。」

実際憶えている人がほとんど居ないパターンか?
そもそも識字率の問題もあったし……。

クマノミ
「護衛任務、完了です。」
ガミジン
「じゃ、降りますね。」

順番に馬車から降りて行く。

太郎
「ぬわああああん疲れたもおおおおん!」
ガミジン
「馬車くらいで疲れないでくださいよ……。」

ガミジンさんのツッコミを流し辺りを見渡す。
遠くに一つだけ近代的な建物が見えるが……。

太郎
「あれが俺の仕事場?」
クマノミ
「そうです。」
ガミジン
「仕事場に行く前に村長さんに挨拶に行きましょうね。」

いきなり出てきた『村長』という単語……田舎特有の村長が絶大な権力を持っているってやつか?

ガミジン
「太郎さんにも同行してもらいます。」
太郎
「まあ構いませんけど。」
ガミジン
「ここの村長さんは魔物に対してあたりが強いので……一緒に行ってくれると気分的に助かると言うか……。」
太郎
「理由はわかりました。俺なんかで良ければ行きますよ。」

しかし……村長か……いや待てよ?
河童の居た村では挨拶しなかったよね?

太郎
「昨日、村に着いたあとは行ってませんでしたよね。村長さんのところ。」
ガミジン
「あぁ、昨日の……。」
太郎
「はい。」
ガミジン
「指揮官さんと一緒に挨拶に行こうとしたんですけどね、風邪を拗らせていたそうで遠慮されちゃいました。間が悪いですよね。」
クマノミ
「村長の風邪の件は先に連絡がありましたので駐留部隊に風邪薬を持たせておきました。」

風邪拗らせてるときにガミジンさん見たら寿命縮みそう(偏見)

金さん
「ここだけの話、村長は面白いペットを飼っている。」
太郎
「……!?」

唐突に蛸が耳打ちしてきたぞ……。
しかし……今までキャラの濃い獣人や魔物に出くわし続けている。
なので多少変なペットでも驚かない自信はあるのだが……一体どんなのが出てくるのだろうか。

……クマノミに案内されて村長の家まで歩いて行く。
そして着いた場所だが……村長の家は家電店の向かい側にあった。
有力者らしい大きな家……を想像していたがそうでもない。しかしながらこれだけ近所なら挨拶しとくのは自然な流れかな。

太郎
「なんか緊張するなぁ。」
金さん
「手土産を持っていけば打ち解けるだろう。」

金さんが手土産とやらをこちらに渡してきた。
……これは、蛸焼きじゃねーか!!

金さん
「手作りの蛸焼きだ。持って行くと良い。」

あんたが作ったのか……。蛸の魔物が蛸焼き作るのってどうなの……?

太郎
「自分で渡さないんですか?」
金さん
「山に修行に行ってくるから……。」
太郎
「あぁ、言ってましたね。」
金さん
「じゃあ頼んだぞ。」

いろいろと質問をする前に金さんは山に歩いて行った。

太郎
「なんか金さん急いでた?」
クマノミ
「山に入るなら明るいうちのほうが良いですからね。」
太郎
「そんな理由か……。」

金さんを見送り、クマノミに尋ねる。

太郎
「この大人数で挨拶に行くわけではないですよね?」
クマノミ
「ええ。ガミジン様と太郎さんの護衛は私たち二人が、残りのクマノミ隊員は村を警邏に行きます。」

クマノミたちが敬礼し、二匹を残して去って行った。
残ったのは俺とガミジンさん、ゴンザレス、そしてクマノミ二匹だ。
残念ながらクマノミのうち一匹はイソギンチャク持ちだった……。

ガミジン
「じゃあ行きましょうか。」
太郎
「そうしましょう。」

ガミジンさんが村長宅の戸を叩く。

ガミジン
「ごめんください。」
???
「どなたかな?」
ガミジン
「ガミジンです。」
???
「開けて差し上げろ。」

扉から鍵が開く音がした。

???
「上がって、どうぞ。」
ガミジン
「お邪魔します。」

ガミジンさんの後について俺も上がり込む。
テーブルを挟んで向こう側に車椅子に座ったマッチョな壮年がいらっしゃる。おそらくこの人が村長だろう。
……それよりも車椅子を押している奴の方が気になるんだよなぁ。
彼の車椅子を押しているのはカウボーイハットとスカーフを付けた人間大の蟷螂である。金さんが言っていたのはこいつのことか……?

村長
「お久しぶりですな、魔王様。」
ガミジン
「ご無沙汰しています。」
村長
「おい、お茶をお出ししろ。」

後ろに控えていた家政婦に指示を出す村長。
……いや、お茶を……?ガミジンさんがお茶飲めないのわかってて出してんのか?

太郎
「ガミジンさん……これって……。」
ガミジン
「あっ、お茶は太郎さんが飲んでください。もったいないですから。」

当てつけかと思ったが当人は気にしていないのか……。

村長
「魔王に同伴する人間……君は何者だ?」
太郎
「あぁ、俺ですか?『地獄門 太郎』って言います。初めまして。」

魔物の中に一人だけ人間ということで警戒されているのだろうか。

太郎
「隣の家電店で働くことになりまして。」
村長
「それで挨拶に来たのか。良い心がけだな。」

印象が少し良くなったか?ならばこのまま追撃だ。

太郎
「これ、つまらない物ですが……。」

すかさず金さんから預かった蛸焼きを繰り出す。

村長
「これは……蛸焼き!!」
太郎
「ご存じなんですね。」
村長
「自治区に行ったときに食べたことがある。」

自治区にも売っていたのか蛸焼き……。

村長
「丁度お茶も並んだし召し上がるとしよう。太郎君も一緒にどうだ?」
太郎
「俺ですか?」
ガミジン
「太郎さんお昼食べてないじゃないですか。一緒に召し上がっても罰は当たりませんよ。」

断るのも悪い感じだな。せっかくなので一緒に頂くとしよう。

太郎
「んじゃ、いただきます。」
村長
「うむ、まずは一個……。」

楊枝に刺して口に運ぶ。
味は普通……ん?蛸の食感じゃないなこれ……。
違和感を覚えた俺と村長は顔を見合わせる。

村長
「ちょっと失礼。」

村長は残っている蛸焼きの一個を別な皿に乗せた。
そして箸で中を開封してみると……。

太郎&村長
「たこさんウインナーじゃねーか!!!」
村長
「蛸焼きにたこさんウインナー入れるなんてどんな了見だ?あぁ?(マジギレ)」
太郎
「知らんがな!作ったの俺じゃねえし!畜生あの蛸野郎謀りやがったな!!」
村長
「こんなものを作ったのはどこのバカだ!!今すぐ連れてこい!!」
クマノミ
「金太郎のコスプレをした金のクラーケンが作りました。ちなみにそいつは今現在裏山に潜伏しています。」
村長
「恰好までふざけてやがる!!」
ガミジン
「まさか金さん……村長さんを怒らすの知ってて別行動とったんじゃ……。」
太郎
「そんな計算ずくの愉快犯とか勘弁してくださいよぉ……。」

この後蛸焼き問答が一時間続いた。
まさか挨拶に来ただけで全員で謝り倒すはめになろうとは……。
最終的に村長を宥めることには成功したのだが……山で金色のクラーケンを見たら発砲しても良いというお達しが地元猟師に出てしまったらしい。

……村長宅を後にし家電店のバックヤードで休憩する俺たち。

太郎
「いやぁ疲れましたね。」
ガミジン
「本当ですよ。想定外の事態でしたし……。」
クマノミ
「申し訳ありません。金さんは必ず我々で捕まえますので。」
ゴンザレス
「……。」
太郎
「おいゴンザレス、さりげなく金さんの遺影描いてんじゃねーよ。」

全員が座ってぐったりしている中、後方から新たなサハギンが出てくる。

ボラ顔のサハギン
「皆さん大丈夫ですか?」

このボラが家電店の店員である。しかし、同じ顔の店員があと数匹居るらしく誰が誰だかわからないのだが……。

太郎
「えぇ……まぁ……(疲労困憊)」
ボラ
「お仕事は明日からで構いませんので休んでいてください。」
太郎
「ありがとうございます……。」

ボラが温かいコーヒーを差し出してきたので受け取る。
俺がコーヒーブレイクをしている間にガミジンさんがボラと話し合っている。
おそらくはフォルネウスさんに連絡を取る話だろう。コーヒーを飲み終わったら俺も話を聞かねば。

クマノミ
「太郎さんコーヒーお好きなんですか?」
太郎
「苦くないやつに限りお好きです。」
クマノミ
「村長宅からテイクアウトしたたこさんウインナーありますけど……入れてみます?」
太郎
「あぁ……ウインナーコーヒーってヤツですか?あれって実際にはウインナーは入れないらしいですよ?」
クマノミ
「……そうなのですか!?」

その前に何故テイクアウトしたのか聞きたいところだが……ちょうどガミジンさんが戻ってきたので切り上げよう。

ガミジン
「例の件は私がフォルネウスさんに伝えておきます。」
太郎
「了解っす。」
ボラ
「連絡には我々の宿舎にある電話を使っていただきます。」

宿舎ってどこだろう?
遠目から見てそれっぽい建物は見えなかったが離れた場所にあるのか?

太郎
「宿舎はどこにあるんですか?」
ボラ
「ここの地下。」
太郎
「……!?」

店の地下が宿舎だと……!?
これってもしかして……

太郎
「地下倉庫で寝泊まりしてるんですか……?」
ボラ
「そんなブラック企業みたいなことしませんよ……倉庫とは階も違いますし。」

いろいろ言いたいことはあるが百聞は一見に如かずだ。実際に現場を見るまではコメントを控えよう。

ガミジン
「では行ってみましょうか、地下室へ。」
太郎
「ウッス。」

ボラに連れられ地下への階段を下りて行く。

ボラ
「ここが地下一階。倉庫です。太郎さんには後でお見せしますね。」
太郎
「了解です。」

更に階段を下りる。

ボラ
「地下二階、宿泊スペースです。」
太郎&ガミジン
「……!!?」

暗めの照明、青い壁紙……何だこの雰囲気……。

太郎
「部屋をご覧になっても?」
ボラ
「ええ。どうぞ。」

空いている部屋の前に来てボラが鍵を差し出す。熱帯魚のキーホルダー付きの鍵だ。
……鍵を開けてドアノブを回す。
ゆっくりとドアを開け、中を見ると……。

太郎
「凄いなこの部屋。」
ガミジン
「水族館みたいですね……。」

海中の景色が描かれた壁紙、天井は波打つ水面のような柄。床には砂色のカーペットの上に水草や珊瑚、流木等のインテリアが置いてある。

ボラ
「地下でも解放感を味わえるようにと……。」
ガミジン
「太郎さん感想はどうですか?」
太郎
「落ち着かないですよ。これでリラックスできるのはサハギンだけだよ……。」

働く以上泊まる場所は必要なのだが……どうしよう。

ボラ
「お気に召さなければ村内で宿を取ってもかまいませんよ。」
太郎
「うぅん……様子見かな……。ガミジンさんは?」
ガミジン
「お店のバックヤードに棺桶が置いてあったので私とゴンザレスはそこで寝ようと思います。」
太郎
「強盗が来たら驚かして撃退できますね。(白目)」

なんで置いてあるんだよ棺桶……。

太郎
「他に泊まれるところは……。」
クマノミ
「我々の詰所は少し遠いので太郎さんと同じところに泊まって護衛させていただきます。」
太郎
「なるほど……それは仕方ないっすね。」

言いながら渡してきた村の地図に目を通す。
宿も詰所もここからはだいぶ遠い……。

太郎
「出勤時間を考えるとここに泊まるのがいいか。いろいろと我慢することになるけど。」
クマノミ
「了解しました。」

この内装にクマノミの護衛か……。本当に熱帯魚の水槽みたいだ……。

ボラ
「それで、お電話はこちらになります。」

ボラの後について奥へと進んで行く。

太郎
「これは……応接室か。」

案内された部屋はさっきのよりだいぶまともだな……。
ソファーと魚拓、そして固定電話がある。壁はコンクリートが剥き出しだが……。

ガミジン
「電話は二つありますね。どちらを使えば良いのでしょうか?」
ボラ
「どちらも問題無く繋がります。お好きな方をどうぞ。」
太郎
「ダイヤル式の黒電話だとぉ!?実在していたのか……。」
ガミジン
「それダイヤル式って言うんですね。使い方わからないのでこっちを使用させてもらいます……。」

ガミジンさんは隣にあるプッシュ式の電話を選んだ。

太郎
「なんで黒電話なんてあるんですか……。」
ボラ
「技術者が趣味で作ったらしいですよ。普及させない前提で。」
太郎
「プッシュ式が隣にあるのにダイヤル式なんて普及するわけがない。」
ボラ
「実はプッシュ式の方が先に完成していたのにあえてダイヤル式を後から作ったんだとか。」
太郎
「本当に自己満足じゃねーか……。商品にはならないでしょこれ。」
ボラ
「そうですね、現に販売はほぼしてません。入手経路は記念品として何かの時に贈与されるくらいしか無いんじゃないかな?」

俺が黒電話について説明を受けている間にガミジンさんは長電話している。なかなか話が終わらないようだ。

太郎
「まだ時間かかりそうですかね。」
ボラ
「お茶菓子でもどうです?」

部屋の中央のテーブルの上を指差すボラ。そこにはお盆が置いてあり煎餅やら和菓子やらが積まれている。

太郎
「よく考えたら昼食が蛸焼き一個だったから腹減ってたわ。いただきます。」
ボラ
「えぇ……(困惑)」

個包装された円形の最中らしきものに手を伸ばす。

太郎
「この最中からいただこう。」
ボラ
「フフフ……ただの最中だと思うなよ?」
太郎
「……。」

ボラの言動が気になり最中の皮を開封、中身を確認する。

太郎
「なんだこれは……たまげたなあ。」

最中の中には異様にリアルな金魚型の羊羹が収まっていた。

ボラ
「最中皮と言えば金魚すくいという安直な発想から作られたそうです。」
太郎
「金魚の造形のクオリティーが高過ぎて引くわ……皮開けずに食べるのが正解だよこれ。」

それでも空腹には勝てず食べてしまうのだが……。

太郎
「外見はともかく普通に美味いな。」
ボラ
「まあ独創的なのは形だけですからね。」

二個目の最中に手を伸ばそうとしたその時、ガミジンさんが戻ってきた。電話は終わったようだ。

ガミジン
「ボラさん、ちょっといいですか?」
ボラ
「何でしょうか?」

ボラが離れると俺はすかさず最中を手に取る。今のうちに喰えるだけ喰ってやるぜ……!
両手を使って二つの最中を同時に頬張る俺。うむ、美味い。

ガミジン
「意地汚いですよ太郎さん……。」
太郎
「……。」

食べ方を説教されてしまう……。

ガミジン
「それでですね太郎さん、フォルネウスさんが直接会いたいとのことで……。」
太郎
「……!?」

魔王が直接だと……何か大事になってる!?

ガミジン
「明日の予定を空けてここで待機してほしいそうです。」
太郎
「あっ……向こうから来るんだ……。」
ボラ
「会合場所は我々が手配します。くれぐれもご内密に。」
ガミジン
「他言無用ですよ、太郎さん。」
太郎
「了解です……。」

ちょっと緊張してきたぞ……一体何を言われたんだガミジンさん……。

太郎
「じゃあ……明日に備えて早めに部屋で休むかな。疲れ溜まってるし……。」
ボラ
「畏まりました。」

鍵を預かり、先程の水槽風の部屋に入る。
休む前に部屋の備品を確認してみるか……。

太郎
「ベッドが無いのは寝袋で我慢するとして……。」
クマノミ
「そこのテトラポッド(インテリア)で寝ればいいじゃないですか。」
太郎
「魚礁で寝られるのはサハギンだけだゾ……。使いたければクマノミさんが使ってね。」
クマノミ
「いえ、私にはこれがありますので。」
太郎
「あぁ……部屋に例のデカいイソギンチャク持ち込まれちゃったよ……。」

ツッコミを強いられるので寝床の話は切り上げる。
他の家具を確認してみよう。

太郎
「おっ、備え付けの冷蔵庫があるな。中を確認しよう。」
クマノミ
「何か入ってますかね?」
太郎
「ラベルの付いたボトルだ。天然水かな?」

種類の違う二本のペットボトルが入っていた。
クマノミが前に出て手に取る。

クマノミ
「一応天然水ですね……。一応。」
太郎
「引っ掛かる言い方……。」

ラベルを見てみる。これは……

太郎
「海水……!?」
クマノミ
「人間の飲み水にはなりませんね……。」

サハギン用……なのか……?
もう片方のボトルは渓流の水だったのでそちらを貰い海水はクマノミに献上した。

……冷蔵庫を閉め、今度は壁を見渡す。

太郎
「壁の柄でわからなかったが……ここ開くのかな?」
クマノミ
「クローゼットになってますね。開けてみましょう。」

開けてみるとそこには……。

太郎
「潜水服!!」
クマノミ
「内陸でこれ使いますかね……?」
太郎
「使わないでしょ……なんで常備されてんだ??」

答えが出ないままクローゼットを閉める。

クマノミ
「太郎さん、クローゼットの反対側にも扉がありますよ。」
太郎
「本当だ。開けてみようか。」
クマノミ
「ここは……シャワールームですね。」

シャワーがあるようだ。これは素直に嬉しい。

太郎
「お湯出ます?」
クマノミ
「海水と淡水が出るみたいです。」
太郎
「……。」

やはりそこはサハギン仕様なのか……。

太郎
「シャワールームとトイレは別……いや、トイレはどこだ?」
クマノミ
「部屋はあらかた探しましたけど……無さそうですね。」
太郎
「無いの!?」
クマノミ
「店舗のトイレを使えばいいって考えなんじゃないですか?」
太郎
「トイレ行く度に二階分階段上るの嫌だなぁ。」

部屋を一通り確認し、出した結論は……
無理すれば住めるがストレス次第では転居も視野に入れたい、という評価で落ち着いた。

……しかし、まずはトイレだ。部屋にトイレが無いことを言及すべく一階へ向かう。

太郎
「ボラさん、ちょっと相談が……。」
ボラ
「何でしょうか?」
太郎
「あの部屋……トイレ無いんですか?」
ボラ
「あぁ……部屋にはありませんでしたね。」
太郎
「どこに行けばありますかね?」
ボラ
「応接室の反対側に共用のトイレがありますのでそちらを使ってください。」

階段の往復はしなくてよいようだ。助かった。
だが相手はサハギンだ。ここで安心してはいけない。

太郎
「一応聞きますけど便器が虹色に輝いたりしませんよね?」
ボラ
「何ですかそれ……ゲーミング便器……?」

この反応、どうやら大丈夫なようである。
トイレの問題は解決した。次は食料の問題だ。

太郎
「夕飯どうしようかな。」
ボラ
「少し歩きますが市場がありますよ。」

地図を差し出すボラ。

太郎
「暗くならないうちに買い物に出よう。」
クマノミ
「お供します。」
ガミジン
「クマノミさんが護衛に就くなら私は留守番してますね。」

ガミジンさんに敬礼で返すクマノミだがこいつの武器はイソギンチャクなんだよなぁ……。
地図で市場までの距離を確認。この距離なら害獣に出くわす可能性は低いか……?アサルトライフル無しでも行けなくはないだろう。

ボラ
「表に自転車があるので使ってくれてかまいませんよ。」
太郎
「マジで!?助かります!!」

早速見に行く。

……店の裏手、駐輪場と思しき場所に三台ほど自転車が停めてあった。
しかしまた独創的な自転車だなこれは……。



太郎
「ママチャリの籠の側面にペットボトルロケット付いとるがな……。」
ボラ
「ベルの隣にボタンがあるでしょ?そこで開栓できますよ。」
太郎
「その位置か……乗ったまま開栓する前提なんですね……。」
クマノミ
「これ開栓するまでは単なる重りにしかなってないんじゃ……。」
ボラ
「……。」
太郎
「……。」
クマノミ
「……。」

軽い奴を選びたかったが三台ともペットボトルロケットを備え付けてあるため選択肢は無かった……。
試しに乗ってみるとハンドルが重い……。

太郎
「重心が悪いゾこれ。」
ボラ
「それを見越して補助輪を付けております。」
太郎
「うわだっせぇ(白目)」

大丈夫かこれ……。
強烈な自転車に俺がドン引きしている隣でイソギンチャクくんが何か吐き出したぞ?
金属の筒のような何かと……拳銃……?

太郎
「それは?」
クマノミ
「護身用の銃です。」

ざっくりした説明をしながら銃を組み立てる。別に出した筒のようなものは外付けのロングバレルだったようだ。
弾込めを終え、例の自転車に跨るクマノミ。

太郎
「凄い絵面だ。」
クマノミ
「お前も乗るんやぞ。」
太郎
「はい。」

珍走団も真っ青な出で立ちで早速買い出しに出かける。

太郎
「舗装されていない道を補助輪付き自転車で走るなんてなかなかできない経験だ。」
クマノミ
「できても好き好んでしませんよね。」
太郎
「そりゃそうだ。」

補助輪付き自転車に跨り十分程走ると市場に着いた。

太郎
「さて、何を買おうかな。」
クマノミ
「そこまで種類が豊富ってわけでもないですけどね。」
太郎
「せやね……。」

残念ながら奇抜なものは売っていない。
無難にパンと野菜を幾つか買って籠に積む。

太郎
「やはり自転車……あまり積載量は……。」
クマノミ
「店員さんが自転車見て苦笑いしてましたね。」
太郎
「ロケットと補助輪だもんな……。」

視線を集めるのであまり長居したくない。
買い物を切り上げて帰ることにした。

太郎
「野菜積み過ぎちゃったか?ちょっと重いなぁ。」
クマノミ
「軽量化しちゃいましょうよ。」

例のペットボトルロケットを指差すクマノミ。
確かにこれがけっこう重いんだよな……。
開栓すれば水を抜いての軽量化に加え放水の勢いで加速が期待できる。一石二鳥だ。

太郎
「ロケット推進による超加速を見よ!!いざ点火!!」

ノリノリで叫びながらスイッチを押す。

太郎
「!!?」
クマノミ
「!!?」

籠側面に計四本ほど配置されていたロケットが……一斉に前方に向かって飛んだ。
そう、ロケットだけが飛んだのである。固定が甘かったようだ。
勢い良く飛んで行ったロケットの軌跡に虹が掛かる様を俺たちは固まったまま眺めていた。

クマノミ
「これ加速用じゃなくて射撃用だったんですかね……?」
太郎
「無駄撃ちしちゃった……。」

帰った後、ボラにこのことを話したのだが『資源ゴミなので回収してください』などと言われてしまった。
何処に落ちたかわかんねーよ……。

地下室に戻り、野菜を袋詰めして冷蔵庫に放り込む。
しっかり冷えている冷蔵庫だが電源はどうなっているのだろうか?後で聞いてみるか。
パンを齧りながらクマノミを見るとイソギンチャクを逆さにして持ち上げていた。

太郎
「何やってんの……?」
クマノミ
「……。」

イソギンチャクの足(?)が天井に吸い付く。

クマノミ
「イソギンチャクはどこかに固定されていたほうがリラックスできるらしいので。」
太郎
「天井からぶら下がってても大丈夫なのかそれ。」

しかしこの大きさで垂れ下がっていられると凄く邪魔じゃない?
そこから更に触手を伸ばし俺が食べようとしていたパンを掴むイソギンチャク。

太郎
「えっ、食べるの!?」

イソギンチャクは別な触手で口から何か取り出した。
……これ、見たことあるぞ。

クマノミ
「パンとレーションの物々交換を所望のようです。」
太郎
「お断りだ!」

パンは譲らずに完食した。
食事を終え、軽くシャワーを浴びて消灯。
……消灯、したのだが。

太郎
「壁が……光っている!?」
クマノミ
「蛍光塗料で深海魚が描かれていたようですね。しかも色合いで消灯しないと見えないように巧妙に隠してあったと……。」

装甲車で借りた寝袋もあれだったしこいつら光る深海魚に何か拘りでもあるのか……?
よく見ると壁だけではなくイソギンチャクもウネウネしながら発光している。お前もか……。
イソギンチャクくんの苛烈な自己主張であまりよく眠れなかったのは言うまでもない。

……翌朝。

太郎
「水族館の中で寝泊まりしたような気分だ。」
クマノミ
「なかなかできない経験ですね。」
太郎
「おっ、そうだな。」

さて、今日は魔王と会わねばならない。
まずは洗面所に行って顔を洗おうとするが……

太郎
「やっぱり塩水出てきたぜ……。」

淡水と海水に対応した蛇口……慣れるまで大変だ……。

クマノミ
「太郎さん、朝食の野菜ですが」
太郎
「あぁ、冷蔵庫から出しといてくれたのか。ありがと。」
クマノミ
「海水で洗っておきました。」
太郎
「しょっぺぇ!」

食べられないレベルではないので一応完食した。
朝食を終えた俺は一階に上がりガミジンさんたちと合流する。

太郎
「おはようございます、ガミジンさん。」

扉を開けると部屋の端にあった二つの棺桶の蓋が謎の力で開く。
そしてワイヤーで釣り上げているような重力を無視した動きで立ち上がるガミジンさんとゴンザレス。

ガミジン
「おはようございます。」
太郎
「流石魔王、起床一つ取っても物理法則など通用しないのだ。」
ガミジン
「あっ、これはちゃんとピアノ線で引っ張ってもらってますよ。」
太郎
「それもそれでどうなんだ。」

なんでそんな仕掛けがあるのかは気になるがこの際それは後回しだ。

ボラ
「おはようございます。皆さんお揃いのようですね。」

昨日と異なりスーツを着込んでいるボラ。

ボラ
「太郎さんにはまずこれを。」
太郎
「これは……守秘義務誓約書とか書いてあるんですが……。」
ボラ
「ええ、見ての通りです。会っていただく場所の問題で……。」

どういう理由か場所は明かせないらしい。

ボラ
「それにサインをいただいた後目隠しをした状態で移動してもらいます。」
太郎
「本格的ですね……。」

魔物に囲まれた状態で誓約書にサインさせられる俺。果たして大丈夫なのか……。

ガミジン
「悪いようにはしませんよ。」
太郎
「魔王の口から出るセリフでそれは……。」

当人は間違いなく善意で言っているのだろう。しかし聞く側は不安を煽られてしまう言い方だ。

ボラ
「ではこれを着けてください。」
太郎
「百均で売ってそうなアイマスクやぁ……。」
ガミジン
「派手な柄ですね。」
クマノミ
「それだけだと端から見えそうな気もしますが……。」
ボラ
「これの上からガムテープも巻くので。」
太郎
「急に生々しい手口!」

凶悪犯に拉致される人質の気分だぁ……。
早速アイマスクをガムテープで固定される俺。そのまま魔物たちに手を引かれ移動を開始する。

ボラ
「そこ階段降りるんで気を付けてください。」
クマノミ
「おぶって移動すれば早いんじゃ?」
ボラ
「そうですね。」

階段の前(?)で停止する一行。

太郎
「痛ぇ!何か刺さった!」
ボラ
「あっ……すみません。それ私の背鰭です……。」
太郎
「……!?」
クマノミ
「私たちじゃ……おぶるの無理ですね……。」

結局二分かけて慎重に階段を下りることとなった……。
二階分下りた気がするが……水族館風宿舎に秘密の部屋でもあるのだろうか……?

……階段を下りてからだいぶ歩いた気がするぞ……地下二階はこんなに広かったのか。
目隠しされているから感覚がおかしくなっているのかもしれない。

太郎
「まだ着きませんかね……?」
ボラ
「まだ歩きますよ。」
ガミジン
「やっぱり目隠しのまま長時間歩くのは精神的に大変ですよね。」
太郎
「はい……。」

まあ本音を言うと怖い。普通に生きてたらこんな経験まずしないからね。

ガミジン
「こんなこともあろうかと……!」
太郎
「……え?何かするんですか?」
ガミジン
「いえ、応接室から内緒で飴玉を頂いてきたので……食べます?」
太郎
「貰います!」

自分は食べられないのに持ってきたということは完全に俺のためか……この人には頭が上がらないな……。

ガミジン
「では口を開けてください。」

何も見えないので口を開けて待つ俺。傍から見たら凄い光景だろうな……。
舌の上に飴らしきものが乗せられる。正直何の味かは細かく判別できないのだが甘いので普通の飴のようだ。
応接室にあったものなら客用だろうしそう変な物は置かないよね……。

ガミジン
「お味はどうですか?」
太郎
「普通においしいです。」
ガミジン
「それは良かった。私は試食も出来ないのでちょっと心配でした。」
ボラ
「心配されるようなものは置きませんよ……。」
ガミジン
「これは失礼……。」
太郎
「ここのところ食べ物の災難が何度かありましたからね……。」

飴を貰って元気を回復し移動を再開する。
更に歩き飴を舐め終わるくらいのタイミングで扉の開く音が聞こえた。

ボラ
「この部屋です。お二人とも中へどうぞ。」
太郎
「目隠しは……?」
ボラ
「ご安心ください。中に入ってから取りますよ。」

数歩歩くと後ろから扉の締まる音がする。言われた部屋の中に入ったようだ。

ボラ
「じゃあ目隠し取りますんでそこ掛けてください。」
太郎
「どこ……?」
ガミジン
「この椅子ですかね。」

見えない状態で座るの大変だな……。

ガミジン
「しかし凄い椅子ですね!まるで電気椅子みたいな」
太郎
「ファッ!?」
クマノミ
「なんで脅かすんですか!ただのパイプ椅子じゃないですか!!」

どうやらジョークらしい。状況が状況だけにマジでビビるから止めてくれよ……。
恐る恐る座ったその感触はよくあるパイプ椅子だった。
座ったまま目隠しが取られ、ようやく視界が自由になる。

周りを見渡すと隣の席にガミジンさんが座りその横にボラとクマノミが立っている。
飾り気の無いコンクリートの壁に囲まれた無機質な部屋だ。手前にはテーブルもあるが残念ながら茶菓子は無かった。

太郎
「フォルネウスさんは?」
ボラ
「まだ到着しておりません。しばしお待ちください。」
太郎
「わかりました。」
ガミジン
「待つのはいいですが……この部屋は時計がありませんね。」
太郎
「本当ですね、あと定番の魚拓が無い。」
ガミジン
「定番なんですか?」
太郎
「サハギン在る所に魚拓あり、ですよ。」

俺の発言を受けてボラを見るガミジンさん。

ボラ
「ここでは場所の特定を避けるためその手の物はあえて置いていません。」

真面目な返しが来ると調子が狂う……。

フォルネウス
「待たせたな。邪魔するぞ。」

手前の大きな扉が開く。

太郎
「あっ、フォルネウスさん!数日ぶりですねぇ!」
フォルネウス
「元気そうで何よりだ。」

どこから取り出したのかクソデカいパイプ椅子を展開して座るフォルネウスさん。
……ん?扉からもう一人出てきたぞ?

???
「ほう……この青年が……。」

この人も魔物だろうか……凄い見た目してるしなぁ……。
頭部が山羊の頭蓋骨、首部分に人間の頭蓋骨、胸上に牛の頭蓋骨。
トーテムポールのように頭蓋骨が重なっている。
対して体は普通の人間に近い……が、ファッションセンスがぶっ飛んでいる。
頭頂に王冠、上半身は地肌の上にマント、下半身は赤い六尺褌とエナメルブーツ。
筋肉質の焼けた肌に濃い体毛のコントラストが目を引く。

ガミジン
「お久しぶりですね、バラムさん。あなたも同席を?」
バラム
「うむ。フォルネウス公との別件の打ち合わせのついでに付いてきた。」
フォルネウス
「同席してもらったほうが都合がいいと判断した。」

バラム……ガミジンさんと墓地で話したとき名前が出た人……魔王やんけ……。

太郎
「初めまして、地獄門太郎です。」
バラム
「バラムだ、よろしく頼む。」

何故か握手をするバラムさん。そういう距離感なのか……。

フォルネウス
「バラム公も掛けてくれ。」
バラム
「おう。」
フォルネウス
「早速本題に入る。」

卓を囲み着席する魔王たち。俺凄く場違いじゃない?

フォルネウス
「議題はバエルの発言についてだ。」
ガミジン
「バエルは資本主義の崩壊を予言して逃亡したそうです。」
バラム
「そりゃまた穏やかじゃないな……。」
ガミジン
「それだけならまだしもゴエティア側がその首謀者ととれるような言い回しでして……。」
バラム
「なんだそれ。賞金掛けた腹いせか?」

確かに風説の流布は効果的な嫌がらせではあるのだが……。

フォルネウス
「この際動機は後でいい。資本主義の崩壊について話そう。」

皆の視線がフォルネウスさんに集中する。
声のトーンが少し変わった気がするが何か思うところがあるのだろうか。

フォルネウス
「脱資本主義は最終目標ではないが過程としては想定している。」
太郎
「えぇ……否定しないの!?」
バラム
「初耳だな。詳しく説明してくれるか?」

まさかバエルのリークが本物ってことは無いよね……?

フォルネウス
「時は金なりという言葉がある。」
ガミジン
「唐突ですね。それは脱資本主義とどう繋がるんですか?」
フォルネウス
「人間が金銭で取引しているものの大半が『時間』だ。例えば腹が減ったので果物が食べたい、そんなときは種より高くても実った果実を買う。」
バラム
「種から育てる時間が金で解決できるからな。」
フォルネウス
「それでだ、その時間に価値を与えているのは何だと思う?」

えっ……俺見て言ってる?何故?

フォルネウス
「我々魔王が失ったものだ。」

フォルネウスさんの発言を聞きガミジンさんとバラムさんが同時に俺に視線を向ける。

太郎
「魔王と人間の違い……不死であること?」
バラム
「寿命か。」
フォルネウス
「その通り。人間は生きているうちにたくさんのことをやろうとする。そのために金を使うのだ。」

確かにそういう解釈もあるな……。

バラム
「その解釈では我々にとって金銭は既に無価値ということになるが……。」
フォルネウス
「我々『だけ』の場合はそうだ。しかし、この島の人類の文明と対等である証明として資本主義が必要だった。」

ややこしい言い回しに混乱気味の俺。

ガミジン
「ええと……それはつまり?」

混乱しているのは俺だけではなかったようだ。

バラム
「金の価値を知らない蛮族だと下に見られてしまう。そうだろう?」
フォルネウス
「そういうことだ。隷属拒否の意思表示も兼ねる。」
太郎
「お金ってそういう役目もあるんすね……。」

目線が違うと出てくる意見も違うなぁ……。

フォルネウス
「話を戻すぞ。」
太郎
「どうぞ。」
フォルネウス
「医療技術を発展させて人間どもを残らず不老不死にする。」
太郎&ガミジン
「えぇ……(困惑)」
バラム
「言い回しをなんとかしろ。」

医療の範疇ですよね……?見た目人外の魔王に言われるとなんか不安だよ……。

太郎
「人間を魔物に改造したり!?」
ガミジン
「それって魔王というより悪の秘密結社じゃ……。」
フォルネウス
「寿命を延ばすだけで良いのだ。そこまでする必要は無い。」

悪ノリが過ぎたようだ。
しかし人間を死ななくする事など可能なのだろうか……とも思ったが目の前に居る方々が既に常識の範疇に無い。
詳細な方法こそ不明だが不可能とは言い切れないな……。

バラム
「手段はともかく、やろうとしていることは見えてきたな。」
ガミジン
「そうですね。」
バラム
「医療の発展を拒む人間はまず居ない。その過程で資本主義が緩やかに廃れて行くと踏んでいるわけか。」
フォルネウス
「まあ順調に行けばの話だがな。」
太郎
「順調に行かないことも……?」
フォルネウス
「性善説ありきだ。反社会勢力が医療の発展を妨害する可能性もある。」
太郎
「妨害して何の得が……?」
フォルネウス
「それは資本主義の継続、格差の維持だろう。」

格差を維持したいとか……もしかして上級国民ってやつか?
それでも不老不死を捨ててまで資本主義ってのも割に合わない気がするが。

バラム
「邪魔する反社は?」
フォルネウス
「殺……いや、内政干渉にならん程度に処罰する……。」
ガミジン
「平常運転ですね。」

ジョークなのかマジなのかわからんが……とにかくこの人たちは敵に回すまいと誓う。

ガミジン
「フォルネウスさん、資本主義が終わった後ってどうなるんですか?」
フォルネウス
「民主主義だろ。」
太郎
「あぁ……この島はまだ民主政治じゃないんでしたよね。」
フォルネウス
「資本主義が無くなれば金銭のばら撒きで票を得る手段は使えない。更に全員が不老不死になれば長生きによるマウントは取れないから年功序列の忖度も無くなる。」
バラム
「そう聞くと今の環境よりはマシになるのか……。」

魔王が人間たちの民主化を見据えていらっしゃる……。

ガミジン
「政治形態が変わるのは分かりました。」
バラム
「まあ影響は避けられないだろうな。」
ガミジン
「それで……現在の通貨はどうなっちゃうんですかね……?」
太郎
「そこ気になりますよね。」
バラム
「ジンバブエドルだな……。」
ガミジン
「!?」
太郎
「ジンバブェ…」
バラム
「物としては残るが……。」
太郎
「話のネタにはなるけどそれ以上にはならない感じですね。」
ガミジン
「残す意味は……?」
フォルネウス
「残す意味は無いが……あえて回収するメリットも無い。単なる手間だ。」

単に面倒だから残すようだ……。
しかし異世界に来てジンバブエドルなんて単語を聞くことになるとは世の中分からないものだ。

フォルネウス
「それよりも問題なのはバエルだ。」
ガミジン
「そうでした。」
太郎
「バエルのリークは本当だったという認識でいいんですかね?」
フォルネウス
「発言内容はな。ただ『リーク』だったのかは判断しかねる。」
ガミジン
「……どういうことですか?」
フォルネウス
「資本主義が終わるという話はここでするのが初めてだ。誰にも言っていない情報は漏らしようがないと思うのだが……。」
バラム
「デジタルでもアナログでも何かに書き残したりは?」
フォルネウス
「それもしていないな……。」
太郎
「じゃあどうやって情報を得たんだ……??」

いよいよわからなくなってきた……。本当になんなんだあの蛙……。

ガミジン
「リーク情報が本当だとしたらバエルがこちらにスパイを送り込んだ可能性も考慮していたんですけど。」
太郎
「フォルネウスさんの口ぶりではスパイを送り込んでも知り得ない情報みたいですね……。」

顔を見合わせて思案する俺たち。

ガミジン
「まさか当てずっぽうを言って偶然当たってしまったというオチでは……?」
バラム
「そんな楽天的な発想では困るぞガミジン公。」
ガミジン
「すみません。でも他には思いつかないですよ……。」
フォルネウス
「考えたくはないが……バエルが読心術のようなものを使う可能性が残っている……。」

一瞬場が沈黙する。

太郎
「そんなことが可能なんですかね……?」
フォルネウス
「実際に捕獲するまでは断定できないが可能性の一つだ。」
バラム
「できれば外れてほしい予測だな……。」

魔王なんて存在からしてなんでもありだからなぁ。

ガミジン
「それだと対処法が思い浮かびませんね……。」
太郎
「心を読める能力なんて勝ち目無いんじゃ……。」
バラム
「能力使用に何かしらの制限があればやりようはあるだろうが。」
太郎
「制限かぁ。クールタイムだったり射程距離だったり?」
フォルネウス
「仮に射程距離に制限があったとしたら……」

少し俯くフォルネウスさん。何か引っかかることがあったのだろうか?

フォルネウス
「私に気付かれないまま射程圏内まで接近していたことになる。」
バラム
「……大事じゃないか。」
太郎
「気付いたら居るような神出鬼没なやつだったし魔王相手の気配消しも可能なのか……!?」
バラム
「気配消しも気になるが……もっと重要な問題がある。どこで読心されたかだ。」
フォルネウス
「うむ……下手をするとゴエティア内部へ侵入されている可能性が出てくるからな……。」

あの蛙……とてつもなく厄介な相手に見えてきたぞ……。

フォルネウス
「内部の警備を徹底強化するしかない。」
バラム
「そうだな。他にできることは……早く捕まえるくらいだな。」
太郎
「見かけたときに捕獲できれば良かったんですけど……申し訳ないです。」
フォルネウス
「聞いているぞ。トイレで用を足しているときに遭遇したそうだな。」
バラム
「見られたのか!?それは災難だったな……。」

魔王に同情されてしまった。

フォルネウス
「さて、それでだ。もう一つの問題のほうだが。」
バラム
「情報のほうか。」
フォルネウス
「うむ。遅かれ早かれ公開するつもりではあったが……。」

あれ公開するつもりだったのか……。

フォルネウス
「時期を見極めないと荒れるだろうな。」
ガミジン
「混乱しちゃいますよね。」

まあ順序があるよね……。説明なしに結論から入るのは誤解を招きかねない。

バラム
「民衆が『平均寿命が延びた』と実感してからだな。脱資本主義を言うのは。」
ガミジン
「確かにその順番が無難ですかね。」
フォルネウス
「……それを邪魔されたときの対策を練らねばならない。」
太郎
「現に邪魔されてますね。バエルに。」

フォルネウスさんが俺を見る。

フォルネウス
「バエルが太郎君以外にも同じような事を触れて回る可能性は高い。」
バラム
「それをやられた時の対処は……公表するか隠し通すか、その二択か。」
ガミジン
「公表して早くに説明しちゃうのも手ではありますね。」
太郎
「それがいいかもしれません。バエルの話し方って言葉尻を取って印象操作みたいな……魔王に対する反発を煽る感じでしたし。」
バラム
「対立煽りとは面倒な奴だな……。」

バエルの目的は依然謎だ。今のところ他の魔王に対しての嫌がらせしかやっていないように思えるが……。

バラム
「とにかく丁寧に説明して受け入れてもらうのが良いか。」
フォルネウス
「それは骨が折れるな……。」

嫌そうな声色だ……。隠すよりいいと思うんだがなぁ……。

フォルネウス
「太郎君の場合はバエルの発言を最初から鵜吞みにせず、そのうえで私に連絡を取った。」
太郎
「ええ……まあ、胡散臭かったし……。」
フォルネウス
「一般的な島民はそこまで疑り深くないだろう、そして仮に疑って真意を確かめようにも私への連絡は容易ではない。」
ガミジン
「そう言われると太郎さんの場合は特殊なケースかもしれませんね。」
太郎
「じゃあ他の島民は……。」
フォルネウス
「君よりも騙されやすいし我々の説明を聞く機会も訪れ難い環境と言える。」

言われている通りなら凄く面倒だぞこれは……。

フォルウネス
「不本意だが説明を行う場合は人間側のトップに力を借りるか……。」
ガミジン
「間に入ってもらえば伝わり方もマシになりますね。」
バラム
「止む負えまい。」

人間側のトップ……国王のことだろうか。

フォルネウス
「貿易先の指導者、国王と足並みを合わせて適切なタイミングで発表と説明……だな。」
バラム
「そうしよう。……やれやれ、仕事が増えたな。」
ガミジン
「仕方ないですよ。内容が内容だから対応を間違えるわけにはいかないですし。」

どうやら方針は纏まったようである。

フォルネウス
「これからやることは一応決まったが……。」
バラム
「どうした?まだ他に言っていないことでもあるのか?」
フォルネウス
「いや……貴公等、脱資本主義に対して反対意見とか無いのか?」

場が静まり、三人で顔を見合わせる。

バラム
「特に無いな。」
ガミジン
「私も。」
太郎
「同じく。」

バラムさんが腕を組みながら話し始める。

バラム
「ここだけの話、私は魔王になる以前は守銭奴だった。」
ガミジン
「初めて聞きました。」
フォルネウス
「皆あまり過去の事は語らないからな。」
バラム
「それでやりたい放題やって馬鹿を見た経験がある。金銭欲に囚われていてもいいことは無いぞ。」

過去に何かあったのか……。ともかく脱資本主義に賛成のようである。

フォルネウス
「私に貿易の手解きをしたバラム公からそんな言葉が出るとはな。」
バラム
「ゴエティアの貿易を手伝っているのは罪滅ぼしのつもりでやっている。自己満足であることを理解した上でな。」

フォルネウスさんから目を逸らすバラムさん。

バラム
「ガミジン公は何か無いのか?」
ガミジン
「私は……キリスト教徒ですから。」
太郎
「それは資本主義と何か関係あるんですかね……?」
ガミジン
「免罪符の有料販売云々で宗派同士の対立が起きたという歴史がありましてですね……。」

魔王の口から免罪符という単語が飛び出すとは……。

ガミジン
「無駄な対立が減るのなら脱資本主義もありだと思います。」
バラム
「あんたも平常運転だな。」
太郎
「平和主義者の模範解答だぁ。」

二人の主張が終わり、魔王たちの視線が俺に移る。

ガミジン
「さあ、太郎さんの番ですよ。」
太郎
「別に順番待ちしていたわけではないんですが……。」
フォルネウス
「君の事は『雇用』している状態なのだが……それを踏まえて不満は無いか?」
太郎
「資本主義が無くなれば貰うお給料が無意味になるって話ですよね?」
フォルネウス
「うむ。」
太郎
「俺は……寿命とお金の二択なら寿命取るかな。」
バラム
「シンプルな判断基準だな。」
太郎
「いや、でも帰るまでお仕事は続けますよ?」
フォルネウス
「構わないが見返りは……」
太郎
「島の人たちの生活が不便じゃないですか。」

顔を見合わせる魔王たち。

フォルネウス
「恐れ入ったぞお人好しめ。」
バラム
「殊勝な若者が居たもんだ。」
ガミジン
「好評ですね、太郎さん。」

好評というより呆れられている気がするんだが。

フォルネウス
「最初の相談でこの人選は正解だったな。」
バラム
「そうだな。滞り無く対処を話し合うことができた。」
ガミジン
「いずれ他の魔王たちにも話さないといけませんね。」
フォルネウス
「そう考えると胃が痛い。」

魔王も胃にダメージを受けるのか……!?

バラム
「反発する輩も居そうだが……納得しそうな奴から順番に外堀を固め……」
フォルネウス
「順番は……魔王に序列を付けたくないのだが。」
バラム
「お前の性分は理解しているが今回ばかりは我慢してくれ。」
ガミジン
「全員一度に呼んで説明だと収拾つかなくなっちゃいそうですからね。」

序列か……ソロモン72柱って序列とか階級とかあった気がするけど目の前の彼らは階級を『魔王』で統一している。
脱資本主義の話といい平等を重んじているのだろう。なんでこんな人たちが人外になってしまったのか……運命は残酷である。

バラム
「既にこの会合で順番はできてしまったようなものではないか。」
フォルネウス
「いや、『当事者からの報告』を聞いただけだから魔王同士の会合ではない。貴公等は偶然居合わせただけだ。」
ガミジン
「そこまで拘らなくても大丈夫ですよ……。」

こんな部屋で会って更にそれか……用心深い人だな……。

フォルネウス
「とにかく今回の対応は私とバラム公で行う。」
ガミジン
「わかりました。私と太郎さんは何をすればいいですか?」
フォルネウス
「現状維持、本件に関しては他言無用で頼む。」
太郎
「了解です。」
フォルネウス
「この議題は一段落だな。」

この議題は……まだ何かあるのか?

フォルネウス
「ガミジン公、一つ良いか?」
ガミジン
「なんでしょうか?」
フォルネウス
「先日言っていた河童に関する報告書を書いてほしいのだが。」
ガミジン
「い、いやぁ……専門じゃないのでなんとも……。」
フォルネウス
「そこをどうにか頼む。」

ここでまさかの河童の話である。
バラムさんが俺に小声で訊いてきた。

バラム
「河童って……実在したのか?」
太郎
「ええ。俺たち現物見たんですよ。」
バラム
「そうなのか……。写真は見せられたのだがてっきり合成写真だとばかり……。」
太郎
「本物も出来の悪い作り物みたいなビジュアルでしたからね……。それはそうと何故フォルネウスさんはあんなに必死なんですか?」
バラム
「ああ、新種の生物が発見される度にサンプルを欲しがるやつが居てな。そいつを抑えるのに大変なんだ。」

もしかしてまだキャラの濃い魔王がバックに居るのか……。
二人の方に向き直る。

フォルネウス
「恩に着るぞガミジン公。」
ガミジン
「あまり期待しないでくださいよ……?」

話の流れ的にガミジンさんが報告書を書くことになったようだ。

バラム
「今度こそ話は終わったか?」
ガミジン
「ええ。お仕事が増えてしまいました。」
フォルネウス
「私からは以上だ。他、特に無ければ解散で良いか?」

全員が頷く。会議は終了だ。

フォルネウス
「報告書は私ではなくブネ女史に直接送ってくれ。」
ガミジン
「わかりました。」

ブネ……あぁ、あの装甲車の声の人か……。

ボラ
「では太郎さん、もう一度アイマスクを着けさせていただきます。」
太郎
「予想はしてたけど帰りもなのね……。」

怖いがこればかりは我慢するしかない。

フォルネウス
「目隠しで移動するのは辛いのではないか?」
太郎
「仕方ないと割り切ります!」
ガミジン
「行きは飴玉で凌いだのですが帰りは何も持ち合わせて無いんですよねぇ。」

それを聞いたフォルネウスさんが何か投げて寄こした。

太郎
「これは……オーディオプレイヤーだ。」
フォルネウス
「何か聴いていれば気がまぎれるだろう。」

心遣いはありがたいが……どんな曲が入っているんだ?
試しに再生してみる。

太郎
「……お経だこれ!」
ガミジン
「えぇ……(困惑)」
太郎
「最初から飛ばしてきますね。他の曲は?」
フォルネウス
「他にはトッケイヤモリの鳴き声(大音量)とかあるぞ。」
太郎
「だったらお経のほうがいいな……。」

目隠しで般若心経……俺は考えることを止めた。

ボラ
「では参りましょう。」
太郎
「はい。(諦め)」

お経を聴きながら目隠しして出発。

……帰りはあまりリラックスできなかったものの何とか生還した。
椅子に座ってアイマスクを取ってもらう。目を開けたとき座っていたのは家電店のバックヤードだった。

太郎
「やっと戻ってきたぁ……。」
ボラ
「お疲れ様です。」
ガミジン
「会合……思ったより時間掛かってしまいましたね。」
太郎
「本当だ。正午になってる……。」

仕事は昼食を取ってからだな……。
部屋に戻って残っている食料を食べちゃうか。

太郎
「自室に行って食事してきます。」
ボラ
「わかりました。戻ってきたらお仕事の説明をさせていただきます。」
太郎
「了解です。」

部屋を出て地下へと降りる。ふと振り返ると何故かガミジンさんとゴンザレスが付いてきていた。

太郎
「お二人さんどうしました?」
ガミジン
「ちょっと気になることがありましてお部屋を見せていただけますか?」
太郎
「構いませんけど……。」

何だろう?除霊はできないと言っていたし心霊絡みではないと思うが……。
扉を開けてガミジンさんたちを部屋に招き入れた。

ガミジン
「このお部屋、面白いギミックがあるとボラさんが言っていたので……。」
太郎
「あぁ、たぶんこれのことですね。」

部屋の明かりを消して光る壁の絵を見せる。

ガミジン
「うわぁ凄いですね。」
太郎
「一泊くらいなら『面白い』で済むけど連日泊まるとなると……。」
ガミジン
「……。」

灯りを点け昼食に取り掛かる……とは言っても昨日の残りを処理するだけだが。
ゴンザレスはガミジンさんからカメラを借りて部屋の写真を撮っている。壁の絵が気に入ったようだ。

俺は残っていたパンを齧る。

ガミジン
「太郎さん。」
太郎
「何でしょうか?」

咀嚼しながら答えるとガミジンさんが手でそれを制し飲み込むように促した。

ガミジン
「守秘義務の誓約書にサインしちゃったので秘密のお話はこういう密室でしましょう。」
太郎
「そうですね。一昨日みたいに人気の無い墓地でってのももうNGになりましたね。」

流れを察して退室するゴンザレス。写真は撮り終わっていたようだ。

ガミジン
「太郎さんは先の会合で気になることはありましたか?」
太郎
「バラムさんのファッションがめちゃくちゃ気になりました。」
ガミジン
「……。」
太郎
「……。」
ガミジン
「……最初に見たときは驚きますよね。」
太郎
「……はい。」
ガミジン
「お話の内容で気になることはありましたか?」

魔王にファッションの話は好まれないようだ。

太郎
「うーん……人間の寿命を延ばして不老不死にする話とか……?具体的な方法までは教えてくれなかったですし。」
ガミジン
「そうですね、誓約書にサインしたんだからもう少し教えてくれても良かった気がします。」
太郎
「突拍子も無い目的ですが実現できるんでしょうか?」
ガミジン
「フォルネウスさんは出来ないことは言わないタイプではありますけど……目的のためには手段を択ばない部分もありますからね。」

俺の知らない一面があるらしい。実際会ったのはまだ二回だし当然ではあるが。

ガミジン
「私たちが予想だにしない方法で実現するかもしれません。」
太郎
「魔王同士でも予測不可能なんですね……。」
ガミジン
「太郎さんはどんな方法でやると思います?」
太郎
「現代医療を順当に発展させる感じ……というのが一番荒れないやり方かなぁ。」
ガミジン
「国交を考えるとそれが無難ですよね。」

国交という単語が出てきたぞ……?国交を顧みない裏技でもあんの?
俺の表情で疑問を読み取ったのかガミジンさんが話を始める。

ガミジン
「この世界に竜が居るってお話は憶えていますね?」
太郎
「はい。」
ガミジン
「竜の血液を浴びると不死身になるというお話はご存じですか?」
太郎
「それってこの島じゃなくて俺らの世界の伝承じゃぁ……。」
ガミジン
「そうです。島で同じ話が伝わっているかは不明ですが……。」
太郎
「信仰の対象を傷付けるのは外交問題になるが……試せるのなら試そうとするかもしれないってこと……?」

こちらもこちらで突拍子も無いアイディアだ。しかし実行するには先述のリスクが大きい。

ガミジン
「一応実在の生物ですから伝承通りではないと思いますが……万が一ってこともありますよね。」
太郎
「そうですね……竜の採血見たい?見たくない?」
ガミジン
「それがですね……実際見れるかもしれないんですよ。」
太郎
「へぇ!?(驚愕)」
ガミジン
「ついこの間恐竜にも刺せる注射器を見せてもらいまして。」
太郎
「また謎のオーバーテクノロジー!」

面白いことになってきた。これは竜と遭遇するまでは死ねないな……。

ガミジン
「血の話は半分冗談ですが……竜の協力を得られれば早く実現できるかも、とは思えますね。」
太郎
「ですね。結界を作った種族だし他にも凄い技術持ってそう。」

竜に対する期待と偏見でついつい盛り上がってしまう。

ガミジン
「太郎さん、お仕事中に私がこのお部屋で作業してもよろしいでしょうか?」
太郎
「構いませんけど何をするんですか?」
ガミジン
「報告書の作成ですよ。上でやってると邪魔になるかと思いまして。」
太郎
「あぁ、河童の報告書ですね。」

俺の返事を聞くとガミジンさんはノートパソコンをテーブルに乗せる。

太郎
「時代はデジタル。」
ガミジン
「相談したらお店の備品を借りることができました。これで手抜きし放題ですよ!」
太郎
「手抜き!?」

驚く俺を尻目にノートパソコンからLANケーブルを伸ばし配線し始めるガミジンさん。

太郎
「ここインターネット繋がるのか……有線だけど。」
ガミジン
「そうなんです。これで例文を検索してコピペすれば……!」
太郎
「そんなセコいことしないでくださいよ!!」
ガミジン
「いいじゃないですかそれくらい……あっ、やっぱダメっぽい(落胆)」
太郎
「おぉ……?」
ガミジン
「例文をアップロードしてる人がフォルネウスさんとブネさんだけでした。」
太郎
「あぁ……コピペしたらバレますねそれ。」

露骨に落胆するガミジンさんを励ましつつ俺も仕事に取り掛かることにした。

太郎
「じゃあお部屋は自由に使っててくださいね。」
ガミジン
「仕方がないですね、ここは聖書から引用して……。」
太郎
「大丈夫かこれ……。」

どんな報告書になるのか心配ではあるが……自分の仕事もあるので一階に向かう。

……バックヤードに戻り仕事の準備に入る。

クマノミ
「仕事の邪魔にならないように……店舗を外から警備します。」
太郎
「了解。」
ボラ
「これをどうぞ。」
太郎
「あぁ、店員用のエプロンですね……魚拓柄だと!?家電店感が無いな……。」

また妙な物を用意していらっしゃる。

ボラ
「まずは店内の間取りを覚えていただきます。これが裏口、これが避難経路になります。」
太郎
「避難するような事態には……。」
ボラ
「一応です、一応……。」

不審者や害獣が店内に侵入したらとにかく逃げるしかないな。
見取り図を受け取り確認する。

ボラ
「まずは売り場の位置を覚えてもらいます。」
太郎
「了解です。」
ボラ
「実際に店内を巡回しながら覚えてください。巡回中に困っているお客様を見つけたら助ける感じでお願いします。」

話し終わるとボラが何か渡してきた。

太郎
「これは……?」
ボラ
「催涙スプレーです。太郎さんが武器をお持ちでないと聞き、貸し出すことになりました。」
太郎
「そりゃどうも。」

正直こんなもの使わずに済むことを祈りたいな……。
護身用の催涙スプレーを預かり、早速店内を回ってみる。

残念ながらあまり客は居ないが……見知った車椅子を発見。
先日挨拶に行った村長だ。例の蟷螂も居る。

太郎
「村長さん来てたんですね。いらっしゃいませ。」
村長
「うむ、蛸焼きの礼がまだ済んでないからな。」
太郎
「!?」
村長
「蛸焼きの話は置いといて少し探し物がある。」
太郎
「何をお探しでしょうか?」
村長
「車椅子に電飾を付けたいのだ。」
太郎
「いい趣味してんなあんた。」

見取り図で売り場を確認する。
……電飾も一応販売しているようだ。二人と一匹で移動する。

太郎
「ここか……。何種類かあるみたいですけど選ぶ基準とかあります?」
村長
「一番派手なのを頼む。」
太郎
「了解っす……とにかく眩しく光るのを選べばいいか。」

幾つかの商品のパッケージを手に取り表記を見比べながら村長に質問してみた。

太郎
「何の目的で光らせるんですか?」
村長
「光っていないと舐められるだろうが。」
太郎
「舐められるって……何と張りあってるんですか。」
村長
「奴らを見ろ!夜はビカビカだぞ!」

村長の指さす先を見ると棚卸しているチョウチンアンコウのサハギンが居た。

太郎
「深海魚に対抗意識持つのは人としてどうなの……。」

少々呆れながら電飾を渡す。

太郎
「バッテリーは別売りみたいですね。そっちも一緒に……」
村長
「もう一つ頼む。」
太郎
「はい?長さ足りませんでしたかね?」
村長
「いや、こいつの分だ。」

蟷螂の尻に電飾を巻き付ける村長。

太郎
「深海魚のみならず蛍にまで対抗意識を!?……いや、それ以前に電飾を生き物に巻き付けるの止めてね!」

電飾の使い方を教えるのが初仕事になってしまった……。
しかし、ここで予想外の事態に!蟷螂が電飾を光らせながら尻を振り始める。

太郎
「だから点灯しないでください!危ないから!」
チョウチンアンコウ
「何やってるんですか……。」

チョウチンアンコウまで呼び寄せてしまったぞ……収拾がつかなくなる前に止めねば。
俺とチョウチンアンコウ、二人掛かりで発光する蟷螂の尻を抑える。

太郎
「とりあえず電飾を外し……何だこれ!?」

蟷螂の尻穴から長い紐が出ている……!?

チョウチンアンコウ
「あぁ……ハリガネムシですねこれ。」
太郎
「虫!?」
チョウチンアンコウ
「寄生虫です。お客さん、ちゃんと虫下し飲ませなきゃダメですよ。」
太郎
「虫に虫下し飲ませんの!?」
村長
「それはどこに売っているのだ?」
チョウチンアンコウ
「あっ……この辺じゃ取り寄せないと無いか……。」
太郎
「まず家電店で扱うものじゃないよね。」

そのままハリガネムシを引き抜いて行くチョウチンアンコウ。
俺は触りたくないので村長と一緒に蟷螂を抑えていた。
……全部引き摺り出すと1メートル近い長さのハリガネムシ。こんなグロテスクなものどう対処すればいいんだ?

チョウチンアンコウ
「電飾の熱で出てきたんでしょうかね?とにかく成熟する前で良かったですね。」
太郎
「成熟する前……こいつまだデカくなるのかよ!!」
チョウチンアンコウ
「いえ、大きさ云々よりも成長されると宿主に危険が……。」
太郎
「そりゃまあ寄生虫ですからね。」

チョウチンアンコウが引き抜いたハリガネムシをビニール袋に詰める。

村長
「どうすれば良いのだ?」
チョウチンアンコウ
「ハリガネムシの処分はこちらやっておきます。」
村長
「いや、蟷螂のほう。」
チョウチンアンコウ
「獣医さんに診せてあげてください。」

無理に寄生虫を出した後だ。もしかしたら弱っているかもしれない。

村長
「しかしなぁ……かかりつけの獣医は寄生虫なんて一言も……」
太郎
「虫は専門外だったのかも……。」
村長
「おのれ藪医者め!」
チョウチンアンコウ
「面倒なので虫に詳しい方をゴエティアから派遣してもらいましょう。」

店の奥へ消えて行くチョウチンアンコウ。
それを見送りつつ俺は蟷螂を近くにあったマッサージチェアに寝かせる。
村長の車椅子を隣に着け指示を乞う。

太郎
「心なしかぐったりしてますね。どうしましょう?」
村長
「これを喰わしてやってくれ。」

村長が取り出したのは昆虫ゼリーだ。しかしデカいなこれ……どんぶり一杯程の量あるんじゃない?
受け取ったゼリーカップを開封し、蟷螂の口に近づける。

蟷螂
「!!」

両側の鎌で器用にカップを掴みゼリーを貪り食う蟷螂。豪快な食べっぷりだ。
変な恰好をしているがやはり本質は昆虫、食には貪欲だな。

ボラ
「どうかしま……うわっ、蟷螂やんけ!」
太郎
「蟷螂が弱っていたのでマッサージチェアに乗せちゃいました……。」
ボラ
「それ人間用だから蟷螂にマッサージ出来ないですよ……?」

心配して様子を見に来たボラに状況を説明する。

村長
「お前んとこの電飾のせいで……」
太郎
「いやハリガネムシのせいでしょ。理不尽なクレーム入れないでくださいよ。」
ボラ
「店内へのハリガネムシの持ち込みはご遠慮ください。」
太郎
「意図的に持ち込んだわけじゃないから……。」
蟷螂
「……。」
太郎
「あっ……完食したのか。空のカップはここで処分しちゃっていいのかな?」

空のカップを受け取っているとチョウチンアンコウが戻ってきた。
手元に何か持っているが……。

太郎
「それは?」
チョウチンアンコウ
「ぬるま湯の入ったバケツですよ。まずは蟷螂の尻をこれで軽く洗います。」

カップを村長に渡してからバケツを受け取る。えっ、俺が洗うの?

チョウチンアンコウ
「洗ったら次はこちらの軟膏を塗ってください。」
太郎
「昆虫の尻に軟膏塗るなんて初体験だよぉ……。」

とりあえず言われた通りにしてみるが……。

太郎
「意外と大人しくしてくれてるなぁ。」

蟷螂の上半身のほうに目をやると……村長が蟷螂の眼前で指をぐるぐる回している。トンボを捕るときのあれだ。蟷螂にも効くのか……。

チョウチンアンコウ
「応急処置はこのくらいですね。」
太郎
「それで……医者?は派遣してもらえるんですかね?」
チョウチンアンコウ
「『丁度良い人材が居るから送る。明日には到着する。』とのことです。」
村長
「明日か……それまではどうするのだ?」
チョウチンアンコウ
「蟷螂は安静。餌をいつもより気持ち多めに与えてください。」
村長
「大丈夫なんだろうな?」

険しい表情の村長。蟷螂が心配なようだ。

チョウチンアンコウ
「伝えた限りではそう判断されたようです。」
太郎
「そうだろうけどもうちょっと言い方……。」

魚ゆえの無表情も相まって他人事のような口ぶりに聞こえてしまう。
村長の心証はあまりよくないだろう。

太郎
「とにかく蟷螂くんを村長宅に運びますよ!」
ボラ
「そうですね。店内に寝かせておくわけにもいきませんし。」

蟷螂を起こし、試しに背負ってみるが……。

太郎
「昆虫ってこんなに重いのかよぉ!?」
ボラ
「そのまま大きくなったわけではないですからね。外骨格と内骨格を併せ持つハイブリッドに変異し……」
太郎
「そういうのいいから手伝ってね!!」
ボラ
「私は村長の車椅子を押して行くので蟷螂はお任せします。」
太郎
「鬼!悪魔!半魚人!!」
村長
「早く運んでくれよ……。」

一悶着あったが店の外に居たクマノミに手伝ってもらい無事移送することができた。
村長宅、ソファーに蟷螂を寝かせ一息つく俺たち。
帽子を深く被って横になる姿はなかなかシュールだ。
店を出る前にチョウチンアンコウから預かっていた濡れタオルで蟷螂の体を拭く。

太郎
「あっ、そうだ。村長さん電飾どうしましょう?」
村長
「うーむ……今から店に戻るのもなぁ。」
ボラ
「何かお買い上げになられたのですか?」
太郎
「電飾を試着してるときに蟷螂がダウンしちゃって……。」
ボラ
「試着……?」

ボラさん困惑。電飾を店頭で試着するなんてまず無いからね……。

太郎
「村長さん!電飾を付けていい物とよくない物、しっかり覚えてもらいますよ!!」
村長
「……はい。」

蟷螂の手前素直である。

ボラ
「車椅子での往復は手間ですから商品をこっちに持って来て会計しちゃいましょうね。」
太郎
「デリバリー電飾!」

ボラが村長宅に残り、俺とクマノミが店まで往復し電飾を取ってくることになった。

クマノミ
「なんか災難続きですね太郎さん。」
太郎
「本当ですよ。まさか村長が車椅子光らせようとするなんて……。」
クマノミ
「……何故光らせる必要が?」
太郎
「光るサハギンに対抗意識燃やしてるんです!!だから!サハギンの皆さんは不用意に光らないでね!!」
クマノミ
「そんなこと言われても光る奴はただ生まれつきで光ってるだけだし……。」

そう言われてしまうとどうしようもない。解決策は無いようだ。
店内で電飾を手に取りながらチョウチンアンコウに進捗を尋ねる。

太郎
「ハリガネムシどうなりました?」
チョウチンアンコウ
「袋ごと冷凍していますよ。」
太郎
「凍らせてどうするんだ……。」
チョウチンアンコウ
「一週間程度保存し引き取り手が現れなければ処分します。」
太郎
「引き取り手……そんな物好き居るのか?」
チョウチンアンコウ
「告知しないと何とも……。」

何処に需要があるのかわからないが一応取っておくらしい。

太郎
「じゃ、電飾持って行きますね。」
チョウチンアンコウ
「よろしくお願いします。」

商品を預かり村長宅に戻る。
部屋に入るとなぜか人が増え慌しくなっている。

太郎
「なんかありました……?」
ボラ
「ええ……それが」
初老の男性
「ああ、この魚だな!」

男性がクマノミに駆け寄る。

太郎
「用があるのはそっちなのか。」
村長
「おい店員、太郎君は帰してやれ。」
ボラ
「そうですね。太郎さん、店内待機でお願いします。」
太郎
「言われりゃ待機しますけど……。」
ボラ
「詳しいことは終わってから説明しますね。」

雰囲気が張り詰めていて訊くに訊けない……。
持ってきた電飾はボラに預けて店に戻ることになった。

太郎
「戻りましたよ……あれ?こっちには別のクマノミが?」
ガミジン
「あっ、お帰りなさい太郎さん。」

出迎えるガミジンさんの周囲に三匹もクマノミが配置されている。

ガミジン
「さっきまで五体居たのですが急な任務が入ったみたいで今は三体です。」
太郎
「何があったんだ……。」

クマノミ達……一応武装集団なわけだがそんな彼らに仕事が入るということは……。

クマノミ
「聞かれても答えませんよ?」
太郎
「ですよね……。」
ガミジン
「魔王特権で教えてもらえませんかね……?」
太郎
「……!?」
クマノミ
「仕方ありませんね……その代わり絶対に野次馬に行かないと誓ってください。」

魔王とその配下の魔物との会話の筈だが……大人から秘密を聞き出す子供のようなノリだ……。

クマノミ
「武器の密売のタレコミがあったそうで……現場に乗り込んで鎮圧するようです。」
太郎
「それ野次馬なんて行ったらマジで危ないんじゃ……。」
クマノミ
「ええ。ですからお二人は店内待機で。」

想定外にガチめの事案だった……。

……外がそんな状態だったためこれ以降は客が来ず、この日は営業終了となった。

ボラ
「お疲れ様です。」
太郎
「お疲れさまでした。いやぁ大変な一日だった。」
ガミジン
「でしたね……。」
太郎
「ガミジンさん河童の報告書出来ました?」
ガミジン
「ええ。お店のスキャナーを借りることができたので。」
太郎
「え?何故スキャナーを……?」
ガミジン
「字面だけだと余白が大きく空いてしまったのでゴンザレスの絵で埋めたんです。」
太郎
「その絵ってもしかして……。」
ガミジン
「例によって河童の遺影です。」
太郎
「あいつ遺影を持ちネタにしようとしてんのか……。」

果たして納得のいく報告書になったのかは気になるところだが……。

太郎
「部屋で休んできますね……。」
ガミジン
「申し訳ないですが今日は私も相部屋です。」
クマノミ
「昼間の件は片付きましたが念のためお願いします。」
太郎
「それなら仕方ないですね。」

俺とガミジンさんとゴンザレス、更にクマノミ三匹の大所帯で階段を下りる。一部屋にこの人数はちょっと狭い。
部屋に着き、一人を除き全員で卓を囲んで座る。
残った一人……クマノミは扉の死角でしゃがむ。侵入者に備えているのか……?

太郎
「今日は買い出しに行けなかったけど食事どうします?」
クマノミ
「これをどうぞ。」

差し出されたのは煮魚の入った缶詰である。

クマノミ
「保存食であれば少量は持参しています。」
太郎
「あぁ、どうも……。」

先日のレーションよりだいぶマシじゃないか。貰える物は貰っておこう。

太郎
「いただきます。」

俺が食べ始めると他の面々はトランプを取り出しババ抜きをし始めた。
食事が必要なのは俺だけだから仕方ないが……なんだか落ち着かないな。
何か話題を振ってみるか。

太郎
「昼間のあれですけど……武器の密売ってよくあるんですか?」
クマノミ
「ままありますね。」
太郎
「おぉ……。」
クマノミ
「害獣対策に武器が要るのは分かるんですが非正規の物は取り締まらなければなりません。」
太郎
「非正規品……。」
クマノミ
「密売で出回るのはほとんどが粗悪な模造品なので……実際役に立たないことが多いそうです。」
太郎
「役に立たない程粗悪なのか。」
クマノミ
「剣はすぐに折れる、銃は頻繁に暴発する……と、報告されてますね。」
太郎
「それはまた……使うとかえって危険ですね。」
クマノミ
「そうなんですよ。そんな物で金儲けしようなんて許せんよなぁ?」

口調が変わった。現状に憤っているようだ。

クマノミ
「模造品の危険性をもっと周知しなければなりません。」
太郎
「そうですね。周知するにしても識字率がよろしくないから口頭で伝えなきゃいけないのが面倒ですけど……。」
ガミジン
「面倒でもやらなければならないことです。治安に関わることですからね。」
太郎
「ですね。地道にやってくしかないか。」

真面目なことを言いつつもゴンザレスの手札をチラ見するガミジンさん。
一方俺は缶詰を食べ終わった。

太郎
「ごちそうさまでした。皆さん消灯時間って決めてます?」
ガミジン
「特に決めていませんね。太郎さんに合わせますよ。」
太郎
「了解っす。」

ババ抜きしている魔物たちから離れ、旅に出る前に貰った資料を漁る。
新たな魔王との接触があったし再確認しておきたい。
……あった。魔王たちの名簿だ。
在籍する魔王の名前と軽い紹介文が載っている。
まずは実際に会ったことのある者から見て行こう。

フォルネウスさんのページを開く。
『ゴエティアの窓口的な存在。ご意見ご要望は彼が承ります。』……と書いてある。
ちなみに顔写真の欄にはサメ映画でよく見る水面に出た背鰭の写真が載っている。……いや、顔映せよ。
顔写真が当てにならない……大丈夫かこの資料……。

ガミジンさんのページも見てみる。
『島内の宗教を調べています。あと布教もしてます。』
写真は……背中の十字架だなこれは。顔写真の欄に赤い髑髏を載せるのは諸事情で断念したようだ。

次はバラムさんだ。
『一緒に筋肉を鍛えないか?』……なんだこれは紹介文ですらないじゃないか。
写真は引き締まった腹筋のアップだ。こちらも顔は出していない。
彼の仕事は公表していないのか……?

説明はざっくりし過ぎだし顔は載せない……資料としての価値が怪しくなってきたぞ……。
……気を取り直して次、こちらが本命だ。今まで話の中に名前が出た魔王を見てみる。

ナベリウス。自治区で会ったオルトロスを眷属に持つ……犬の姿をした魔王。
『ドッグフード頂戴!(訳:ブネ)』……通訳が必要らしい。マジで犬扱いなのか?
写真は……向かって左からチワワ、ダックスフンド、トイプードル……三つ首の犬だな。
顔写真が載っているだけマシ……いや、載せてるのが普通なんだよな……。

デカラビア。クラーケン達を束ねる謎の魔王だ。眷属が強烈過ぎて人物像が掴めない。
『靖国で会おう』……いやマジで何者だこの人!?紹介文の欄に何書いてるの!?
顔写真のほうだが……眼のアップか……?こんなに接写したら全身像はおろか顔すら見えないぞ?
資料からは何一つ分からない……この魔王の情報はガミジンさんもしくはクラーケンに聞くしかないだろう。

ブネ。一度聴いたら忘れられない声を持つ魔王。ナベリウスの通訳や河童の報告書の件と言い生物関係の担当なのだろうか?
『面会謝絶です!』……!?理由は書いていないな。魔物は病気にならないという話だったが……?
顔写真……デフォルメされたトカゲのイラストが描いてある。声は聞けるのに姿は徹底的に秘匿されている……!?

結論、まともな情報は載っていない。魔王に関して気になることがあったらガミジンさんに尋ねるほかないな。
かえって謎が深まったところで資料をしまう。

次は旅行パンフレットを開き、治安や自衛についてを調べてみる。
集落間の移動はやはり傭兵の同伴が推奨されている。しかし載っているのはそれだけではないな。
各地域の自警団の情報が記載されている。入団希望者随時募集中だそうだ。……ん?武器未所持でも歓迎……?

太郎
「この『自警団』ってのはどういうことをしてるんです?」
クマノミ
「あぁ、自警団ですか。」
太郎
「武器無しでもいいらしいけど戦わないんですかね。」
クマノミ
「通報や避難誘導とかが主な活動内容ですからね。武力行使は我々や猟師が行います。」
太郎
「なるほど。」
クマノミ
「自警団に入るとトランシーバーが貸し出されます。」

また唐突に近代技術が……。

クマノミ
「文明の利器によって円滑な通報が可能となりました。使い方を教えるのがけっこう大変でしたが……。」
太郎
「携帯電話は無いけどトランシーバーはあるんですね。」
クマノミ
「トランシーバーは狭い範囲で使う前提なのでなんとか用意できた感じです。」
太郎
「具体的にどのくらいの範囲です?」
クマノミ
「通信可能なのは村内までですね。」

結構距離あるけど頑張ってるな……。
自警団の話題はこの辺にして次は魔王の話だ。

太郎
「ガミジンさん、他の魔王についてちょっと質問してもいいですか?」
ガミジン
「構いませんけどバラムさんのファッションセンスのこと以外でお願いしますね。」
太郎
「バラムさんも確かに気になるけど……話の中で名前だけ出てきた魔王について知りたい。」
ガミジン
「まだ会っていない方々ですか。」
太郎
「はい。クラーケンとは二回遭遇してるんですが彼らの生みの親であるデカラビアさん……この人は何者なんですかね?」
ガミジン
「特別変な人ではないのですが……。クラーケンさんたちのキャラが濃くて気になっちゃったってところですね?」
太郎
「……はい。金さんとか今まで見た魔物の中でもトップクラスですよ……。」
ガミジン
「一応言っておきますが当人は眷属ほどはっちゃけてないです。デカラビアさんは……たしか退役軍人って言ってましたね。」

それで『靖国で会おう』なのか……でもそれ島民たちに通じるの?

太郎
「じゃあ軍人気質だったり……?」
ガミジン
「いえ、経歴こそ軍人ですが性格は『孫を溺愛する田舎のおじいちゃん』って感じですよ。」
太郎
「あぁ、うん……模範的なお年寄り?」
ガミジン
「言ってしまえばそんなイメージです。」

人物像はちょっと見えてきたが……外見がまだ謎のままだ。思い切って聞いてみよう。

太郎
「ちなみにデカラビアさんはどんなファッションしてるんですか?」
ガミジン
「えぇ……あの方の外見はちょっと私の語彙力では……。」

語彙力……?意図的に秘匿しているわけでは無いようだ。

クマノミ
「海の軟体動物が多数合体したような姿をしています。」
太郎
「軟体動物……!?」
クマノミ
「ヒトデとか貝とか謎の触手とか……。」
太郎
「なんだその名伏し難い姿!?」
ガミジン
「なんとも形容し難いんですよねぇ。色も毒々しいし。」

蛸野郎の親玉は想像以上にヤバイ姿をしているらしい……。見たいような見たくないような……。

太郎
「デカラビアさんについては何となく分かりました。次はナベリウスさんについてですかね。」
ガミジン
「太郎さんはナベリウスさんとどこかで関わり合いになりましたかね?」
太郎
「自治区で眷属のオルトロスに会ってます。」
ガミジン
「なるほど……。彼は犬ですね。他に説明しようが無いです……。」
太郎
「犬の姿をした魔王じゃ……?」
ガミジン
「いえ、魔王になる前から犬だったみたいなので。」
太郎
「犬として生まれ、魔王になっても犬であり続ける……。」
ガミジン
「そんな感じですね。元が犬だと魔王になったからといって突然人間みたいな思考にはならないみたいです。」
太郎
「喋ったりは?」
ガミジン
「しませんねぇ。犬ですから。」

犬も魔王になる時代……!

太郎
「じゃああとは……ブネさんについて。」
ガミジン
「そうですね……彼女は……生物、特に爬虫類に詳しい人です。」
太郎
「河童は爬虫類……?」
クマノミ
「それは……遺体を解剖すればはっきりするかと。」
ガミジン
「河童は妖怪では……?」
クマノミ
「妖怪ですけど実在しちゃったので分類は必要ですよ。」
太郎
「それはそうとこの資料の『面会謝絶』ってのが気になるんですが……。」
クマノミ
「すみません。そこは機密に関わることなので。」

……話せない話題だったか。

ガミジン
「太郎さんなら事情をすんなり受け入れてくれると思いますけど。」
クマノミ
「そうですか?判断はガミジン様にお任せしますが……。」
太郎
「どういうことです?」
ガミジン
「『ソロモン72柱のブネ』がどんな姿で描かれているかご存じですか?」
太郎
「……元ネタのほうですか。」
ガミジン
「はい。実はですね……幾つかの書物では竜の姿で記載されているんです。」
太郎
「あっ……そりゃまた面倒ですね。」
ガミジン
「お察しの通りです。宗教的な問題で凄くややこしくなるので……。」
太郎
「それで表に出てこないんですね。事情はわかりました……。」
ガミジン
「ですからこの件も内密にお願いしますね。」
太郎
「はい……。」

そういう理由なら仕方ないな。竜の姿の魔王か……あの声で竜の姿ってキャラ立ちし過ぎじゃない?

ガミジン
「ちなみに実際の姿は高さが4メートルくらいでトゲトゲ鱗の三つ首竜です。」
太郎
「なにそれめちゃくちゃ強そう。」

聞く限りだと特撮映画に出てきそうな怪物じゃないか……宗教上の理由で映像に残せないってのは非常にもったいないぞ。

太郎
「怪獣映画撮りましょうよ(無茶振り)」
ガミジン
「気持ちはわかります。」
太郎
「怪獣とまでは行かなくても……フォルネウスさんにサメ映画を……」
ガミジン
「サメ映画の提案は他の人もしたんですけどね……お蔵入りになりましたよ?」
太郎
「えっ?何故……?」
ガミジン
「ロケ地の安全を確保できないので……。」
太郎
「サメ映画のロケ地は海だもんなぁ……そうなりますね……。」

この島の海辺は危険生物が多数生息しており下手に近付く事ができない。切実な問題である。

クマノミ
「じゃあ陸で撮ればいいじゃないですか。」
太郎&ガミジン
「……!!?」
クマノミ
「今時海が舞台のサメ映画なんて古いですよ。」
太郎
「陸が舞台のサメ映画なんて全部イロモノだろ!いい加減にしろ!」

唐突に始まったサメ映画談義に夜も更けていくのだった……。
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