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櫻花荘との出会い
第三話 無職は「櫻花荘」に訪れる
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四時間余の旅路が終わり、篆書で『櫻花荘』と書かれた立派な旅館にたどり着いた。佐久雪乃に部屋まで案内された後に伯父夫婦が来るまで待っていた。
用意された茶菓子を手に取りながら、緑茶を啜る。
和室というものに入るのも久々で、外から微かに聞こえる木々の音とホーホケキョと春を知らせる鶯の声が俺の荒んだ心を癒やす。
「嗚呼、この感じいいな」
思わず一言漏れ出してしまった。
ゆったりと茶を啜りながらぼうっとしていると襖の奥から「失礼します」と声がかかる。
どうぞと声をかけると、襖が開いて先程の仲居が顔を見せる。
そっと立ち上がると、後に控えた二名の老夫婦へ道を譲る。
折り目がぴっちり着いたスラックスとワイシャツに帯を結んだ男性と、綺麗に刺繍が入った黒い和服を見にまとった女性が並んで敷居を跨ぐ。
「よくきたね健ちゃん。大きく育ったもんだ、私のことは覚えてるかな?」
歩きながらやや興奮気味に質問をしてくるのはおそらく伯父の諏訪 悟だろう。
母によく似て優しそうな顔は嬉しそうに笑窪を作っていた。
「本当に大きくなりましたね。流石に二〇年以上会ってなければ覚えてませんよね」
ホホホと上品に笑いながら伯父に便乗しつつも覚えてないことを察しているのは、女将の幸子だろう。
「話は色々と聞いてますが、正直……」
そう気まずくなりながら返答すると女将がまたホホホと笑う。
「そうよね……。いいのよ、あの頃なんか健ちゃんは小学校にも上がってなかったんですから」
そんな会話をしながら、老夫婦は机の対面に腰掛け、佐久雪乃は傍らで再度お茶の準備をする。
「あんなにちっちゃかった健ちゃんが仕事をする年齢になるなんてね」
「あなた、健ちゃんは仕事で大変な思いをして来たんだから、ここにいる間はその話をしないでください」
伯父が仕事のことを口に出すと、伯母がたしなめる。
当然だが、母から仕事を辞めてきたことを聞いているんだろう。
「せっかく来たんだから、気が休まるまでゆっくりしていってね」と伯父は慌てて誤魔化すように言う。
「なにかあったら気にせず担当の雪乃ちゃんに言って」と傍に控える仲居を示すと、仲居はゆっくりと礼をする。
「ありがとうございます。そういえばここらへんで有名な観光地ってありますか?」と俺は切り出す。
伯父はそうだなあと顎を押さえる。
「この時期だと桜が有名なんだけど、まだ咲いてないんだよね」
そう、東京の方だと三月の終わりごろには桜は咲いているイメージだが、この高谷という地域は四月の上旬でやっと咲き始めるらしい。
「ここらへんに来る観光客はだいたい桜か登山が目的ですからね」
南アルプスの麓にあるこの町は登山客や、春の桜を見に来ることが殆どらしい。
「釣りとかやるなら高谷湖とかもあるけど、やったりする?」
「いえ、釣りはやったことがないですね」
「そうか……。ならしばらくは市街地に降りていくか、そばとかを食べるのがいいかもね」
そばは大好物なため、まずは食べに行ってその後に行動を考えることにした。
「わかりました、ありがとうございます」
しばらく世間話をすると、三人は部屋から出た。
後に観光雑誌とパンフレットを受け取り、一度旅館を出た。
「景色は綺麗だから、これでも十分かな」
用意された茶菓子を手に取りながら、緑茶を啜る。
和室というものに入るのも久々で、外から微かに聞こえる木々の音とホーホケキョと春を知らせる鶯の声が俺の荒んだ心を癒やす。
「嗚呼、この感じいいな」
思わず一言漏れ出してしまった。
ゆったりと茶を啜りながらぼうっとしていると襖の奥から「失礼します」と声がかかる。
どうぞと声をかけると、襖が開いて先程の仲居が顔を見せる。
そっと立ち上がると、後に控えた二名の老夫婦へ道を譲る。
折り目がぴっちり着いたスラックスとワイシャツに帯を結んだ男性と、綺麗に刺繍が入った黒い和服を見にまとった女性が並んで敷居を跨ぐ。
「よくきたね健ちゃん。大きく育ったもんだ、私のことは覚えてるかな?」
歩きながらやや興奮気味に質問をしてくるのはおそらく伯父の諏訪 悟だろう。
母によく似て優しそうな顔は嬉しそうに笑窪を作っていた。
「本当に大きくなりましたね。流石に二〇年以上会ってなければ覚えてませんよね」
ホホホと上品に笑いながら伯父に便乗しつつも覚えてないことを察しているのは、女将の幸子だろう。
「話は色々と聞いてますが、正直……」
そう気まずくなりながら返答すると女将がまたホホホと笑う。
「そうよね……。いいのよ、あの頃なんか健ちゃんは小学校にも上がってなかったんですから」
そんな会話をしながら、老夫婦は机の対面に腰掛け、佐久雪乃は傍らで再度お茶の準備をする。
「あんなにちっちゃかった健ちゃんが仕事をする年齢になるなんてね」
「あなた、健ちゃんは仕事で大変な思いをして来たんだから、ここにいる間はその話をしないでください」
伯父が仕事のことを口に出すと、伯母がたしなめる。
当然だが、母から仕事を辞めてきたことを聞いているんだろう。
「せっかく来たんだから、気が休まるまでゆっくりしていってね」と伯父は慌てて誤魔化すように言う。
「なにかあったら気にせず担当の雪乃ちゃんに言って」と傍に控える仲居を示すと、仲居はゆっくりと礼をする。
「ありがとうございます。そういえばここらへんで有名な観光地ってありますか?」と俺は切り出す。
伯父はそうだなあと顎を押さえる。
「この時期だと桜が有名なんだけど、まだ咲いてないんだよね」
そう、東京の方だと三月の終わりごろには桜は咲いているイメージだが、この高谷という地域は四月の上旬でやっと咲き始めるらしい。
「ここらへんに来る観光客はだいたい桜か登山が目的ですからね」
南アルプスの麓にあるこの町は登山客や、春の桜を見に来ることが殆どらしい。
「釣りとかやるなら高谷湖とかもあるけど、やったりする?」
「いえ、釣りはやったことがないですね」
「そうか……。ならしばらくは市街地に降りていくか、そばとかを食べるのがいいかもね」
そばは大好物なため、まずは食べに行ってその後に行動を考えることにした。
「わかりました、ありがとうございます」
しばらく世間話をすると、三人は部屋から出た。
後に観光雑誌とパンフレットを受け取り、一度旅館を出た。
「景色は綺麗だから、これでも十分かな」
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