転校先の学園で、夢で見た異世界の仲間たちと再会しました

杠静流

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第1話 転校生 / 夢の中の異世界

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 俺は見慣れない町並みを見回しながら、学校に向かっていた。春の日差しは柔らかく、きれいに咲き乱れた桜を明るく照らしている。

 俺はこの春から月影学園という私立高校へ通うことになった。初めて通る通学路でスマートフォンを片手にキョロキョロと周りを見回しながら歩く。
 四月の頭で周囲には俺と同じように周りを見回す生徒たちが多く見られたため、彼らはきっと新入生だろう。

 「やぁそこの君!道を教えてあげようか?」
 後ろから明るい女性の声が聞こえた。

 振り向くと長い髪をひとつ結びにした、美少女が立っている。
 彼女とは初めて会うはずなのに、初めて会ったような気がしない。なんとなく懐かしい感じがした。
「君、新入生かな?この道難しいんだよねー!私も最初は迷っちゃって」
 後頭部をさすりながら照れたように言う。
「ありがとうございます、それではお願いしてもいいですか?」
 あちらから声をかけてくれたんだ。ここは甘えることにした。

「わかった!じゃあ私と一緒に行こうね!」
 そう言うとくるりと回りながら、進行方向へと向かった。
「レッツゴー!」
 その掛け声とともに歩き始めた。

 しばらく雑談しながら歩いていると学園が見えてくる。
 やはり、初めて会うにもかかわらずかつて長い時間共に行動したかのような気もする。

 以前から時々夢を見ていた。
 こことは違う世界、剣と魔法の世界。
 魔族の侵攻により大変な思いをしている街を次々と訪れる旅人の記憶。常に行動する双剣使いの少女と、無駄に体格の良い魔法使い。
 そして、時々訪れる王城に佇む実権を持たない女王。

 あくまで夢、妄想だと思ってあまり気にしていなかった。
 おそらく中二病の一種だろうと。

 だが、今目の前を歩く少女が何故か、その夢に出てくる双剣使いの少女によく似ている。

 そんなことを考えていると、学園についた。
 「後輩くん!ここまでついたらあとの案内はいらないね!」
 じゃあねと手を振る彼女に礼を言うと、俺は職員室を目指した。
 事前に貰っていた校内の案内図を手に廊下を歩いていく。

「いや遠すぎだろ、どんだけでかいんだこの学園……」

 ◇◆◇
 クラス替えがあった今日、再び同じクラスになれたことを喜ぶもの、新しい人脈を開くのに奮闘する者で教室は賑わっていた。
「よお瑞希みずき!また同じクラスだな!」
 教室の入口を開けたところに、見慣れた顔がある。
「なによ、またあんたと同じクラスなの?」
「いいじゃねえか、俺達の仲だろ?」
 そう調子づきながら肩に手を回してくる。
れん、私はあんたとそんな関係になったつもりはないわ」
 肩に回された手を払い除けて席順を確認しに行く。
「おいおいつれないな!そういえば今朝一緒に歩いていた男は誰だ?彼氏?」
 前方の黒板に向かっていく私の後ろを、蓮はついてくる。

「そんなんじゃないわよ。新入生で道に迷っていたから案内しただけ」
「そうか!なるほどね~。謎のイケメンと一緒に歩いてるのが見えたからびっくりしちまったぜ」
「いいじゃないの、私が誰とあるこうと」
 自分の席を見つけると、向き直る。
「自分の席に行きたいからどいてくれない?」
「おっとすまん」

「なんで会長はあんたみたいなやつを生徒会役員に選んだのかしらね」
「それは俺が優秀だから!」
「はいはいそうねー」
 やはりお調子者な彼を放っておき、席についた。

 間もなくチャイムが鳴り、教師が教室に入ってくる。
 始業式の説明などを受け、体育館へと向かう。

 あぁ……、またあの長ったらしい話を聞かなきゃいけないのか。

 ◇◆◇
 担任の教師に連れられ、体育館の端で始業式を聞いていた。
 校長の話は内容がなく、ただ話を長引かせようとしてるようにも思えた。

 話を聞き終えると再び担任に連れられ、教室へと向かった。
 すでに生徒たちは教室に揃っているようで、校長の話が長かったなどの文句がかすかに聞こえてきた。
高槻たかつき君、合図があったら教室に入ってきてくださいね!」
 そう俺に指示をすると教室へと入っていった。

「静かにしてくださいね!先程の始業式でも紹介がありましたが、私がB組の担任になります!よろしくお願いします」
 そう言いながら担任は黒板に≪松田まつだ早苗さなえ≫と名前を書いた。
 若い女教師は続ける。
「私のことはこれくらいにしておいて、転校生を紹介します」
 その一言に教室が盛り上がる。
 男?女?など様々な憶測が飛び交う中、教師から声がかかる。

 合図とともに教室へ入ると男子の残念そうな声と、女子の嬉しそうな声が上がった。
 教卓の脇に立って皆の方を見回すと、見覚えのある顔があった。

 そう、先程案内をしてくれた女生徒が教室にいたのだ。
 同じクラスだったんだな……。

 先生が黒板に俺の名前を書いたところで自己紹介を始める。
「高槻優斗ゆうとといいます。最近こっちに引っ越してきて急遽皆さんと勉強をすることになりました。よろしくお願いします」
 言い終えたあたりで、一人の男子生徒が立ち上がる。

「よろしくな!ところで趣味はなんかあるのか?」
 アニメや漫画などでよく見る出しゃばりでお調子者が取る行動、マジであったんだな。
 にしても、彼の顔もどこかで見たことがあるような……。

飯田いいだ君、落ち着いてください!」
 そう先生が注意するが俺は答えた。
「趣味か……、最近はゲームをやってます。例えばようハンとか」
 最近流行っているハンティングゲームの妖怪ハンターを挙げると、一部の生徒が嬉しそうに声を上げる。
「さあ、時間もないし連絡事項が終わったら放課だからその後に質問をしてくださいね」
 教師は盛り上がった教室を一旦落ち着かせ、俺へ席につくよう言う。

 俺が席につくと、教師は連絡事項を伝えて教室から出ていった。
 これで放課、一部の人間が変える準備をする中真っ先に俺の元へやってきた人間が少なくとも二人ほどいた。
「後輩くん!後輩じゃなくて転校生くんだったじゃない!なんで言ってくれなかったの?」
 そうまくし立ててくる女生徒。
「今朝瑞希といっしょに歩いてたイケメン君がうちのクラスだったなんてな!」
 馴れ馴れしく肩に手を回してくる男子生徒。
「今朝の件はありがとう。まさか同じクラスとは……」
 若干気迫に気圧されながら彼女達に返す。

「あっ、名前わからないよね。私は桜井さくらい瑞希、よろしくね。そしてこのお調子者は飯田蓮」
 女生徒は隣りにいた男子生徒を指差して紹介した。
「はい、このお調子者飯田蓮でーす」
 若干ふてくされながらも自己紹介をする男子生徒。

 自己紹介の後しばらく雑談を続け、自宅へと向かった。
 しかしこの間もやはり見覚えがある景色だった。

 俺が旅をしている間、確かに共に二名の人間がいた。
 これはあくまでも夢の話だが、鮮明で事実であったのかと思ってしまうほどだ。

 □■□
 ここはアルトラリア。
 現在魔族からの侵攻を受けて、人間は非常に疲弊していた。
 かつては三大陸を治めていたのに、いつの間にか二大陸から追いやられ、残すは今あるこの地しか残っていない。

 セレストリア公国女王から依頼を受け、とある街に向かっていた。
 すっかり真っ暗になった野原で俺達は焚き火とテントを準備して食事をする。
 焚き火の明かりに照らされて3つの影が伸びていた。
「ユークス、女王様からの依頼があった街までってあとどれくらいかかるの?」
 双剣を携えた少女は若干むくれながら聞いてくる。
「あと七日くらいかな」
「まだそんなにあるの?遠いよ!」
 俺からの回答を聞いて、嫌になったのか手に持っていたスプーンを上下にブンブンと振り回した。
「落ち着いてくれよ、ミスティ」
 俺がそうなだめると、大きな杖を横に置く男が口を開く。
「ミスティは長距離移動になるとすぐ文句を言うからな」
 はっはっはと高笑いする彼に対して「レイのくせに調子に乗るな」と脇腹を殴る。
 レイは魔法職のくせにガタイが良く、殴られたことも気にせず笑い続ける。
 これが俺の日常、クセも強いが頼れる仲間たちと楽しく旅を続ける。

 俺はユークス・エルフォード。
 このアルトラリアで旅人をしている。
 ここにいる双剣使いのミスティア・エルヴェリスと、魔法職のレイ・フィルディアとともに各地に訪れてトラブルを解決する、なんてことをしてる。
 今回は魔物が出たとかで被害が出ている街へと向かっている。

「ミスティ、夜番頼むな」
 食事を終えた俺等は仮眠をして翌日に備える。
「わかったわ。時間になったら起こすね」
 そう、今日はミスティが最初の夜番のため、俺とレイはテントで横になる。

 疲れもあってか、眠りにつくのにそう時間はかからなかった。

 □■□
 最近不思議な夢を見るんだ。
 見たこともない世界。剣は淘汰され、美術品として残るのみ。魔法も存在せず、科学という名の不思議な技術で発展した世界だ。
 なぜか周囲にはミスティやレイによく似た学生がいる。

 そう、夢の中の俺は一介の学生だった。
 講義ではよくわからない単語の羅列、そして整然とした町並み、人であふれる繁華街。アルトラリアではあり得ない光景が広がっている。
 夢の中に出てくる少年たちは、放課後にパフェなるものを食べたりと楽しげに過ごしている。
 いまこの世界は魔族と人間がしのぎを削り、平穏なんていうものはないのに……。

 俺は知らぬ世界の彼らに、あこがれを抱いていた。
 あんな世界で、仲間たちと楽しく暮らしたかった。
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