食欲の錬金術師〜草しか食べれない転生草食エルフは錬金術で体をいじって食の旅に出る〜

シュガースプーン。

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第8話 屋台通り

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 ガストンがフォルテに教えられた朝食に衝撃を受けた日、ケミーニアはこの街に来た目的である視察を取り急ぎで行っていた。

 その理由は、ハイエルフであるフォルテであった。

 今回のガストンの様に、ハイエルフエルフでありながら己を人と同じ様に雑食に作り変えてしまったフォルテの事を、偽物として裁くなどのトラブルはこの後も多く起こりそうであった。

 なので、ケミーニアは、この街の視察が終わった後、他の街の視察を後回しにして一旦今の国王にフォルテを紹介しに向かい、王の御名御璽が入ったフォルテの身分証明を作る事で、これから起こりうるトラブルを防ごうと考えたのだ。

 しかし、フォルテは食事に対しての想いが強く、ましてや自由に生きてきたハイエルフだからなのか、とっとと他の街などに移動してしまいそうである。

 今はガストンに頼んでディナーをとっておきの物にする様にしてもらい、それを楽しみにしているのでフォルテはこの館に止まっているが、他の食事に目移りすればどこかへ行ってしまいそうで怖いと、ケミーニアは感じていた。

 この世界の貴族は1日2食で、昼ご飯がないと知った途端に、街に出て何か食べたいと言い出したフォルテに、案内の兵士を付けて、小遣いを渡したりなど、ケミーニアは今日の朝から気苦労が増えていた。

 せめてもの救いなのは、この街は不正を行った事などなく、視察は早めに終わりそうな事である。

 しかし、間違いがあってはならない公務である事は事実。

 ケミーニアは、急ぎながらも慎重に、街の平和や財政など国に不都合な事柄はないか視察を行うのであった。


 一方フォルテはケミーニアがどんな気持ちで公務を急いでいるかなど知る由もなく、付き添いにつけられた兵士の案内で街を散策していた。

 この街は特に貧しい街と言う訳でもない為、スラム街なども無く、街は賑わいを見せている。

 兵士がおすすめの店に案内する途中で、フォルテの嗅覚が反応した。

「いい匂いだ。近くに屋台でもあるのか?」

 フォルテの質問に、兵士は気さくに返した。

「はい。この通りを曲がった先には店を持てない人達が出す屋台通りがあります」

「ほう、屋台通りか。行ってみようか」

 フォルテの言葉に兵士は慌てた様子で言葉を返す。

「屋台通りの食事はフォルテ様の口には合わないと思いますが……」

「大丈夫だ、行ってみよう」

 兵士は止めたかった様だが、興味を持ったフォルテは止まる事はなかった。

 屋台通りにたどり着いたフォルテは、屋台を見てあからさまにガッカリした顔になった。

 確かに屋台通りと言うだけあって屋台が並んではいるのだが、どの屋台もクズ肉を串に刺して焼いただけの串焼きの屋台である。

 しかも、値段が馬鹿みたいに安い。しかもどの屋台の店主にも、やる気が感じられなかった。

 屋台通りと言えば、フォルテが想像するのは前世日本の博多や、祭りの時に軒を連ねる屋台である。

 活気のない屋台通りに、全くと言っていい程に食指は動かなかった。

 その様子を見た兵士が、苦笑いをしながらフォルテに声をかけた。

「言った通りでしょう。屋台でやるのはクズ肉の串焼きばかりです。殆どが狩人の小遣い稼ぎで、真面目に商売をする人間も、小遣い稼ぎの為に安い値段でする狩人に負けて屋台ではやっていけない為、普通の人間なら店舗を持つ店で働きます。店舗を持っていれば、扱える肉もそこそこになる為採算が取れますから」

 つまりは屋台と言うのは狩人が金にならなかった肉を安価で処分する為の場所らしい。

 それでも、稼ぎの少ない者達にとっては安価で食事にありつける場所な為、夕食どきになれば賑わいを見せるのだとか。

「あの、ウチの串焼きは他と違って少しいい肉を使ってますよ。一つどうですか?」

 フォルテに声を掛けてきた屋台の主人がいた。

 やる気の無い店主達のなかで、弱々しいながらも、呼び込みをした事を称賛して、フォルテは笑顔で返事をした。

「どれ、試しに2つ貰おうか」

「あ、ありがとうございます」

 2つというのは兵士の分まである。

 フォルテは店主から受け取ると、兵士に一本渡して串焼きに囓りついた。

「硬いし、美味しく無いな」

 フォルテの素直な感想に、店主も兵士も苦笑いだ。

「これでも、他の店よりは良い部位なんですけどね」

 店主の言葉に、フォルテは首を傾げた。

 薄く塩はかかっている物の、焼きすぎで油が失われて、肉のタンパク質はカチカチに固まっている。

 それはさておき、良い肉と言っている割には、他の屋台と値段が同じなのだ。

「良い肉なのになぜ同じ値段なんだ?」

「それは、周りがあまりにも安くするんで同じにしないと売れないからですよ。私は狩人では無いので肉は周りよりもいい物なのですが、正直売れた分でなんとか生活ができるくらいで、それでもいい肉なので完売はしますから」

 乾いた笑いをこぼす店主に、フォルテは疑問を口に出した。

「狩人では無いのか。なら、なんでちゃんとした店で働かない?」

「それは、私も食堂で修行を積んだ事がありますが、あれは従業員として働けても自分の店を持つ様にはなれません。なので屋台から始めようとしたのですが、現実は甘くないですね」

「働いて金を貯めて独立ではダメなのか?」

「従業員からだとその店のライバル店になりますから、嫌がらせとか色々あるんですよ。それに、独立を許さずに従業員として一生働かせるのが普通ですから」

 フォルテはなるほどと頷いた。

 働いて生活をするだけなら従業員でもいいが、独立を目指すなら悪手になる。

 どこの世界も同じだなと思う。

「上を目指して頑張るのはいい事だが、周りの真似をしても成功は掴めないぞ?」

「それはわかっているのですが、周りの値段に合わせなければ売れないのも確か。なかなか、難しいのですよ。店でやる様なちゃんとした物は出せませんし……」

 頑張っているのはいい事だが、店主のネガティヴ思考にフォルテはイラっとした。

「俺が知恵を貸してやろう。だから、報酬はお前がこれから作る美味い飯をいつでもタダで食わせるというのはどうだ?」

 食事に出ただけのはずが、フォルテは屋台の店主を手伝う事にする。

 勿論、異論は認めないのである。


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