食欲の錬金術師〜草しか食べれない転生草食エルフは錬金術で体をいじって食の旅に出る〜

シュガースプーン。

文字の大きさ
31 / 73

第31話 後は焼くだけ

しおりを挟む
 ガーリックトーストを摘んだ後はピザの具を作っていく。

 まずはピザソースだ。

「トマトの皮を向いていくぞ」

「皮を剥くんですか?」

「今からソースを作るからな。皮は舌触りの邪魔になる」

「分かりました!」

 ヤコブと副料理長は真剣な目つきでフォルテの手本を見る。
 ソースと聞いてから、昨日とは別のソースの存在に2人の目の色が変わった。それだけウスターソースが衝撃だったのだろう。

 トマトは湯むきでもいいが、今回は炙って剥く。

 トマトのヘタの方に棒を刺して、尖っている方に薄く十字の切れ目を入れる。

 後はゆっくりと火で炙りながら、切れ込みから捲れ上がった皮を剥いていくのだ。

 湯むきより少し手間がかかるが、今回湯むきをしなかったのは、湯掻くことでトマトの栄養がお湯に溶けてしまうのを防ぐ為だ。

 今まで栄養が偏っていた王族にはこちらの方がいい。

 トマトの皮が剥けたらすりおろしニンニク、砂糖、塩、みじん切りの玉ねぎを入れて、最後にコンソメである。

「ヤコブ、コンソメスープをくれ」

「コンソメスープですか?」

 料理のバリエーションが少ないこの世界に、コンソメスープが生まれていた奇跡に、フォルテは感謝している。

 そうでなければあの地下牢でのパン粥を食べずに逃げ出し、ケミーリアに会うこともなかっただろう。
 当然、今ここで料理もしていないし、ちゃんとした料理の少ないこの世界に絶望していたかもしれない。

「パン粥の時に使う野菜のスープだ」

「え!ゴミスープをつかうんですか?」

「ゴミスープ?」

「はい、その……」

 ヤコブが話しにくそうに話したのは、王族が野菜ばかり食べていた時に、そこで出たゴミを囚人のご飯に使った所、鍋からとてもいい匂いがしたので味見した所、美味しいので賄いに回した。と言う所からゴミスープと呼ばれているそうだ。

 そして、食の大切さを知った昨日の出来事があったので今日は作っていないのだと。

 フォルテはなるほどと納得した。

 実際、元の世界でも野菜クズでコンソメスープを作る事も多いのだ。

「なら今から作るか。野菜を用意しろ」

「はい!」

 簡単に作るとなると、タマネギ、にんじん、セロリなどの野菜を皮がついたまま。勿論タマネギも。それからベーコンを放り込んでひたすら煮込むだけだ。
 ブイヨンはなどと言っている時間は今はない。

 早く仕上げる為にズルをする。

 錬金術で鍋を密閉して圧力鍋をつくる。
 空気穴を作って逃げ道を作っておかないと、爆発するので注意だ。

「出来上がったらさっきのトマトにこのスープを入れて潰しながら煮詰めていくぞ」

 そうしてできたのがトマトピザソースである。

「これが、本当のトマトソース。私達が知っている物と違すぎる」

 ヤコブがそう言うのも無理はない。

 この世界でトマトソースを一度食べたが、あれはトマトペーストに近い。

 あの時は久々に食べる物の味に感動したが、こうしてちゃんと調理すれば美味しさは何倍にもなる。

 また今度ガストンにも教えてやらないとな。

 などとフォルテはかんがえながら、ピザの仕上げに入る。

 寝かしておいた生地を丸く広げて、回す様に上へ放り投げた。

「フォルテ様!」

 ヤコブがフォルテの寄行に驚くが、フォルテは落ちて来た生地を回転に合わせる様にキャッチすると、もう一度投げた。

 3回ほど繰り返すと、遠心力により薄く伸ばされたピザだとわかる形になった生地を作業台に戻した。

「この生地にソースと具材を乗せていくんだ」

 手本として先程のトマトソースにフレッシュトマト、あとはモッツァレラチーズを乗せていく。

「綺麗だ」

 白い生地が赤と白に彩られたのを見て副料理長がそう呟いた。

 後はオリーブオイルを振り掛ければ1枚目の準備が完了した。

 2枚目、3枚目も作るのだが、ヤコブと副料理長がチャレンジするも、生地が上手く伸ばせない。
 なので昨日の麺棒で伸ばす様に教える。
 2人は悔しそうにしていたが、明日から練習だと言ってやる気を出していた。

 ヤコブの生地にはソースを塗った後に、コロッケに使ったジャガイモを残しておいた物にベーコンとコーンをかけたマッシュジャーマンポテト風ピザ。

 最後に副料理長の生地はトマトソースに玉ねぎスライスとサラミソーセージを薄切りにしてたっぷりと乗せたペパロニオニオン。

 焼くのは夕食の直前。夕食の時間が楽しみである。

 それまでの時間は、フォルテはヤコブ達の質問に答えたり、城を散策して過ごすのであった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

処理中です...