シークレット・アイ

市ヶ谷 悠

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ステージ

10.愛の「ステップ」2

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 ♪
 ああ 目覚めた
 彼女が目覚めた
 それは幸か不幸か
 彼女にしか
 彼にしか 分からない
 ♪

 二人はとりあえず、隠れる場所もないので、ただあの少女が見えなくなるところまで走り続けた。

 一キロメートルは離れただろうか、というところで足を止め、二人とも息を切らしながら立ち止まると、ハッハッ……と、静かに呼吸をする二人の音だけが聞こえる。

 そして訪れる、静寂……。

 この静寂が意味をするのは、あの踊り子は追いかけて来ていないという事だ。

「……ッハー! なんだってんだ!」

 ノアは深呼吸してから、もう一度ロングコートを脱いで肩にかける。

 そりゃ、そうも言いたくなる。まさか、あの銅像を守ってた騎士ナイトが、踊り子そのものだなんてな。

 ヴァルも羽織っていたロングコートを思わず脱いだ。
 すると、ヴァルのコートで隠されていた引き締まった身体が、汗で若干浮き出てみえる。

「オイ、ヴァル! お前が言ってた、踊り子が踊り続ける限りって、あの銅像のことじゃなかったのかヨ!」

「銅像とは言ってない。だが、だとも言ってない」

 アレ。ヴァルは強調して言う。

 そう、まるで踊り子のコピーのような存在のあの少女。

「Mr.ハロドゥの店の見せてくれた雑誌の最後の文面に、こう書かれていたんだ。”あの銅像には決して触れることができないようにされている”ってね。ま、百年以上前の技術がどうであったにせよ、俺はそれで銅像が存在してることに確信を持った」

 そう話すヴァルの隣で、ノアは右手をプラプラさせる。
 どうやら、さっきの少女に蹴られた衝動が響いてるらしい。

「だが、あの踊り子は予想外、だ」

 ヴァル、何もない地面にただただ座り込む。さて、どうしたものか。

 何よりも、ヴァルを悩ませた一番の問題は……。

「……クローンじゃなかったんだ」

「アン?」

 ノアはあっちぃと左手で顔をあおぎながらヴァルを見る。
 ヴァルは向こうに見える銅像に視線を向けたまま、話を続けた。

「俺、逃げるときに足止めに一発、撃っただろ?」

「ああ、見てたぜ。こっちが先制攻撃を受けたにせよ、レディーに弾打つなんて、ひでー男だぜお前」

 俺のように紳士になれ。そう言いたげにドヤ顔をし、自慢の銀髪をなびかせる。
 んなもん見せられたって、俺にゃ関係ない。

「クローンだったら、人間とほぼ同じだが……お前も聞こえたか?」

「……信じらんねえけど、し、よ」

 「そういうことだ。……踊り子を守ってんのは、人間じゃあない。機械ロボットだったわけだ」

 ヴァルが撃った一発の弾は、確かにあの少女の足に命中した。そこから見えたのは人体に通う血ではなく……鉄と、金属だった。

 もし、今までのコソ泥たちがあの銅像や名前を盗もうとしていたのならば……あの踊り子の姿をした機械によって償いのように、その命を代償にしてきたんだろう。

 でないと、今でもあの街には殺人マシーンがいるぞと、騒ぎ立てられているだろうから。
 だがそんな話は百年以上経った今も尚、一切ないということは……そういうことだ。

 なぜあの銅像だけ守られているのか、なぜ踊り子と全く同じ姿をした機械がいるのか、本物は一体どこにいるのか? ここまで来て、謎が増えたことはヴァルにとって全く予想外だ。

「謎が増えたが、真実も増えた」

「真実ゥ? ハン、あの踊り子が機械だって事か?」

「機械には、メンテナンスが必須。つまり、この街には、まだ生きた人間がいるってことさ。それに……あの機械、蹴るときの風を切る音以外一切聞こえないくらい、足音もしなかった。まるで軽やかにステップを踏むようにな。」

 それだけのものに、百年以上メンテナンスもなく動き続ける事など、ほぼ不可能に近い。

「……ケッ! 次は食らわねえさ。レディに合わせる踊りは、俺の方が上手いんだぜ?」

 ノアはそう言いながらロングコートをもう一度羽織る。

 まるでそれが合図のように、二人はもう一度、あの宮殿へと向かって行く。
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