殺人鬼と綺麗な人形はやがて手を取り涙する

なつみかん

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執行猶予編

人形は残酷な夢を見た-27

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「あれ?・・・・西条君?」
人の輪の中から頭一つ分抜けている男が覗き込む。

「・・・誰?」
首を傾げ、智輝に問いかける。

どこかで見たような、いや見ていないような。

「バッ、刑事さんだろ!!」
慌てて智輝が耳打ちをする。

言われてああ、と思い出した。
そういえば、若い方の刑事だ。

「西条君、ちょうどよかった。ちょっと時間いいかな?ここじゃなんだから・・・」

「え?い、いや・・・」
これから智輝と買い物だ。ただでさえ貴重な時間なのに、具合が悪いせいでこうして立ち往生している。

これ以上、無駄に使いたくない。

「はい、大丈夫です!」
恭華の代わりに智輝が答える。

「と、智輝?」
何でだ?という視線を智輝に向けたが、智輝がかなり真剣な表情をしていたため、恭華も口を閉じた。

新たな男の登場に周囲が固唾を呑んで見守る。

「ありがとう、篠宮君。じゃあ行こうか、あっちに車停めてるから」

歩き出す刑事についていくため、智輝が恭華の腕を取り、腕を組む形で支えた。

「歩けるか?抱えるか?」
立ち上がったはいいものの、フラフラと揺れる恭華に耳打ちをする。

「だ、大丈夫・・・歩く」
キャーキャーと恭華と智輝が何か行動を起こす度に上がる歓声がうるさく、恭華のか細い声が若干掻き消される。

「西条君、腕どうしたの?」

併せて顔色も良くない恭華を心配そうに若手刑事が見つめる。

「いえ、ちょっと・・・」

「さあ、入って」
停められていた車は普通の乗用車だった。

パトカーだったら下手に目立つなと思っていた恭華と智輝は同時にホッと力を抜く。

「それでね、西条君・・・」
ドアを閉めた若手刑事が待ち侘びたとでも言っているかのように、早々に話を始めた。

運転席にいるのが今のペアのようだ。
あの唾を飛ばすうるさいオッサンではなく良かったと恭華が安心する。後部座席に男が三人、多少狭いが、唾が飛んでこないと分かっただけで、我慢もできるというものだ。

若手刑事と智輝に挟まれる形で恭華が真ん中に座る。

「おとといから西条君のクラスメイト5人が行方不明になっている。一緒に居た女の子達も同じく行方不明だ。西条君と一緒に帰ったって話を聞いたから、西条君に事情聴取したかったんだけどね、同じく西条君も行方不明になっていた訳だ。だから篠宮君にも聞いてみたんだ・・・」

ああ、それで智輝は警察に行こうとあんなに焦っていたのかと、合点がいった。

「それでね西条君、それで・・・」
若手刑事が言葉を詰まらせる。

どうやら言いづらいことらしい。口はもごもご動き、目は泳ぎ、どう切り出したものかと戸惑いが見られる。この刑事、きっと嘘は吐けないだろう、演技もできないだろう。

「単刀直入に言うね。形式的なものだから気を悪くしないで・・・おとといの夕方5時から今に至るまでどこで何をしていたかな?」
真剣な顔で若手刑事が恭華に詰め寄る。

「・・・」
答えられない申し訳なさと、痛いほど真剣な刑事の目から避けるように目をそらし、俯く。

「恭華!言えよ!お前が疑われちゃうだろ!?」
うつむき黙り込む恭華をガクガクと揺らし、智輝が返答を促す。
どうして恭華は何も言わないのか・・・そんなの恭華らしくない。いけないものはいけない、そうしっかり屈託も媚びもない意見を言うのが恭華の強さだ。

「痛っ!!」

「あっ、悪い・・・」
腕を避けて揺らしたのだ。そんなに強くも揺すっていない。心配と謝罪の意を込め、恭華を窺うように覗き込む。

「だ、大丈夫・・・」
智輝を安心させるために恭華が笑顔を見せるが、その顔に力はなく、顔色がひどく悪い。

それは刑事から見ても明らかであった。

「恭華君、その腕どうしたの?それに熱あるでしょ?」
心配そうに恭華の額に手を当てる。

その様子を目にした智輝が驚愕に口をあんぐりと開ける。思わず二度見したくらいだ。

恭華君?いやいや、さっきまでお前、西条君と呼んでたろ?何ちゃっかり恭華君とか馴れ馴れしく呼んじゃってんだよ!それより勝手に触んじゃねぇ!!

ウーッ!と威嚇の声まで聞こえそうな程に智輝の眉間に皺が寄り、刑事を鋭く睨みつける。そこら辺の犯罪者よりも犯罪者の顔をしているだろう。なにせ殺意が芽生えているのだから。

「・・・」
恭華が静かに首を振る。

「恭華!黙ってないで何とか言えよ!」
若手刑事に対抗するように恭華の頬に触れ、刑事の手を退けるように額に額を当てる。

「恭華君?篠宮君の言う通り、このままアリバイがなければ恭華君が疑われるんだよ?」
智輝のあからさまな行動に、若手刑事は困ったように笑いながら、恭華に告げた。

「・・・」
恭華は首を振る。話すつもりはないと頑なに。

「じゃあ質問を変えるよ。恭華君はその行方不明者の居場所を知っているんじゃないかい?その現場にいたんじゃないかい?そしてその腕は犯人にやられた、違う?」
諭すように優しく刑事が問いかける。

「・・・」
それでも恭華が首を振る。

「恭華、どうした?何か言えない理由でもあんのか?」
智輝の気遣うような視線に、恭華の眉が情けなく下がる。

そして小さく小さく、頷いた。

「言えない・・・言ったら・・・」
殺される。

恭華だけではない。若手刑事はもちろん、智輝だって。それは絶対に避けたい。

「大丈夫!恭華君が喋っても不利になることはないよ?全力で警察が恭華君を守るから!いつまでもナメられている警察じゃないよ?」
恭華が心の重荷を下ろせるように、ニッコリと笑みを見せ、恭華の頭をわしわしと撫でる。

舌を打ってやりたい衝動にかられた智輝は、その手を払ってやろうと意気込んだが、恭華本人により払われた。

パシッ

小気味よい音が車内に響き、若手刑事は驚いた後に傷ついたような表情を見せた。

「じゃあ何で俺を張ってなかったんだよ?接触するって分かってただろ?あれから2回もあいつは接触してきたぞ?なのに、警察は何やってんだよ!!あいつが堂々と俺に会いに来るのはお前らがなめられてるからだろ?無能だからだろ!!」

目の前で人が殺された時の恐怖、それに段々と慣れてきてしまっている自分への絶望、この先も人生を支配されるかもしれないという失望、目まぐるしく起こる様々な状況を誰にも相談できず、誰にもぶつけられずにいた。

誰にも言えず、誰にも助けを求められず。とっくに心はSOSを発していたのに。

積み上げられていった黒い感情は一気に爆発し、止めどなく吐き出された。

「きょ、恭華・・・」
泣きそうな恭華と同じような表情を智輝がする。

「ご、ごめんね・・・本当はずっと張ってたんだよ?でも不思議と見失うんだ、毎回。恭華君が警察を撒こうとしているんじゃないかって噂が囁かれたくらい・・・」

「え、そんな・・・俺全然気が付かなかったし・・・」

「でも大丈夫!こうして恭華君を捕まえてしまえばこちらのものだよ。今日から警察署内で保護します。だから恭華君、打ち明けてくれないか?」

「・・・」
ようやく恭華が渋々といった形で頷いた。

「ありがとう」

それから恭華は、1回目に裏路地で出会ったこと。そしておととい、一緒にいた友人全てが殺され、拉致監禁されたことの経緯を話した。

そして男のコードネームが『キツネ』であること、男以外に仲間がいること、男を含むその仲間たちの連絡先、男の住むマンションの住所、知っている情報を全て渡した。

やってしまった。遂に情報を漏らしてしまった。殺されるかもしれない恐怖より、何故か今は他感情が、不安が湧き立つ。

これではまるで・・・

そうまるで・・・

キツネに捕まって欲しくないと思っているみたいではないか。慌てて自分の中に芽生えた感情を打ち消す。

「お、俺は命がけなんだからな!絶対に無駄にすんなよ?捕まえてくれよ?」
若手刑事に念を押すように詰め寄る。

「恭華、近い近い」
もうすぐ鼻先がくっついてしまう程、若手刑事に詰め寄る恭華の肩を、智輝がガシッと掴む。

「貴重な情報ありがとう!さっそく緊急逮捕の手配を」
運転席に目で合図する。

「じゃあ恭華君、これから署内に向かっちゃっていいかな?」

「え、買い物・・・」
そう智輝との楽しいひと時を過ごすのだ。

智輝に援護射撃を求めるべく、視線を送る。

「今日はやめよう。恭華熱あるし、外危ないだろ?」
いつ殺人犯が襲ってくるか分からない。

若手刑事に任せ、このまま署内へと恭華を盗られるのは癪で仕方ないが、恭華の具合も心配だ。

智輝の家の連中に守ってもらうという手もあるが、警察の防衛力と手広さにはどうしたって敵わない。

本当は一秒でも長く恭華と共にいたい。

恭華に出会った者たちがそうなっていくように、幼馴染の智輝だってとっくに恭華に心を奪われていた。

だがその気持ちが恭華に伝わることは、生涯ないだろう。

あってはいけないのだ。幼馴染みというこのポジションだからこそ恭華にとっての特別でいられるのだ。

今の関係性を崩し、その他大勢と同じように見られるくらいなら、このままでいい。十分だ。

そんな恭華が濡れそぼった瞳で子犬のように見つめてくる。

「恭華・・・そんな顔するなって・・・俺もお前と行きたかったよ?でも危ないだろ?犯人捕まってからいくらでも行けんだから・・・な?」
智輝自身、後ろ髪を引かれるような思いで告げる。自分自身に言い聞かせるように。

「分かった・・・悪いな、智輝」
しょんぼりした恭華が申し訳なさそうに謝るが、その動作さえ辛そうだ。

「お前が悪いわけじゃないだろ?じゃ、俺帰るから。刑事さん、絶対守ってくださいよ?外部からも内部からも」
若手刑事に釘を刺すように軽く睨みを利かせ、後部席のドアを閉める。

残念そうな恭華を乗せ、車は去っていった。

「キツネね・・・ちょっと調べさせるか・・・」
思案するように顎を触り、小さくなっていく車を見つめながら智輝は呟いた。
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