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執行猶予編
人形は残酷な夢を見た-26
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「恭華さん、本当に遅れてしまいますよ?」
何度も揺すっているが、恭華は起きない。元々寝起きはかなり悪い。だが、今回は寝起きの悪さではない。
ハアハアと息を荒くしている恭華の熱は、より上がっているようだ。
「うっ・・・あ、おはよ・・・」
重い瞼を上げ、キツネの顔を認識すると、ボソッと小さく呟く。
体を起こし、フラッと立ち上がり、危うい千鳥足で歩いていく。
「あ、恭華さん!危ないですね・・・」
数歩進んだ後、糸の切れた人形のようにバタリと倒れそうになる恭華に、キツネは手を添える。
「あ、ありがと。体も洗ってくれてありがとな」
キツネを押し退けることもできずに、支える腕に素直に甘える。
「朝ごはん、やめておきますか?薬だけは飲みましょうね」
支えた恭華を軽々と持ち上げると、ダイニングまで運んでいく。
恭華を座らせるが、ぐったりとした様子を見ると、とても食事などできる状況ではなさそうだ。
「ごはん食べる・・・」
「フフッ、本当に恭華さんは食い意地が張っていますねぇ。ではどうぞ」
キツネに言われるまでもなく、恭華はもしゃもしゃとお粥を食べ始めていた。
「食後は薬飲んでください。それと待ち合わせ場所にお送りします」
口いっぱいにお粥を詰め込みながら恭華が頷く様子を、ニンマリと見つめる。
「食べられそうでしたら、鯵のひらきと卵焼きもありますよ?」
「食べる!おかわり!美味い!」
キツネの声に被るように恭華の声が響く。
ぐったりとしていた先ほどと同一人物には思えないほど、瞳が爛々とし、シャキシャキと食事をしていく。
だが頬が紅い。熱が高いことにかわりはない。
「ご馳走様でしたっ!」
パンッと手を合わせ、しっかりとキツネに頭を下げる。
「はい、ではこれ飲んでください」
水と薬を渡し、恭華が嚥下したのを見守ると、薬を更に渡す。
「何だよ?飲んだだろ?」
恭華が訝しげに首を傾げる。
「夜用です。6時間空けたら服用していいので、熱が上がってきたら飲んでください。それとこちらは痛み止めです。痛みが我慢できなくなったら飲んでください」
「・・・ああ、分かった」
若干、キツネの面倒見のよさに呆気に取られ、返事が遅れた。
「それと帰りもお迎えに上がりますが、もしも繋がらなかった場合はタクシーで帰ってきてくださいね。タクシー代、財布に入れておきましたから」
恭華に財布を握らせる。
「?・・・・これ俺の財布じゃないんだけど・・・」
真新しい長財布を手渡され、恭華が困惑する。
「少し早いクリスマスプレゼントです❤」
「へー・・・・クリスマスプレゼントねぇ・・・・・・・・・・・・・・・・・って怖っ!!!何で俺が欲しがってた財布知ってんだよ・・・」
ブルリと背中が寒気だつ。
「フフッ、恭華さんのことなら何でも知ってますから❤」
「キモっ!!・・・でもありがとうございます」
貰ったものにはしっかりとお礼を述べ、ちゃっかりと頂く。
「いいえ、喜んでいただけて何よりです。では行きましょうか」
外は寒いですからね、と恭華にコートを着せ、マフラーを巻いていく。
しっかりしていない息子を持った母親のような面倒見の良さだなと恭華が感心する。その本質は優しいのではないだろうか。人間的な感情を持っているのではないだろうか。人殺しをやめることもできるのではないだろうか。自分が生きて解放される時も来るのではないだろうか。そんな希望や期待さえ、ボーっとしている恭華の頭をよぎる。
いや、熱が見せている甘い幻想に過ぎないだろう。今まで散々目にしてきたではないか。体感させられたではないか。無慈悲な惨殺を、無情な扱いを。
「よし、では行きましょう」
コクリと頷くと、キツネに手を引かれるままにマンションを後にした。
「いいですね?門限は10時ですよ!」
明確な待ち合わせ場所をキツネに告げた覚えはないが、見事にそこまで送られた。
そしてキツネが門限の念をしつこく押し付ける。
「・・・」
黙ってコクリと頷いた恭華に満足そうにニンマリ笑ったキツネが、車を走らせて去って行った。
「恭華っ~!!待たせたか?」
はあはあと白い息を切らせながら、智輝が駆け寄ってくる。
「いや、今来た」
その智輝の困ったような眉毛を見て、思わず恭華がプッと噴き出す。
「何笑ってんだよ・・・ってお前、その腕どうした?それに顔赤くないか?」
腕を三角巾で吊っている恭華を見て、驚きの声を上げる。
顔も、寒さからくる赤さではなく、明らかに熱に浮かされている顔だ。
一昨日から昨日にかけて、恭華に連絡が取れなかったのだ。毎日恭華にメール、LINE、電話をしている智輝にとって、それは一大事であった。
「お前、やっぱり例の奴に狙われて・・・」
「大丈夫だ、行こうぜ!」
智輝にだけはバレてはいけない。
智輝だけは失いたくない。
不意に智輝を安心させるために無理に作った笑顔がきちんと笑えているか不安になった。ペタッと頬を触って確かめてみる。うん、ちゃんと笑えてそうだ。
智輝は恭華の行動を目にしながら、後悔していた。やはり恭華を一人にすべきではなかったのだ。
恭華が断っても、遠慮しても、無理矢理引っ張って家に連れて帰るべきだった。家の連中だって恭華が大好きだ。歓迎は間違いないのだ。
しばらく見ないうちにこんなに弱々しく・・・
「クソッ!!」
行こうぜ、と歩き出そうとした恭華をヒシッと抱きしめる。
「え、ちょ何?智輝?どうした?」
皆見てるぞ、と慌てて振り返る。
そう、恭華が歩くとただでさえ注目を浴び、いつの間にか取り巻きができているような状態なのだ。
そんな中、後ろから男に抱きしめられるなど、間違いなく格好の餌食となろう。
女子達のキャーッという黄色い声が四方八方から聞こえる。何故かウォーっという野太い声も混じっているが、そこは聞こえないものとする。
「恭華、警察行こう!」
抱きしめた恭華を放し、代わりに両肩をガシッと掴むと、まっすぐと瞳を覗き込まれる。
「イッ!!」
肩を掴まれ、思わず身をよじらせる。
「あ、悪い!」
肩の代わりに手をそっと包むように握られた。
「はあ?何言ってんだよ!?お前、俺を犯罪者みたいに言うなよ・・・」
まるで自首しなさいと諭すように語り掛けてくる智輝に、恭華の眉根が寄る。
抱きしめることをやめたが、手を優しく握り込まれ、その行動が新たに周囲を喜ばせた。
警察のお世話になるようなことは何もしていない。この前だって、向こうが先に売ってきた喧嘩だ。それに多勢に無勢だったのだ。自分は悪くない、と言い聞かせるように頷く。
いや・・・殺人犯を前に黙認は罪か?
でも手伝ってはいないから従犯ではないし、指示したわけでもないから教唆犯でもない。
「違う、お前、本当は殺人犯に捕まってんだろ?俺、連絡つかないから家まで行ったんだぞ?」
「違うって言ってんだろっ!女の家に泊まってたんだ!いつも通りだろ?」
ムキになり、怒鳴るように否定してしまった。
智輝の命がかかっているのだ。絶対に認めるわけにはいかない。
買い物行くぞと智輝の手を引き、歩き出そうとする。
「恭華っ!!俺にも言わない気かよ!?おいっ?恭華?・・・聞いてる?」
智輝に背を向けて俯いたまま動きを見せない恭華を不審に思う。
「恭華?」
無言を貫き通す恭華を覗き込む。
恭華は下を向き、苦しそうにハアハアと息を荒くしていた。
顔が紅いというよりは白く、非常に辛そうだ。
「恭華、大丈夫か?」
恭華の顔色を見て焦りを感じた智輝が恭華の額に自分の額を当てる。
またまた周囲からは歓声が沸き上がるが、そんなことを気にしている場合ではない。そもそも『またか』程度で、智輝は気になどしていなかった。恭華と歩くといつもこれなのだから。
「熱っ!!凄い熱だぞ?ダメだ、今日は帰ろう?」
買い物どころではない、家に連れて帰ろう。そう決意した智輝は、車を拾うために手を上げる。
だがその隙に、恭華の額が徐々に離れていく。
「恭華っ!?」
立ちくらみを起こした恭華が傾きかけていたのだ。
恭華が倒れ込む前に、グッと恭華の手を掴み、抱き寄せる。
キャーキャーと騒ぎながら人が集まり始めた。
そんな視線をものともしない智輝が、恭華をフワッと抱き上げる。
歓声は一層高まり、悲鳴に近いような声がそこら中で聞こえてくる。
「わ、悪い・・・だ、大丈夫・・・降ろしてくれ」
恭華が力なく智輝を見上げる。
「大丈夫じゃないだろ?帰ろう?」
「やだ!お願い!ちょっと休めば治るから・・・」
あまりにも必死にそう伝える恭華に、智輝がたじろぐ。
「分かった・・・じゃ、落ち着くまでそこに座ってるか?」
智輝の問いにコクンと小さく恭華が頷いた。
そんな恭華をベンチに座らせる。
「・・・・なんか、ザワついてないか?」
ここまでの騒ぎになり、ようやく恭華が顔を上げる。
「ぇ・・・・・何だよ、この人だかり」
恭華と智輝を囲むようにできている集団に、恭華の顔が引き攣る。
このまま智輝と歩き出そうものなら、すぐにでも声をかけてくるだろう。
「さあ?女子ばっか・・・ま、いつものあれだろ?お前目当ての」
気にするなと、恭華を隠すように恭華の前に立つ。
ホラ、と恭華にお茶を手渡す。
「あったかい・・・ありがと」
体がしんどく辛くとも、恭華は満面の笑みを向ける。
だから智輝が大好きだ。
自然に恭華を庇うような立ち位置に移動したり、温かいお茶を用意したり。
きっとお茶だって、寒いからと待ち合わせの前にきちんと二人分購入してあったものなのだろう。
智輝のいつもながらの気遣いに感涙しながらも、お茶を口にする。
何度も揺すっているが、恭華は起きない。元々寝起きはかなり悪い。だが、今回は寝起きの悪さではない。
ハアハアと息を荒くしている恭華の熱は、より上がっているようだ。
「うっ・・・あ、おはよ・・・」
重い瞼を上げ、キツネの顔を認識すると、ボソッと小さく呟く。
体を起こし、フラッと立ち上がり、危うい千鳥足で歩いていく。
「あ、恭華さん!危ないですね・・・」
数歩進んだ後、糸の切れた人形のようにバタリと倒れそうになる恭華に、キツネは手を添える。
「あ、ありがと。体も洗ってくれてありがとな」
キツネを押し退けることもできずに、支える腕に素直に甘える。
「朝ごはん、やめておきますか?薬だけは飲みましょうね」
支えた恭華を軽々と持ち上げると、ダイニングまで運んでいく。
恭華を座らせるが、ぐったりとした様子を見ると、とても食事などできる状況ではなさそうだ。
「ごはん食べる・・・」
「フフッ、本当に恭華さんは食い意地が張っていますねぇ。ではどうぞ」
キツネに言われるまでもなく、恭華はもしゃもしゃとお粥を食べ始めていた。
「食後は薬飲んでください。それと待ち合わせ場所にお送りします」
口いっぱいにお粥を詰め込みながら恭華が頷く様子を、ニンマリと見つめる。
「食べられそうでしたら、鯵のひらきと卵焼きもありますよ?」
「食べる!おかわり!美味い!」
キツネの声に被るように恭華の声が響く。
ぐったりとしていた先ほどと同一人物には思えないほど、瞳が爛々とし、シャキシャキと食事をしていく。
だが頬が紅い。熱が高いことにかわりはない。
「ご馳走様でしたっ!」
パンッと手を合わせ、しっかりとキツネに頭を下げる。
「はい、ではこれ飲んでください」
水と薬を渡し、恭華が嚥下したのを見守ると、薬を更に渡す。
「何だよ?飲んだだろ?」
恭華が訝しげに首を傾げる。
「夜用です。6時間空けたら服用していいので、熱が上がってきたら飲んでください。それとこちらは痛み止めです。痛みが我慢できなくなったら飲んでください」
「・・・ああ、分かった」
若干、キツネの面倒見のよさに呆気に取られ、返事が遅れた。
「それと帰りもお迎えに上がりますが、もしも繋がらなかった場合はタクシーで帰ってきてくださいね。タクシー代、財布に入れておきましたから」
恭華に財布を握らせる。
「?・・・・これ俺の財布じゃないんだけど・・・」
真新しい長財布を手渡され、恭華が困惑する。
「少し早いクリスマスプレゼントです❤」
「へー・・・・クリスマスプレゼントねぇ・・・・・・・・・・・・・・・・・って怖っ!!!何で俺が欲しがってた財布知ってんだよ・・・」
ブルリと背中が寒気だつ。
「フフッ、恭華さんのことなら何でも知ってますから❤」
「キモっ!!・・・でもありがとうございます」
貰ったものにはしっかりとお礼を述べ、ちゃっかりと頂く。
「いいえ、喜んでいただけて何よりです。では行きましょうか」
外は寒いですからね、と恭華にコートを着せ、マフラーを巻いていく。
しっかりしていない息子を持った母親のような面倒見の良さだなと恭華が感心する。その本質は優しいのではないだろうか。人間的な感情を持っているのではないだろうか。人殺しをやめることもできるのではないだろうか。自分が生きて解放される時も来るのではないだろうか。そんな希望や期待さえ、ボーっとしている恭華の頭をよぎる。
いや、熱が見せている甘い幻想に過ぎないだろう。今まで散々目にしてきたではないか。体感させられたではないか。無慈悲な惨殺を、無情な扱いを。
「よし、では行きましょう」
コクリと頷くと、キツネに手を引かれるままにマンションを後にした。
「いいですね?門限は10時ですよ!」
明確な待ち合わせ場所をキツネに告げた覚えはないが、見事にそこまで送られた。
そしてキツネが門限の念をしつこく押し付ける。
「・・・」
黙ってコクリと頷いた恭華に満足そうにニンマリ笑ったキツネが、車を走らせて去って行った。
「恭華っ~!!待たせたか?」
はあはあと白い息を切らせながら、智輝が駆け寄ってくる。
「いや、今来た」
その智輝の困ったような眉毛を見て、思わず恭華がプッと噴き出す。
「何笑ってんだよ・・・ってお前、その腕どうした?それに顔赤くないか?」
腕を三角巾で吊っている恭華を見て、驚きの声を上げる。
顔も、寒さからくる赤さではなく、明らかに熱に浮かされている顔だ。
一昨日から昨日にかけて、恭華に連絡が取れなかったのだ。毎日恭華にメール、LINE、電話をしている智輝にとって、それは一大事であった。
「お前、やっぱり例の奴に狙われて・・・」
「大丈夫だ、行こうぜ!」
智輝にだけはバレてはいけない。
智輝だけは失いたくない。
不意に智輝を安心させるために無理に作った笑顔がきちんと笑えているか不安になった。ペタッと頬を触って確かめてみる。うん、ちゃんと笑えてそうだ。
智輝は恭華の行動を目にしながら、後悔していた。やはり恭華を一人にすべきではなかったのだ。
恭華が断っても、遠慮しても、無理矢理引っ張って家に連れて帰るべきだった。家の連中だって恭華が大好きだ。歓迎は間違いないのだ。
しばらく見ないうちにこんなに弱々しく・・・
「クソッ!!」
行こうぜ、と歩き出そうとした恭華をヒシッと抱きしめる。
「え、ちょ何?智輝?どうした?」
皆見てるぞ、と慌てて振り返る。
そう、恭華が歩くとただでさえ注目を浴び、いつの間にか取り巻きができているような状態なのだ。
そんな中、後ろから男に抱きしめられるなど、間違いなく格好の餌食となろう。
女子達のキャーッという黄色い声が四方八方から聞こえる。何故かウォーっという野太い声も混じっているが、そこは聞こえないものとする。
「恭華、警察行こう!」
抱きしめた恭華を放し、代わりに両肩をガシッと掴むと、まっすぐと瞳を覗き込まれる。
「イッ!!」
肩を掴まれ、思わず身をよじらせる。
「あ、悪い!」
肩の代わりに手をそっと包むように握られた。
「はあ?何言ってんだよ!?お前、俺を犯罪者みたいに言うなよ・・・」
まるで自首しなさいと諭すように語り掛けてくる智輝に、恭華の眉根が寄る。
抱きしめることをやめたが、手を優しく握り込まれ、その行動が新たに周囲を喜ばせた。
警察のお世話になるようなことは何もしていない。この前だって、向こうが先に売ってきた喧嘩だ。それに多勢に無勢だったのだ。自分は悪くない、と言い聞かせるように頷く。
いや・・・殺人犯を前に黙認は罪か?
でも手伝ってはいないから従犯ではないし、指示したわけでもないから教唆犯でもない。
「違う、お前、本当は殺人犯に捕まってんだろ?俺、連絡つかないから家まで行ったんだぞ?」
「違うって言ってんだろっ!女の家に泊まってたんだ!いつも通りだろ?」
ムキになり、怒鳴るように否定してしまった。
智輝の命がかかっているのだ。絶対に認めるわけにはいかない。
買い物行くぞと智輝の手を引き、歩き出そうとする。
「恭華っ!!俺にも言わない気かよ!?おいっ?恭華?・・・聞いてる?」
智輝に背を向けて俯いたまま動きを見せない恭華を不審に思う。
「恭華?」
無言を貫き通す恭華を覗き込む。
恭華は下を向き、苦しそうにハアハアと息を荒くしていた。
顔が紅いというよりは白く、非常に辛そうだ。
「恭華、大丈夫か?」
恭華の顔色を見て焦りを感じた智輝が恭華の額に自分の額を当てる。
またまた周囲からは歓声が沸き上がるが、そんなことを気にしている場合ではない。そもそも『またか』程度で、智輝は気になどしていなかった。恭華と歩くといつもこれなのだから。
「熱っ!!凄い熱だぞ?ダメだ、今日は帰ろう?」
買い物どころではない、家に連れて帰ろう。そう決意した智輝は、車を拾うために手を上げる。
だがその隙に、恭華の額が徐々に離れていく。
「恭華っ!?」
立ちくらみを起こした恭華が傾きかけていたのだ。
恭華が倒れ込む前に、グッと恭華の手を掴み、抱き寄せる。
キャーキャーと騒ぎながら人が集まり始めた。
そんな視線をものともしない智輝が、恭華をフワッと抱き上げる。
歓声は一層高まり、悲鳴に近いような声がそこら中で聞こえてくる。
「わ、悪い・・・だ、大丈夫・・・降ろしてくれ」
恭華が力なく智輝を見上げる。
「大丈夫じゃないだろ?帰ろう?」
「やだ!お願い!ちょっと休めば治るから・・・」
あまりにも必死にそう伝える恭華に、智輝がたじろぐ。
「分かった・・・じゃ、落ち着くまでそこに座ってるか?」
智輝の問いにコクンと小さく恭華が頷いた。
そんな恭華をベンチに座らせる。
「・・・・なんか、ザワついてないか?」
ここまでの騒ぎになり、ようやく恭華が顔を上げる。
「ぇ・・・・・何だよ、この人だかり」
恭華と智輝を囲むようにできている集団に、恭華の顔が引き攣る。
このまま智輝と歩き出そうものなら、すぐにでも声をかけてくるだろう。
「さあ?女子ばっか・・・ま、いつものあれだろ?お前目当ての」
気にするなと、恭華を隠すように恭華の前に立つ。
ホラ、と恭華にお茶を手渡す。
「あったかい・・・ありがと」
体がしんどく辛くとも、恭華は満面の笑みを向ける。
だから智輝が大好きだ。
自然に恭華を庇うような立ち位置に移動したり、温かいお茶を用意したり。
きっとお茶だって、寒いからと待ち合わせの前にきちんと二人分購入してあったものなのだろう。
智輝のいつもながらの気遣いに感涙しながらも、お茶を口にする。
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